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『ファイナルファンタジーXV』:JRPGの挑戦
欧米発のビッグタイトルの影に隠れつつある日本製RPG。その代表格と言えるシリーズが世界を視野に入れた最新作をリリースする。ディレクターがその意気込みを語った。
Written by John Robertson
読み終わるまで:8分Published on
『XV』の主人公もツンツンヘア
『XV』の主人公もツンツンヘア© Square Enix
ここ最近、スクウェア・エニックスはフラッグシップタイトル『ファイナルファンタジー』シリーズで満足のいく結果を残せていない。『XIII』はシリーズの代名詞になりつつある1本道のJRPGスタイルを貫き過ぎて多くのファンを困惑させ、『XIV』は余りにも不出来で、大幅な変更が加えられた『XIV:新生エオルゼア』がリリースされた。そして、今回取り上げる『XV』も開発が難航し、『XII』のリリース直後に制作が発表されたにも関わらず、それから10年が経過した今年3月にようやく具体的なリリース日が発表されたばかりだ。
何かを変える必要があるのは明確だが、『XV』のディレクターを務めている田畑端は、その「変化」が自分たちにとって最大のチャレンジになっていると説明する。
「このシリーズをグローバルモデルのゲームに変えること、これが開発において最も重要で、最も難しい部分です」
「これまでは、日本で開発した作品をローカライズして海外へ輸出するというスタイルを採用してきましたが、『XV』では世界で受け入れられているテイストを開発段階から取り入れていくスタイルに変更しました。これが一番大きな変化ですね」
田畑の言う「変化」は、彼がいる場所にも現れている。このインタビューは、欧米屈指のメインストリームカルチャーの発信地ロサンゼルスのホテルの一室で行われたのだ。そして、日本と西欧の融合を目指す『XV』自体も、2016年9月30日の “世界同時リリース” が予定されている。
パブリッシャーとしてのスクウェア・エニックスも同様の変化を迎えている。日本屈指の大手パブリッシャーとして知られてきた彼らだが、現在抱えているビッグタイトルは『ファイナルファンタジー』シリーズを除けば、『トゥームレイダー』、『Deus EX』、『ヒットマン』であり、これらはすべて欧米のデベロッパーが開発したタイトルだ。このような変化からは、西欧のテイストを理解し、それを世界中でリスペクトされてきたものの、近年はクリエイティブという側面において停滞していた『ファイナルファンタジー』シリーズに注ぎ込もうという、彼らの長大な努力が見えてくる。
田畑は、国外の『ファイナルファンタジー』シリーズが「ごく少数のハードコアなファン」によって支えられていること、そしてこのシリーズの国外の知名度が想像以上に低かったことを知って驚いたと告白している。
西欧のテイストを取り入れるという試みは、シリーズの特徴のひとつだったターンベースの戦闘システムを削除し、オープンワールドとロードムービー的ストーリーを採用することに繋がった。田畑は長年ロードムービーのファンだったとしているが、その影響はトレイラーの中のアメリカンダイナーのシーンなどで確認できる。
一新を目指したこれらの変化すべては、約30年続くこのシリーズに新しいアイディアと、新規プレイヤーたちに「一介のJRPGに過ぎない」というイメージを持たれないような魅力を加えることを目的として行われた。
しかし、このような変化は、往年のファンに「無視された」と感じさせてしまうリスクが含まれている。そして、当然ながら田畑もそれを避けようとしている。
「このシリーズは何作もリリースされてきましたが、その長い時間の中で、『ファイナルファンタジー』の伝統と呼べるような要素を生み出してきました。中には重くのしかかっているものもありますが、多くの人たちに愛されてきたそのような要素を保ちつつ、自分たちへの挑戦とも言える新しい要素を加えていく − このバランスを取ることが非常に重要だと考えています」
「私たちは往年のファンとそうではない人たちの差を重視しています。『XV』、そして『ファイナルファンタジー』全体を正しい方向に進めるには、その間のバランスを取らなければいけません」
『XV』の戦闘はアクション重視
『XV』の戦闘はアクション重視© Square Enix
しかし、『XV』のバランスの取り方は、シリーズの歴史の中でこれまで見られなかったユニークなものだ。『XV』はゲーム本編だけではない。スクウェア・エニックスは今作で “ユニバース” を用意しており、相互作用するマルチメディア戦略を導入することで、ユーザーエクスペリエンスの拡大を狙っている。
