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他のeSportsとの差別化を図る『オーバーウォッチ』プロリーグ「Overwatch League」。その目的と課題を解説する。
『オーバーウォッチ』のeSports進出については2016年にリリースされた直後から様々な憶測がされていたが、先日Blizzardが「Overwatch League」の立ち上げを公式に発表した。新たに作られたこの団体は、eSportsにおける最大規模のリーグになることを目指している。地域性とハイクオリティなプレイヤー&チームの提供を目指す「Overwatch League」は、完全に新しいeSportsエコシステムの創出を狙うBlizzardの大胆不敵な一手と言えるだろう。しかし、このリーグに関しては、エキサイティングなニュースが届いている一方で、不明な部分もいくつかある。
そこで今回は「Overwatch League」に関する情報を整理しながら、期待できる部分や、不透明な部分を解説していこう。
チーム
特徴:地域性を重要視
これまでの情報を整理すると、「Overwatch League」は、世界中の各都市を代表するチームを用意し、ゆくゆくは世界中のファンが応援できるビッグチームを生み出すことを目標に定めている。伝統的なスポーツのように都市別/メディアマーケット別で競技を切り分けていくこのコンセプトは、eSportsとしては初の試みになる。
このコンセプトは実に興味深い。伝統的なスポーツでは、ホームタウンのサポート次第でチームが力を発揮するケースがよく見られるからだ。たとえば、米国MLBならば、ボストン住民はレッドソックスを熱狂的に応援している。Blizzardもこれと同じように、各チームを地域住民が応援する流れを作りたいと考えている。ローカルチームが上手く機能すれば、正しい意味での「全国大会」と「世界大会」が開催されることになる。
疑問:地域性は機能するのだろうか?
地域別のチームというのは非常に魅力的なアイディアだが、伝統的なeSportsのコンセプトと相反する部分も大きい。たとえば、現在eSportsで活躍しているトップチームがリロケーションをしたいと思うだろうか? 米国のeSportsトップチームの多くは、現在ロサンゼルスに拠点を置いており、彼らがロサンゼルスを離れて、他の都市に拠点を移すことを想像するのは難しい。伝統的なスポーツでは都市間の移動は付きものだが、eSportsではまだレアだ。たとえば、League of Legends Championship Seriesは、シーズンを通じてロサンゼルス1都市で開催されている。
しかし、Blizzardが既存のeSportsチームをターゲットにしていない可能性も考えられる。現時点ではチームパートナーが公式発表されておらず、また、複数のチームが興味を示しているものの、すべてのeSportsチームが『オーバーウォッチ』に興味を示しているわけでもない。そして、BlizzardはこのゲームのeSports化に影響を及ぼす可能性がある、“eSportsシーンの外側” の人物や団体へもアプローチしている。たとえば、『Heroes of the Dorm』のドキュメンタリー映像『A New Hero』では、Echo FoxのオーナーRick Fox(元NBA選手)がフィーチャーされているが、スポーツシーンとの関わりが深い実業家Marc Cuban(NBAダラス・マーベリックスオーナー)や、プロ野球選手Hunter Pence(MLBジャイアンツ所属)もフィーチャーされている。また、『Overwatch League』のトレーラーにはプロテニス選手のSerena Williamsが登場している。
プレイヤー
特徴:生活の安定を重視
「Overwatch League」はすでに紹介トレーラーの中などで、プレイヤーの幸福が最優先されるべきだということを明言している。プレイヤーは給与が支払われるフルタイムのプロプレイヤーとして各チームと契約することになり、各チームはリーグ内で確固たるポジションを保障されることになる。このシステムが採用されることで、シーズン終了後のチームの消滅を最低限に食い止められるようになる。
シーズン中のチームの空中分解は、eSportsにおける最大の問題のひとつなので、eSportsにすべてを捧げるプレイヤーたちのリスクをBlizzardが軽減できれば、「Overwatch League」はeSportsを大きく変えることになるだろう。また、「Overwatch League」では、オンラインで上位にランクインしたプレイヤーが、プレシーズン・コンバインにリストアップされるシステムが採用されるため、プロプレイヤーになるまでの道のりも明確にされている。
疑問:コンバインの役割
コンバインは米国のプロスポーツシーンではよく見られるもので、将来有望なプレイヤーが集められ、テストを受け、そのスポーツの適正を判断されるという、いわば品評会のようなものだ。しかし、ゲーミングの世界はそこまでシンプルではない。伝統的なプロスポーツのコンバインでは、スピード、アジリティ、ストレングス、ハンド=アイ・コーディネーション(視覚と手の連動性)などがテストされ、そのような身体能力の差によって評価が下されていく。
しかし、ゲーミングにはそのような基準は存在しない。あくまでゲーム内のパフォーマンスがすべてであり、身体能力のテストはあまり意味をなさない。とはいえ、プロプレイヤーになるまでの明確なルートを用意しておくのは非常に良いことなので、「Overwatch League」のコンバインがどのような内容とシステムになるのかに注目したい。
レギュラーLANイベント
特徴:LANイベントが定期開催される
チームが創設され、プレイヤーが契約書にサインをすれば、「Overwatch League」のLAN対戦が本格的にスタートすることになる。現時点では具体的なアイディアは発表されていないが、このLAN対戦は国別に開催され、ホーム&アウェイの形式になる可能性が高い。eSportsで定期的な都市間移動が組み込まれるのは初の試みであり、同時にeSportsのストリーミング中継もこれまで経験したことがない新規マーケットに挑むことになる。この重要性は無視できない。
疑問:世間は求めているのか?
新規マーケットの開発はリスクが伴う。たとえば、ボストンのファンが隔週で『オーバーウォッチ』の中継を見るようになるのだろうか? さらに言えば、長時間の移動とLANプレイは、プレイヤーと視聴者の “経験” をより豊かなものにしてくれるのだろうか? このような点についてはまだ分からない。
しかし、Blizzardが「Overwatch League」で大きなリスクを負っているということは確かだ。オムレツを作るためには、卵を割らなければならない。Blizzardも今回の発表を通じて、時の流れに負けない堅牢なeSportsリーグを作るために、自分たちはリスクを負うつもりがあるという気概を示しているのだ。「Overwatch League」にはまだ不明な点が数多くあるが、今回の公式発表は、定期開催される国内・国際プロリーグ実現に向けての大きな一歩なのだ。