Night of Improvised Round Robin Duets
© Lauren Gesswein / Red Bull Content Pool
ミュージック

一夜限りの即興演奏の連鎖!「ROUND ROBIN」ってどんなイベント?

リハーサルなし。ジャンル制限なし。一発勝負の即興セッション。RED BULL MUSIC FESTIVALのイベントのひとつ「ROUND ROBIN 一発本番即興演奏」が11月15日に渋谷で開催される。そもそも「ROUND ROBIN」とはどんなイベントなのか、過去に世界で行なわれた事例とともにあらためておさらいしてみたい。
Written by Brad Cohan / Red Bull Music Academy / Tasuku Amada
読み終わるまで:10分Published on
Thundercat

Thundercat

© Karel Chladek / Red Bull Content Pool

異なるジャンルのミュージシャンが、たった5分だけの即興セッションを見せる

「ROUND ROBIN」は、まずひとりのミュージシャンがステージに上がって5分間の演奏をしたあと、異なるバックグラウンドを持つ別のミュージシャンが続けてステージに上がり、2人で即興演奏を5分行う。そして最初のミュージシャンが去ると同時にまた別のミュージシャンがステージに上がり、ステージ上に残っていたアーティストと新しい即興演奏を生み出していく。「ROUND ROBIN」は、完全に異なる演奏技術とバックグラウンドを持つミュージシャンたちが普段とは異なるジャンルに取り組むスリルが体験できる、その瞬間にしか存在しないユニークなイベントだ。
あらゆる音楽ファンにとって最もエキサイティングな瞬間のひとつは、技術的な知識がピュアな感情へと昇華する瞬間や、優れたスキルが予想外の状況に用いられる瞬間だが、2013年以来、過去数回に渡り開催されてきた「ROUND ROBIN」のコンセプトの中心に置かれているのが、まさにこのような瞬間だ。
オーディエンスにとっては優れたミュージシャンたちが無から永遠の美を生み出す瞬間が目撃できる絶好の機会にもなる。

気になる出演者は…?

今回、1ヶ月に渡り14の音楽イベントが開催される「RED BULL MUSIC FESTIVAL」の一環としてshibuya duo MUSIC EXCHANGEで行なわれる「ROUND ROBIN一発本番即興演奏」には、日本の各音楽シーンからジャンルの垣根を越えて多くの実力派ミュージシャンが集う。
ROUND ROBIN

ROUND ROBIN

© RED BULL MUSIC FESTIVAL

ROUND ROBIN 一発本番即興演奏 (RED BULL MUSIC FESTIVAL)
2017年11月15日(水)
出演:ASA-CHANG, starRo, 大竹重寿, 菊地成孔, スガダイロー, 灰野敬二, 蓮沼執太 and more

Red Bull Music Academy Festival New York 2014:ROUND ROBIN レポート

過去に開催された「ROUND ROBIN」のなかから今回は、2014年に行なわれた模様を紹介しよう。その日集まったのは、Wadada Leo Smith、Nels Cline、Shigetoなど、ジャンルをまたいだトップミュージシャンたち。ニューヨーク、そして世界の即興演奏の歴史を作り上げてきた即興演奏家、ノイズアーティスト、実験音楽家、エレクトロニック・ミュージシャンの多くが参加した。
.
演奏は、張りつめた緊張感のなか、カリフォルニア出身でニューヨークに拠点を置くギタリスト、Nels Clineからスタートした。言うまでもなく、ClineはロックバンドWilcoのギタリストとしての活動が最も良く知られているが、この日の彼は、John ColtraneにSonic Youthを掛け合わせたようなジャズパンクな演奏を披露した。ベストにネクタイというシャープなルックスでFender Jazzmasterを抱えたClineは、オーディエンスを圧倒する素晴らしい指さばきでジャズフレーズを奏でながら、液体的で強烈なノイズを生み出していった。また、赤ちゃんの泣き声のようなサウンドを生み出してオーディエンスから笑いを引き出す瞬間もあった。
Marco Benevento and James Carter

Marco Benevento and James Carter

© Lauren Gesswein / Red Bull Content Pool

その後、すぐにもうひとりのミュージシャン - 西海岸出身のエレクトロニック・ミュージシャン、Daedelus - がステージに上がった。ラップトップの前に位置したDaedelusはすぐに金属製のゴミ箱を叩き鳴らしているかのような強烈なサウンドを生み出し、Clineのノイジーなギターサウンドに轟音ドローンを重ねていった。
大きな拍手を受けながらClineがステージを去ると、ニューヨークのダウンタウンを拠点にしているトランペッター、Dave DouglassがDaedelusのノイズサウンドに加わった。Jon Zornと頻繁に共作している作曲家でもあるDouglassは、Daedelusと組んで陰鬱なサウンドを生み出したあと、Miles Davis的なファンキーなジャズフュージョンへと移行し、Daedelusのサウンドを圧倒していった。
Amp Fiddler and Shigeto

Amp Fiddler and Shigeto

© Lauren Gesswein / Red Bull Content Pool

このような形でリレー形式の即興演奏が続いていった。DouglassとHarbie Hancockのドラマーとして活躍するTerri Lynee Carringtonがさらにグルーヴィーなファンクを生み出すと、そのあとは、カラフルな演奏を持ち味にしているAmp Fiddlerが最初はCarrington、次に英国人ピアニストJamie Lidellと組んで、George ClintonのParliamentとFukadelic的なサウンドをキーボードで演奏し、会場のバイブスをキープした。
次にシンガーのPetra HadenとサキソフォニストのJames Carterが組むと、サウンドは美しく変化していった。ジャズレジェンドCharlie Hadenの娘であるHadenは、天使のような歌声で即興演奏を披露し、ハミングやスキャットでCarterのアタックの強いスピリチュアルなサウンドに上手く合わせていった。
また、ジャズシーンのベテランDavid MurrayとJherek Bischoffの素晴らしいコンビネーションや、パーカッショニストKarsh KaltとDave Grohlと共演した経験を持つブルックリン出身のギタリストKaki Kingによるワールドミュージック的なサウンドもこの日のハイライトになった。
Kaki King and Karsh Kale

