Jim Reynolds approaches the summit of Aguja Guillamet in El Chalten, Argentine Patagonia.
© Tad Mccrea
クライミング
ジム・レイノルズ:フィッツロイのフリーソロ登下降を達成!
チリ・パタゴニアの名峰フィッツロイでのフリーソロ登下降に初成功した米国人クライマーにこのチャレンジの過程と動機について話を聞いた。
Written by Will Gray
読み終わるまで:7分Published on
最難関クライミングにおいてパタゴニアの鋸歯状の峰々とヨセミテ国立公園のビッグウォールはトップ2とされているが、先日、ジム・レイノルズがそのパタゴニアの最高峰フィッツロイで純然なフリーソロに成功した。
ロープを使わずに標高3,359mのフィッツロイ山頂に到達したのは彼が初めてではなく、2002年に故ディーン・ポッターが達成している。
しかし、彼は下山もラペリング(懸垂:クライミングシーンではエクスペディション完遂方法としては純粋性に欠けると考えられている)ではなくフリーソロを選択したため、史上初のフリー登下降を記録した。
約16時間に及んだアファナシェフ(Afanassieff)ルートでのレイノルズの苦闘は、フリークライミングシーンから挙がった大きな声となり、映画『Free Solo』や『The Dawn Wall』のヒットに続く形でこのエクストリームなクライミングスタイルの話題性を高めるだろう。
我々はパタゴニアからヨセミテに戻ったばかりのレイノルズをキャッチして、この並外れた功績の裏側にあるストーリーを尋ねた。
— なぜこのようなチャレンジに挑もうと考えたのですか?
僕にとっては、この世で最も美しくて驚きに満ちたものを追求することがすべてなんだ。また、人と交流するのも好きだけど、山でひとりきりになるのも大好きだ。山にいると自分の心に火が灯るのを感じる時があるんだよ。
過去10年でフリーソロがかなり上手くなったから、テクニカルな登攀に取り組むようになっている。自分の身体能力を限界付近まで引き出せているかどうかが僕にとっては重要なんだ。
パタゴニアでのクライミングに必要なレベルに到達するまで、ヨセミテでロッククライミングにかなりの時間を費やした。花崗岩の登攀を繰り返して知識を蓄え、快適にこなせるようになった。だからパタゴニアに到着した時点で準備は整っていた。
エル・チャルテン北壁「アグハ・メルモ(Aguja Mermoz)」に挑むジム・レイノルズ
エル・チャルテン北壁「アグハ・メルモ(Aguja Mermoz)」に挑むジム・レイノルズ© Jim Reynolds
— フィッツロイを選んだ理由は?
フィッツロイの魅力を言葉で表現するのはすごく難しい。あの手強さが人々を惹きつけているんだと思う。
パタゴニアのエル・チャルテンへ実際に足を運べば分かるけど、パタゴニアはパワフルな場所だ。氷河、力強い川の流れ、地球からそのまま突き出ているような巨大で鋭い花崗岩の峰々 — フィッツロイはこのようなパワーやエナジーの総体なんだ。
シンプルな話だよ。“パタゴニアの山=フィッツロイ” っていうのは行けば誰もが分かることさ。
冠雪したフィッツロイ山地
冠雪したフィッツロイ山地© Getty Images
— フリーソロはかなり危険ですが、どのようにしてマインドを集中させたのでしょう?
フリーソロには重要なプロセスが含まれている。自分が背負うリスクについて長い時間をかけて考えるんだ。「なぜ自分はフリーソロへ挑もうとしているのか、なぜそうしたいのか?」ってね。
滑落のリスクではなく、滑落するかもしれないというリスクについて考えておく必要がある。たとえ恐怖心を感じていても、ひとたびコミットしたあとはその瞬間に没入して冷静になるから、すべてが明確に見えてくる。
Jim Reynolds on the lowest ridge on Guillaumet, the Giordani in Patagonia.
Starting the Motocross Traverse© Jason Leki
— トレーニングにサムライの哲学を取り入れているそうですが、これはどのように役立っているのでしょう?
サムライの精神は自制心を教えてくれる。
ストレスを感じるシチュエーションでも、「大きなリスクも人生の一部だ」と認識して感情をコントロールすることが大切なんだ。こうすることで、最大限コミットメントした状態で目標に挑める。
これは単なる哲学ではなく、技術でもある。サムライの所作には相当な意識の集中と心身の一体化が求められる。これは、クライミングで恐怖に対峙しなければならない時にすごく役立つんだ。
僕は多くのことをフロウに任せていて、直感に頼らないようにしているけれど、優れたアドリブ能力っていうのは経験によって得られる。自分からアクションが起こせるかどうかは、トレーニングに注いだ時間の長さで決まってくる。
レイノルズはサムライの哲学をトレーニングに取り入れている
レイノルズはサムライの哲学をトレーニングに取り入れている© Tad Mccrea
— 最近はフリーソロが注目されるようになっています。これを受けて、必要なメンタリティと経験がないクライマーたちが「クールらしいからやってみよう」と思ってしまうのは危険だと思いませんか?
