MTB(マウンテンバイク)で自然の中を走れば誰もが笑顔になるはずです。様々な木が両サイドに並び、その間から日光が差し込んでいるシングルトラックよりも美しい景色はありません。しかし、その喜びをさらに大きくする方法があることを知っているでしょうか? しかも嬉しいことに、コストは一切かかりません。
答えは、「ライディングテクニックを上達させる」です。他のスポーツとは異なり、MTBライダーたちの間で “コーチング / 指導を受ける” はそこまでメジャーなプロセスではありません。そのため、間違ったテクニックや悪癖が時間と共に身についてしまい、同じ問題に何回も直面してしまう可能性があります。何年経っても「ここは自分には絶対無理」と思っているコーナーや、クラッシュを危惧して毎回必ず回避しているジャンプはないですか?
MTBでは間違ったテクニックや悪癖が時間と共に身についてしまい、同じ問題に何回も直面してしまう可能性があります
基本を見直すのに遅すぎることはありませんし、実際、ジー・アサートンのようなプロライダーを含むワールドクラスライダーの多くが基本の見直しを定期的に行っています。ライディングの基本をしっかりと抑えておけば、全体的なスピードが高くなり、コーナーからコーナーへ繋ぐベストラインが見えるようになり、各セクションの出口でのスピードも高まります。
バイク上のポジショニング(姿勢)、コーナーリング、クライミング(上り)、ブレーキング、ディセンディング(下り)のテクニックを磨けば、より優れたバイクコントロールとより高い一貫性が備わり各セクションを高速で抜けられるようになるので、ライディングの喜びが一層大きくなるでしょう。
1:ボディポジション
MTBのボディポジションですが、具体的には、テクニカルセクション進入時の姿勢を意味します。幅が広くて平坦なセクションや緩やかな上りのセクションは除外します。急峻な下りや連続コーナーのようなテクニカルセクションでは、バイクをしっかりとコントロールして、安全で安定したライディングができる姿勢を取ることが重要です。
そのような姿勢を取るためのポイントがいくつかあります。
・頭を上げてトレイルのかなり前方を見るようにしてください。「普段から前を見ている」と思うかもしれませんが、フロントホイールのすぐ先に視線を落としている人は少なくありません。
・ラフな地形が終わるまで快適にキープできるスタンディングポジションを取ってください。この姿勢はレディポジション(Ready Position)、アタックポジション(Attack Position)とも呼ばれます。両腕と両脚を軽く曲げ、上半身を真っ直ぐ立たせます。
・手首は少し曲げ下げてください。MTBライダーは「肘を高くする」をまず意識しがちですが、肘を高くしようとすると手首が上がり、ハンドルバーの前に出ます。この姿勢を取ればハンドルバーをしっかり握れるようになりますが、ハンドルバーから地面に向けて自分のパワーを伝えるのが難しくなります。肘の位置を下げずに、手首を手前に曲げ下げるようにしてください。
・踵は落とします。こうすることでバイクから地面に力が伝えやすくなります。膝は軽く曲げましょう。曲げすぎないように注意してください。この姿勢を取るためにペダルの上の足の位置を調整する必要が出てくるかもしれません。平坦なセクションを快適に走る時の姿勢と、膝を軽く曲げて踵を下げるこの姿勢の違いを確認しておきましょう。
2:コーナーリング
MTBシーンでは「ジャンプは見せるため、コーナーは稼ぐため」と言われています。優れたコーナーリングテクニックを身に付ければ、短期間でライディング全体に大きな違いを生み出し、他のライダーたちに秒単位の差を付けられるようになるのです。コーナーリングテクニックを高めるためにはいくつかのポイントがあり、オフロードでは以下が重要になります。
・コーナー進入前にスピードを調整します。ブレーキングはコーナー進入前に終えておく必要があります。コーナーリング中はブレーキを触りません。スピードを調整したあとはブレーキから手を離します。
・コーナー全体を視認し、全身を使ってコーナーリングします。頭、肩、尻がラインと連動して動く必要があります。自分のコーナーリングを写真や動画でチェックすれば、肩はラインをなぞれているけれど、尻がラインから外れているなどのミスが確認できます。全身がラインとシンクロしていなければ、重心がずれてしまい、アウト側に膨らんでしまいます。
・ペダルポジションはコーナーごとに変わりますので、すべてのコーナーでアウト側のペダルを落とせば良いという話ではありません。MTB用コーナーの大半は轍や盛り土、角度があるので、これらの要素が確認できる場合は、ペダルを水平に保つことがバランスを保つ助けになります。
・ライダーの助けになる轍や盛り土などの要素が少ないコーナーやオフキャンバー(逆バンク:アウト側が低い)コーナーに限り、アウト側のペダルを落とすようにしてください。ロードバイク出身のMTBライダーの多くが、どのコーナーでもアウト側のペダルを落としています。この癖がある人は修正しましょう。
3:クライミング / 上り