Kaki King and Karsh Kale

© Lauren Gesswein / Red Bull Content Pool

しかし、このような多種多様なラインアップの中で、オーディエンスが最も楽しみにしていた3人のミュージシャンがいた。それは、2012年のアルバム『Ten Freedom Summers』でピューリッツァー賞にノミネートされたトランペッター、Wadada Leo Smith、ニューオーリンズのレジェンドとして知られるピアニストで、Elvis CostelloやPaul McCartneyとも共演したAllen Toussaint、そしてTom Waitsとの共演で知られるアヴァンギャルドギタリスト、Marc Ribotだ。
Ribotへの拍手はこの夜一番の大きさだった。いつも通り椅子に座ったRibotは、ラウドでノイジーなサウンドからスタートした。フリージャズの異端児Albert Aylerに師事したRibotはその恵まれた才能を遺憾なく発揮し、ノイジーなリフを次々と重ねて会場をサウンドで埋め尽くし、オーディエンスを圧倒した。
Wadada Leo Smith and Kaki King

Wadada Leo Smith and Kaki King

© Lauren Gesswein / Red Bull Content Pool

そしてToussaintがRibotと組むと、今度はディープマインドの共演となった。ルイジアナ出身のレジェンドToussaintがピアノの前に座ると、2人はR&Bの要素が強いブルージーなジャズを展開。RibotがToussaintにスポットライトを譲ると、Toussaintは、米国テレビ番組『Jeopardy』のテーマソング「Pop Goes The Weasel」や「Chopsticks」などを組み込んだスタンダードメドレーを披露してオーディエンスを沸かせた。
次はSmithがステージに上がった。トレードマークのドレッド&ホワイトブレザー姿で美しく輝くトランペットを手にしたエクスペリメンタルジャズのアイコンはオーディエンスを魅了した。美しく力強いブロウ、そして微細なニュアンスとディープなリリシズムがThe Town Hallを飲み込むと、突如として全ての演奏が終了した。
本当に終わってしまったのか?
ROUND ROBIN

ROUND ROBIN

© Lauren Gesswein

いや、そうではなかった。
フィナーレとして15人強のミュージシャンがステージに上がり、最後の演奏を披露したのだ。ClineとRibotが並んで立って不協和音を交換すると、DouglassとSmithが強烈なトランペットサウンドを生み出し、CarterとMurrayが歓喜のサックスを奏でればHadenが美しい歌声を披露し、Shigetoも強烈なドラミングを響かせた。
ノイズの洪水が旋回するようなファンキーサウンドに姿を変えていく中、筆者の隣に座っていた男性は両耳を押さえていた。最高の時間だった。こうしてフィードバックノイズが鳴り響く中、熱狂の夜は終わりを告げた。
ROUND ROBIN

ROUND ROBIN

© Lauren Gesswein

これまでも世界で開催されてきた「ROUND ROBIN」

Red Bull Music Academy New York 2013
<LINE UP> Questlove / Andrew Bird / Andrew W.K. / Bernie Worrell / DJ Spinna / Don Byron / Dosh / Erik Friedlander / Glenn Kotche (Wilco) / James Chance / Jameszoo / Joe Lovano / Julia Holter / Kim Gordon / Mary Halvorson / Matana Roberts / Robert Glasper / Roy Hargrove / Thundercat / Vijay Iyer
ROUND ROBIN

ROUND ROBIN

© Christelle de Castro

ROUND ROBIN

ROUND ROBIN

© Anthony Blasko

.
Red Bull Music Academy Bass Camp Detroit 2014
<LINE UP> Todd Osborn / Jim Diamond / Wendell Harrison / Vaughn Klugh / Black Milk / Amp Fiddler / Marcus Belgrave / Joan Belgrave / Marion Hayden / JD Allen / James Carter / Dez Andres / Eddie Fowlkes / Gayelynn McKinney / Phat Kat
ROUND ROBIN

ROUND ROBIN

© Jeremy Deputat

ROUND ROBIN

ROUND ROBIN

© Jeremy Deputat

.
Red Bull Music Academy Festival New York 2014
<LINE UP> Allen Toussaint / Amp Fiddler / Daedelus / Dave Douglas / David Murray / James Carter / Jamie Lidell / Jherek Bischoff / Kaki King / Karsh Kale / Marc Ribot / Marco Benevento / Nels Cline / Petra Haden / Shigeto / Terri Lyne Carrington / Wadada Leo Smith
ROUND ROBIN

ROUND ROBIN

© Lauren Gesswein

ROUND ROBIN

ROUND ROBIN

© Lauren Gesswein

.
Red Bull Music Academy Montréal 2016
<LINE UP> Chilly Gonzales / Thundercat / d’Eon / FOXTROTT / Mauro Pezzente (Godspeed You! Black Emperor) / Greg Fox (Liturgy) / Rebecca Foon (Esmerine) / Austin Tufts (Braids) / Richard Reed Parry (Arcade Fire) / Sandro Perri / Sarah Neufeld (Arcade Fire) / Socalled / Young Paris / Craig Pedersen / Kelsey Lu / Jessie Stein / Stefan Schneider
ROUND ROBIN

ROUND ROBIN

© Karel Chladek

ROUND ROBIN

ROUND ROBIN

© Karel Chladek / Red Bull Content Pool