ゲーミング
フェアなゲームプレイが求められ、マルチプレイヤーゲームがスタンダードになった現代において、これらは納得のいく処置だと思うが、かつてチートや裏技が世界中のゲーマーたちに支持されていた時代があった。インターネット以前、ゲーム雑誌は無限ライフや飛行能力を得られたり、自由にステージが選べるようになったりする各種チートコードの紹介に大きくページを割いていた。一体このようなチートはどこへ消えてしまったのだろうか?
偶然生まれたチート
『Solar Jetman』、『Plok!』、『Equinox』などのクラシックゲームで知られるPickford BrothersのベテランコーダーSte Pickfordは説明する。「ゲームのテストには長時間が費やされますが、8ビット時代の開発側はシンプルなインターフェイスの開発を心がけていたので、ゲーム内にはチートリストを加えておけるようなメニュー画面は存在しませんでした。ですので、テスターが難しいパートや新しいパートを簡単にプレイできるようにするために、チートコードが作られたのです。それが偶然、出荷された製品にも残されてしまったのです」
『James Pond』シリーズや『Medievil』などに関わったことで知られるChris Sorrellも、コードは元々プレイヤーのためではなく、開発側を助けるためのツールだったという意見に同意している。現在インディー系開発会社SpoonSized Entertainmentを経営するSorrellは、「チートコードは元々開発用のツールでした。ゲームの開発ではひとつずつ小さなパートに取り組んでいきます。そしてテストと調整を1日に何回も繰り返します。ですので、特定のエリアや機能にすぐにアクセスできるような機能が必要とされます。なぜなら特定のアイテムをドロップするかどうかを確認するためだけに、延々とボス戦をプレイする訳にはいかないからです。ですので、1発でボスを倒せるような強力な武器がチートコードとして加えられます。強力なチートを使った時間短縮は、最終的に数百時間の時間短縮に繋がるため、自分はもちろん、開発に関わる全員を助けることになるのです」と説明する。
SpectrumやC64の時代、ゲームのコードを変えるには “ポーク” する必要があった。当時のゲームはデータテープ経由でコンピューターのメモリ上にロードされたが、ある程度のプログラミングスキルを持っていたプレイヤーたちは、ロードされる直前に特定のメモリアドレスを変更し、無限ライフや無敵モードをゲーム内に組み込んでいた。「色々ポークしてみると面白い結果が生まれました。ですので、ゲームをクリアした後で、その中身がどうなっているのかを確認するのは当然の成り行きでした」こう説明するSeavorは、このようなコードの変更は多くの若手ゲーマーたちにゲーム開発の面白さを部分的に見せていたと考えている。「UKの開発会社の多くは、そういう興味を持っていた人か、私のように単純に中身がどうなっているのかを解明するのが好きだった人たちによって立ち上げられました」
ストーリーよりもスコアが重視されていた当時、プレイヤーたちはチートコードを使って難易度が高いと言われていたゲームに対してアンフェアなアドバンテージを得ていた。現在兄JohnとスタジオZee-3で開発を続けているPickfordが言う。「8ビット時代はとにかくクリアすることが大事でした。当時のゲームはストーリー性がなく、ゲーム体験もたいして得られませんでしたが、難易度は高かったのです」 そして開発側はここに面白さを感じ、チートコードをゲームそのものに正式に組み込むようになっていった。
「通常のプレイをせずにゲームをクリアするという行為には特別な魅力があります。ゲームプレイは複雑な機械をいじるようなものでした。様々な戦術やアプローチを試しながら、何が上手くいくのか、どうやって敵を倒すのか、どうやって隠し部屋を見つけるのかを見いだしていきます。つまりポークはゲームプレイの中で自然に行われるものだったのです。チートを探すという行為はゲームプレイの一部であり、自然なことだったのです。16ビットの頃には、チートコードの組み込みは通常の開発作業のひとつのようなものでした。またコードの後日公開も、意図的に行われていたマーケティングだったのです」
そしてゲームソフトの容量が増えて内容がスケールアップ及び複雑化すると、セーブポイントが必要となったため、チートコードはメモリーカードなしで特定のステージをロードする手段として扱われるようになった。またコードはデジタルコンテンツの著作権侵害に対する解決手段として扱われるようにもなり、説明書に書かれている文字列を入力して登録するという手段が取られるようになった。当然、悪賢いゲーマーたちは説明書をコピーしてこの状況に対応していったが、開発者たちはまたすぐにチートコードを自分たちに有利に働かせる新たな手段を生み出していった。
ゲーム雑誌の登場
ビデオゲーム雑誌の人気が高まるにつれチートコード探しがブームとなったが、開発者たちはこうなることを予想していた。Sorrellが振り返る。「開発者たちは自分たちだけが知っている秘密の “裏口” を作り、家族や友人に自慢できるようなチートコードをゲーム内に残そうとしました。熱心なゲーム雑誌は常にゲームに価値を与え、更なる面白さを提供しようと努力していましたし、このようなチートコードが存在すると彼らが発表すれば、そのニュースは山火事のように急速に広まったのです」
