ウメハラ
© Maruo Kono
Gaming

ウメハラ:獣道の果てに見出した「一番大事なもの」

格闘ゲーム史に残る空前のプライドマッチ「Kemonomichi FT10 Daigo vs MenaRD」にて死闘を演じた、日本人プロゲーマー・ウメハラ選手へのインタビューをお届け。
Written by 山本雄太郎
読み終わるまで:8分Published on
対戦格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズにおける“生ける伝説”ことウメハラ選手と、“The GOAT(史上最高)”と名高いMenaRD選手による世紀の一戦が、2026年4月29日に決着を迎えた。
両者の対戦は格闘ゲームイベント『Evo Legends Live』のトリを飾る試合として、『ストリートファイター6』(以下、『スト6』)を使用し、「Kemonomichi FT10 Daigo vs MenaRD」との副題を冠して実施された。

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「Kemonomichi」――すなわち「獣道」を簡潔に説明するにあたり、本試合の解説を務めたハメコ。氏の言葉を超える表現は思い浮かばない。
Quotation
極限まで「意味」を削ぎ落とした「勝負」
ハメコ。
勝利することで獲得できる賞金もなければ、得られる称号もない。「獣道」とは格闘ゲームの文脈において、お互いのプライドのみを賭けた、10本先取制(以下、10先)の「勝負」を意味する。
それゆえに観る者の心を震わせ、そこにドラマ性を見出したくなる衝動に抗えず、終わってからしばらく経ったいまなお、ファンとしての感傷に浸ってしまうような一戦だったのだ。
しかしながら、当事者にとってはどうだろうか。ウメハラ選手は「自分は負けに酔いしれるような人間じゃないので」と、どこまでも淡々と語る。果てなき道を行くその歩みは、「勝負」を終えてさらに勢いを増していた。
ウメハラ

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「Kemonomichi FT10 Daigo vs MenaRD」について

――今回のMenaRD選手との勝負に臨むにあたって、“負けたら競技者からの引退を考えていた”ことを試合翌日のご自身の配信で明かされていました。あらためて、その真意を詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか。
ウメハラ:「負けたら引退する」というより、「負けたらこれ以上は続けられないだろうな」と思っていました。
ここまで長く競技者を続けられたのも、「10先で勝てている」からこそというところは少なからずあって。そういった最後の砦のようなものを失うとしたら、いよいよもって競技者は終わりだなという感覚でした。
――それほどまでにウメハラ選手にとって「10先で勝つ」ことは譲れないものだった、ということなのでしょうか?
ウメハラ:10先に対して儀式的な意味合いを見出していたり、神聖視したりしていたというわけではないです。単純に「どちらが強いか」をハッキリさせる方法として10先を好んでいた。だからこそ、「10先で負けない」ことを自分の中で重要視していました。
MenaRDとの勝負に負けたいまでも、やはり自分はそういった勝負が好きですし。逆説的に、これまで勝てていたことで視野が狭まってしまっていた面も事実としてあります。
そう考えると「10先で負けなかった自分」は失ってしまった。けれど反面、これでようやく色眼鏡を外して、格闘ゲームに対して、いちプレイヤーとして向き合えるんじゃないかと思うところもありますね。
ウメハラ

