イタリア語で「鉄の道」を意味するヴィア・フェラータは、スクランブリング(編注:両手を使うロッククライミングの一種。クライミング用装備を一切使わない登攀)とクライミングの中間にあたる存在だ。
用具はそこまで必要ではないが、高所耐性は必要なヴィア・フェラータは、クライミングやボルダリングにまつわる様々な問題とは縁がない。
ヴィア・フェラータでは金属製のレールでルートがマーキングされており、山肌にははしごが埋め込まれている。つまり、ルートが明確で、他の方法では登れない崖や岩壁を攻略するのにも向いているのだ。
そこで今回は、このアドベンチャーを体験済みの人とこれから始めてみようという人の両方に役立つ、“ヴィア・フェラータ8つの心得” を以下に紹介しよう。
1. ルートの混雑を避けたいなら早めの出発を
ヴィア・フェラータでは、1本のルートを全員が辿らなくてはならない。全員が同じワイヤーにクリップとカラビナで留められているので、前を行く人を追い越すのは難しい。
人気のあるルートでは、スピードの遅い人が先行してしまうと、ワイヤー沿いに長い行列ができてしまう。
自分のペースでルートを進みたいなら、早めの出発が吉だ。始発のケーブルカーで向かうか、可能なら始発前に向かってしまおう。
2. グローブを着用し、小型リュックサックを持参する
ヴィア・フェラータの最低限装備は、ハーネスとヴィア・フェラータキット(※)、ヘルメットの3つだ。フィンガーレス&パッド入りグローブと小型リュックサックがあれば、より快適にヴィア・フェラータを体験できるはずだ。
(※)・・・短いカラビナ付きのロープと、衝撃吸収機能を持つリギングプレートのセットを指す。Rock + Runのキットをチェックしてみよう。日本国内ではレンタルしているところもある。
ヴィア・フェラータはクライミングというよりはエクストリームなスクランブリングに近く、ウォーキング用ブーツでも十分に可能だ。特別なシューズを用意する必要はない。
しかし、ヴィア・フェラータキットはリコールの長い歴史を持つので、品質の良いキットを慎重に選ぼう。結局、万が一の墜落時に命を救ってくれるのはキットだ。伸縮性のないロープを含むキットにはくれぐれも手を出さないようにしたい。
伸縮性のないスタティックロープは、鋲打ちタイプのブーツと同じく過去の遺物で、より安全性の高い衝撃吸収性を備えたロープに置き換えられて久しい。ただし、ほぼ絶滅したとはいえ、依然として市場に残っているので注意しよう!
3. クリップはできるだけ前に留める
ルートのスタート地点に到着し、前にいる全員が一定間隔で準備を終えているのを確認したら、クイックドローをワイヤーに留めて、前後の人と一定の距離を取ろう。そして、ワイヤー沿いに登りながら、自分の動きに合わせてカラビナをスライドさせよう。
ワイヤーは一定間隔で山にボルト留めされている。ボルトのあるポイントに到達したら、トップカラビナを外し、次のワイヤーに留めよう。それからもうひとつのカラビナを外して留める。常に2本のうち1本のカラビナがワイヤーに留まっているように注意しよう。
ワイヤー沿いに墜落しても、ボルト部分で必ず止まるようになっているので、墜落距離を短くするには、できるだけ前の位置にカラビナを留めておくのがベストだ。もし届くようなら、次のボルトの先で留めても良い。
ワイヤーのトップ近辺で墜落すると、ヴィア・フェラータキットが効果を発揮するまでワイヤー1区間分の距離を墜落することになるので、途中の岩に当たるなど、深刻な墜落になる可能性がある。
4. ルートを最後まで登り切る意志を持つ
ほとんどのヴィア・フェラータは、スタートからゴールまでのルートが1種類しかない。そのため、ナビゲーションは容易なのだが、同時にルート上で立ち往生してしまう可能性もある。
一部のガイドブックにはエスケープ用のルートが紹介されているが、その数は決して多くはない。
残された唯一の方法は、他の人に逆行して山を下ることだが、これは周囲の迷惑となる。露出した岩肌は用を足せるポイントも少ない…。
5. ガイドブックが常に正しいとは限らない
誰にでも次のような経験をした覚えがあるはずだ。
壮大な写真と魅力的なルート案内が掲載されているガイドブックを見て、実際に現地へ向かってみると、写真が極めて巧妙なアングルで撮影されていたことや、300m続いているように見えたキャズム(岩の割れ目)も1m程度しかなく、とても長く見えた橋も公園の遊具程度のスケール感だったことに気付くという経験を…。
一部のガイドブックは、平凡なルートをエクストリームなものに見せるような演出をしている。パンフレット類も同じだ。
しかし、落胆してはいけない。少なくとも、ガイドブックと同じアングルで見事な写真を撮って友人に自慢できるはずだ。
6. 天候変化に注意
大半の登山家は、悪天候をそこまで気にしない。雪、雨、太陽の日差し、風… どんなコンディションでも彼らはさっと準備して山に挑んでいく。
ヴィア・フェラータでは、もう少し慎重になる必要がある。
雪や氷は足元が滑る危険をもたらすが、問題ではない。問題は嵐だ。嵐が近づいている時は慎重に行動しよう。
ヴィア・フェラータでは、山腹に無防備で晒され、エスケープ用のルートもなく、長い金属製ワイヤーで繋がれているだけだという事実を認識しておこう。
7. 全てのルートが無料ではない
世界には無料のヴィア・フェラータが数多く存在し、アルプスやドロミーティはその数が特に多い。
通常、ヴィア・フェラータは公用地に設置されているが、私有地に設置されている商業目的のヴィア・フェラータも多い。事前のルート確認を怠らないようにしよう。
(参考までに、三重県の鈴鹿山脈・御在所岳に設置されているヴィア・フェラータは、用具レンタル料+ガイド料込みで税込12,000円となっている)
8. ヴィア・フェラータがヨーロッパに広まったきっかけは第一次世界大戦
ヴィア・フェラータには大きく分けて2つのタイプが存在する。ひとつはフランスに多い、クライミングルート的性格が強いタイプだ。
麓を出発し、山頂や険しい岩の頂(かなり切り立っている)まで登攀して、徒歩で下山する。歯応えのあるチャレンジをクリアしながら楽しい1日を過ごせるはずだ。
もうひとつは、ヴィア・フェラータで2つの山を渡るタイプで、通常ではアクセス不可能な尾根を渡っていく。
これは第一次世界大戦中に兵士たちが山岳を越える際に頻繁に活用していたタイプで、ヴィア・フェラータ本来の姿に近い。