A screenshot from Rocket League on Nintendo Switch.
© Psyonix
ゲーム

『ロケットリーグ』:Nintendo Switch版のヒミツ

3年目に突入した『ロケットリーグ』にNintendo Switch版が追加される。開発したPsyonixにいつでもどこでも楽しめる最新版の特徴について話してもらった。
Written by Ben Sillis
読み終わるまで:13分Published on
『ロケットリーグ』が任天堂製のゲーム機、しかも携帯ゲーム機に登場することを予想していた人はいなかった。しかし、2016年、Nintendo Switchの存在が明かされるよりも遙かに前の段階で、任天堂はこのゲームを開発したPsyonixの元を訪ねて、次の質問をしていた。「貴社の大ヒットマルチプレイヤースポーツゲームを弊社の最新ゲーム機でリリースすることに興味はあるか?」と。
「もちろんありますよ」 - Psyonixの副社長Jeremy Dunhamはこう回答したが、任天堂がクロスプラットフォームを許可し、PCとXbox Oneのプレイヤーとの対戦を実現してくれるのなら開発するという条件を付け加えた。
任天堂はすぐに了承した。
この展開は、不透明で気を持たせるが優秀な存在として知られる任天堂と、彼らと初対面の小さなデベロッパーの間ではまず起きないものだ。任天堂がEAやActivisionのような巨大なパブリッシャー相手ではなく、メジャーヒットタイトルがたった1本しかない小さなデベロッパーとこのような契約(しかも、SonyがまだPlayStationユーザーに許していない機能に関する契約)を結んだという事実は、ゲーミングの世界が旧世代機時代からどれだけ大きく変化したのかを如実に表している。
DunhamはRed Bull Gamesの独占インタビューの中で次のように振り返っている。「任天堂サイドは、『ロケットリーグ』をできる限り早くNintendo Switchでリリースしたいので、そのための条件を教えて欲しいと単刀直入に言ってきました」
「その時に私たちが最初にした確認したのは、クロスプラットフォームの対戦を認めてもらえるかどうかでした。すると、任天堂サイドはすぐに『もちろんOKだ。何でも言ってくれ』と返してくれました。私たちの質問に即答してくれた彼らの態度に好印象を受けましたよ。彼らが『ロケットリーグ』とNintendo Switchについて本気で取り組んでいることが伝わりましたので、私たちも誠意を持って対応しようと思いました」
しかし、Dunhamは、サンディエゴに拠点を置く自分たちがすぐに契約書にサインしたわけではなかったと明かしている。むしろ、正式な契約が交わされたのは、今からたった7ヶ月前のことだった。
Dunhamが続ける。「話をした直後からNintendo Switch版の開発に全力を注いだわけではないんです。何をしなければならないのか、どんなワークフローにすべきなのか、そして自分たちが何を達成したいのかについて、時間をかけて考えました。ひとつも妥協することなく実現できる、しかも予定通りにリリースできると確信したかったのです。ですので、任天堂サイドにリリースすることを正式に伝えて本契約を交わしたのは、今年の3月末か4月頭でしたね」

Nintendo Switch版『ロケットリーグ』のトレーラーをチェック!

しかし、契約を交わしたあとの彼らはノンストップで開発を行い、リリース日も11月14日に決まった(海外版のみ。日本版は2017年内予定)。Dunhamは「できる限りスムーズに機能させて、Nintendo Switch版を手にした全プレイヤーが、他のプラットフォーム版との差をほとんど感じず、ハッピーにプレイしてもらえるように、全社で努力を重ねてきました」と説明している。

良いものは変えない

既存のバージョンと同じゲーミングエクスペリエンスを実現することがPsyonixにとっての最重要ポイントだった。Dunhamは誰よりも熟知していることだが、要するに、ロケットのように飛び回るマシンが巨大なピッチで巨大なボールをシュートするという大ヒットフォーミュラを軽率に変える必要はないのだ。PS4とPCでのリリースから2年半が経過した2017年前半、そのフォーミュラが保たれてきた『ロケットリーグ』のプレイヤー数は250万人を突破しており、今もその数は増え続けている。
Dunhamは「今もプレイヤー数は増えていますし、対戦数も増えています。プレイヤーが『ロケットリーグ』に注いでいる情熱の量はアンストッパブルで増えていますね」と説明している。
それでも、トイレに座りながらハーフウェイラインからエアリアルでシュートを決められるようにするためには、いくつかの小さな妥協が必要だった。Nintendo Switchはライバル機ほどパワフルではない。使い勝手は良く、楽しさという意味ではそれらを上回っているとさえ言えるが、ゲーミングがモバイルになるということは、グラフィックスもモバイルになることを意味する。
「スケールダウンすることになるので、まず解像度を考慮する必要がありました。Nintendo Switchのネイティブの解像度はPS4とXbox Oneのそれとは違いますし、パワーも異なります」とDunhamは説明しているが、4Kテレビに繋いでTVモードでプレイしている時以外は、大きな差を感じないはずだと付け加えている。
Nintendo Switch版に唯一欠ける可能性がある機能は、透明ゴールポストだろう。これは、Nintendo Switch版の存在が明らかになってから既存のプラットフォーム版に追加された新機能だ。Dunhamが説明する。「透明ゴールポストは、Nintendo Switch版には実装されない可能性があります。現在最終確認中ですが、Nintendo Switchのパワーでは実現できないかもしれません」
これは、TV画面から離れた場所で『ロケットリーグ』をプレイしたいと考えているRocket League Championship Seriesで活躍するトッププレイヤーたちにとっては嬉しくないニュースだが、この機能を除いた全ては、我々が良く知っている『ロケットリーグ』になるとDunhamは強調する。「重点的にチェックしているのは、ゲームプレイが損なわれないようにすることと、そのためにヴィジュアル面でどのような犠牲を払うことになるのかという2点です。犠牲にする部分に関しては、プレイヤーが『ロケットリーグ』をプレイしていると感じられる範囲内に収めるつもりです」

