Christian Horner and Adrian Newey at the Monaco Grand Prix, 2021
© Getty Images/Red Bull Content Pool
F1
クリスチャン・ホーナー&エイドリアン・ニューウェイが語る “頂点までの軌跡”
レッドブル・レーシングを栄光に導いた両巨頭はいかにして手を結び、敗北から何を学んできたのだろうか? 2人のスペシャルインタビューをお届けする。
Written by Matthew Clayton
読み終わるまで:9分Published on
2005年まで時を戻そう。クリスチャン・ホーナーはレッドブル・レーシングという新チームのチームプリンシパルに就任し、初めての世界選手権を戦っていた。
当時のF1ではホーナーは新参者で、チームにも実績はなかったが、彼は必要な物を分かっていた。より具体的に言うなら、必要な人物を分かっていた。エイドリアン・ニューウェイだ。
「当時のチームに欠けていたのは、技術面の明確な指針だった」とホーナーは切り出す。
「エイドリアンはF1史上最高のエンジニアだったので、いかに彼の関心を誘い、レッドブル・レーシングに引き入れるかが問題だった」
1990シーズンまで在籍したレイトンハウスでのキャリア初期を経て、ウィリアムズのテクニカルディレクターとしてタイトルを獲得し、その後マクラーレンに籍を移したニューウェイは、F1随一のエンジニアリング頭脳の持ち主に相応しい評価を2005年の時点で得ていた。
そこで、ホーナーは最善の道筋を文字通り "一歩ずつ歩いて" いくことにした。F1初参戦を果たした2005シーズン、ホーナーはニューウェイがサーキットでの仕事に向かう時間に合わせて必ず姿を現すようにしたのだ。ニューウェイは次のように回想する。
「最もはっきりと記憶しているのはシルバーストンだが、クリスチャンは私がパドック入りすると必ず鉢合わせるようにしていた。2005シーズンを通じてずっとね」
「そのあとも顔を合わせる機会があり、多少話をするようになった。やがて、黒いレザージャケットに身を包んだ紳士がトラックの陰から忽然と現れ、『私はヘルムート・マルコ。こちらが私の連絡先だ。電話で話そうではないか』と言ったんだ」
仕事へ向かうホーナーとニューウェイ
仕事へ向かうホーナーとニューウェイ© Getty Images/Red Bull Content Pool
歴史が示している通り、ニューウェイはマルコ博士と電話で話し、レッドブル・レーシングに加入してホーナーの同僚となった。新参チームがワールドチャンピオンに輝き、さらに8年を経て王座へと返り咲くレッドブル・レーシング物語の第一歩がここから始まった。
そして2022シーズン、この物語はチームにとって2013シーズン以来となるダブルタイトル制覇に結実した。マックス・フェルスタッペン2シーズン連続のドライバーズチャンピオンを獲得し、セルジオ・ペレスチーム通算5回目となるコンストラクターズチャンピオン獲得に決定的な役割を果たしたのだ。
英国人スポーツジャーナリスト / TVプレゼンターのローラ・ウィンターが同席し、打ち解けた雰囲気で行われた今回のスペシャルインタビューでは、オラクル・レッドブル・レーシングを牽引するトップ2がプロフェッショナルな関係の端緒を振り返りながら、共通のゴールへ向かって努力を重ねたことで生まれた絆やいくつもの成功とその間の低迷期が強豪チームの創出にどのように貢献したのかなどについて語ってくれた。
ニューウェイはクルサードの言葉を信頼してレッドブル・レーシング加入を決断した
ニューウェイはクルサードの言葉を信頼してレッドブル・レーシング加入を決断した© Getty Images/Red Bull Content Pool
この物語で中心的な役割を担ったのが、F1通算13勝を誇るデビッド・クルサードだ。ニューウェイとクルサードはウィリアムズ / マクラーレン在籍時代からの旧知の仲で、レッドブル・レーシングが2005シーズンにデビューを飾った際にリードドライバーを務めたのもクルサードだった。
