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『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと / What Remains of Edith Finch』をただの “ヒットタイトル” と呼ぶのはやや過小評価かもしれない。
デベロッパーのGiant Sparrowは、 “世界を描いていく” という興味深いアイディアとモチーフを用意した前作『The Unfinished Swan』ですでに高く評価されていた。
しかし、2017年にリリースされたファーストパーソン視点で進むナラティブ重視のアドベンチャーゲーム『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』は、最優秀脚本賞や最優秀インディーゲーム賞などを含む数々の賞を受賞し、彼らをさらなる高みへ押し上げることになった。
そして先日、Nintendo Switch版がリリースされ、このゲームを未体験の人たちにその魅力を知るベストタイミングが訪れた。
しかし、『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』をプレイし、その1秒1秒に魅了されていると、作品全体としてのクオリティの高さをついつい忘れてしまいがちだ。
言うまでもなく、この作品も複数の部署から才能が集まって開発されたのだが、今回はリードゲームデザイナーのChris BellとアートリードのBrandon Martynowiczをキャッチして、Giant Sparrowのゲームデザインや『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』の開発経緯などについて教えてもらうことにした。
— 『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』ではどんな仕事を日々こなしていたのでしょう?
Martynowicz:『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』で僕はアートリードを担当しました。ですので、モデリングやテクスチャ、デコレーションやライティングを毎日進めていきました。
また、他のアーティストのタスクリストを作成したり、ゲーム内の特定の部分のデザインを決める会議や、作品全体のクオリティを高める会議へ参加したりするのも僕の仕事の一部でした。
— 最も難しかった部分はどこでしたか?
Bell:チーム、パートナー企業、プレイヤーの期待に応えながら作品をリード・管理していくのが難しかったですね。
この三者の期待通りの作品にすることは非常に重要ですので、それぞれとヘルシーなコミュニケーションを頻繁に取ることが欠かせませんでした。
— 開発のステージごとに仕事内容はどう変化するのでしょうか?
Bell:大まかに話しますと、プリプロダクションでゲームのコアコンセプトを固め、プロトタイプや別バージョンを製作しながら、このゲームで得られるはずのゲーミングエクスペリエンスの範囲を確認していきます。プレイヤーに体験してもらいたいフィーリングや瞬間のテストを重ねるのです。
プロダクションに進むと、適していると思われるゲーミングエクスペリエンスにフォーカスし、さらに詰めていきます。
システムやテクノロジーで肉付けをして、自分たちで正しいと感じられるまで、そしてプレイヤーとプレイヤーのダイナミクスに正しく作用していると思えるまで、構築・再構築を繰り返していきます。
QAは最終調整と同時進行です。ゲーム全体を見ながらバグを修正していきます。
リリース後は、リリース時に間に合わなかった他のプラットフォームへの移植の可能性を探りながら、広告やセールスプロモーション、ゲームショウなどを通じてプレイヤー数を増やす可能性を探っていきます。今は次のプロジェクトの準備を進めているところです。
— これまで担当した中で最も奇妙なエンバイロメントデザインについて教えてください。
Martynowicz:僕はこれまでに数え切れないほど多くのエンバイロメントデザインを担当してきましたが、その中で段違いで奇妙だったのは『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』のラストに登場する女性器をモチーフにしたデザインですね。
Bell:デザイナー兼ストーリーテラーとしての僕は、一見すると奇妙に思えますが、実際は自分を投影できるような、何かを学べるようなものを用意して、プレイヤーに新しい視点を授け、プレイヤーに先へ進んでもらうことを強く意識しています。
フィンチ家の屋敷はその具体例のひとつです。呪われていると伝えられているこの屋敷には、プレイヤーに何かを訴えてくるような部屋や偏執的なデザイン、膨大な記念品や形見が用意されています。
プレイヤーは最初その奇妙さに圧倒されてしまいます。ですが時間が経つにつれて、死や自己の内面など、様々な問題を抱えている人たちの歴史が明らかになっていきます。プレイヤーが共感できる人間像が見えてくるのです。
— イースターエッグはどの程度用意していますか? いくつか例を挙げてもらえますか?