これは当然ながら、 難易度や可能性の部分を台無しにしてしまい、当時決して安くなかったゲームの価値を下げてしまうという問題に繋がったが、「チートがゲームの価値を上げるか下げるかという話は、プレイヤーの使い方次第です。ただクリアするためにチートを使い、ゲームの難易度や進行などをすべて無視するプレイヤーがいましたが、このような使い方をすれば、多くのゲームは非常に平たんな内容に思えたでしょう。その他の多くのプレイヤーたちはこのゲームの難所に苦しめられたストレスを発散するためにチートを使用したと思います。また彼らとはまた違うタイプのプレイヤー、つまり隠しオプションやメニュー、ロックされているコンテンツなどを解除していたプレイヤーたちにとっては、開発側に近づけるツールであり、更にゲームを面白くしてくれるような存在だったのではないでしょうか」
コードの中には非常に印象的で、今でも頭の片隅に残っているものがある。『 ソニック・ザ・ヘッジホッグ』のステージ選択チート(Aボタンを押しながら、上、下、左、右。チャイムが鳴ったらスタートを押す)も昔からよく知られている裏ワザだ。また、ゲーム業界で最も有名なチートのひとつとしては、初代「モータルコンバット」のセガ・ジェネシス(日本名:メガドライブ)版のチートもある。これはメディアがオリジナルのアーケード版の残虐表現を批判したことを受けて、流血などの過激な表現が表示されないようにセガ側が組み入れたコードだ。尚、このコード「ABACABB」の入力順は、ゲーム機本体と同名のUKのバンド、Genesisのアルバム『ABACAB』にちなんでいる。
当然ながら、今回話を伺った開発者たちもそれぞれコードをゲーム内に組み込んだ経験がある。「私はスーパーファミコンの『Ken Griffey presents Major League Baseball』にチートコードを組み込みました」Pickfordが振り返る。「タイトル画面からエンドクレジット画面をいきなり表示できるチートを組み込んだのです。美しいクレジット画面でしたが、このコードを使えば開発チームのみんながこのゲームに関わったことをすぐに証明できたのが良かったですね。当時、こういうクレジット表記は希だったのです。確か『BADBUBBA』と入力すれば表示できたと思います。『BUBBA』はこのゲームのプロデュサー/デザイナーの子供の頃のニックネームから取りました」
Sorrellが関わった中で一番評価が高かったゲームはユーモラスなアクションゲーム『James Pond 2: Robocod』だが、本人は次のように振り返る。「James Pondシリーズは全部チートが組み込んでありました。よくある無限ライフや無敵、ステージセレクトなどが可能でした。特に『James Pond 2』のチートは独特だったので、すぐに知られるようになりました。このチートはゲームのハブ画面に戻るたびに、ランダムにボーナスアイテムが表示されるというもので、表示される各アイテム(Cake、Hammer、Earth、Apple、Tap)の頭文字を集めると、『CHEAT』という単語になります。この語順で集めると10分間無敵になったのです。またこのゲームには『LIVES』という単語を集めるチートも組み込みました。今でもアイテムを探した日々を懐かしんで話してくれる人がいますよ」
一方、チートに興味がない開発側もいた。著名なプログラマーJon Ritmanは80年代を代表する数々の8ビットゲームをプロデュースした人物だが、意図的にチートを組み込み、ゲーム内容を簡単にしてしまうことに意味を見出していない。「ゲームプレイから得る満足感の大半は、問題の発見・解決という行為から来ると思っています。私はゲームデザイナーとして常にこのことを念頭に置き、解決可能な問題をゲーム内に組み込んでいました。ですので、他の開発側がチートコードを組み込み始めた時は困惑しました。なぜ苦労して問題を作ったのに、雑誌にコードを掲載してプレイヤーたちが簡単に解決できるようにするのでしょう? ゲームが難しすぎるというのであれば、難易度を下げれば良いのではないでしょうか?」
チート用周辺機器の登場
チートコードの歴史を振り返るには、90年代初頭に登場した周辺機器を避けては通れないだろう。Codemasterが開発した『Game Genie(ゲームジニー)』、そしてこれに続いてDetelが発売した『Action Replay』がそれだ。大人気となったこれらは基本的にはSpectrumやC64時代の “ポーク” と一緒で、プレイヤーはこれを使うことで一時的にゲームデータを書き換えてチートを使用できた。これらの周辺機器の存在がチートコードの終焉の呼び水になったと指摘する声は多いが、私たちが今回取材した開発側はそうは言い切れないと指摘する。
「Game Genieなどが登場しても、私たち開発側が独自のチートを組み込む必要性はなくなりませんでした。ゲームを立ち上げるたびにチートが作成されるよりも、自分たちであらかじめチートを組み込んでいた方が簡単でした。またAction Replayのチートもライフ数の増加や無限エネルギーのような基本的なチートだけでしたので、プレイモードが変わったり、ボーナス面が増えたりというような開発側が組み込んでいた面白いチートとは違いました」またPickfordはこのような周辺機器の存在を認めていなかったようだ。「このような機器がチートを組み込む熱意を奪う可能性はあると思いますが、チートがこのような寄生虫的な業界の所有物になってしまったのは非常に不愉快でした」