当初はお気楽な “パーティチーム” と思われていたレッドブル・レーシングだが、クルサードは「そのようなイメージの裏には、真剣で、潤沢な資金を持ち、成功を渇望する野心とハングリーさを備えたレーサー集団がいる」と言ってニューウェイを説得した。
「デビッドは良き友人で、私は彼の意見をとても信頼していた。そのデビッドが太鼓判を押したんだ」とニューウェイは振り返る。
「レッドブル・レーシングは常に巨大なディスコを持ち込んでいたので、このチームはまともに受け入れられるのだろうかと訝しんでいた。しかし、その華やかさの裏側を覗いてみると、あらゆる基盤が揃っているように私には思えた」
2008シーズン イタリアGPでレッドブル・レーシングの姉妹チームであるスクーデリア・トロ・ロッソ(現スクーデリア・アルファタウリ)のマシンを駆ってすでにグランプリ優勝を飾っていたセバスチャン・ベッテルが引退したクルサードの後釜として2009シーズンに加入すると、ニューウェイが言う “基盤” は大きな何かへと形を変えていった。
2009シーズン 中国GP、チーム加入3戦目のベッテルはレッドブル・レーシングにチーム初優勝をプレゼントし、それから5シーズンに渡りワールドチャンピオン4回・計38勝を飾ってF1のレコードブックを書き換えると、設立から10年未満のレッドブル・レーシングをF1のベンチマークとして定着させた。
出走300戦を記録し、2022シーズン最終戦アブダビGPを最後に現役から退いたベッテルのキャリアを振り返るホーナーは、スキル卓越した仕事への熱意のコンビネーションが彼をF1史上最高のドライバーのひとりにしていたと語る。
ベッテルは2009年中国GPでチーム初優勝を記録
ベッテルは2009年中国GPでチーム初優勝を記録© Getty Images/Red Bull Content Pool
「セバスチャンが傑出した才能であることは明らかだった。当時、トロ・ロッソはレッドブルのジュニアドライバーたちにステップアップの機会を提供していた。セバスチャンがそのチャンスを掴み取った瞬間、飛び抜けたタレントの持ち主であることが分かった」
「セバスチャンは驚くほどの努力家だった。驚異的なひたむきさだった。彼はあらゆる努力も惜しまなかった。金曜日や土曜日の最後までエンジニアリングオフィスに残っている人物が彼だったこともしばしばだ」
ベッテルが示したこのコミットメントがチームの基準を引き上げる刺激になったとニューウェイは考えている。
「セバスチャンは非常に理路整然としたアプローチを持っていて、自分に対して厳しかった」とニューウェイは語る。
「ミスを犯したら、どうしてミスを犯したのか、もっと上手くできる部分はなかったのかを理解しようとする。彼が同じミスを二度繰り返すことは滅多になかった」
「このようなひたむきさがチームにも波及していた。クルーたちはセバスチャンの仕事ぶりや彼のコミットメントを目の当たりにしていたので、チームにももっと頑張ろうとする心構えが生まれていたんだ」
エイドリアンはF1史上最高のエンジニアだったので、いかに彼の関心を誘い、レッドブル・レーシングに引き入れるかが問題だった
ベッテルのレッドブル・レーシングでの実績はいまだ破られないままだが、近年におけるフェルスタッペンの著しい進境ぶりなら、おそらくそう遠くない将来にベッテルを上回るかもしれない。
トロ・ロッソで23戦を経験したあとレッドブル・レーシングに加入したフェルスタッペンは、移籍後初レースの2016シーズン スペインGPでいきなり優勝を飾った。フェルスタッペンはやがて2021シーズンのタイトルを劇的な形で掴み取り、2022シーズンにはF1史上最多となるシーズン15勝・合計454ポイントを挙げてタイトル防衛を成し遂げた。
歴代最多となる年間15勝をマークしたフェルスタッペンとホーナー&ニューウェイ© Getty Images/Red Bull Content Pool