Nintendo Switch版専用マシンをチェック!

また、『ロケットリーグ』は今も進化を続けている。『Hoops』のような新しいゲームモードは、ハードコアなファンに完全に異なるゲームプレイを提供しており、新しいアリーナ(8月のアップデートで6種類追加)とアイテム(現在90種類以上)の定期的な追加によってプレイヤーを引き込み続けている。

新機能の追加

Psyonixもゲームの進化スピードを緩めるつもりはないようだ。Dunhamは「新しいアイディアの前に、以前から温めていたアイディアでさえもまだ全て実現できていないというのが正直なところです。リリース時に実装できなかったアイディアが山ほどあります。そのようなアイディアはまだまだ鮮度を失っていません」と説明している。
『ロケットリーグ』がヒットして以来、Psyonixは増え続けるファンベースのニーズに応えることの必要性も学んできた。よって、Dunhamはトーナメントプレイの実装が最優先だとしており、ゲーム内でプレイヤーが自由に自分たちだけのトーナメントを作成できるようにしたいとしている。この機能は2018年内に実装される予定だ。
Dunhamが続ける。「実は、以前から実装したかったのですが、そのために何が必要なのかが分かっていませんでした。当時は自分たちの能力よりもやりたいという気持ちの方が先行していました。ですが、ここ数年で『ロケットリーグ』とファンのニーズに関する知識と経験を積み上げてきたので、オリジナルをトーナメント用にアレンジできる力がついています。トーナメントモードはかなり大がかりなものになりますし、実装後は定期的にアップデートを重ねていくことになるでしょうね。2018年に実装したあとは、このモードは、私たちが時間と共にアイディアをどう進化させていくのかを示す好例になってくれると思います」
そして『ロケットリーグ』はプレイヤーも進化している。その進化を促しているのが、Psyonixが立ち上げたesportsリーグ、Rocket League Championship Series(RLCS)で、現在すでにシーズン4を迎えている。
DunhamはRLCSについて、投資以上の見返りがあったと感じている。Psyonixは、トッププレイヤーに投資をすれば、彼らは新しいプレイ方法を見つけ、ゲームをさらに進化させることに気が付いた。
「RLCSは『ロケットリーグ』に大きなインパクトを与えたと思います。立ち上げ当初の試合を振り返ると、当時使われていたスキルと今使われているスキルが完全に異なることが理解できます」
A screenshot from Rocket League on Nintendo Switch.

