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【3曲挙げてみて】小出祐介(マテリアルクラブ/Base Ball Bear) の「90年代の音楽」

© Suguru Saito
ギターポップから日本語ラップ、そしてMr.Childrenへの鋭い考察……雑多に詰め込まれた音楽体験のそれぞれには深い憧れの念があり、それが現在の小出祐介の音楽的“マテリアル”になっていた。
Written by akio minegishi公開日:
Base Ball Bearの小出祐介が“新音楽プロジェクト”、マテリアルクラブを始動。
制作パートナーに福岡晃子(チャットモンチー済)を迎え、多面的かつ多様な音楽ジャンルと客演という“素材”を完全独自昇華したセルフタイトルの1stアルバムをリリースした。
そんなマテリアルクラブの表現性に90年代の音楽はどのような影響を与えているのか?
小出祐介
小出祐介

小出祐介が選ぶ「90年代の3曲」

① SUPERCAR「cream soda」
それまではハードロックばかり聴きながらギターの練習をしていたんですけど、高校1年くらいのころからSUPERCARを経てギターポップやニューウェーヴ、シューゲイザー──Teenage FanclubやVelvet Crush、My Bloody Valentine、The Jesus & Mary Chainなどを聴くようになって。
Base Ball Bearは最初、SUPERCARのコピーバンドから始まったし、曲作りの手法においてもSUPERCARはかなり影響を受けました。
アルバムとしては(99年に)2枚同時リリースされた『OOKeah!!』と『OOYeah!!』という企画盤が印象深いですね。デビューしてからもしばらく作曲しなくてもいいくらい、デビュー前からすごい数の曲があったらしいんですけど、その頃の曲を中心に構成されてるんですよね。
Base Ball Bearも2010年に『CYPRESS GIRLS』と『DETECTIVE BOYS』という2枚のコンセプトアルバムを同時リリースしているんですけど、そのアイデアもSUPERCARの影響がありました。
② ZEBRA「真っ昼間」
Zeebraさんの「真っ昼間」で、日本語で固く韻を踏んでいくラップとそのフロウ、そしてポップさに衝撃を受けまして。
いま聴くと、あらためて教科書レベルの構成なんだとわかります。ど頭の〈午前10時部屋の中は既にサウナ この暑さじゃ目が覚めちまうな〉というところから外出して、仲間とワイワイ遊ぶみたいなストーリーが展開されていくんですけど、固く韻を踏んでるのに、情景描写もストーリーテリングもしっかりされている。
Zeebraさんの「CHILDREN’S STORY」という曲が、Slick Rickの同名曲のオマージュだとわかったときにも、手法を日本語的に昇華していることにまた驚きました。この言葉の構成力に学ぶ部分がたくさんあります。
③ Mr.Children「マシンガンをぶっ放せ」
ミスチルの曲で一番好きなのが「マシンガンをぶっ放せ」です。
この曲が入っているアルバム『深海』には「名もなき詩」や「花」というシングル曲も入っていて、鳥肌が立つほどいい曲だなって思っているんですが、そのうえで当時、25、6歳だった桜井(和寿)という青年が「マシンガンをぶっ放せ」のような歌詞をポップソングとして仕上げているのもすごいなと思うんですね。
『深海』はレニー・クラヴィッツが愛用していたニューヨークのウォーターフロントスタジオでレコーディングされているんですけど、音のヴィンテージ感もすごくて。それも印象的ですね。
小出祐介
小出祐介
──今日は90年代をテーマにしたインタビューなんですけど。
小出 というか、「90年代って相当広くない?」って思うんですけど(笑)。
──確かにそうなんですよね。国内外含めて音楽ジャンルがかなり細分化されていった時代でもあるし。
小出 そうなんですよね。50年代から80年代まではまだわりと10年単位で全体を見渡しやすいんだけど、90年代は時代的に10年間のグラデーションが激しすぎるんですよね。
日本だけを見てもそう。80年代後半から91年までがバブル期なので、そのころの音楽ってすごくポジティブだし、浮かれている(笑)。
さらに言えば、オシャレだし、トレンディでもあるし。(小田和正の)「ラブストーリーは突然に」も1991年リリースとかですよね。
小出祐介
小出祐介
──たしかに「ラブストーリーは突然に」の4年後に今日ピックアップしくれたMr.Childrenの「マシンガンをぶっ放せ」が収録されている『深海』がリリースされている事実は、今思うとちょっと信じられない時代性の振れ幅がありますね。
小出 そう、信じられないんですよ! 91年にフリッパーズ・ギターが解散したあたりから渋谷系が台頭してきて、小室さんも94年くらいからどんどんプロデュースワークを大ヒットさせていった。
95年に阪神大震災と地下鉄サリン事件。“歌は世につれ世は歌につれ”じゃないですけど、この頃のJ-POPって暗い気持ちを抱えていたり、逆にギラギラしていたりする曲が多い気がします。
その裏で日本のヒップホップも育っていっていて、「さんぴんキャンプ」の開催が96年。
世の中は99年に向かって世紀末ムードが強くなっていくわけですが、この頃のSMAP「夜空ノムコウ」「たいせつ」「朝日を見に行こうよ」のシングルの流れはクリティカルすぎますよね。
邦楽のロックシーンが面白くなっていくのは97年くらいからだと思います。
──でも、小出さんは84年生まれですよね。90年代の動きってあとから分析しているところもあるんじゃないですか?
