MTBのマニアックワールドは広大だが、サスペンションほどディープで難解な用語が多く含まれているエリアはないだろう。
MTBは極めて競争が激しい世界なので、専門用語も移り変わりが早い。よって、これらにこだわりすぎる必要はない。しかし、サスペンションに用いられる基礎専門用語を理解しておくのは決して損にはならないはずだ。
その参考書として、今回はMTBサスペンションで日常的に使われている用語をA to Z形式でまとめてみた。
アーチ(Arch):アーチはサスペンションフォークの2つのレッグを繋ぐ部分。
アクスル(Axle):アクスルはフロントホイールをフォークに保持するパーツ。
アクスルパス(Axle path):サスペンションが収縮する際にリアアクスルが動く方向。
ボトムアウト(Bottom-out):サスペンションユニットがトラベル量の限界に達していること。一般的に、フォークやショックが頻繁にトラベル量の限界に達する状態は好ましくない(セッティングが柔らかすぎる)が、ある程度の頻度で限界まで達する必要もある(一度も達しないのはセッティングが硬すぎることを意味する)。
ボトムアウトバンパー(Bottom-out bumper):激しくボトムアウトした際にサスペンションを損傷から防ぐラバー製バンパー。
ブッシュ / ブッシング(Bushing):ショックアイレットとハードウェア(リア)の間や、スタンションとフロントフォーク下側の間などで用いられるライナー。金属同士の摩擦や摩耗を減少させる。
コンプレッションダンピング(Compression damping):サスペンションが衝撃を受けたの際の "縮み側" のフィーリングを調整する。コンプレッションダンピングが多いと、サスペンション内部のオイルがより圧縮されるため、ショックやフォークは硬いフィーリングとなる。
クラウン(Crown):フォークのスタンションを定位置に固定するブレース。大半のMTBではシングルクラウンフォークが採用されている。より堅牢で、トラベル量の大きなバイクに適しているデュアルクラウンフォークは主にダウンヒルで採用されている。
ダンピングサーキット(Damping circuits):縮み側と伸び側を含めたダンパー機構内部の総称。
アイレット(Eyelet):リアショックの末端部にある穴で、マウント用ボルトが貫通する部分。
アイ・トゥ・アイ・レングス(Eye-to-eye length):両端を固定しているボルトの中心点から計測したリアショックの全長。
フットナット(Footnuts):フォーク下側を定位置に固定するボルト。フォークの一番下の部分(フット)にある。
フォーク(Fork):フロントサスペンションを指す。フロントホイールを定位置に固定している。
ハードウェア(Hardware):アイレットブッシュを介してリアショックをフレームにマウントするために用いられるコンポーネントを指す。ボルトの直径と長さ(例:8mm x 20mm)は様々で、“マウントキット” とも呼ばれる。
インターナル(Internal):フォークやショックの内部機構を指す。
リニアコンプレッション(Linear compression):比例関係で縮むサスペンションの仕様を指す(縮み率が一定)
ロックアウト(Lockout):サスペンションの働きを部分的、または完全にキャンセルするセッティング。多くの場合、登坂区間でのペダリングを助けるために使用される。
ロワー / アッパー(Lower / Upper):一般的にはフォークの上部(アッパー)と下部(ロワー)を指す。
メトリックサイジング(Metric sizing):2017年以降、多くのメジャーメーカーのショック関連製品や標準的なショックのサイズ計測法(アイ・トゥ・アイ・レングスをはじめ、ストロークやハードウェアなども含む)は、それまで主流だったポンド・ヤード法からメートル法に移行している。
その一方で、複雑さを回避することを目的とし、各メーカーはアイ・トゥ・アイ・レングス、ストローク、ハードウェアなどのサイズ選択の幅を減らしている。