ホーナーとニューウェイはチーム内でベッテルとフェルスタッペンのあらゆる側面を目にしてきた。2人のワールドチャンピオンは対照的な形でそれぞれの成功を手にしてきたが、ホーナーは両者の共通項をひとつ指摘する。
ホーナーは「両者は非常に異なるタイプのドライバーだと思うが」と前置きした上で次のように続ける。
「セバスチャンの仕事への向き合い方は非常にドイツ的だ。彼はとにかく懸命に努力する。一方、マックスはいたってナチュラルで生まれながらの能力を備えている。間違いなく、私がこれまで見たことがないようなハングリーさと決意を持ち合わせている。したがって、2人は実に多くの面で異なるのだが、決意の強度勝利への意欲ベストを目指す姿勢において非常に似ている」
「今後のキャリアで何を成し遂げていくにせよ、マックスは非常に短期間で実に多くの実績を達成してきた。まだ25歳の彼の行く末に待ち受けているものを想像すると末恐ろしい」
ワールドチャンピオンを含め、様々なドライバーたちが現れては去っていく — それがF1における循環の摂理だ。しかし、17シーズンを共に戦ってきたホーナーとニューウェイは、低迷したシーズンにも成功を収めたシーズンと同じくらいに学びがあったこと、そして巨額予算や最新鋭の設備、膨大なデータが当たり前になっているF1においても、最も重要なのはやはり “人” だということで意見が一致している。
メルセデスがドライバーズ&コンストラクターズの両タイトルを独占し続ける中、レッドブル・レーシングはごく散発的にしか勝利を収められなかった2014〜2018シーズンを振り返り、ニューウェイは次のように語る。
「レッドブル・レーシングにおける強みのひとつは、私たちが黙々と仕事に集中し、あの苦しい時期を耐え抜いたことだ」
ホンダとのパートナーシップにより再び強力なパワーユニットを手にしてから、私たちは巻き返せるようになった」
ホーナーも首を縦に振って同意する。
「それまで4シーズン連続でチャンピオンシップを独占しながら、突如として苦戦を強いられるようになったあの時期(2014〜2018シーズン)は苦しかった。ひとつのチームが他のどのチームよりも遙か先を行っていた」とホーナーは語る。
「勝利の味に慣れた組織がモチベーションを低下させたり見失ったりするのは容易い。最も重要なのは、チームをまとめ続け、自分たちにコントロールできる部分や影響を及ぼせる部分に集中することだ。苦戦を強いられていたあの時期も、私たちは素晴らしい絆と継続性を保っていた」
「2015シーズンを除けば、私たちは毎シーズン少しずつ優勝を手にできるようになっていた。あとは、私たちのパッケージに相応しいパワーユニットを手に入れることだけが課題だった」
今も製図板を愛用するニューウェイだが、その確かな仕事ぶりは結果が証明している
今も製図板を愛用するニューウェイだが、その確かな仕事ぶりは結果が証明している© Getty Images/Red Bull Content Pool
2022シーズンはすでにバックミラーの彼方に過ぎ去り、他のエンジニアたち全員と同じくニューウェイも次のシーズンへ目を向けており、チームをトップに維持するためのルール解釈に取り組んでいる。
フェラーリが攻勢の手を緩めるはずはないだろう」とニューウェイは語る。
未来は予知できないとはいえ、ホーナーとニューウェイの中ではっきりしているのは、まもなく20年を迎えようとしている彼らの協働体制こそが成果を残してきた要因であり、これから先に待ち受けるシーズンにおいても2人は足並みを揃え続けるということだ。
ホーナーとニューウェイの関係がこれまで続いてきた理由について「信頼友情、そしてお互いの仕事への尊重の上に成り立っている関係だと思う」とホーナーが語ると、ニューウェイも同調して次のように語る。
「お互いの仕事に集中し、それを続けられる信頼だ。お互いがそれぞれの仕事をしていると心から信じることができている」とニューウェイは簡潔に語る。
「私たちの関係が非常に上手くいっている真の要因は、肩肘張らない働き方と信頼、そして友情だ」
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