小出 それもありますけど、子どもながらに覚えてることもけっこうあるんですよ。世の中のムードは感じ取っていて。
小出祐介
小出祐介
──バンドに興味を持ち始めたのは?
小出 中1だから97年ですね。
──SUPERCARやNUMBER GIRL、くるりが注目され始めたころですよね。オルタナティブなロック表現がオーバーグラウンドでも響く新しい時代がやってきたなという感触があったと思います。
小出 まさに。他にはTRICERATOPSがいたり、いわゆるギターロックシーンもポップな感じで盛り上がってきた。
それまではTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTがいたり、BLANKEY JET CITYがいたり、「AIR JAM」のムーヴメントがあったり、激しめなロックやパンクのシーンは盛り上がっていたんだけど、ギターポップのシーンが盛り上がってきたのはそれくらいなだったのかなと。
──で、オーバーグラウンドとアンダーグラウンドの折衷点になったのがDragon Ashと椎名林檎さんだったと思うんですよね。
小出 Dragon Ashでラップに興味を持った人、すげぇ増えましたからね。特に90年代後半がそういうムードでしたよね。
──SUPERCARとはどういう出合い方をしたんですか?
小出 当時、僕がSUPERCARを最初に聴いたときは──それまでの僕は王道のハードロックしか聴いてなかったんです。DEEP PURPLEが一番好きだったし、リッチー・ブラックモアの周辺しか聴いてなかったと言っても過言ではない(笑)。
──極端ですね(笑)。
小出 すごく極端だったんです。リッチー・ブラックモアが一番好きだったんだけど、エリック・クラプトンとかジミ・ヘンドリックスとか、イギリスのブルース基調のロックが好きで。
それが、中2のとき、98年になって同じクラスのやつとOASISのコピバンをやるという話になって。ドラムのやつが、いわゆるUKロック好きだったんです。OASISとかBlurとかOCEAN COLOR SCENEとかThe verveとかを勧められて。
それまで渋めのロックしか聴いてなかった僕がそれらの音源を聴いて「うわっ、カッコいい!」と思った。特にOASIS。
OASISをコピーしてみてギターソロが遅くていいということに感動したんです。
──速弾きを練習しなくていいんだって(笑)。
小出 そう(笑)。「うわっ、遅え!」と思って。すぐ弾けるなと。それまでは速く弾くことしか練習してなかったから。
──逆に言えば、ハードロックを練習することで勝手にギタースキルの筋肉が付いてたという(笑)。
小出 そうそう。最初に激しいトレーニングをしていたから「ゆっくりでいいんだ」と思って。
中1のときの僕のギターの練習方法はDEEP PURPLEのライブ盤をかけて、1曲目から最後まで雰囲気でも強引に合わせるということを1年間やっていたんです。それしかやってなかったから(笑)。
小出祐介
小出祐介
──だいぶおかしい(笑)。
小出 おかしいんだけど(笑)、友だちもいなかったし、練習方法がわからなかったから。
でも、中2のときに友だちから勧められたOASISのスコアを見たら一瞬で弾けて。それで、そいつが「今、こういう日本のバンドも出てきてるんだよ」ってSUPERCARとTRICERATOPSを教えてくれて。
実際に聴いてみたらシューゲイザーとかギターポップを知らなかったから、すごく新鮮で。それで、SUPERCARをコピーしようってなったんです。
──そこからハードロック熱は?
小出 少しずつ聴かなくなっていったんですけど、TRICERATOPSを聴いたときに和田(唱)さんがしっかりロックンロールに影響を受けてるから、その考え方がわかるわけですよ。
王道のロックを踏まえながら、こういうポップなアプローチもできるんだってTRICERATOPSを聴いて理解するというか。
TRICERATOPSの「Raspberry」とか「FEVER」はディスコ的な解釈にもビックリしました。それまではほとんどダンスミュージックを聴いてなかったので。
でも、日本のヒップホップは97年に聴いてるんですよね。中2ときにZeebraさんの「THE RHYME ANIMAL」ってアルバムを聴いて。そこから、CSの音楽チャンネルで日本語ラップのMVをいっぱい観たりしましたね。RHYMESTERを聴くようになったのもこの頃です。
小出祐介
小出祐介
──小出さんのフェイバリットでもあるChicとかはまだ聴いてなかったんですか?
