Image of Baba Is You on Nintendo Switch
© Hempuli Oy/Red Bull Games
ゲーム
『BABA IS YOU』:ルールを動かしてルールを変える不思議なインディーパズルゲームの魅力
ゲームのルール自体を変えてクリアしていくパズルゲーム?? ちょっと何を言っているのか分からないキュートで高難度なカルトヒットについて開発者が語った。
Written by Jamie Stevenson
読み終わるまで:13分Published on
我々ビデオゲームファンは苦難の時代を迎えている。
断っておくが、リリース数が少ないからではない。大手スタジオやインディーデベロッパーたちは我々がこれまでに経験したことがない素晴らしい快感を得られる、壮大で刺激的な作品を次々とリリースしている。
それでも、やはり我々は苦難の時代を迎えている。
なぜなら、そのようなデベロッパーの多くが非常にユニーク(=残酷)かつ斬新な方法で我々に挑み続けているからだ。そして正直に言えば、我々の中にこの苦難から解放されたいと思っている人はひとりもいない。
最新作『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』も素晴らしかった “ソウルズボーン” シリーズやピクセルアートのプラットフォーマー『Celeste』など、ドMゲーマーたちはたとえ白髪が増えることになろうとも、恐ろしく高難度なビデオゲームを愛してきた。
そして、Hempuli Oyが開発した頭がねじれるような、既存のルールを完全に破壊するパズルゲーム『BABA IS YOU』も間違いなくこのカテゴリーに入る作品のひとつで、リリース直後からその奇妙なアートワークと頭をかきむしりたくなるようなパズル、そして鬼の難度で多くのプレイヤーを魅了している。
『BABA IS YOU』がどのようなゲームなのかを説明するのはそのプレイと同じくらい難しいので、解説はオフィシャルウェブサイト(とこちらの日本語動画)に任せるが、ウェブサイトの言葉を借りながら一応簡単に説明しておくと、これは「プレイヤーが従わなければならないルールはオブジェクトのようにステージに配置されており、それらを移動させてルールやクリア目標を変えたり、驚きのインタラクションを生み出したりする」ゲームだ。
今回は『BABA IS YOU』のクリエイターArvi Teikariをキャッチして、ルールを変えるというユニークな特徴やNintendo Switch版をリリースした理由、近年最高のパズルゲームのひとつを生み出したHempuli Oyの次の一手などについて語ってもらった。

高難度 IS NOT 重要

まず、Teikariはビデオゲームの「難易度」についての自分の考えを次のように述べている。
「僕は “高難度” を最重要要素として捉えていません。もちろん、『BABA IS YOU』の開発中にニヤけながら “これを解くのは相当骨が折れるぞ” と思ったことは何回かあります」
「ですが、プレイヤーのために用意したステージ内の仕掛けについては、ただ難しいかどうかではなく、僕が満足できるかどうか、仕掛けが巧妙かどうかを重視することが多かったですね」
「ステージの仕掛けの巧妙さと難易度はある程度密接に関連しているとは思いますが、僕はこのようなアプローチで開発していきました。ですので、気がついたら自分が考えていたより難しいゲームになっていたというところです」
では、イージーモードの実装は考えなかったのだろうか? Teikariは次のように続ける。
「多くのゲームジャンルに分かりやすい難易度調整機能が備わっています。たとえばアクションゲームなら、被ダメージ量やスピードなどに任意の数字を入力して調整しても、ゲーム全体には影響が出ないようになっています」
「ターン制のパズルゲームにはこのような変数項目がないので、難易度調整が複雑な作業になることが多いのです。少なくとも技術的には簡単ではありません」
「この『BABA IS YOU』の開発中に、難易度調整が難しいならヒント機能を実装したらどうだというアドバイスを何回か受けましたが、ヒントを表示する方法を上手く編み出せるのなら、現時点ではこれがベストソリューションになると思います」
「ヒントは文章ではなくイメージ画像で示したいですね。細部の調整が済み次第、この機能の実装に取りかかる予定です」
Teikariは難易度についてはかなり真剣に取り組んでいるようで、さらに話を続ける。
「難易度から派生する問題のひとつがアクセシビリティです。『BABA IS YOU』にはコントラストの強調をはじめとするアクセシビリティ系機能がいくつか実装されていますが、ゲームシステムのアクセシビリティを向上させるべきだというアドバイスをいくつか受けています」
「僕はゲームシステムのアクセシビリティの向上は難度を下げるのに役立つだろうと思っています。たとえば、ルールを変更するとヴィジュアルエフェクトが発生しても良いのではないかというアドバイスを受けましたが、これを実装すれば、複雑なステージで何が起きているのかが把握しやすくなるので、結果的に高難度のステージの攻略が少し楽になります」
「これは『Celeste』をはじめとするいくつかのビデオゲームがすでに証明していますが、アクセシビリティを向上させても、高難度が好きなプレイヤーの気持ちを大きく傷つけることはないですし、逆に他のプレイヤーたちも楽しめるゲーミングエクスペリエンスを生み出せます」

