Gaming
フロム・ソフトウェアは1980年代から続く素晴らしい歴史を誇るトップデベロッパーだが、任天堂やセガ、カプコンなどの業界トップと同列で語られることは少ない。
1986年に創業し、主にビジネス用・生産管理用ソフトウェアを開発していたフロム・ソフトウェアが初のビデオゲームをリリースしたのは、創業から約10年後の1994年だった。
そのデビュー作『キングスフィールド』は32ビット機だった初代PlayStationの初期RPGタイトルのひとつとして知られているが、日本国外ではリリースされずに終わり、残りの『キングスフィールド』シリーズ、メカアクション『アーマード・コア』シリーズ、一風変わったファンタジーRPG『エヴァーグレイス』シリーズや『エターナルリング』など、後発のタイトル群も海外のメインストリームファンからの支持を集めることはなかった。
海外のハードコアゲーマーなら、前段の話は当然知っているとし、誇らしげに『アーマード・コア ラストレイヴン』と『Metal Wolf Chaos』の違いを語るだろう。しかし、2018年現在、多くのファンがフロム・ソフトウェアの最高傑作としているのは、『Souls』シリーズだ。
『Demon's Soul』
Sony Computer Entertainmentがパブリッシャーを担当した関係から、2009年にPS3独占タイトルとしてリリースされた『Demon's Souls』はゲーミング業界に大きな衝撃をもたらした。
このゲームは、奥深くてやり応えのあるゲームプレイに、他のプレイヤーを助ける(または倒す)か、先に潜む危険やショートカットを他のプレイヤーに教えるメッセージを残せるという魅力的だがぎこちないオンラインシステムを組み合わせていた。
「この組み合わせが、このゲームの肝なんだ」と切り出すのは、ビデオゲームジャーナリストで『A Brief History of Video Games』の著者として知られるRichard Stantonだ。
「これらの『Souls』シリーズとされる一連のタイトル群を僕が何回もプレイしてきたのはこれが理由さ。シングルプレイヤーとマルチプレイヤーの組み合わせ方が、他の多くのタイトルよりも面白いんだよ。『誰かに邪魔される』という感覚は他のゲームでは得られないユニークなものだね」
宮崎英高が生み出した『Demon's Souls』は、世間で話題になっているが自分はまだチェックしていないテレビ番組のような存在だった。
宮崎は、『キングスフィールド』シリーズの新作として進められていたがフォーカスを絞りきれずに右往左往していたこのゲームの開発に参加すると、方向を定めるべく個人的なアイディアを持ち込み、これが『Demon's Souls』のベースとなった。しかし、方向が定まってもこのゲームはスマッシュヒット候補としては見なされず、日本でのリリースも静かな形で進められた。その運命を変えたのが、プレイヤーたちの口コミだった。
プレイヤーたちはこの謎めいたアクションRPGについて話をせずにはいられなかった。
まず、難易度が非常に高く、さらにはトライ&エラーを繰り返すか、他のプレイヤーと協力しなければ発見できない秘密が山ほど隠されているようにも思えたからだ。そしてこの動きが海の向こうまで広まると、PS3がリージョンフリーだったことも後押しし、アトラスが北米版のリリースに乗り出し、バンダイナムコが欧州版と豪州版をリリースした。その後の経緯は誰もが知っての通りだ。
リスク&リワードの絶妙なバランスが、あらゆる敵やロケーションとの遭遇をスリリングで魅力的なものにしている
『Demon’s Souls』にはのちの『Souls』シリーズに共通するいくつかの重要な機能が欠けているが、このシリーズの基本ルールはこの作品でほぼ確立されている。
プレイヤーは敵を倒すことでゲーム内通貨として使用できるソウルを集め、新しい装備やレベルアップをしていく。しかし、このソウルは「貯金」できないので、死亡(何回も起きる)するとゼロに戻ってしまう。ロケーションによっては、負けた相手に再戦を挑んで勝利を収めればそのソウルを取り戻すことができるが、二度負ければ苦労して集めたソウルは永遠に失われてしまう。
これがシリーズの中核を為すシステムだと断言するのは雑すぎると思う人もいるはずだが、フロム・ソフトウェアのゴシックアクションシリーズを世界的に有名にしたフックだったことは確かだ。リスク&リワードの絶妙なバランスが、あらゆる敵やロケーションとの遭遇をスリリングで魅力的なものにしている。
『Dark Souls』
フロム・ソフトウェアは、この続編を開発する代わりに、基本的なシステムを継承しつつ、Xbox 360版のリリースを視野に入れてSonyとの共働体制を一度リセットし、精神的後継作『Dark Souls』を2011年にリリースすることを決定した。
