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1980年代のネオンとザラついたVHSビデオテープのテクスチャをベースにしたアートワークをまとう『Katana Zero』には、インディーゲームファンお馴染みのテーマとアイディアがふんだんに用いられている。
ひと振りの刀と長大なターゲットリストを抱えるヒットマンとして、プレイヤーは時間を操作する能力を駆使しながら武装した敵を切り刻んだり、敵の攻撃をかいくぐったり、敵の撃った弾丸を跳ね返したりする。
タイミングを正確に合わせて刀を振らなければならないゲームプレイがプレイヤーに緊張を与え続けるが、このゲームのナラティブの奥深さに驚いているプレイヤーも少なくない。
このゲームを開発したJustin Standerは、スピーディで残酷なミッションと静かなナラティブのコンビネーションこそが『Katana Zero』最大の強みであり、この部分に一番力を入れたとしている。
多くのインディーデベロッパーと同じで、Standerは『Katana Zero』の開発は “ピラー” を1本ずつ建てて進めていったと振り返っている。これはつまり、すべてのレベルデザインが終了した段階で、ストーリーはベースしか存在しなかったことを意味している。
多くの人にとって、この状況はもはや絶望的に思えるかもしれない。しかし、彼は "質問に答えていくことでストーリーを進める" という、アクションゲームに最適なストーリーテリングのアプローチに辿り着いた。
Standerは、ゲームプレイが突然中断して主人公とサブキャラクターが政治について議論を重ねたり、ヴィランが複雑な独白をしたりするクラシックなアクションタイトルをプレイしながら少年時代を過ごした。
そのため彼の中では、ベテランのヒットマンはただターゲットの元へ向かって殺害し、仕事を終えるという単純なプロットを正当化するためだけの存在ではなかった。
このプレイヤーキャラクターの複層性を強調するために、『Katana Zero』ではプレイヤーがすべてのキャラクターの会話を任意のタイミングで中断できるようになっており、たとえば、カウンセラー兼仲介人からの電話も途中で切ることができる。
些細な仕様だが、ここにはゲーム全体の方向性が強く打ち出されている。
Standerは次のように説明する。
「開発初期から "仕方なく今の生活を送ることになってしまった主人公" というアイディアを持っていました。このようなキャラクターはアクションゲームにフィットするからです。また、プレイヤーが主人公に薬を提供する精神科医を嫌うことも分かっていました。食えない男だからです」
「また、ボタンを押し続けることでスキップできるようにしたいと思っていました。スピーディーにクリアしたいプレイヤーのための選択肢を用意したかったのです」
「僕が重要視しているのは、選択肢を用意しつつ、その選択にはそれなりのリスクが伴うことを提示することです。現実世界と同じで、行動を中断されるのを良く思う人はいません。これをゲーム内に用意しようと思いました」
長年に渡りアクションゲームをプレイしてきた経験から、Standerは多くのプレイヤーがこのゲームが扱っている重いテーマ(薬物依存など)についての長い会話を好まないことを知っていた。そこで彼は視覚的要素だけでナラティブとキャラクターの性格を伝えられるアプローチも考えた。
Standerが「話さずに見せるだけ」と表現するこのアプローチを「何を当たり前のことを」と思う人もいるかもしれない。しかし、これはRPGよりも会話や解説に割ける時間が少ないアクションゲームでは非常に重要なアプローチだ。
たとえば、特定のメインキャラクターをザコキャラクターよりもタフに描くために、Standerはキャラクター同士の会話でそのタフさを説明する代わりに勝ち負けを自由に選べるミニボス戦を用意している。
また、主人公とは別のスキルを持つ他のヒットマンとしてプレイするステージを用意することで、言葉での説明なしに主人公の能力がユニークだということをプレイヤーに教えている。
『Katana Zero』のゲームプレイの中核について、Standerはひとつのゲームから大きなインスピレーションを得ているとしている。同じくレトロなヴィジュアルが特徴的な『ホットライン・マイアミ』だ。
しかし、留守番電話に残されている謎のメッセージを聞いて敵をキルしていく『ホットライン・マイアミ』とは異なり、『Katana Zero』では主人公に謎の薬(のちに超能力の源であることが判明する)を投与するセラピストからターゲットを指示される。
Standerはメンタルヘルスと薬物依存を経験したことがないため、当初はこれらを扱うことに気が進まなかったが、リサーチを進めていくうちに自信が持てるようになっていった。
「とにかく、現実世界でこのような問題に苦しんでいる人たちに失礼がないようにしたかったんですよ」
「当たり前の話ですが、タイムトラベルできる薬はこの世に存在しません。ですが、このゲームの世界では実在するようにしたかったんです。ですので、リアリティを持たせるためにメンタルヘルスの問題や薬物依存と繋げる必要がありました」
「タイムトラベルをただの超能力として捉えて欲しくなかったんです。実際、そのような描写もしているところもあったので。ですので、そういうイメージを持たれないために副作用もしっかりと表現しようと思ったんです」
副作用というアイディアは『Katana Zero』最大の特徴のひとつにも活かされている。
このゲームでは、プレイヤーの小さな選択がゲーム全体に大きな意味を与えていくが、主人公が薬の副作用的症状(見知らぬ場所や不思議な光景・ザッピングノイズなどインディーゲームのお馴染みの描写で表現される)を発症すると、プレイヤーは自分で行動できなくなる。ステージをクリアするためにターゲットをキルしなければならない状況よりも強制的だ。
『Katana Zero』のストーリーの大枠がプレイヤーのアクションによって変わることはないが、一般市民に遭遇しても殺さずに会話だけで終わらせたり、子供のオモチャを見つけてあげたりと細部を変えることはできる。
そして驚くことにこれらの細かいアクションが最終的に大きな変化を加えることになる。特定のルートを通過したプレイヤーにはシークレットボスとの対戦さえ用意されている。
Standerは最後にこうコメントしている。
「これはこのゲームに詰め込んだ様々なアイディアのひとつですね。詰め込む必要があったのかどうかは分かりませんが、自分としては満足しています。DLCのリリースが控えていますので、このような選択肢が増えることに期待してください」
『Katana Zero』はNintendo SwitchとPCで好評発売中。
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