上記のようなチート用周辺機器が実際どれだけインパクトを与えたのかは分からないが、かつて愛されたチートコードの人気が失墜したのは事実で、今のゲームにチートが組み込まれることはほとんどない。Pickfordはその大きな理由のひとつは 、プレイヤーがゲームに求める部分が変わった点にあるとしている。「今のゲームでは難易度やスコアは重視されなくなっています。それよりもより簡単にストーリーを楽しんだり、内容を吟味できたりするようなゲームが求められているのです。チートはストーリーの進行にはあまり関係がありませんし、ビッグタイトルはオンラインプレイを重視するようになっています。そしてオンラインプレイでチートすれば他のプレイヤーの邪魔になるので、チートは悪として扱われています」
一方、Sorrellは次のように考えている。「チートが廃れた理由はいくつかあると思います。 ゲーム開発のコストの増加とゲームを楽しむ層の拡大が直接的、間接的に影響を与えていると思います。また、よりパワフルな開発用ツール及びフレームワークが登場し、ゲームの開発方法が変わりました。かつては開発側独自のツールが使用されていましたが、今は開発とテスト・デバッグ環境がひとつにまとめられたPC版の存在が普通になっています。素早く好きなパートへアクセスできるようなチートはすべて最終版の段階で消去されてしまうのです」
しかし、チートコードが消滅した理由はそれだけではない。Sorrellはハイレベルのハッカーたちが登場したことにより、開発側は隠し機能を組み込むことに慎重になっているとしている。発覚後にメディアが騒ぐことで大きな問題に発展する可能性を恐れているのだ。実際、悪名高い『 グランド・セフト・オート・サンアンドレアス』のMOD「ホットコーヒー」はプレイヤーが不適切な行動を取れるようになるということで、大きな問題となった。「大手メーカーはプロモーションに悪影響や被害を与える可能性がある隠し機能や精査されていない機能を組み込むことに非常に慎重になっています」Sorrellは続ける。「QA(品質保証)部門がチートを組み込むこと自体に反対する時もあります。なぜならこのようなチートは予期しない形でゲームを台無しにする方法を提供してしまう可能性があるからです。ですので、独自のQAが必要になっているのです」
また、最後になったが、販売側がヒントや裏ワザを収入源として考えているという点もある。彼らはゲームの難易度をマネタイズしようとしているのだ。Sorrellが説明する。「攻略ガイドも関係しているでしょう。ガイド制作者側は攻略ガイドの収入を失わないようにするために、販売側にチートを控えるように働きかけているはずです。そして当然ながら販売側の多くはゲーム内課金も狙っています。アンロックするためにお金を払ってくれる人がいる中で、チートを組み込む必要はありませんよね」またSeavorもこの傾向を認識している。「大手販売側はチートをダウンロードコンテンツとして販売できることに気が付いています。今は特殊な銃が欲しくても、チートでアンロックすることは不可能です。欲しいならお金を払ってくださいという話なのです」
チートコードの消滅を嘆く人が多いが、Sorrellは今のゲーム開発の状況を考えれば、プレイヤーにチートは必要ないだろうと考えている。ゲーム業界は成熟して次のステージへ進んでおり、チートでゲームの自由度を高める必要はなくなったのだ。
「お気楽な開発側によって組み込まれたチートやボーナス機能で省略していた部分に素晴らしいゲームオプションを見いだし、これまでになかった多様性と親しみやすさを得たのです」
「組織化された現代の開発環境によって、技術的な側面を好むプレイヤーたちが夢に描いていたような自由度を与えてくれるMOD機能がビッグタイトルに組み込まれるようになりました。またゲームデザインは “チャレンジするゲーム” からより純粋な “エンターテイメントとしてのゲーム” へと大きく変化しました。これによりゲームデザイナーはプレイヤーのゲーム体験の質を重視するようになりましたが、これは個人的には良い傾向だと思っています。非情な難易度の『Demon’s Soul』や『 Dark Souls』などを考えれば、この傾向が行き過ぎているのではという意見は当然ありますが、高額な投資を最大限回収するのにチートコードは必要ないという考えはベストな判断と言えるでしょう」
またSeavorはチートコードの魅力は、ゲーム内のすべての隅や隙間を探し回った時間の長さと関係が深いと考えている。「今は売られているゲーム数が多過ぎるため、プレイヤーたちはチートコードを色々試すような時間がないのです。チートはほんの僅かな差を生むだけですしね。私が若かった頃は、完全クリアを目指していました。ゲームを完全制覇したかったのです。今はそういう時代ではありません。しかし、私はチートコードをゲーム内に組み込み続けるつもりです。それを楽しみにしている人たちが少なからずいますから」このようにチートコードが何らかの形で生き残っているという事実は心温まる話だが、次世代機のプレイヤーにとっては、ゲーム業界が今とは全く違った時代へのロマンティックな回帰に思えるだけだろう。