Ryoyu Kobayashi of Japan seen in Akureyri, Iceland on April 23, 2024.
© Dominik Angerer/Red Bull Content Pool
スキージャンプ

小林陵侑:スキージャンプ世界王者の哲学

スキージャンプシーンで圧倒的な強さを見せ、いくつもの記録を更新してきた小林陵侑は、哲学的・芸術的アプローチを自分のスポーツに持ち込んでいる。日本人スキージャンパーが唯一無二の存在であり続ける背景を探る。
Written by Tom Ward
読み終わるまで:7分Updated on
小林陵侑の素晴らしいキャリアにはまだ十分な時間が残されているが、この日本人はすでに史上最強スキージャンパーのひとりに数えられている。これは紛れのない事実で、スキージャンプ週間3勝を含む数多くの競技記録と、競技外の偉業がその証拠だ。
後者の例を知りたいなら、2024年4月にアイスランドの専用スキージャンプ台で291mを飛んだ世界最長スキージャンプ記録更新をチェックすればよい。高みを目指し続けている小林は、自分のスポーツの可能性の限界を突破する新しい方法を見出し続けている。

8分

小林陵侑:世界最長スキージャンプ

スキージャンパーの小林陵侑がアイスランドに用意したカスタムメイドのジャンプ台で世界最長飛行距離を更新!

日本語 +7

幼少時にスキージャンプを始めた小林は順調に成長していき、2015年に土屋ホームスキー部に入部すると、2015-16シーズンから国際舞台で戦い始めた。その後、すぐにワールドカップシーンで注目を集めるようになると、2018-19シーズンには全種目通じて13勝をマーク。この結果、個人全タイトル(ワールドカップ総合優勝スキーフライング優勝スキージャンプ週間総合優勝Raw Air優勝プラニツァ7優勝ヴィリンゲン・ファイブ優勝)を手にした。
そして、小林は今もメダルを獲得し続けている。勝利への思いと何かを作り出したいという強い思いがある小林は、スキージャンプシーンにユニークなアプローチを持ち込んでいる。
Red Bull TVのドキュメンタリーシリーズ『ウィンター・ヒーローズ』の小林陵侑をチェック!

9分

小林 陵侑

スキージャンプ世界最長記録やあらゆるタイトルにも満足せず、さらなる高みを目指し続ける孤高の日本人スキージャンパーに迫る

英語 +5

01

スキージャンプとの出会い

兄の潤志郎もスキージャンパー

兄の潤志郎もスキージャンパー

© Limex Images/Red Bull Content Pool

「スキージャンプを正式に始めたのは小学校中高学年、10歳くらいだったように思います。僕には姉と弟、兄がいまして、兄はスキージャンプ、他はバスケットボールをやっていました。兄の姿を見て、面白そうだなと思ったのがきっかけです。岩手県の地元にはスキースロープがあるので、そこで練習できました」
その兄、小林潤志郎もワールドカップ優勝経験を持つスキージャンパーで、2012年から大会に出場している。しかし、弟ほどの成績を収めることができていない。一方、小林は岩手県での幼少時代から長い時間をかけて大きな成功を築き上げてきた。
02

成功と柔軟性の大切さ

Ryoyu Kobayashi of Japan seen in Akureyri, Iceland, on April, 23, 2024.

アプローチ(助走路)を滑る小林陵侑

© Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

言葉は少ないタイプだが、小林は自分のスポーツに非常に慎重なアプローチを取っている。彼にとっては最小のディテールにも意味があるのだ。「厳しいと感じているときは、すべてが重要になってきます。新しい人と出会うことさえも重要です。すべてを経験として活かし、目の前のラン1本に集中することと自分のパフォーマンスが重要です」
この哲学的なアプローチは、小林のメンタルバランスに役立っている。結果が自分の思い通りになっていないときは特にそうだ。「上手く飛べても勝てないときがあります。一方で、上手く飛べなくてもよい風が吹いてくれるときや、状況が良くなくても勝てるときがあります。難しいですが、いずれにせよ、大抵の場合はベストを尽くしていなければ勝てないのです」
「僕は状況に合わせて柔軟に対応することができています。これがここ4〜5シーズン、トップに立てている要因です。とはいえ、結果に拘りすぎないようにしています」
03

