トレイ・ハーディは十種競技(デカスロン)に夢中だ。彼はこのスポーツの頂点に辿り着くべく日々努力を重ねている。十種競技に含まれる各競技はそれぞれがユニークなチャレンジを要求するもので、この過酷な競技に参加するアスリートには息をつく暇も与えさせない。丸1日休息できる日など滅多になく、少しでも練習を怠れば成功の2文字が遥か遠くへ逃げ去っていく厳しい世界だ。
それでも、ハーディはこのスポーツが持つ魅力に駆り立てられている。2012年ロンドンオリンピックで銀メダルを獲得した彼が言うには、十種競技というスポーツが与えてくれる喜びは、過酷極まりないトレーニングに「100%値する」ものだそうだ。まずは以下の映像をチェックしてもらいたい。ここでは、ハーディ自身が十種競技に含まれるすべての競技 ― 100m走、走り幅跳び、砲丸投げ、走り高跳び、400m走、ハードル走、円盤投げ、棒高跳び、やり投げ、1500m走 ― を簡単に説明してくれている。この映像を見たあとで、以下の世界一流の十種競技アスリートへの独占インタビューを読んでもらいたい。
RedBull.com:素朴な質問ですが、十種競技の何があなたを駆り立てるのでしょう?
トレイ・ハーディ:思うに、僕ら人間には完全主義者的な願望があるんだ。十種競技を完全に極めた人間はまだひとりもいないけどね。アスリートはたった100分の1秒を削ったり、数センチを伸ばしたりするためだけに多大な努力を重ね、その記録が目標に届こうと届くまいと、「あそこでああすればもっと記録を伸ばせたのに」と必ず後から振り返ったりするだろ? これって、僕ら人間の中に潜む「完全」への欲求が生み出す気持ちだと思うんだ。つまり、パーフェクトでなければ受け容れられないのさ。とは言っても、何をもって「完全」とするかは非常に定義が曖昧だよね。だって、本当の意味で「完全」になれた人間なんていないんだからさ。
十種競技を行うためには、そのすべての競技を練習しなければなりません。非常に複雑な練習を重ねていると思うのですが?
ひとことで言えば「過酷」だよ。支払う代償に対して人一倍寛容でなければならない。でも、その先の充足感はその努力に100%値する。朝、決まった時間に目を覚ますと、今日こそは休みたいって心底思うよ。でも、休日なんて1日たりとも許されない。その日こなすべきトレーニングメニューがいつだって目の前にある。しかも、そのひとつひとつがハードなんだ。徹底した厳格さを求められ、ときにはひたすらそれを反復することを要求される。トレーニングはメンタルも疲弊する。メンタルを健康に保つだけでもひと苦労さ。1種類の競技のトレーニングだけでも難しさと苦痛が伴うのに、それが10倍になるんだからね。
そうした苦難をやり遂げた後に得られる達成感はどれほどのものなのでしょう?
その過酷なプロセスに100%値する喜びが待っているよ。でなければ、こんな競技はやる人はいないはずさ。ゴールの瞬間は本当に純粋な充足感に満たされる。自分がベストを尽くせたという手応えがあれば、更に満たされた気持ちになる。表彰台で終えられたときは、まさしく天にも昇るような気持ちだね。
肉体的にもかなり疲労すると思いますが、どのようにして回復を図るのでしょう?
とにかく何もしないってことに尽きるね。昂った感情を少し落ち着かせて、ささやかなお祝いをするんだ。僕らには休息できる期間はあらかじめ決められていて、それはシーズンを自分がどう過ごせているかによって変わる。いずれにせよ、休息は絶対に必要だ。通常は、次にどんな大会が控えているにせよ、所定の休息期間が終わったらランニングと軽めのワークアウトを再開する。大会を終えて6日後からだね。この場合はさほど激しいトレーニングをするわけではなく、血液を全身にくまなく巡らせる程度にしておく。そして、大会を終えて9日目か10日目に通常の半分くらいのトレーニング量へ戻すんだ。大会を終えて2週間もすれば、体は完全に回復しているよ。
好きな競技と苦手な競技があると思いますが、それぞれの理由を教えてください。
一番好きな競技は、間違いなく棒高跳びだね。バーを掴みながら目一杯高いところを目指し、高さ18フィート(約5.4m)から一気に地面へ向けて落下する満足感は最高さ。助走路から全速力で加速し、手に持ったバーに迷いなく全ての信頼と集中を結集し、宙返りしながら地面に落下するこの競技を僕はリスペクトしているよ。
1500m走は最初から最後までメンタルの戦いだ
一番苦手なのは1500m走だね。1500m走は、他の競技と性格が異なるんだ。他の9種の競技はスピードやパワー、瞬発力を競うけど、1500m走はひたすらトラックを周回するだけ。まるでデスマーチ(死の行進)さ。僕は身長が高く、体重も重いから、この競技は不利なんだ。1500mを終えた後は肉体的にも精神的にも疲れる。でも、この前の大会でようやくベストタイムでゴールできた。トラック3.75周ほどの距離とはいえ、走っている間はひたすら自問自答の時間だよ。なぜ自分は十種競技にのめり込んだのか、なぜこの競技をやっているのか… ってね。最初から最後までメンタルの戦いなんだ。
トレイ・ハーディの詳細は本人の ウェブサイトをチェック!