この判断が、シリーズの海外ファンを増やす呼び水になった。『Dark Souls』には、進捗のセーブやソウルの使用ができるお馴染みの "篝火(かがりび)" が初めて導入され、『Demon's Souls』の単一世界とは異なる、複数の世界で構成される広大な世界も用意された。
そして、それから3年後の2014年に『Dark Souls II』、2016年に『Dark Souls III』をリリースしたフロム・ソフトウェアは、その間の2015年にはSony Computer Entertainmentと再びタッグを組み、ファンタジーをラヴクラフト的悪夢とも言える不気味な世界観に置き換えたオフシュートタイトル『Bloodborne』もリリースした。
そして、2018年5月24日、新世代のプレイヤーたちに『Souls』シリーズを届けるべく、第1作のリマスター版『Dark Souls Remastered』をPS4・Xbox One・PC・Nintendo Switchがリリースされる。
『Dark Souls』はあらゆるタイプのプレイヤーが満足できる珍しいゲーム
『Souls』シリーズを讃える書籍『You Died: The Dark Souls Compnion』を共著したビデオゲームジャーナリストのKeza Macdonaldは、このシリーズの魅力について次のように説明する。
「『Dark Souls』、そして『Souls』シリーズは全てのプレイヤーがそれぞれ異なるプレイスタイルで楽しんでいます。2000年頃に心理学者のグループが開発した『Bartle Test』という、プレイヤータイプを調べるテストがあるのですが、テストを受けると、4種類のプレイヤータイプのどのタイプに近いのかが分かります」
「"Killer" はプレイヤー対プレイヤーの勝負を好むタイプで、"Achiever"は自分のスキルの誇示を好むタイプです。そして、"Socialiser" は他人との繋がりを得るためにゲームをプレイするタイプで、"Explorer" は知識を得たり、発見したりすることを好むタイプなのですが、『Dark Souls』はこの4タイプ全てが満足できる珍しいタイトルなのです」
多種多様なプレイ方法が存在するというのは、このシリーズがなぜ世界中のプレイヤーと強い繋がりを生み出せているのかを説明する大きな理由のひとつだ。そして、このシリーズのプレイヤー層には、普段はそこまでファンタジー色の強いゲームを好まないプレイヤーも多く含まれている。
Macdonaldが説明を続ける。「このシリーズには、正々堂々かどうかを問わず、単純に戦いを好むプレイヤーがいます。その一方で、歴史や謎を解明したり、ストーリーや開発側の意図を読み取るヒントを探す旅に出たりするのを好むプレイヤーもいます。また、友人と一緒にプレイしたり、『Dark Souls』時代から存在する熱心なコミュニティとの関わりを楽しんだりしているプレイヤーも数多くいますし、このシリーズを "試練" として捉えているプレイヤーもいます。『Dark Souls』をクリアすれば、最も難しいとされるゲームのひとつをクリアしたことになるからです」
名作と言われる本を読むのと同じようにプレイするべき
『Bloodborne』に関する情報を、リリースから約3年が経過した今も積極的に投稿してTwitterのフォロワーを喜ばせているRichard Stantonは次のように語る。
「洗練度という意味では、オリジナルの『Dark Souls』と『Bloodborne』は他のゲームより頭ひとつ抜き出ている。むしろ、別次元だね。戦闘をマスターするまでの道のりは長いが、最高の満足感が得られる。注ぎ込んだ時間の分だけ、必ず上達できるんだ」
「名作と言われる本を読むのと同じようにプレイするべきだ。そのような本は、何回も同じ部分を読み返したり、第一印象が覆されたり、世界観に深い興味を持てたりする。フロム・ソフトウェアはディテールへの拘りが半端ないから、テーマやキャラクターについてもっと知りたいと思うプレイヤーにちゃんと応えてくれるんだ」
「AAAタイトルの一般的なイメージは忘れるべきだね。『Dark Souls』と比べれば、大抵のビッグタイトルは "飛び出す絵本" レベルだよ」
独自のプレイヤーインタラクト
フレンドリストやボイスチャット全盛のこの時代に、ゲームデベロッパーがこのようなテクノロジーの恩恵を無視したオンラインプレイを用意するというのはやや不思議に思えるかもしれないが、『Dark Souls』の不器用なプレイヤーインタラクトも、このシリーズをユニークにしている大きな理由だ。
Macdonaldが説明する。「このシリーズは、共同作業とコミュニティの重要性を他にはほとんど見られない形で押し出しています。あまりにも謎めいているので、プレイヤーたちはオンライン上に集まって知恵を出し合ったり、知識をシェアしたりしなければ、謎が解けないのです」