小出 高1くらいですね。ブラックミュージック的な要素に触れるのは日本のヒップホップのサンプリングソースで聴いたのが最初でした。
でも、当時の僕はファンクやディスコの元ネタよりも、サンプリング後のトラックのほうがカッコいいと思ったんです。そういうループを作ってみたいという思いが自分の音楽作りに影響してますね。
──BUDDHA BRANDとかは?
小出 BUDDHA BRANDもカッコいいなと思ったんだけど、当時の僕には英語が多いなと思ったんです。
──ダイレクトにニューヨーク上がりという感じですもんね。
小出 だから、ZeebraさんとRHYMESTERを聴いて日本語としてのラップの手法、固いライミングにすごく興味を持って。
──韻と言えば、Mr.Childrenの桜井さんも実はすごく踏みますよね。
小出 そうそう。ポップス的な文脈かなとは思いますけどね。桜井さんはすごく早熟ですよね。だって「Tomorrow never knows」を24、5歳で書いてるんですよ。
──でも、不思議と早熟みたいな評価のされ方ってあまりされてないですよね。
小出 僕もずっとそれを不思議に思ってるんですけど。当時のMr.Childrenってサザンオールスターズとかとわりと近しい感じで語られていたじゃないですか。でも、実際は桜井さんと桑田(佳祐)さんって年齢差がけっこうあるんですよね。
「マシンガンをぶっ放せ」が好きなのは、世相を斬るとか、社会風刺的なソングライティングって今の時代ってみんなあまりやらないからというのもあって。日本のロックバンドは特に。
小出祐介
小出祐介
“君と僕”とか、私小説的なところはすごくみんな掘り下げたり、甘いラブソングは書くのに、社会に対しての言葉や疑問があまりなくて。
そこに今のロックミュージシャンは興味がないのか、やらないようにしているのかわからないけど、それは疑問だなと思っていて。
──マテリアルクラブの「WATER」は、リリック的にもイデオロギーを感じさせる領域に接近していると思うんですけど。サウンド的にはSUPERCAR、ラップという手法という意味では日本語ラップ、そして、メッセージとしては『深海』のアティチュードを見いだすことができるなと。そのあたりはどうですか?
小出 『深海』を意識してはいなかったんですけど、結果的に近いところに着地したのかもしれないですね。
『深海』はあくまで桜井さんのインナー表現としての象徴だと思うんです。だからアルバムジャケットがああいう写真だと思うんですけど。
でも、僕の場合はイマジネーションの比喩としての“海と水”という感じで。
でも──「WATER」という曲を作った順番を考えてみると、最初はストレスから始まってるわけですよ。それまでずっとBase Ball Bearの制作のときに「強い曲がほしい」と言われ続けていて。リリースするたびに「こっちの曲のほうが強い」とか。
──その“強い”というのはポピュラリティということですか?
小出 そうですね。キャッチーかどうか、現場でウケるかどうか、それも凄く大切ではあります。
だけど、「そこだけで戦わせようとしてるの?」とか、「それだけがポップと呼ばれるものなのか?」とか、正気で本質と向き合うことはできないのかと、『C2』というアルバムくらいからずっと考えていることではあって。
その価値観を体現して、共有して、広めて、根付かせるということは時間がかかることだというのもわかっているし、考え続けないといけないことだとも思ってるから、今回マテリアルクラブをやるってなったときにそのストレスから解放されるための曲作りをしようと思って。
自分の書きたいところに筆を進めようとすると、自分の心の内というよりは思考の中に落ちていって、自由に比喩を探していくという感覚があって。それで、言葉を探しているうちに今の政権下での社会や生活に対する疑問も出てきて。
それは自分でも不思議でした。日本の音楽市場で戦っていくストレスと、日本社会で生きるストレスって相似形なのかもしれないなと。
小出祐介
小出祐介
──結果的にマテリアルクラブで今回挙げてくれた90年代に影響を受けた音楽表現を昇華しているというのは興味深いですね。
小出 ほんとにそうですね。「Nicogoly」の歌詞もまさにそうですけど、憧れにアクセスすることが音楽表現をしている中での楽しみの一つなんですよね。
僕の場合は特に好きなものの幅も広いし、フェチ的に好きなことがたくさんあって。
Zeebraさんの韻の固さもそうだし、SUPERCARにおけるナカコー(Koji Nakamura)さんの歪みのニュアンスって、どう作ってるのか未だにわからないから好きだし。
あとは、「Nicogoly」の歌詞にも出てくるけど、クラプトンのギターソロの手癖の感じとか、B.B.キングの手癖とか。
そういう憧れるポイントってたくさんあって。それをそのままやるのではなくて、それらが溶け合ってるのが自分だと思うんです。全部、自分の中では憧れという同じバスケットに入っていて。
それが「Nicogoly」の歌詞にもなってるし、ひいてはマテリアルクラブというプロジェクトの“素材”にもなっているんです。