Martynowicz:イースターエッグはゲーム開発の楽しいパートですし、正しく配置できた時は最高です。これまで手がけてきた全作品に用意してありますし、僕なりの個性が感じられるようにしています。
このゲームでは特定のテクスチャ上に友人や家族の誕生日を記入してあります。また、箱から目を覗かせている小動物も隠されていますし、複数のイメージを組み合わせている面白い絵画もあります。
Bell:個人的にはイースターエッグはあまり配置しません。ゲームの世界観を崩してしまうようなものや、全体のアイディアに影響を与えてしまうようなものはまず配置しませんね。ですが、ちょっとしたイースターエッグならスムーズにフィットしますし、気に入っているゲームならいくつか配置します。
たとえば、フィンチ家の屋敷の中には、開発チームの家族に関係する洗剤や本、ワインが配置されています。屋根裏部屋のエアコンには僕の父親の配管工事会社のステッカーが張られていますし、階段上の写真には地平線を眺めている僕の飼い犬が写っています。
— 開発に携わってみたかったゲームはありますか?
Bell:自分ではどうにもできないことについてとやかく言うタイプではないのですが、開発に携わりたかったゲームは山ほどあります。
自分が尊敬しているデベロッパーやデザイナー、アーティストが複雑な問題を解決したり、画期的なアイディアを生み出したりする様子を自分の目で見てみたかったというのが主な理由ですね。
例を挙げると、『スーパーマリオブラザーズ』、『ゼルダの伝説』、『スーパーマリオ64』、『ポケットモンスター赤・青』、『ゴールデンアイ 007』、『ICO』、『ワンダと巨像』、『Counter-Strike』、『Half-Life / Half-Life 2』、『Second Life』、『Wii Sports』、『Minecraft』、『The Witness』、『ロケットリーグ』、『Pokémon Go』、『スーパーマリオ オデッセイ』、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』などです。
— 『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』の開発で最も誇りに思っている部分はどこですか?
Martynowicz:個人的には各キャラクターのライティングと色の組み合わせが気に入っています。僕が考案したActPassカラーメソッドは非常にクリエイティブかつクレバーにカラーハーモニーを生み出せます。これによって、各キャラクターの部屋とストーリーに合ったカラーリングを生み出すことができました。
Bell:僕が最も誇りに思っているのは、開発期間を通じてチームメンバーとの間に築けた人間関係、彼らから得た信頼、そして問題が起きた時や見通しが悪くなった時にそれらを乗り越えようというグループとしての断固たる決意ですね。
— ライティングとカラーリングの重要性について教えてください。
Martynowicz:ライティングとカラーリングは僕の仕事ではとても重要です。フィンチ家の屋敷のすべての部屋にはそれぞれユニークなカラーパレットとライティングが用意されています。こうすることでプレイヤーをエンバイロメントの中へ導いていくのです。
— デザインしたあと、そのデザインを捨ててやり直すことは多いのでしょうか?
Martynowicz:プロジェクトのスタート直後は何回も作り直します。これはゲームデザインの世界では良くあることですね。
— ゲーム機の世代交代はゲームデザインをどのように押し進めるのでしょうか?
Bell:レイトレーシングに対応するゲーム機が、さらに美しいヴィジュアル、そしてダイナミックなシミュレーションとエンバイロメントを提供するでしょう。VRとARは人間対人間により近い、より自然なインタラクションを実現するインターフェイスを提供し続けるはずです。
ですが、個人的に一番期待しているのはダイナミックなサーバー・アーキテクチャと超高速インターネット回線です。これらによってさらに多くのプレイヤーや企業が、オブジェクトがダイナミックに変化する同一空間に存在できるようになるでしょう(現在は小規模、または擬似的に実現されているだけです)。
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