プレイヤー同士が永遠に続く友情を築いたり、他のプレイヤーに助けてくれたお礼を長々と述べたりすることはできない
かつて、宮崎は『Demon's Souls』のリリース時に、このユニークなプレイヤーインタラクトは凍結路での体験からインスピレーションを得たものだとしていた。凍っている登り坂で全ての車が下がり始めたが、一番下の車が他の車を押したことで、全ての車が無事坂を登り切ったのだ。登り切ったあとに他の車にお礼を言えなかったことを後悔していると続けた宮崎は、この体験を「行きずりの人たちの助け合い運動」と表現している。
『Souls』シリーズにはこのアイディアが持ち込まれている。このシリーズでは、プレイヤー同士が永遠に続く友情を築いたり、他のプレイヤーに助けてくれたお礼を長々と述べたりすることはできない。このような制限があるにも関わらず、協働は『Souls』シリーズの魅力のひとつであり続けており、各タイトルの "全て" を知りたいと思っているプレイヤーには特に大きな魅力となっている。
Macdonaldが続ける。「『Dark Souls』にこの要素がなければ、ここまでの人気は獲得していなかったでしょう。わたしは何年も『Souls』シリーズのプレイヤーと会話を重ねてきましたが、毎回予想外の驚きや琴線に触れた瞬間を話してくれるので面白いですよ」
主人公はヒーローではない
『Souls』シリーズが他とは一線を画しているもうひとつの要素が、このシリーズのヒロイズムが、一般的なビデオゲームのそれとは大きく異なっているという点だ。
多くのアクションタイトルの主人公は、困難な状況に置かれてはいるが、基本的には敵よりも装備・スピード・パワーに優れている。つまり、ある程度最初からプレイヤーの勝利は決まっているのだ。
しかし、『Souls』シリーズは違う。
Macdonaldが説明する。「大半のゲームは、他の人気エンターテインメントと同じで、受け手に何でも噛んで含めようとします。ビート(Beat:映画用語。ストーリーにアクセントや変化を加えるイベントやシーンのこと。ハリウッド映画では1本平均約40のビートが用意されると言われている)を大量に用意し、作り手の意図を小出しにしながら、その世界の "ルール" を教えていきます。ですので、プレイヤーが難解だと思うことはまずありません。作り手はプレイヤーにその世界の "王" だと思ってもらいたいのです。パワーファンタジー(Power Fantasy:弱者の願いを叶えるファンタジー)と言えますね。プレイヤーを喜ばせることが前提なのです」
「一方、『Dark Souls』は、プレイヤーがどれだけ非力に感じていようと、手を差し伸べることはありません。『Dark Souls』では、学びたいという意志を持ってトライ&エラーを繰り返すことでしか、何かを得ることはできないのです」
プレイヤーがどれだけ非力に感じていようと、『Dark Souls』が手を差し伸べることはない
「この説明では、『Dark Souls』をまるでテストのように思う人もいるかもしれませんが、このゲームの世界に自分を合わせれば、深くのめり込むことができます。ルールを学び、悲劇的な世界を探索して謎を解いていけば、喜びを得られるばかりか、啓蒙さえ受けます。アクション、知性の両方で満足度は非常に高いですね」
「大半のゲームでは、ヒーローとしてスタートし、マスターになって終わります。『Dark Souls』では無名の存在としてスタートし、ほぼ無名の存在として終わります。ゲームの熟練度が自分の評価に直接関わってきます。これがゲームデザインにしっかりと盛り込まれているので、プレイヤーは時としてすでに訪れた場所を再訪し、かつて自分を何回も死に追いやったクリーチャーやロケーションを相手に成長した自分のスキルを試すことができます。ですが、本当の意味で "自分は強い" と感じることはありません。学べる部分は常に残されています」
複雑で重厚な世界
『Souls』シリーズの魅力が、ユニークなオンラインシステムとやり応えはあるが無慈悲なゲームプレイにあると結論づけるのは簡単だ。しかし、これでは宮崎とフロム・ソフトウェアの作品を過小評価していることになる。『Souls』シリーズの各タイトルには、J・R・R・トールキンが書いたのではと思っても仕方がないほどの重厚で複雑な世界も用意されている。
しかも素晴らしいことに、ちょっとした部分でお互い繋がってはいるが、『Souls』シリーズの各タイトルにはそれぞれ独自の世界が用意されている。そして、どんなに小さなアイテムにもしっかりとしたバックストーリーが用意されている。
『Souls』シリーズには、J・R・R・トールキンが書いたのではと思っても仕方がないほどの重厚で複雑な世界が用意されている
Stantonが説明する。「『Dark Souls』トリロジーには当然ながらいくつかの繋がりがあるけれど、『Bloodborne』と『Demon's Souls』にも他のタイトルとの繋がりが確認できる。その中で最も顕著な例がNPCの "パッチ" だね。でも、真の意味では繋がっていない」
