世界のメッセンジャーとの共同生活
© Kosuke Aoki
サイクリング

世界のメッセンジャーとの共同生活

メッセンジャーを生業としながらもフォトグラファーとして活躍するKosuke Aoki。彼が撮らえたリアルでディープな自転車の世界とは? ハードコアメッセンジャーが送る旅紀行Vol.4「パリ編:その2」
Written by Kosuke Aoki
読み終わるまで:4分Published on

スロウスクアッド チャペル

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© Red Bull

メッセンジャーの世界大会CMWCには、毎年世界各都市から数百人規模のメッセンジャーたちが集まる。ホストとなる都市は、その都市で活動するメッセンジャーの自宅でのホームステイや、安宿、キャンプサイトなどを手配してくれ、なるべく低予算で滞在できるように協力してくれる。
メッセンジャーたちの間でも「私のソファはあなたのソファ」という言葉をよく使う。人種、国籍関係なくお互いに助け合うという精神が、文化として浸透しているのだ。街の配達屋さんとして決して高くない給与でも、そのお陰でメッセンジャーは容易に世界中を旅する事ができる。
今回のパリ滞在では、僕は共に活動するスロウスクアッドの仲間たちと部屋を借りる事にしていた。大世帯で、さらにメッセンジャー界きってのパーティー野郎達。粋のいいパリジャンでも、さすがに全員を受け入れる部屋を探すのは困難だと思われた。だが、運がいいことに現地のメッセンジャーの知人の部屋が夏の期間バケーションで空くとの事で、特別に低額、無制限で部屋を借りる事ができた。
宿なども成り行きに任せ、その身一つ、ノープランで大会に来るメッセンジャーも少なくない。僕たちは、部屋の事を尋ねられたら、無条件、無制限で僕たちの部屋に泊めてあげるルールを半ば冗談で決めた。困った人が救いを求めてきたら受け入れるという意味合いで、“スロウスクアッド チャペル”と名付けた。部屋は想像と違って、パリを一望できる眺めの良い高層マンションの1室。広いリビングと寝室が2部屋、壁には高そうな絵画や沢山の本が並ぶ、まさにお金持ちの部屋だった。そんなリッチな”チャペル”でも、すぐに多くのメッセンジャーたちでキャンプサイトのようになった。泊まった人数は、僕が一度数えただけでも18人はいたと思う。日が進むにつれ、当たり前のように皆がこの家の事を、チャペルと呼ぶようになっていった。

敬いの心は世界共通

アメリカ、インドネシア、オーストラリア、カナダ、フランス、メキシコ、ロンドン、そして日本。あまり意識していなかったが、こんなに多くの国の人達と生活を共にする事は滅多にないかもしれない。共同生活を通して、人種や宗教、文化の違いがあっても、同じ人間として道徳的な部分ではさほど変わりがない事に気づいた。誰かが食事を作れば誰かが片付けをしたり、買い物にいって皆のビールを買ってきたりと、特に声を掛け合う事もなく、自然と役割分担ができている。誰かが具合が悪くなって1日中寝込んでいる時は、皆が気遣った。お互いが相手を敬う気持ちというのは世界共通なのだ。
下は17歳、上は38歳。日本の独特な年齢による上下関係もなく、お互いの意見をフェアに言える環境もとても心地よい。以前、日本に住んでいるカナダ人が、日本ならではの敬語や、年下の人間が上の者に気を遣って意見が言えない環境を“エイジスト(年齢差別)”だと皮肉っていたが、海外ではそういった事がない。より人がコミュニケーションしやすい環境で仲が深まるし、ギスギスしたりもしない。もちろん、まだ若い子には配慮もするし、その逆もある。それが本来の敬いの気持ちであり、言葉だけに囚われて本質を見失う事は危険だ。
基本はただ楽しくて、ふざけあっているだけだが、メッセンジャーというライフスタイルはそういった事も気づかせてくれる。僕は日本で10年メッセンジャーをやっているが、ボスから他のライダー全員が縦ではなく横の繋がりである事も、長年ストレスもなく仕事を続けられている理由の一つだ。

メッセンジャースナップ

今回紹介した、SLOW SQUADのライディングをスナップ。
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ハードコアメッセンジャーが送る旅紀行Vol.4「パリ編:その2」

ハードコアメッセンジャーが送る旅紀行Vol.4「パリ編:その2」

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記事協力
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Profile
Kosuke Aoki
ニューヨークでミクストメディアアート、ノイズバンドの活動を経て、帰国後2007年より東京にてメッセンジャーとなる。同時に東京のメッセンジャーシーンをはじめ、様々なアンダーグラウンドカルチャーの撮影を開始し、フォトグラファーとしてのキャリアをスタート。現在は活動の幅を広げ、世界各地のメッセンジャーやそれにリンクするカルチャーの取材を精力的に続けている。
【Instagram】toydog88