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エベレスト登山に潜む8つの危険

© Cory Richards; Getty
大きく口を開けたクレバス、唸りを上げる強風、登山中に落命した者たちの遺体… 世界最高峰登山のフィジカル&メンタル両面の知られざるリスクを冒険家が明かす。
Written by Joe Ellison公開日:
エベレスト — 巨大なスケールと死に満ちた歴史を持つこの伝説的な山塊は、名前を頭に浮かべるだけで脳が凍傷を負いそうになる。この山から神秘性を切り離して考えるのは難しい。しかし、神秘性を切り離して現実的に捉えることが重要だ。
過去100年間で、実に200名を超える登山家がエベレスト登山中に命を落とした。2015年には史上最多となる22名のクライマーがこの大山塊の頂上付近で落命している(主な死因は雪崩29%、滑落事故23%、低体温症 / 急性高山病20%となっている)。
エベレストに潜む危険について、英国人冒険家のマシュー・デュムガール=ソーントンよりも熟知している者は少ない。2012年、彼は弱冠22歳でエベレスト登頂に成功し、史上最年少登頂者のひとりとなった。
そんな彼が、エベレスト登山の “ダークサイド” を打ち明けてくれた。

1. 悪名高き “デスゾーン” では意識混濁に陥る

エベレスト登山とその他の高山登山の違いは、エベレスト登頂には酸素補給が必要になるという点です。通常、エベレスト登山は5週間から6週間を要し、そのトレックの大半はアクリマタイズ(現地順応)のために用意されています」
「私たちは良好なローテーションを設定したため、高山病を発症することなく、5週間以内に初アテンプトで登頂しました。ですが、標高8,000mを超えた低酸素のエリアに関しては事前に準備する手段がないので、意識が混濁した状態に陥ります」
「この限りなく酸素が薄いエリアは “デスゾーン” と呼ばれています。生きるか死ぬかの世界なのです

2. 大量のクレバスが潜んでいる

「エベレストにはおびただしい数のクレバスが潜んでおり、その多くはラダー(はしご)を使う必要があります。通常はラダー1本からスタートしますが、標高が上がるにつれて2本のラダーを連結して使う機会が増え、最終的には上に示した映像(デュムガール=ソーントン本人の撮影)のように3本を連結するケースもあります」
「エベレスト挑戦するまで、水平に渡したラダーの上をクランポンで渡ったことはありませんでしたが、酸素不足で少し酔ったような感覚になっていたので、恐怖心を多少減らすことができました」
エベレストではそれまで遭遇したことがない障害に遭遇したり、使ったことがないトリックやテクニックが必要になったりする場面があります。これら全てが同じ山の中で起きるのです」

3. シェルパの行動は時として理解しがたい

「クレバスに落下しても、ロープで繋がれているのでそれ以上のことは何も起きないはずです。しかし、シェルパたちを見ていると最悪の気分になります」
彼らは荷物の重さによって賃金を得ているので、運ぶ回数が増えればそれだけ収入が増えます。ですので、彼らは近道をして時間を稼ごうとするのです」
「彼らはロープを結びませんし、ヘルメットも着用しません。彼らの安全装備はごくわずかです。何も締結せず、素手ひとつでラダーを渡ることもあります」
「第1ベースキャンプを出発して大きなクレバスに到達する前日、私たちはその1日前にひとりのシェルパがそのクレバスに落下して死亡したことを知らされました」
「レスキューチームが彼の遺体を引き上げたそうですが、切り立ったクレバスの表面にはその血痕がはっきりと残されていました
「血の匂いは一切しませんでしたが、血痕ははっきりと見えました。色は想像していたよりもずっと黒く、気分が悪くなりました。この経験を経て、より大局的に見るようになりました」

4. 山の全容が把握できない

「エベレストの途方もないスケールは、メンタルにとって大きな障害になる」
「エベレストの途方もないスケールは、メンタルにとって大きな障害になる」
エベレストの全容を完全に把握するのは不可能です。遠くから眺める分には、まるで一枚絵のようにも見えますが、近づいてみるとあまりにも大きすぎるので、山のどの部分を見ているのかも分からなくなります」
「まるで山が自らその姿を隠しているようにも感じられます。第2ベースキャンプに着いて初めて、第3キャンプの位置が把握できます。第4ベースキャンプの位置は、山の側面まで登らなければ確認できません」
「頂上へアタックする日になっても、エベレストは相変わらず圧倒的な姿で立ちはだかっています。この途方もないスケールは、メンタルにとって大きな障害となります