スキージャンプ週間のレジェンド

スキージャンプ週間総合優勝3回を誇る小林陵侑

スキージャンプ週間総合優勝3回を誇る小林陵侑

© Juergen Feichter/EXPA/Red Bull Content Pool

間違いなく、小林のこれまでで最も印象的な功績は、2019年に記録された史上3人目のスキージャンプ週間全勝優勝だ。また、同年、小林はプラニツァ7で252mを飛んで自己ベストの更新にも成功した。
「4戦全勝、つまりグランドスラム達成は大きな自信を与えてくれました。スキージャンプ週間優勝はとても光栄なことで、完全勝利とも呼ばれています。ですので、達成できて嬉しかったですね」
翌年、総合3位でワールドカップシーズンを終えた小林は、2021-22シーズンにフィンランド、ドイツ、スイスで勝利すると、スキージャンプ週間でも4戦中3勝を挙げて連覇に成功した。
続く2022-23シーズンの小林はFISノルディックスキー世界選手権2位など、いくつもの表彰台フィニッシュを記録。2023-24シーズンには史上6人目となる3回目のスキージャンプ週間総合優勝をマークし、オーストリアのシュテファン・クラフトに次ぐ総合2位でシーズンを終えた。2024-25シーズンはワールドカップでの活躍を続け、オスロと札幌での2勝、計3勝を積み上げた。
このような功績に小林が浮かれることはなかった。帰国してもほとんど気付かれないと本人は言っているが、おそらくその状況に満足しているはずだ。
04

静かな生活とファッションを愛するアスリート

自分のスポーツに完全に集中しているため、小林は成功へのプレッシャーをほとんど感じていない。「自分の周りで起きていることを気にしていません。意識しているのは自分のパフォーマンスだけです」
高い集中力を備えている小林陵侑

高い集中力を備えている小林陵侑

© Fabian Hain/Red Bull Content Pool

自分は表現が豊かなタイプです。スキージャンパーになっていなかったら、何かしらの表現者になっていたと思います
小林はプロアスリートとしての生活の一部を嫌っており、そこには移動や家族や友人と会えない時間の長さが含まれている。しかし、移動するときは味噌汁ラーメンを携行しており、最近はNintendo Switchで久々にビデオゲームも楽しんでいる。
自宅に戻っているときの小林は静かな生活を好んでおり、掃除や外食、YouTubeで披露したバンクシーのレプリカをはじめとするアート収集を楽しんでいる。また、小林はファッションに興味があることでも知られており、ハイファッションブランドのプラダと契約を結んでいるが、本人は平然としており、「良い服を着るのは良いことです」とだけコメントしている。
05

ユニークなメンタルアプローチ

ドイツのスロープで着地する小林陵侑

ドイツのスロープで着地する小林陵侑

© Limex Images / Red Bull Content Pool

大会に向けて集中を高めるとき、小林はシンプルなアプローチを採用している。「やるしかありません。心配しても仕方がないですよね」と小林は語る。その彼が積極的に話すことのひとつに、ゴルフがある。
「ゴルフがスキージャンプと似ているのは、かなりメンタルが重要になるところです。ゴルフは長時間で、スキージャンプは比較的短時間ですが、競技としては驚くほど似ています。自分のスウィングを動画でチェックして、どこが悪いのかを学ぶのは、スキージャンプと同じです。スキージャンプでも自分のジャンプを動画でチェックして、どこが修正できるかを学んでいます」
小林が尊敬するゴルファーはタイガー・ウッズリッキー・ファウラーで、彼には日本人プロゴルファーの友人も多い。現時点の小林はプロレベルを目指しているわけではないが、ゴルフはスキージャンプの大会から自分を精神的に解放してくれると語っている。
06

チャンピオンの未来

「引退後についてはよく質問されますが、どう答えたら良いのか分かりません」と小林はスキージャンプ現役引退後について語っている。「多分、何もしたくないのではないでしょうか? だからこそ、ファッション業界と関係を築いたり、色々な刺激を取り入れたりしながら、どんなアイディアが生み出せるのか模索しているのです」
ストレッチをする小林陵侑

ストレッチをする小林陵侑

© Limex Images / Red Bull Content Pool

自分の周りで起きていることを気にしていません。意識しているのは自分のパフォーマンスだけです
アスリートがここまでスポーツ外のカルチャーや生活にフォーカスするのは珍しいが、これが小林の人間性を豊かにしている。常に周囲からインスピレーションを得ている小林は次のように語る。
「アーティストやミュージシャンから多くのインスピレーションを受けています。自分は表現が豊かなタイプです。スキージャンパーになっていなかったら、何かしらの表現者になっていたと思います」
しかし、小林とスキージャンプの関係は深いままだ。エキサイティングな新シーズンへ向けて準備を進めている彼は、すでに記憶に残るレガシーを遺すことにフォーカスしている。
引退したあともスキージャンプシーンに貢献して、人気を高め、エキサイティングなスポーツにしていきたいです。違いを生み出せれば最高ですね」と本人は語っている。しかし、コーチになることには次のジョークを飛ばしている。「基本的に面倒くさがりですから。でも、楽しむのは好きです」
近年に数多くの成功を収めているにもかかわらず、小林に手を緩めるつもりは一切なく、ファンはこの唯一無二のアスリートが次に何を達成するのかを楽しみにしている。
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