下るためには上らなければなりません。MTBダウンヒルの醍醐味は上ることで得られるのです。車が通行できるような幅の広い上りセクションは快適に走れますが、より急峻でタイトで曲がりくねっている上りセクションの方が満足度が高く、真のヒルクライムが楽しめます。
しかし、注意が必要です。このようなセクションでは、グリップの低下、リアホイールの空転、ループアウト(重心が後ろにかかりすぎてフロントホイールが高く浮き、身体がバイクから抜けてしまうこと。例:ウィリーの失敗)などによってバランスを失ってしまう確率が高くなります。
急峻な上りセクションではバイクコントロールが最重要ポイントです。がむしゃらにアタックしようとすれば、リアホイールが木の根の上で空転したり、ループアウトしてしまったりするでしょう
・サドルの高さを調整しましょう。急峻な上りセクションでは、サドルの位置を少し下げればバイクのコントロール性能が高まり、フロントホイールを浮かせることなくバランスとトラクションをキープできます。ドロッパーシートポストを使えば、ハンドルバーのレバーを少し操作するだけでサドルの高さを調整できます。
・頭は上げましょう。前方を見るようにすれば、木の根やコーナー、ぬかるみを上手く切り抜けられるようになります。
・ギアは早めに調整し、非常に急峻なセクション、またはスピードが必要なセクションまでサドルに座り続けるようにします。上りセクションでトラクションを得るためにはスムーズで安定したペダリングがカギです。モーターサイクルのトライアルライダーと同じです。彼らはリアホイールの回転数を上げる代わりに、リアホイールのグリップを重視して登坂しています。
・当たり前に思えるかもしれませんが、急峻な上りセクションではバイクコントロールが最重要ポイントです。がむしゃらにアタックしようとすれば、リアホイールが木の根の上で空転したり、ループアウトしてしまったりするでしょう。
4:ブレーキング
ブレーキングはスピードを調整するために存在します。つまり、正しいブレーキングポイントを選べるというのはひとつの立派なスキルなのです。ハードなブレーキングや強弱が極端なブレーキングはバイクのバランスを崩します。重心が前掛かりになり、サスペンションに余計な負荷がかかります。テクニカルセクションやコーナーの前にブレーキングを終えておくことが重要です。
・フロントブレーキを使うのを怖がらずに、両ブレーキを使ってスピードを下げましょう。ダウンヒルセクションでバイクをスライドさせずに減速するためには、フロントブレーキがカギになります。
・ボディポジションの項で説明した “レディポジション” を取りましょう。踵を落としてバイク中央に身体を置き、前を向けば安定したブレーキングができるようになります。ロードバイクシーンで使われている「重心を後方にずらす減速」を試みるとフロントホイールのグリップが失われてしまいます。
・ブレーキングをしないタイミングを理解しておくことも重要です。コーナーリングの途中でブレーキングをすればアウト側に膨れてしまいますし、木の根の上でブレーキングをすればタイヤがスリップしてしまいます。また、岩が多いセクションやテクニカルなセクションでブレーキングをすれば、フロントホイールが岩や木の根の隙間にはまり、バランスを崩してしまう可能性があります。
5:ディセンディング / 下り
ほぼ間違いなく “MTBライディング” 最大のスリルが得られるセクションと言えるダウンヒルセクションですが、テクニカル、または急峻なダウンヒルセクションはライダーに大きなストレスをかけます。なぜなら、ライディングポジションをキープするのが難しいからです。
急峻なダウンヒルセクションでは、重心をリアホイールの後方にずらして減速しようとすれば、フロントホイールのグリップが失われます。フロントホイールのグリップがなくなると、ブレーキングだけでバイクをコントロールしようとするので、フロントホイールがスライドしやすくなります。このループに陥ってしまうと、急峻なダウンヒルセクションへの苦手意識がどんどん高まってしまいます。ですが、この問題は簡単に解消できます。
ダウンヒルセクションの途中で急激なブレーキングをしないようにしましょう。バランスが崩れ、バイクがスライドしてしまうので、セクションの攻略がさらに難しくなります
・非常に急峻なドロップでない限り、背中を立たせましょう。この姿勢が取れれば、ブレーキング時のフロントホイールのグリップもキープできます。
・セクションの終端や平坦になるポイントを見極め、「あそこまで頑張ろう」と意識するようにしましょう。このようなポイントまで来ればグリップが復活しますし、ランアウトを使って減速できます。
・スムーズなブレーキングを意識し、ダウンヒルセクションの開始前にスピードを調整しておきましょう。ダウンヒルセクションの途中で急激なブレーキングをしないようにしましょう。バランスが崩れ、バイクがスライドしてしまうので、攻略がさらに難しくなります。
・下りをマスターしたいなら、簡単なセクションからスタートして、徐々に難度を高めていきましょう。