ウェットコンディションで速く走れるスキルは、ごく少数のトップドライバーだけが持ち合わせているもので、雨に濡れた路面で彼らの実力は真の輝きを放つ。F1での例を挙げるなら1984年モナコGPのアイルトン・セナ、1997年スペインGPのミハエル・シューマッハ、そして直近の2016年ブラジルGPのマックス・フェルスタッペンがそうだ。ウェットでマシンを速く走らせるためには、ドライとは全く違ったテクニックが求められる。そこで、今回はカートでウェットコンディションを極めるための7ステップを紹介しよう。もちろん、ここで紹介するテクニックはカート以外の他の4輪レーシングマシンにも応用できる。
1. 理想的な走行ラインを見つける
ウェット時の最速走行ラインは、ドライ時のそれとはかなり違う場合が多い。ウェット時では、路面上に付着したタイヤのラバーが非常に滑りやすくなるからだ。
あいにく、サーキットやコーナーによって最速走行ラインは異なり、全てに共通する明確な法則は存在しないので、コースの各セクションを走り込んで様々なラインを試してみる必要がある。一般論では、高速コーナーの走行ラインはウェットとドライでそう大きく変わることはないが、低速コーナーでは大きくラインを変えていく必要がある。
最速のドライバーの走りを観察し、彼らの背後を追いながらドライブするのはグッドアイディアだ。遅いラインを上手く走るよりも、マシンが暴れたとしても正解のラインをトレースしようとする方がタイムは向上する。
2. 自信を持ってステアリング操作する
ウェット時のドライビングで犯しがちな間違いは、思い切りの悪いステアリング操作だ。コーナー進入時に何度もターンインを繰り返してしまうのは良くない。正解の走行ラインを見つけたら、それをトレースすることに集中し、進入とエイペックス、立ち上がりのポイントを見出して、それらを逃さないようにしよう。自信を持ってスムーズにステアリングを操作し、フロントタイヤがグリップを見つける時間をできるだけ多く得るようにしよう。
3. スロットル操作でマシンの向きを変える
ウェットはドライよりもかなりグリップが低く、直進性が高い固定アクスルのカートではなかなか思うように曲がってくれない。そこで、低速ヘアピンの旋回途中でほんの少しスロットルを開けてやると、カートは自然とコーナー出口を向き、ドライバーの進みたい方向へと向いてくれるようになる。しかし、繊細にスロットルを操作するようにしよう。少しでもスロットルが開きすぎれば、カートはあっという間にスピンしてしまうだろう。
4. ホイールスピンを避ける
ここまでのステップに従い、カートの向きをしっかりと変えられるようになったら、次はコーナーの立ち上がりだ。ここではホイールスピンを避けることが最重要になる。このポイントまで必死にグリップを維持していても、エンジンパワーを正しく推進力に変えられずにリアホイールを空転させてしまえば、元も子もない。いったんリアホイールがトラクションを失ってしまえば、再びグリップが戻ってくるまでコンマ数秒が必要になってしまう。マシンを前に進めるべき貴重な時間をみすみす失ってしまうのだ。スロットルを繊細に操作して、トラクションを失わないように注意しよう。
5. ラバーの乗った場所を避けてブレーキングする
ドライ時にラバーが乗せられたセクションは、ウェット時では非常に滑りやすくなる。通常、ヘヴィブレーキングが必要とされるコーナー入り口にはたっぷりとラバーが乗っている場合が多いが、これらのセクションは、ウェット時ではまるで氷上をドライブしているかのように滑りやすくなる。ウェット時のブレーキングパフォーマンスを最大化するなら、ドライ時の進入ラインよりもカート1台分アウト側からアプローチして、より多くのグリップを得るようにしたい。ブレーキング時はリアホイールをロックさせないよう注意しよう。ホイールスピンと同じ原理だが、ここではブレーキ踏力のさじ加減がカギになる。ブレーキペダルから少しずつ踏力を抜き、エイペックスに到達するまでフロントタイヤの荷重をキープしよう。こうすればフロントのグリップが確保されるので、アンダーステアを軽減できる。
6. 縁石を活用する
ウェット時、縁石はカートの方向転換に役立つ。縁石への乗せ方には主に2つのテクニックがある。まずひとつ目は、内側のホイールを縁石に “引っ掛ける” ようにしてコーナーを回っていくテクニックだ。これは低速〜中速コーナーで主に活用される。縁石の内側にフロントホイールを引っ掛けて、それを軸にしてカートを旋回させるイメージだ。上手くホイールを引っ掛けられると、より高いグリップが感じられる。
2つ目のテクニックは、あえて短いラインあるいは直線的なラインを取ることだ。このテクニックは主に高速コーナーで使われる。コーナーで直線的なラインを取ることで、できるだけ高いスピードを維持することがその目的だ。縁石にタイヤを乗せながら、コーナーリング中もブレーキを微妙に残すようにし、フロントタイヤに荷重をかけ続けるようにしよう。縁石にタイヤを乗せたら、徐々にかつ素早くスロットルを開けながら加速に持ち込みたい。カートをスライドさせるのは禁物だ。電車のレールに乗っているようなイメージでコーナーを抜けていこう。
7. 焦りは禁物
ウェットドライビングをマスターするには一定の時間が必要で、長時間の練習が不可欠だ。コーナーやサーキットが違えば最適なテクニックも異なってくるため、ウェットでドライブする機会に恵まれたらできるだけ多く走り込むように心がけよう。覚えておくべきは、ウェット最速のドライバーはそのコンディションで最大限の練習を重ねてきたドライバーだということだ。したがって、ウェットで速いドライバーの走りを観察して学ぼう。ハードにプッシュすると結果的に遅くなってしまい、さらにはフラストレーションも溜まってしまう。ウェットで速く走るには、ハードなドライビングではなく “ベター” なドライビングが大事なのだ。カートの限界を決して越えないようにしよう。
ウェットでのドライビングをマスターするための7ステップをあらためてまとめておこう。
- 理想的な走行ラインを見つける
- 自信を持ってステアリング操作する
- スロットル操作でマシンの向きを変える
- ホイールスピンを避ける
- ラバーの乗った場所を避けてブレーキングする
- 縁石を活用する
- 焦りは禁物
ウェットでのサーキットドライビングをマスターした時の満足感は極めて高い。今回紹介した7ステップをフォローすれば、トリッキーなコンディションにおける最速ドライバーになれるかもしれない。