その “ユニバース” には、ハリウッド俳優のレナ・へディやショーン・ビーンなどが英語版の声優を担当するフルCGの劇場公開映画『Kingsglaive Final Fantasy XV』、本編リリースまで順次無料で公開されるアニメシリーズ『Brotherhood Final Fantasy XV』、そして本編に登場するピンボールマシンがプレイできるモバイルアプリ『Justice Monsters V』が含まれている。
映画とアニメは、ゲームより先に登場キャラクターたちの背景を理解してもらうことを目的としているが、モバイルアプリは本編とリンクしてプレイできるため、『XV』リリース後も継続する。
「『XV』の “ユニバース” において最も重視したのは、各プロジェクトを『XV』本編の魅力を最大限まで高めるためのものにするという点でした」
「複数のプロジェクトを用意した理由は主にふたつあります。ひとつは、シリーズと『XV』ヘの入り口を数多く用意するため、そしてもうひとつは、これは当然の話ですが、既に興味を持ってくれている人たちにもっと楽しんでもらうためです」
空飛ぶ車が登場する
空飛ぶ車が登場する© Square Enix
多種多様なプロジェクトを用意するということは、当然ながら予算も高額になる。スクウェア・エニックスと田畑は、この “ユニバース” の総予算についての具体的な回答を拒否しているが、『XV』の目標販売本数が1000万本であることを明かしている。
これはかなり高い目標だ。『ファイナルファンタジー』シリーズ過去14作において、1000万本を超えたのは『VII』1本だけだ。そして、10年以上待ち続けたファンたちの期待もそこにかかってくる。つまり、判断を間違えば、シリーズ全体を最悪の事態に陥れ、闇に葬ってしまう可能性がある。シリーズ伝統のゲームデザインの哲学にさえメスを入れたことを考えると、そのダメージは更に大きくなるはずだ
しかし、田畑は、『ファイナルファンタジー ヴェルサス XIII』(『XIII』のサイドプロジェクト)として発表されてから『XV』として開発されるまでのかなり長い時間の中で、このゲームの中核となっているヴィジョンはぶれなかったとし、それが望んでいる結果をもたらすことになるとしている。
『XV』のオープンワールドには時間の概念も持ち込まれている
『XV』のオープンワールドには時間の概念も持ち込まれている© Square Enix
「『ヴェルサス XIII』から『XV』まで、私たちのヴィジョンはぶれていません。何がベストなのかを見極めていくこと − これを意識し続けてきました。自分たちの持っているすべてを注ぎ込み、ベストの作品を作り上げたいという部分は変わっていません」
「『XV』では、体験版『Episode Descae』(『ファイナルファンタジー零式HD』に同梱)を通じて、自分たちの立ち位置を確認できました。フィードバックによって、何ができていて、何ができていないのかが把握できました。『XV』がスペシャルなゲームである理由は、シリーズをプレイしたことがない人たちからも注目を集めようとしている点にあります。新規プレイヤーの取り込みを目指すことは非常に重要だと考えています」
田畑は、『ヴェルサス XIII』からPS3時代までこのプロジェクトを率いていた野村哲也から引き継ぐ形で2014年にこの作品のディレクターに就いた。田畑は野村から引き継いでプロジェクト全体を再確認した時に、ゲームデザインにおける3つのキーワードを思いついたとしている。「旅、車、仲間です。この3つがゲームの中で前面に押し出されています」
「プレイヤーをこのゲームの世界観に惹きつけるために、仲間のキャラクターをストーリーの中心に置くことにしました。仲間がストーリーの一部を担いながら、ストーリー全体が進んでいくというのは、ゲームデザインとしては非常に魅力的だと思います」
「同じキャラクターが旅の軸になるというアイディアは凄く気に入りましたし、彼らの友情がこのゲームのメインを占めています」
仲間との友情。これは彼らが自分たちとファンの間に存在すると信じなければならないものだ。『ファイナルファンタジー』シリーズはこれまで経験してこなかったレベルの混乱と流れに巻き込まれており、そこから抜け出すためにはシリーズは往年のファンと新規ファンの両方からのサポートが必要だ。ここ数年の失態を考慮すれば、今作ではどんな小さなミスも許されない。
マルチメディア展開と世界進出を意識したゲームデザインは、『XV』に大きな希望を与えている。しかし、1000万本という目標はどのゲームにとっても非常に高いハードルであることに変わりはない。果たしてそのハードルを乗り越えられるのか。JRPGを代表するシリーズの最新作に期待したい。
『ファイナルファンタジーXV』はPS4・Xbox Oneで2016年9月30日にリリース予定。
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