Andy Cがロンドンの人気アンダーグラウンドクラブXOYOで再び13週連続レジデントDJを務めることがアナウンスされたが、実力を考えれば当然だ。
ドラムンベースシーン最重要人物のひとりに数えられるAndy Cは、1990年代初頭に活動を開始して以来、DJ / プロデューサーとして突出した存在感を放ちながら、自身のレーベルRAM Recordsを通じて新世代を輩出することでシーンの中心に位置し続けてきた。
ひとつ確実に言えるのは、ドラムンベースシーンへのAndyの愛情が微塵も薄れていないことだ。過密なツアースケジュールとの付き合い方、そしてドラムンベースが向かう未来について話を聞いた。
あなたは20年に渡ってドラムンベースシーンで活躍していますが、それほどまでにこの音楽を愛している理由は?
エナジー、バイブス、ポジティブさだろうな。ドラムンベースはとにかく最高だ。歴史の深みがあると同時に、次はどんな新しいトラックが出てくるのだろうという興奮もある。DJとしての満足感は非常に大きい。送られてくる新しいトラックを聴くのがすごく楽しみなんだ。でも同時にクラシックを掘り返して記憶も辿っている。
プレイ中に自分のハートがみんなに伝わっていることが分かると、すごく幸せな気分になる。DJってやつはまるでドラッグさ。どんどん深みにはまっていくんだ。
2018年のドラムンベースシーンはかつてないほど盛り上がっていました。
ああ、それについては完全に同意するよ。凄かったね。
その理由についてはどう考えていますか?
何事も浮き沈みがあるって言うけど、ドラムンベースは停滞とは無縁だと思う。俺の中では、ドラムンベースはいつだって前進している。今年に関しては、世間がドラムンベースを求めていた感じがあったね。というか、必要なのさ! フェスにはドラムンベースのエナジーが絶対に必要なんだ。あらゆるフェスでドラムンベースは無敵だった。
このシーンにいる誰もがベストを尽くしているし、みんなが共鳴しながらお互いのギグの盛り上がりについて話している。トラックも大量にリリースされているし、パーティチューン、テッキーなトラック、ダークなトラック、ソウルフルなトラックと、多様性もある。
ソーシャルメディアを見ると、どのパーティも盛り上がっているし、みんなクールだよな。これは、『今年の流行はこれだ』なんて考えている人がひとりもいないこのシーンの強さの証明だ。シーンに関わる全員がハッピーに共存している。
今年はあらゆるフェスでドラムンベースは無敵だった。このシーンにいる誰もがベストを尽くしている
多様性と言えば、注目しているニューカマーはいますか?
今のシーン全体が大好きだし、特定のプロデューサー名は挙げないでおくよ。俺の元には新しいトラックが殺到していて、全部チェックするのが大変なんだ!
フェスシーズンは60分程度のセットしかプレイできないのがジレンマだ。長くても90分だ。フェスのセットは一瞬で終わってしまうから、秋冬にロングセットで新しいトラックをくまなくテストするのが楽しみだ。
あなたが公開した最新映像では、ツアーDJの日常を垣間見ることができました。思い浮かぶだけで構いませんが、何カ国を旅してきたのですか?
数えきれないな。とにかく、色んな国を巡った。ちゃんと数えてはいないけど、オーストラリア、ニュージーランド、米国6都市、ヨーロッパ各地のフェス… スペインは最高だったな。あとはイタリア、ハンガリー、チェコ、ベルギー… 大抵の国へ行ったよ。どこの国にもドラムンベースシーンがある。このシーンは真の意味でユニバーサルなんだ。
ある週末に、大西洋のど真ん中にあるアゾレス諸島へ行ったんだけど、美しいロケーションだったし、ギグの反応も素晴らしかった。ドラムンベースファンが沢山いたよ。
これからDJを始めてみようという人にアドバイスはありますか?
DJを始めて、色々なクラブでブッキングされるようになっても、それが当たり前のことだと思ってはダメだ。色々な人たちと接点を作っておこう。DJで大金を稼ごうなんて思わないことだね。俺は、たった50ポンド(約7千円)のギャラのために自分の車であちこちへ出向いて、どんな時間帯でも喜んでプレイしていた。
あとは、時間をかけて努力すること。それに、このシーンは強い情熱を持つ、自分と同じように懸命に努力している人たちによって支えられていることを忘れないこと。限界を超える努力を重ね、現状に満足しない。個性を主張し、誰の真似もしない。献身は自分に返ってくる。
学生時代に使っていたノートに書き込まれていたRAMのオリジナルロゴを偶然発見したんだ。エモーショナルになったよ。
学生の頃は、自分が持っているレコードをノートに書き出したり、その内容を毎週アップデートしたり、分類したりしていた。理想のギグを書いたりもしていたな。こういう夢や希望が、当時の俺を駆り立てていたんだ。
2017年のXOYOでのレジデントパーティには、真の意味でのファミリー感とコミュニティ感がありました。私も8回ほど足を運びましたが、UKのクラブで毎週プレイしたことは、あなたにとってどのような意味があったのでしょう?
