世界中で「最も大きな影響力を持つビデオゲームのひとつ」に数えられている『スーパーマリオ64』は間違いなくNintendo Switchのリマスター版候補に入っているはず。だが、数学を学ぶ21歳のドイツ人学生が日本のゲーミングジャイアントのお株を奪った。
先日、ドイツ人学生Kaze Emanuarが『Super Mario 64 Online』をリリースしたのだ。オリジナルをWindows用に改造したこのゲームは、インターネット経由で最大24人の同時プレイが可能になっており、ここ数年で最もエキサイティングなMODの1本と言えるが、今回、Emanuar本人と話をするチャンスに恵まれた。
「小さな頃からビデオゲームをプレイしていました。最近は、自由時間を『スマブラDX』の練習に費やしながら、『Super Mario 64』の開発を仕事にしています。要するに僕の人生はビデオゲームなんですよ。この人生を変えたいとは思いませんね!」
長年のマリオファンなら、『Super Mario 64 Online』のコンセプトは、任天堂のこの領域への試み、たとえば、『スーパーマリオ64DS』のVSバトルや、『スーパーマリオ3Dワールド』の最大4人のマルチプレイなどに影響を受けたものだと思うだろう。しかし、Emanuarは、このMODはごく自然な進化を経て生まれたものだと強調する。
「ごく自然な進化のように思えました。最初は2プレイヤーモードを開発したんです。それからすぐに、最大8人までは問題なく追加できることに気が付きました。そのあとで、スキンのバラエティを増やす必要があることに気付いたのでスキンを足すと、今度は『全員異なるキャラクターなんだから、それぞれがユニークなアクションをする必要があるぞ』と思いました。このような形で開発が進んでいきました」
『Super Mario 64 Online』にはマリオ、ルイージ、ヨッシー、ピーチ、ワリオ、そしてワルイージまでもが収録されており、Emanuarはキャラクターごとに異なるアクションを用意している。たとえば、ヨッシーならふんばりジャンプが可能だ。「各キャラクターに独自の物理演算を組み込む作業は合計3時間程度で終わりました。他のMODでこのような作業を経験していたので、その時の古いコードをコピー&ペーストして、いくつかのアドレスを変更しただけです。どのキャラクターにも、これまでにリリースされてきた『マリオ』シリーズをベースにした特長が備わっています」
EmanuarはこのMODの仕上がりに満足しているが、同時にひとりでは実現できなかったと付け加える。「MelonSpeedrunsとmarshivoltも手伝ってくれました。MelonSpeedrunsは各エミュレーターからのバイトをサーバーに送れるようにするベーシックプログラムを書きました。marshivoltはオンラインモード用の3Dモデルの整備を担当してくれました。僕はバイナリエディットとアセンブラコーディングを担当しました。全てのコーディングはライブストリーミング中に終わらせました。各3時間、計7本のストリーミングで完成させましたね。一番重要な作業は、全てのアドレスを見つけて『スーパーマリオ64』のリバースエンジニアリングをすることでしたが、5年前に同じ作業をやっていたので、必要なアドレスは手元に残してありました」
ビデオゲームの内部について膨大な知識を持っているEmanuarは、最大24人の同時プレイがゲームプレイを破壊することは一切ないと約束する。「予想外のミスはひとつもなかったですね。同じゲームのMODを5年間作ってきたので、そういうミスはありえません。ほとんどの部分を事前に把握していました」
Emanuarは自らのMODがオリジナルを上回るために、長い時間をかけて『スーパーマリオ64』の中身を研究してきたが、皮肉なことに、実際のテストにはほとんど時間をかけていない。「正直に言うと、テストプレイはほとんどしていません。開発期間を通じて僕たち3人よりも長時間このゲームをプレイしてきた人は確実にいると思います」
この点を考慮すると、このMODは簡単にチートできるというのは驚くことではない。「『スーパーマリオ64』のチートコードも色々試せます。僕は、『Super Mario 64 Online』は赤の他人とプレイするゲームではないと思っているので、チートが可能でも問題ないと思っているんです」と説明するEmanuarは、プレイヤーたちが自由にゲームをカスタマイズする様子に感激していると続ける。「僕はスライダーを使ったレースしかプレイしたことがないのですが、鬼ごっこを楽しんでいるプレイヤーもいましたね」