たとえば、ショックのアイ・トゥ・アイ・レングスとストロークは現在230mmと65mmとなっている(ハードウェアに関しては、現在は8mm x 20mmをはじめ18通りのコンビネーションが存在するが、かつては80通りも用意されていた)。
このような潮流の推進役を担ってきたのはRockShoxだが、Foxもすでにメトリックサイジングを導入している。現在は両メーカーともに、ポンド・ヤード法 / メートル法の両方でサイズ表記を行なっている。
ピンチボルト(Pinch bolts):ボルト留めされたフォークのアクスルが確実に固定されるのを助ける小さなボルトで、メインのボルトが回転したり緩んだりするのを防止する。
プリロード(Preload):コイルショックの場合、プリロードリングでスプリングのプリロード量(初期状態でスプリングにかけられている荷重)を調節する。プリロードの値が高いほど、そのバイクは最初から硬い乗り心地になる。
プログレッシブコンプレッション(Progressive compression):不均等に縮むサスペンションの仕様(縮み率が一定ではない)。トラベルの限界値に近くになると、縮ませるのに極めて大きな入力が必要となる。
ランプアップ(Ramp up):伸びた状態から縮んだ状態に変化するにつれて抵抗が大きくなるフォークやショックを指す。
リバウンドダンピング(Rebound damping):圧縮の限界に達し、サスペンションが元の状態に戻ろうとする際の「伸び」のスピード調整を意味する。
サグ(Sag):静止状態でサドルに座った際に、ライダーの自重でサスペンションが沈み込む値を示す。
シール(Seal):ショック、またはフォーク内部に封入された空気・液体を正しく密閉するためのラバー製リング。
シャフト(Shaft):サスペンションユニットの中心で可動する軸棒。
ショック(Shock):リアサスペンションユニットを指し、フレームに装着される。
ショックアブソーバー(Shock absorber):リアサスペンションユニットの別称。
シム(Shim):サスペンションユニットの内部に挿入する金属製ディスクで、縮み側・伸び側のダンパー内のオイルの流れを調整する。
スプリング(Spring):MTBサスペンションのスプリングには、コイルとエアの2種類がある。コイルスプリングのサスペンションは、金属製スプリング(通常は鋼鉄かチタニウム)で衝撃を吸収する。エアサスペンションは空気(密封されたキャニスター内で加圧されている)がスプリングの役割を果たす。
スタンション(Stanchion):フォーク外部からも見える円筒形のパーツで、フォークの伸縮部分になる。
ステアラー(Steerer):フォークとハンドルバーステムを繋ぐ支柱部分。アロイやカーボンなど様々な素材のものがあるが、カーボン製ステアラーは少数派だ。
ストローク(Stroke):サスペンションユニットがトラベル量の可動範囲。使用例:「ストロークの最後の方でリアショックがボトムアウトを起こしている」
サップル(Supple):柔らかくて摩擦の少ない、滑らかな動作を指す。
トップアウト(Top-out):サスペンションユニットが伸び側に戻り切った状態。ライダーの「トップアウトが厳しい」とは、フォークやショックのリバウンドが早すぎる、あるいは制御できていないことを意味し、トラベル量の限界値に達した時に異音が確認できる。
トラニオンマウント(Trunnion mount):トラニオンマウントマウントとは、フレーム側のベアリングにショックの両端を2本のボルトでダイレクトに固定する方式を指す。圧縮時、ショックは従来のブッシュではなくベアリングをピボットとする。
アップサイドダウン・フォーク(Upside-down fork):通常のMTBのセッティングとは逆に、スタンションが下側に来ているフォークを指す。
ボリュームスペーサー / トークン(Volume spacers / tokens):ボリュームスペーサー( “トークン” とも呼ばれる)を追加すれば、エアスプリング式フォーク / ショックの空気量を減らして、特性を変えることができる。技術的な知識が最低限しかないライダーでも簡単に追加できる。
ワイパーシール(Wiper seal):サスペンションユニットに入り込む砂埃を最小限に抑える堅牢なシール。