全てを意味していたよ。XOYOでのレジデントは、これまで俺が恵まれてきたチャンスの中でも最高の類いだった。毎回オールナイトセットを終えて家路につく時、最初の10分間は多幸感に満たされているんだけど、次第にその晩プレイしなかった曲のことで頭がいっぱいになった。
でも、レジデントDJが何より素晴らしいのは、トラックをプレイするチャンスが増えると同時に、『また来週もパーティがある』って思えることなんだ。君は8回足を運んでくれたって言っていたけど、そういうことさ。クラウドは『毎週足を運ばなきゃ』って感じてくれていた。俺もみんなのそういう気持ちを感じ取っていたよ。
いつも同じ顔ぶれに会えたのは最高だった。徐々にXOYOファミリーのような感じになっていって、3カ月を通じて全員で一体感を共有していた。個人的な話をすれば、もう二度とかけることはないだろうと思っていたレコードをプレイできたのも良かった。選曲作業を通して、自分でも忘れていたような曲を発見できた。エモーショナルになったね。
レコードっていうのは、過去の記憶を思い出させるトリガーのようなもので、エモーショナルな気分にさせてくれる。それをクラブに持ち込んでプレイして、クラウドの反応を目にできるなんて、俺はすごくラッキーだよ。
1,000トラックくらいプレイしたんじゃないかな。凄いよね。それでもまだプレイできなかった曲もある。とんでもなく貴重な機会だったし、素晴らしかった。最高だったね。
『XOYOでプレイできなかった曲』だけを集めたエクスクルーシブ・ミックスもできそうですよね。
それはグッドアイディアだね。XOYOでプレイした曲を全部収録したミックスを録音したら、どれくらいの長さになるかな? かなり長いものになるだろうな。
XOYOレジデンシー最終週の模様を誰かがスマートフォンで撮影したYouTube映像はチェックしましたか?
実はチェックしたんだ(笑)。知り合いが教えてくれてね。これを撮影した人は、おそらくものすごく腕の筋肉が強いか、腕を何かで支えていたんだろうな。いやはや恐れ入るよ!
撮影してくれた人には本当に感謝しているんだ。というのも、ブースに立ってプレイしていると、クラウドは見えるし、周囲にいる人たちの反応はすぐに分かるんだけど、クラウドの声はそんなに届かないからさ。
特定のトラックがミックスされる瞬間の反応も収められているのも嬉しいね。クラウドの期待が分かる。シャウトやトラックへの感謝の気持ちも聴こえる。ああいう映像は、フロアの雰囲気をそのまま捉えていて素晴らしいよ。
まるでフットボールマッチのような感じでしたね。とてつもない熱気とエナジーでした。
凄かったね。オープニングセットの序盤なんて…
あのイントロも素晴らしかったですね。Original Sin「Therapy」からDillinja「Nitrous」に繋ぎ、さらにはSub Focus「Stomp」やSiren「Snorkel」が次々とドロップされて…。
実は、あれは完全にその場の思いつきの選曲でさ。その日クラブに向かう途中、『どんな風にセットを始めようか』って考えていたんだ。自宅で「Therapy」を聴いて、『こいつはプレイしなきゃ』と思った。
セットごとにイントロは違うし、ある意味、ベストなイントロはやり尽くしてしまったと思っていた。だから、『今プレイできるトラックはどれだ?』と考え続けた。
夏のフェスシーズンではこういうことはあまり考えないけど、DJとしての立場から見ると、こういう選曲作業からは大きな解放感が得られるんだ。この日は現場に入るまでずっと考えていて、プレイすると強烈な反応が返ってきたってわけさ。
プレイ前に神経質になることはありますか?
神経質にはならないけれど、興奮はしているね。あの夜に関しては、フェスと同じようにノリノリだったよ。とにかく楽しむだけだ。神経質になる理由なんてないよ。
XOYOでのレジデンシーは夏のフェスのセットに影響を与えたのでしょうか?
これまで長年耳にしてこなかった一部のサウンドを再発見できたと思う。再び目が覚めたような感じかな。DJはプレイ中にある種の自由を感じる時があるけど、クラウド次第だ。
10,000人のクラウドが相手でも、XOYOでプレイしているような気分になる時がある。そこには特別な空気感があるのさ。同じように、10,000人のクラウドを前に、『みんなを引き止める工夫をしないと』と思う時もある。
秋からクラブサーキットに戻りますが、あなたが特に気に入っているUKのクラブはありますか?
これについてはもう少し先にならないと教えてあげられないかな。今回はXOYOについて話しているわけだし、XOYOでプレイするのが好きじゃないなんて言えるはずがないだろ。
でも、秋はWarehouse ProjectやブリストルのMotion、バーミンガムに新しくできたCraneでもプレイする。Printworksでもまだプレイしたことがないから、新鮮な体験になるだろうな。Printworksにはかなり興奮しているよ。一度下見に行ったけど、とにかく素晴らしいクラブだし、本格派だ。
夜が長くなる秋は個人的に好きな季節なんだ。この時期になると、生まれて初めて行ったレイヴを思い出す。あれは9月の終わりか、10月の始めだったな。今でもあの時の興奮を思い出すよ!