Emanuarが心底驚いたのは、『Super Mario 64 Online』の急速な人気獲得だ。本人は「ダウンロード数のカウンターはチェックしていませんが、ページビューは60万回を超えています。これはかなり高い数字だと思います。リンク先をひとつしか用意していなかった頃は、アクセス過多でサーバーが落ちていました」と説明している。リリースされてまだ間もないこのゲームだが、すでに大きな成長と進化を遂げている。しかも、Emanuarが直接関わることなく進化する時もあるようだ。「アセンブリコード内に僕が用意しておいたチャットエンジンのプロトタイプを使って、チャットクライアントを作った人がいました。僕たちもチャットクライアントを用意したオフィシャル版を用意しましたよ」
今後について目を向けてみると、『Super Mario 64 Online』には、現バージョンをプレイしているプレイヤーたちが独自に変更して楽しんでいるユニークなゲームを利用したスペシャルモードが収録される予定だ。つまり、このゲームは、オリジナルとは全く異なる内容になる可能性がある。「色々なモードを予定しています。サードパーソンシューティングモード、ボスラッシュモード、鬼ごっこモード、『マリオパーティ』モード、かくれんぼモード、タワーディフェンスモードなどです。ですが、これらを準備するまでは時間がかかると思います。というのも、ここ1週間ほど『Super Mario 64 Online』の開発を休んでいるんです」
もちろん、任天堂がこのゲームに介入し、全てを削除するように要請した場合は、このような計画は全て無駄に終わってしまう。任天堂がこのようなファンによるMODプロジェクトを中止に追い込んだことはこれまで度々あった。しかし、現時点では任天堂のレーダー網の下を飛行中だとしており、世間が過剰に反応しているだけだと強調している。
「任天堂からは何の連絡もありません。いわゆるDMCA(デジタル・ミレニアム著作権法)に関する騒動はもう終わるべきだと思います。もし、彼らがそのような動きをしたとしても、ダウンロードリンクは無限に存在します。世の中に知られればDMCAの対象になってしまうと考えて、僕たちのような自作MODがシェアされることに怒りを感じる人もいますよね。ですが、現時点ではこのプロジェクトを止める手立ては何もありません」
Emanuarは『Super Mario 64 Online』以外にも様々なアイディアを用意している。そして今回のMOD開発に活用された彼の膨大な知識を踏まえると、それらのアイディア全てが『スーパーマリオ64』関連だという事実は驚くことではない。Emanuarは「次のプロジェクトは、『スーパーマリオ64』と『ゼルダの伝説 時のオカリナ』のクロスオーバーで、ダンジョンと20のニューアイテム、そしてアンロック可能なマリオの能力が組み込まれます。他には、『スーパーマリオ64』と『マリオストーリー』のクロスオーバーや、『スーパーマリオ64』の60fpsバージョン。あとはひたすら新しく生成されるダンジョンやステージを進みながら『Super Mario 64: Last Impact』のためにコーディングしてあったパワーアップアイテムを見つけていく、ローグライクな『スーパーマリオ64』を考えているところです」と説明している。
これらの素晴らしいMODを生み出してきたEmanuarたちは、最終的に『メトロイド』や『F-ZERO』、『ゼルダの伝説』、『マリオカート』など、その他のクラシックにも手を出す予定なのだろうか? Emanuarが回答する。「今は『スーパーマリオ64』」だけです。また、他のゲームを理解するために長い時間を費やすつもりもありません。ですが、僕はオーダーも受け付けているので、誰かから他のゲームのMOD開発を頼まれれば、それらに目を向けるかもしれません。とはいえ、他のゲームに関しては、今のところ大規模なMODは開発しないと思います。リバースエンジニアリングは時間がかかりますから」
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