愛車のクランクの長さについて考えを巡らせたことはあるだろうか? ほとんどのライダーがバイクを購入した際に付属していたクランクをそのまま使い続けているのではないだろうか?
おそらくそのはずだ。しかし、実はライディングする場所やライディングスタイルによっては、ショートクランクに換えるとライディングに違いが生まれるのだ。今回は、愛車のクランク長について考えるべき理由を解説しよう。
業界基準
MTB専門店に足を運べば、店頭に並ぶ全てのバイクが175mmまたは170mmのクランクアームを備えているはずで、通常、フレームサイズM〜XLのバイクには175mm、フレームサイズXS〜Sのバイクには170mmが標準装備されている。
これはMTB業界の伝統で、長きに渡りライダーたちに受け入れられてきた。身長の高いライダーには長い脚に合う長いクランクが必要で、身長の低いライダーには短いクランクが必要というわけだ。
しかし、少し深く掘り下げてみると、身長を問わずほぼ全てのライダーにショートクランクが良いということを示す証拠が見つかる。
クランクの長短はピークパワーにほとんど影響しない
昔は、ロングクランクがベターだと言われていた。誰もがペダルのてこ作用が増す分、ピークパワーが大きくなると信じていたのだ。
しかし、複数の研究が、たとえクランク長が大幅に違っていても、実際に生み出すパワー差がごくわずかなことを示している。
最も広く知られているのは、ユタ大学のジム・マーティン博士が行なった研究だ。
実験の結果、彼は、長さが極端に異なるクランク(例:120mm〜220mm)を比較しても、ピークパワー差はわずか4%に過ぎないことを発見した。市販されているクランク長の差はさらに小さい(例:165mm〜180mm)ため、ピークパワー差もさらに小さいはずだ。
クランク長を短くするとスプリントパワーが失われると心配していた人もいるはずだが、実際にショートクランクが与える影響はないに等しいと言って良いだろう。
ショートクランクは加速を助ける
ポール・マクダーミッド博士が2010年に行なった研究は、170mm〜172.5mm / 175mmのクランク長が女性クロスカントリーライダーに与える影響を調査することを目的としていた。
研究は、超局速テスト、1分50回転の等速テスト、最大酸素摂取量(VO2 MAX)テストで構成されており、このような広範な測定基準でライダーの全体的なパフォーマンス分布の評価を評価していった。
この研究の結果、クランク長が異なってもライダーのピークパワーや最大酸素摂取量に変化が見られないことが明らかになった。しかし、同時に、170mmのショートクランクでは、より早くピークパワーに到達できることも判明した。
ショートクランクは、エンデューロ、ダウンヒル、クロスカントリーを問わず、全ライダーに恩恵をもたらすだろう。なぜなら、早く加速できれば、コーナーからの素早い立ち上がり、前走者への追い上げ、スタートダッシュなどに役立つからだ。
また、加速力が高まれば、障害物やテクニカルなフィーチャーをクリアする助けにもなるだろう。
ショートクランクは乗車姿勢の向上に役立つ
クランクを短くすれば、ペダリング時のヒップアングルを広げられる。ヒップアングルが広がれば、ライダーはストローク上死点のペダリングがより楽になる。クロスカントリー / エンデューロ系レーサーなら、より効率的なペダリングが実現できるはずだ。
Fit4bike.comがクランク長について取り扱った記事(英語)は、ロードレーサーが主な対象だが、クランクの長短がペダリングスタイルにもたらす影響を分かりやすいアニメーションで解説している。
ショートクランクがもたらすその他のメリット
MTBのライディングは、スムーズで均質な路面で行われるロードサイクリングとは別物だ。トレイルの至る所に待ち受けている岩や木の根、岩棚などが一定のペダルストロークの邪魔になる。
ショートクランクに交換すれば、ペダルと地面との間の距離がわずかに伸びるため、クランクが岩などと接触する回数が減る。このような “僅差” が、テクニカルなセクションをクリーンに抜けられる要因になる時がある。
また、ショートクランクは関節にかかる負荷を減らしてくれる。過去に怪我をしたライダーや、膝の故障を抱えがちなライダーにとって、ショートクランクはトラブル発生回数を減らしてくれる存在になるかもしれない。
まとめ
今回取り上げてきた証拠から判断すると、クランクの長短はパワーの最大値や最大酸素摂取量にほとんど影響を与えないようだ。
しかし、ショートクランクには加速時間をわずかに短くする効果があり、ヒップアングルを広げてより効率的なペダリングスタイルを手助けする可能性もある。さらには、岩との接触を回避し、膝の故障を引き起こす確率も下げてくれる。
したがって、現在175mmクランクを使用しているライダーなら、170mmなどのショートクランクに交換するのを考えてみても良いだろう。身長が低めのライダーなら、165mm前後のショートクランクへの交換は正しい投資になるはずだ。