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――ご自身としても強い思いのある10先形式であり、万全と思えるだけの準備をして臨まれていたことは間違いないと思います。そのうえで、あえていまだからこそ言える「足りなかった」と思うことはありますか?
ウメハラ:まずお互いへの対策の部分では、大きな差があったわけでないと考えています。シンプルに用意してきた対策や攻略の量や幅に関しては、もしかしたら自分のほうが上回っていたかもしれないとも思います。
ただ、肝心の『スト6』の強さというところで、差をつけられたかなと。相手に合わせて動きを切り替えることであったり、相手の変化に敏感に反応して対処することであったり。そういった部分の上手さがMenaRDはピカイチだと思うので。
自分の反省点はやはりそこ。もっと切り替えの部分の練習にフォーカスするべきだったと思います。これだけ攻略を突き詰めたから勝てるはずだと自信を持てていたけれど、『スト6』というゲームの性質上、攻略だけで勝ち切ることは難しかった。
自分の中の攻略の引き出しを、適切に選択することや開け閉めすること。その速さを意識的に訓練して高めていかなければならないというのが、いまの自分の課題だと思っています。
――試合翌日の配信の中で、MenaRD選手について「メンタルが強い」と評されていました。より具体的に教えていただけますか?
ウメハラ:ふだんの練習試合で強くても、大会になると少し動きが悪くなってしまうプレイヤーは多い。でも、MenaRDはそれがないです。もちろんメンタル面を抜きにしてもMenaRDは強いのですが、そのうえで大事な勝負の場面でも弱体化せず、実力をほぼ100%発揮できる。そこが強みであり、大会で高い成績を残している最大の要因だと思います。
――試合直後のインタビューの中で、「MenaRDが想定を上回ってきた」とのお言葉がありました。10先形式においてご自身の想定を上回るプレイヤーが現れたという出来事をどう受け止めていますか?
ウメハラ:シンプルに、「人生に大型アップデートが入った」という感じですかね。長く生きていれば人生が大方どんなものかって、なんとなくわかってくるじゃないですか。そこにいきなり、新キャラクター追加だ、新システム追加だ、ってなったらテンション上がりますよね。
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――まさに予期せぬ、喜ばしいサプライズだったわけですね。またウメハラさんが今回の勝負を振り返って、「リスクのある勝負って最高だな」と語られていたことも印象的でした。リスクマッチを至上のものと思えるのはなぜなのでしょうか?
ウメハラ:たとえば、子ども時代って何もかもが刺激的だったじゃないですか。誕生日にクリスマス、運動会、新作ゲーム、マンガ、アニメ――。だけど、大人になるに連れて刺激を得られるものはなくなっていくというか、あのときほど純粋にワクワクできたことって減る一方なのではないかと思っていました。
だとしたら大人になるって楽しいことなのかな。この刺激的なものたちが消えてしまうんだったら人生なんて嫌だな……と思って、だからこそゲームの世界に没頭していたし、逃げ込んでいた側面もありました。
それから、自分の人生を新たに形成しなおそうと、刺激がない世界から逃げよう、逃げようとしてきた。そんな人生でした。
プロゲーマーになってからも最初は刺激的でしたが、長く続けるうちにその刺激にすらも鈍感になってきてしまった自分がいて。
――それはたとえば「慣れてきていい加減に物事をこなしてしまう」という事象とは全く異なるベクトルのお話で、シンプルに「皮膚感覚として似たような刺激を受け続けると慣れてしまう」といった意味合いですよね。
ウメハラ:そうなったときに、いつからか「あれ、待てよ?」と。いまのこの状況にあぐらをかくつもりはもちろんないけれど、自分はいま、子どものころにあれだけ嫌だと思っていた「刺激のない生活」を過ごしてしまっているんじゃないか? と思ったんです。
けれど、いまさら引き返せないですよね。たとえプロを辞めたとしても、培ってきた経験値や実績を消すことはできない。どうしたって、イチからやり直すことはできない。お金をドブに捨ててイチからやりますか、っていうそういう究極の選択なのか……? まあ、これが歳を取るってことなのかな。だけどやっぱり、なんだか寂しいな……と。
そんな風に感じていたところに、自分の意思だけでは実現しようがないリスクマッチの機会が訪れたんです。あのころのような刺激的なものをまた味わえる、となったときに、「これをずっと求めていたんだ」と思えた。やっぱり自分は、格闘ゲームが一番大事だなって気付けたんですよね。
ウメハラ

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――いまのお話をあえて即物的に「今回の勝負を通して得たもの」という枠に落とし込むとしたら、どのように言い表せますか?
ウメハラ:簡単に言うと、これまで以上の取り組みをするための原動力をもらえた。その結果、競技者としての寿命も伸びたと思います。それはこのプロゲーマーという仕事をするうえで最も価値のあるものですし、「得たもの」とすればそれかもしれないですね。
――「今回のような取り組みがずっとできるのだったら、やらせてほしい」と、現役続行を表明されたウメハラ選手ですが、今後成し遂げたいと思う目標や夢について教えてください。
ウメハラ:自分が苦手としていた、トーナメントで勝ちたい。形式にこだわるというよりは、とにかくいまはこの自分の中の熱を向ける先が欲しい。だとしたらいっそ自分の苦手なことをやってやろう、という気持ちですね。
正直、いまこうしてインタビューを受けている最中も「早く格闘ゲームがしたい」という気持ちで頭がいっぱいなんです。
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