「この『Demon's Souls』のボーレタリア王城は『Dark Souls』のロードランだ、または "Bloodborne" という言葉は『Dark Souls III』の "闇" だ、などと書かれている長大な論説を読んだことがあるけれど、一部のストーリーマニアには、メタの引用やテーマの反復を、全作品共通の大きなテーマとして捉えてしまう傾向がある」
しかしこれこそが、このシリーズが世界中で愛されている理由のひとつと言える。プレイヤーの想像力で補完して欲しいと訴えてくるナラティブの大きな隙間も、このシリーズの大きな魅力だ。
Macdonaldが語る。「『Dark Souls』で個人的に気に入っているのは、その不明瞭さです。宮崎氏は、ゲーム内に用意した物とそれに対するプレイヤーの受け止め方の距離に興味を持っています。プレイヤーが飛び込める "真空" を故意に用意しているのです」
「わたしは自分なりの意味を見出せるアートが好きです。『Dark Souls』ファンは、作品の中に自分なりの意味を見出すために何年も費やしてきました。キャラクターの背景やプレイヤーが訪れる前のロードランに何が起きたのかなどについて自説を用意しています」
偉大な文学作品と同レベルのタイムレスな魅力と奥深さを感じられる唯一のビデオゲーム
「中には説得力のある説もありますが、このシリーズには明確な答えや決定的な答えはほとんど存在しません。わたしはここが気に入っています。『Dark Souls』に惹かれ続けている理由です。わたしは、多くのプレイヤーが集まって大きな謎を解き明かそうとしている様子を素晴らしいと感じています。『Dark Souls』はこのような長期的な調査に耐えられる、そしてそこから恩恵を受けている唯一のゲームだと思います」
「わたしは大学で比較文学について学びましたから、このような比較分析に目がないんです。『Dark Souls』について学べば学ぶほど、このゲームへの感謝の気持ちが強くなります。偉大な文学作品と同レベルのタイムレスな魅力と奥深さを感じられる唯一のビデオゲームです」
『Dark Souls Remastered』と新作への期待
『Dark Souls Remastered』は、我々のこのシリーズへの愛に再び火を付けてくれるだろう。しかし、Macdonaldは、『Dark Souls』トリロジーへのファンの熱い気持ちが、フロム・ソフトウェアと宮崎を束縛しているのではないかと感じている。
「宮崎氏は、数回に渡り『Dark Souls』シリーズは自分の中では終わっているとコメントしています。わたしは、『Dark Souls II』や『Dark Souls III』は彼が本当に作りたかった作品として捉えていません。実際、彼は『Dark Souls II』の開発にはほとんど関わっていません」
「バンダイナムコは、できる限り多くの本数を売りたいと思っているはずですが、シリーズを追うごとに作品のソウルと呼べる部分が小さくなっているように感じます。『Dark Souls II』、『Dark Souls III』、『Bloodborne』はかなり大きく異なる作品です。『Bloodborne』には宮崎氏の新しい情熱が感じられますが、『Souls』シリーズからはそのクリエイティブな情熱が失われているように感じられます」
フロム・ソフトウェアの次の一手に世界中のファンが注目している
Stantonも同意する。「『Souls』シリーズは、単体作品で真の魅力が発揮されると思う。だからまた単体作品がプレイしたいね。別のトリロジーではなく、他の作品とは繋がっていない単体作品をね。あと、これは傲慢なのかも知れないけれど、宮崎英高の参加は絶対条件だ」
『Souls』シリーズの生みの親である宮崎は、このシリーズの成功を受けて、プランナーから社長にまで出世した。つまりこれは、フロム・ソフトウェアの今後の作品に彼が関わる割合が少なくなる可能性を示唆している。また、Macdonaldの発言にあった通り、本人が『Souls』シリーズから離れて、新作タイトルに関わりたいという希望も口にしていることを踏まえると、シリーズの未来は不透明だ。
再び『Bloodborne』のようなワンオフタイトルがリリースされるのだろうか? それとも『Dark Souls Remastered』のリリースは続編の登場を示唆しているのだろうか? どうなるかは分からないが、フロム・ソフトウェアの次の一手に世界中のファンが注目しているのは確かだ。
『Dark Souls Remastered』はNintendo Switch・PS4・Xbox One・PCで2018年5月24日にリリース予定。
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