Gaming
スマホ向け『ダービーオーナーズクラブ』を手がけ、セガネットワークスへ
セガ第3AM研究開発部(AM3研)にて、長年、アーケードやコンシューマゲームをプロデュース、ディレクションしてきた熊谷さん(前回の記事はこちら)。そんな熊谷さんがスマートフォンゲームに携わるようになったのは、2011年3月の東日本大震災がきっかけだった。
海外での発売を翌月に控えていた人気テニスゲームシリーズの新作『Virtua Tennis 4(日本名:パワースマッシュ4)』は、計画停電のなかで作業が進められ無事にリリースされたものの、震災の影響により為替レートが激変。1ドル=75円台をつけるほどの空前の円高となり、「海外市場をメインに捉えていたタイトルだったので、大打撃を受けました」と熊谷さんは語る。
ドル円相場は2012年になっても円高水準で推移し、シリーズ続編の制作は見送られることに。ほかの企画を立てるにしてもグローバルタイトルで稼ぐことが厳しい状況に、「これからどうしよう」と悩んだ熊谷さんは、すでにセガも参入していたスマホゲームに注力する方針を打ち出す。そして、売り切り型アプリ『パワースマッシュ チャレンジ』などの成功を経て、運営型の『ダービーオーナーズクラブ』を手がけるに至った。1999年にAM3研が開発し、愛馬のデータを磁気カードに保存して遊べる画期的なシステムで大好評を博した、競走馬育成アーケードゲームシリーズのスマホ版だ。
当初はアーケード版の"資産"をスマホゲームに落とし込み、開発メンバーの感覚を頼りにFree to Playゲームを開発していたが、ちょうどその頃、スマートデバイス向けコンテンツを専門とするセガネットワークスが新設され、同社のスタッフから助言を受けつつ開発を進める体制に変わった。
「新会社にはソーシャルゲームで腕を鳴らした方々が参加していて、そのアドバイスには文化の違いをかなり感じました。アーケードやコンシューマは前払い制ですけど、ソーシャルゲームは遊んでみて楽しかったらお金を払うという感じなので、まったく逆なんですよね」。課金して遊んでもらうための"翻訳"の難しさを感じた熊谷さんは、ソーシャルゲームの作法を1から学んでスマホゲームと向き合うため、開発チームごとセガネットワークスへ異動する。
ちなみに、2012年といえば、『パズル&ドラゴンズ』(ガンホー・オンライン・エンターテインメント)がリリースされた年。スマホゲーム市場が急激に成長していくようすを、熊谷さんは現場で目の当たりにしていた。
『夢色キャスト』で20年来の思いを実現、こみ上げてきた「感謝とやりきった感」
ところで、熊谷さんは1994年にスーパーファミコンで発売された女性向け恋愛シミュレーション『アンジェリーク』(光栄(現・コーエーテクモゲームス))を遊んで以来、ずっと女性向けゲームを作りたかったのだという。だが、事業として会社から期待される成果をあげることが市場規模的に難しく、企画を提案することすら念頭になかった。しかし、誰もがスマホという端末を持つ時代が到来し、女性がゲームを遊ぶ機会も増えたという追い風を感じて、『ダービーオーナーズクラブ』のリリース後、熊谷さんは一気に企画書を書きあげた。
「ゲームセンターで『初音ミク Project DIVA Arcade』が女性ユーザーを獲得しているのを知っていたので、『ダービーオーナーズクラブ』のレース部分をリズムゲームに変えた育成シミュレーションはどうだろう、と思いついたのが当初の企画でした」
このアイデアを、よりカジュアルなユーザーに親しみやすい形に仕立てて誕生したのが、女性向けスマホゲーム『夢色キャスト』である。肝心のテーマは、「自分が知っている世界がいいよ」という、夫で同僚の呉田武司さんからのアドバイスもあり、高校時代、演劇部の活動に没頭していたことから「ミュージカル」に決めた。脚本家として劇団入りしたヒロインが、魅力的な俳優たちと一緒に夢を追いかけ、恋をする物語だ。
こうして、20年来の思いが形となったことで、「セガというひとつの環境のなかで、やれること、やりたいことは経験し、成果も出せた。会社への感謝と、やりきった感がこみ上げてきました」。熊谷さんは、新しい環境での挑戦を考えはじめる。
2015年にコロプラへ。人気タイトルのクリエイターをバックアップ
さて、セガでスマホゲームに携わる前から、熊谷さんはコロプラの位置情報ゲーム『コロニーな生活』のファンだったそうだ。同僚に勧められてはじめると、ゲームと連動したカード"コロカ"をコレクションするために、全国のコロカ提携店を旅してまわるほどだったという。そんな背景もあり、新しい環境を探しはじめた熊谷さんの脳裏には自然とコロプラという企業が浮かび、2015年に転職した。
「入社してみると、若々しくて新しいことに挑戦的でありながら、謙虚で、地に足のついた企業という印象を受けました。ゲーム作りの現場としては、ものづくりへの思いやお客様を喜ばせたいというサービス精神に差異はなく、コロプラならではの表現方法やアプローチを学んでいる最中です」
現在はKuma the Bear開発本部のスタジオ部長として、『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』、アクションRPG『ドラゴンプロジェクト』、島づくりシミュレーションゲーム『ほしの島のにゃんこ』の3タイトルを手がけている。
「『ほしの島のにゃんこ』にはプロデュースの実務で関わっていますが、ほかのタイトルではスタジオをマネージメントするポジションにつき、プロデューサーやディレクターたちをバックアップしています。人事や予算管理はもちろん、精神的なサポートもとても重要。コンシューマゲームは発売から数ヵ月経たないと数字としての結果が見えてこないのですが、スマホゲームのようなオンライン事業は毎日結果を数字で把握することが可能です。ユーザー様の反応がダイレクトであるがゆえに、目先の結果だけに一喜一憂することなく、スタッフたちが自信を持ってよいゲーム、よいサービスを生み出せるような環境づくりに気を配っています」
最後に、今後について「我を通して作品を作るという時代は過ぎ去っていて、今は新しいクリエイターに活躍してもらいたい、新しいヒーローを育てたいという思いが強いですね。一緒に開発したプロジェクトが大成功して、ディレクターが手応えを得る喜びを分かち合いたい」と熊谷さん。
「こういうのって、女性的な感情でしょうか(笑)。でも、そんなヒーローたちと一緒になって、ユーザー様に楽しんでいただける作品を自分も考えていきたいです」
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