Nintendo Switch版限定のサムスカラー

© Psyonix

Dunhamは、RLCS立ち上げ当初のトッププレイヤーは、ボールを追いかけることに集中していたが、やがて戦術が見出されると、後ろに下がってカウンターを仕掛けるようになり、さらにはエアリアルも見出したと、その変遷を振り返っている。「今は色々なスタイルが確認できますね。とても面白い状況になっていると思いますよ」
Nintendo Switch、PC、Xbox(PS4は残念ながら対応していない)のクロスプラットフォームにおける問題のひとつが、スキルギャップの調整だ。Nintendo Switch版で、Xbox One版のプレイヤーと対戦できるのは新鮮だが、1年ほどプレイ歴が長い後者に何度も負けてしまえば、新鮮よりも悔しさが上回るようになる。
Dunhamも、これはサーバーを立ち上げたあとにチームで取り組む必要がある問題だということに気付いている。Dunhamは「火の扱い方を知る前に火傷してしまう時があります」と自分たちの問題点を認め、次のように続ける。「スキルギャップはかなり大きいと思います。『ロケットリーグ』について良く理解しているベテランプレイヤーが沢山いますからね。彼らと対戦すれば完敗すると思います。ですが、問題ありません。なぜなら、私たちは『ロケットリーグ』を勝っても負けても楽しいゲームにしたいと思っているからです。Nintendo Switch版は上手く仕上がっていると思いますし、マッチメイクのシステムも同じスキルレベルのプレイヤー同士をマッチさせられるだけの賢さを備えています。ですが、それでも予想外に強いプレイヤーと対戦する可能性はあると思います。ですが、このような経験は上達するための通過点なんです」
我々が前回Dunhamにインタビューをした2016年夏の時点では、彼は『ロケットリーグ』がゆっくりと売れていったことが原因で、Psyonixは高速マシンがボールをゴールに突き刺すというフォーマットを使用しない完全新作の開発に関するスケジュールを全て変更しなければならなくなったとしていたが、我々は今回も同じ質問をしてみることにした。Psyonixが完全新作を開発する予定はあるのだろうか?
最近は自分たちの未来について考えています。『ロケットリーグ』以外の未来についてです
Jeremy Dunham
今回のDunhamは、最近は漠然としたポスト『ロケットリーグ』についてではなく、『ロケットリーグ』だけがPsyonixのビッグタイトルにならないようにするためにはどうしたら良いのかについて積極的に考えていると回答している。
「もちろん、『ロケットリーグ』が終わったあとについて考えています。今は『ロケットリーグ』をサポートして成長させつつ、自分たちの未来についても考えています。『ロケットリーグ』以外の未来についてです。他のチャンスも逃さないようにしたいと思っていますし、新しいアイディアをプロトタイプまで仕上げる専用チームも用意しています」
Dunhamはその新しいアイディアについて具体的に言及するのは避けており、自分たちは大ヒット中のバトルロイヤルゲーム『PlayerUnknown’s Battlegrounds』に夢中だという発言に留め、全てのゲームとジャンルに可能性があると続ける。
「現時点ではどんなゲームでも可能性はあると思います。『ロケットリーグ』以前は多種多様なゲームを開発していましたしね。過去作のほとんど全てにマルチプレイヤーモードが備わっていますし、Psyonixはマルチプレイヤーモードについて熟知しているデベロッパーです。ですが、シューティングを開発したこともありますし、パズルゲームやストラテジーゲームを開発したこともあります。ですので、現時点では除外できるジャンルはありませんね」
A screenshot from Rocket League on Nintendo Switch.

クロスプラットフォームに対応

© Psyonix

PS3時代にリリースされた前作『Supersonic Acrobatic Rocket-Powered Battle-Cars』が失敗に終わり、経済的に苦しい状況に追い込まれていたPsyonixにとって、『ロケットリーグ』はイチかバチかの大勝負だった。そして、彼らはその勝負に勝った。その大きな理由は、PlayStation Plusの登録者に無料提供したことによる口コミだった。

『ロケットリーグ』後の未来

Dunhamは、Psyonixの成長(2015年のリリース時から社員数は3倍に増えている)とその期間の業界全体の変化を考えると、次作に関しては、『ロケットリーグ』のような時間差リリースをしないことだけは確約できるとしている。
Dunhamは「今のPsyonixは、マーケティング、PR、コミュニティなど、ゲームを世の中に送り出す際に必要な部分をサポートできるインフラが整っています。ですので、開発中に予想外の展開が起きなければ、次作はできる限り多くのプラットフォームでほぼ同時期にリリースされるでしょう。また、『ロケットリーグ』の時よりも一般的な戦略に沿ってリリースされるはずです」と説明している。
しかし、Psyonixの次作が、Nintendo Switchでも同時リリースされるかどうかについてはまた別の話だ。これは『ロケットリーグ』のNintendo Switch版が成功するかによって変わってくる。しかし、Psyonixがこれまでに学んだことがあるとすれば、それはプレイヤーの情熱がゲームを成功に導く可能性があるということだろう。
「いつも不思議な気持ちになるんです。なぜなら、『ロケットリーグ』の状況について情報を集めるたびに、前回よりも良い結果が得られるんです」とDunhamはコメントしている。
世の中に変わらないものは存在しない。「車&サッカー」というパーフェクトコンビにもいずれは変化の時が訪れるだろう。しかし、Psyonixは、フォーカスし続けていくことを最重要視している。
Dunhamは次のように説明している。「コミュニティと交わした約束を反故にしたくないんです。『ロケットリーグ』をできる限りクールなゲームにし続けるという約束を守りたいと思っています。それさえできていれば、私たちは安心して眠れるんです(笑)」
『ロケットリーグ』Nintendo Switch版は11月4日(海外版のみ。日本版は2017年冬)にダウンロード限定でリリース予定。
Twitterアカウント@RedBullGamingJPをフォローして、ビデオゲームとesportsの最新情報をゲットしよう!