5. いくつもの遺体を目にすることになる

エベレストには、回収されないままの遺体がそこら中にあります。第4ベースキャンプを出発し、頂上へアタックする段階になると、標高の高さゆえに最低限の装備しか身につけられません」
「重いリュックサックを背負えないので、頂上へのアプローチ中に命を落とせば、その遺体が麓まで下ろされる確率はほぼゼロになります。ですので、頂上付近ではたくさんの遺体を目にするのです」
「回収隊にお金を払って麓まで下ろしてもらう遺族もいます。頂上へアタックしている最中は、なるべくポジティブでいようと努めますし、これらの遺体について話題にすることはありません。ですが、遺体が身につけているウェアはまだ鮮やかな色を放っているので、どうしても視界に入ってしまうのです」
「まだ亡くなって間もない遺体を目にする一方、頭蓋骨になるまで腐敗した遺体を目にすることはありません。というのも、瞬間冷凍されたかのように、亡くなった当時の姿で残っているからです。ほとんど蝋人形のようにも見えます」
「彼らが着ていたウェアは山頂付近の強風と紫外線に晒され続けています。それぞれの遺体に、それぞれのストーリーがあるのです」

6. 氷片や落石は日常的な脅威

エベレスト登頂に挑むデュムガール=ソーントン
エベレスト登頂に挑むデュムガール=ソーントン
「エベレスト登山は一般的な登攀・下山のプロセスとは異なります。技術的には決して難しくありません。K2の方がよほど困難です。ですが、それでもエベレストは慎重に挑む必要があります」
地球温暖化の影響でエベレストが乾いてきていて、積雪量も少なくなっているので、氷片が崩落したり、落石が起きたりすることがあります。ですので、落石や氷の崩落などに備えて地形を見極めていく必要があります。車1台ほどの大きさの岩が落ちてくることもあります

7. 失敗のプレッシャー

エベレスト登山における最大の難関のひとつが、資金の調達です
「1回の遠征を計画するためには40,000ポンド(約587万円)を優に超える予算が必要になりますし、マーケティングも上手くやる必要がありますが、最近は登山家が増えているので、自分の付加価値をアピールするのが以前よりも大変になっています」
「私は約2,000社に連絡を入れましたが、折しもYellow Pages(英国のビジネスポータルウェブサイト)がリブランディングに取りかかっていて、エベレストを利用した企業メッセージの発信を検討していました。正しい場所に正しいタイミングでいたというわけです」
「スポンサーの支援を得た以上、彼らを落胆させたくはありませんので、失敗のプレッシャーが大きくなります。外部からの支援が増えると、メンタルに影響を与えるのです

8. 山頂はまるでホラー映画のワンシーン

エベレスト登頂を達成した直後のデュムガール=ソーントン
エベレスト登頂を達成した直後のデュムガール=ソーントン
「登山を始めた頃の私は、エベレスト山頂で命を落としたとしても、それは静寂に満ちた最期になるだろうと想像していました。山頂の酸素は極めて薄いので、呼吸が止まり静かに死を迎えるのだろうと想像していたのです」
「ところが、実際のエベレスト山頂は強風が吹き荒れる過酷な環境でした。快適な場所ではありません。極めてエクストリームでした」
「助けを求めるにはあまりに遠く、誰も助けに来てはくれません。吹き付ける強風が不安を掻き立て、その不気味な音はホラー映画以外に例えようがありませんでした」
「私は頂上に到達する時点で、重度の低酸素状態、または酸欠状態に陥っていたため、スポンサーのための写真撮影をすっかり忘れてしまっていました」
「あの時は意識が朦朧としていたので、自分のことを考えるだけで精一杯でした。しかし、生身に近い状態で自然と対峙している時に自分を優先して考えるのは決して悪いことではありません
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