そうだね。心配だし、そういう考え方に対して僕たちフリーソロ・クライマーが一丸となって異を唱える必要がある。ダークサイドもあるということを含めて自分たちのスポーツが認知されるように仕向けていく必要があるね。
間違った理由でフリーソロに取り組んだ人や、向いていないのにトライした人は、すぐに自分には無理だということに気付いているよ。フリーソロは人を選ぶスポーツなんだ。その逆はあり得ない。
— 最初のアテンプトは途中で諦めたそうですが、何が起きたのでしょう?
中断した理由をひとつに絞るのは難しいけど、疲労しきってしまったというのが主な原因だ。人生最大のクライミングに取り組む週にたった2日しか休みが取れなかった。これが原因さ。
登攀中に、頂上へ到達できる体力がないと感じたんだ。アメージングなアドベンチャーになるはずだったけど、頂上到達をどうでもよく思っていた。気持ちが入っていなかった。
2回目のアテンプトは、疲労は前回ほどじゃなかったし、その瞬間を感謝しながら楽しめた。また、このような本当に大きな山では、頂上に到達したいという気持ちが重要だということを1回目の失敗から学んでいた。どうでもよいという気持ちでは無理なんだ。
— 登攀中に恐怖を感じた局面はありましたか?
ルートを外れたタイミングで、いくつかの深いクラックに遭遇した。そのうちひとつはかなり幅が広かったから、下降かラペリングの可能性を考えたよ。
また、頂上付近では大量の氷が落ちてきた。あそこまで晴れると思っていなかったし、あそこまで氷が落ちるとも思っていなかった。自分の意思だけではどうにもならないから少し怖かったね。自分ではコントロールできない恐怖だ。
— あなたが考えるフリーソロとは? また、下降の重要性は?
頂上からラペリングすれば、クライミングの純粋性がやや損なわれてしまうけれど、スタイルへの拘りに過ぎない。僕がロープを持っていたことを知ってフリーソロじゃないじゃないかと言ってきた人がいるけれど、それは違うと思う。
ロープや安全ギアは自ら望んで持っていたわけじゃない。でも、僕はエクストリームなクライミングを数年楽しめればいいやと思っているわけじゃない。山でもっと長い時間を過ごしたいと思っているんだ。だから、安全を確保しておくことはとても重要だと感じている。
僕はフィッツロイをフリーソロで完登した。でも、もっと優れたスタイルでフリーソロを達成できただろうか? もっと高いレベルで達成できただろうか? 答はおそらく「イエス」だよ。裸足で上半身裸でも達成できたはずさ。全裸でもね。
「キアーロ・ディ・ルーナ(Chiaro di Luna)」の頂上付近を見上げる
「キアーロ・ディ・ルーナ(Chiaro di Luna)」の頂上付近を見上げる© Jim Reynolds
— アレックス・オノルドの「フリーライダー(Freerider / エル・キャピタンのルート)」におけるフリーソロ完登と比較して、自分のフィッツロイ完登はどの位置にあると思いますか?
両方ともフリーソロだし、相似点を尋ねたくなる気持ちは分かる。でも、この2つは完全な別物だよ。
僕の中では、フリーソロには3つのカテゴリーがある。友人と楽しめるイージー、ミスをしても完登できるミディアム、あらゆるムーブを正確にこなすパーフェクトなクライミングが求められるハードさ。
アレックス・オノルドがフリーライダーでやってのけた登攀はスーパーハードだよ。フリーソロというロッククライミングの超難関スタイルをマスターするために捧げた年月の長さとルートでのトレーニング、そしてあらゆるムーブをパーフェクトにこなした結果さ。
フィッツロイでのフリーソロは、自分の限界の範囲内に過ぎないけれど、オノルドとは違う形でインスピレーションを与えた。世間はクライミングを別の視点から捉えるようになっている。僕のフリーソロは自然の中でフロウを得るためのものだった。魂の探求を重視したものだった。
— 最後に今後の予定を聞かせてください。
ヨセミテに戻ってきてからレスキュー隊の仕事が忙しいんだ(編注:レイノルズはクライマーとして活動するかたわら、ヨセミテ国立公園のレスキュー隊員として働いている)。
でも、クライマーとしての僕の今後の予定を話すと、エル・キャピタンのフリーソロを達成したい。ザ・ノーズ(The Nose / エル・キャピタンのルート)もあと数回は登攀しておきたいね。
クライミング

人気のストーリー