ルール IS すべて

『BABA IS YOU』はルールがすべてだ。こう書くと、これからこのゲームで楽しい時間を過ごそうと思っている人は窮屈に感じるかもしれない。
しかし、“ビデオゲームのルールそのもの” を変える自由をプレイヤーに与えようとしているこのゲームは、非常にユニークなゲーミングエクスペリエンスを提供してくれる。Teikariが説明する。
「今回『BABA IS YOU』のテストフェーズの大半は、面白味に欠ける解法の削除に費やされました。このフェーズを通じて製品版に収録されているほぼすべてのステージに変更や修正を加えました」
「また、ステージデザインフェーズでは、すべてのステージがゲームシステムそのものに影響を与えるように、または新しいインタラクションを生み出せるように配慮しました」
「そのような新しいインタラクションを生み出すために全体を大きく動かしていく必要があるステージがいくつかあるのですが、そのようなステージではこちらが意図していなかった “別の解法” が生まれる確率が高まります」
「ですが問題は、そのような “別の解法” の多くが同じアプローチを用いているので、これらをゲームの中に残しておくと、ゲームプレイ全体が退屈になってしまうところにあります」
「プレイヤーに “似たような解法” を何回も示してしまえば、プレイヤーはこちらが意図していた興味深い解法を導き出そうとしなくなります」
『BABA IS YOU』は「ルールを変えるゲーム」
『BABA IS YOU』は「ルールを変えるゲーム」© Hempuli Oy
しかし、ルールを自由に変えられる『BABA IS YOU』のオープンな構造は、プレイヤーたちに開発側が考えてもいなかった解法を見つけさせているのではないだろうか? Teikariが続ける。
「 “別の解法” というコンセプト自体は非常に興味深いですし、プレイヤーにこれらを見つけさせるように仕向けて、先ほど話した “似たような解法” のループに陥らないようにするのはグッドアイディアです」
「ゲーム前半は、こちらが意図していなかった退屈な解法でも、プレイヤーはまだフレッシュなので面白いと思ってくれます。また、こちらが意図していなかった退屈な解法と、こちらが意図していた面白い解法から "同じ学び" が得られるケースもあります。アプローチが違うだけで本質は同じというわけです」
「少し似た話ですが、後半に進むと、こちらが意図していた解法と部分的に被っている “別の解法” が用意されているステージもあります。このようなステージは、“別の解法” が残されていることで深みが増しています」
「ですが、基本的に『BABA IS YOU』は後半に進むとパズルがより具体的になっていくので、徐々に “別の解法” が入り込む余地がなくなっていきます」

ルーツ IS ゲームジャム

『BABA IS YOU』をプレイしていくと、やがて2つの疑問が頭の中を巡るようになる。「どうやって解けば良いのだろうか?」「どうやってこのゲームを考えついたのだろうか?」 − 有り難いことにTeikariは後者について次のように回答している。
「2017年に参加したNordic Game Jamがきっかけでした。Nordic Game Jamは年1回デンマークで開催されているゲームジャムで、参加者はひとつのテーマに沿ったゲームを48時間で開発します」
「2017年のテーマは “Not There(そこにない)” だったので、“Not(ない)” をロジックとしてどう機能させていけば良いのかについて考えていきました。たとえば、“Not X(Xではない)” と書けば “X” の意味がひっくり返ります」
「このようなロジックに、それまでプレイしてきた複数のパズルゲームから得たインスピレーションを組み合わせました。『Snakebird』(Noumenon Games)、『Stephen’s Sausage Roll』(increpare games)、『A Good Snowman Is Hard to Build』(Draknek)、『ゼリーのパズル』(Qrostar)などです」
「そのあとで、“ICE IS NOT MELT” と書くことで溶岩の近くでも解けない氷のイメージが頭に浮かびました。ですが、このアイディアに自信はありませんでした」
「技術的な問題が生じるか、プレイしていて楽しくないコンセプトになるだろうと思っていました。ですが、最終的にはプロトタイプを作ることにしました。そこからすべてが始まったんです」
キュートなルックスだが高難度
キュートなルックスだが高難度© Hempuli Oy
このプロトタイプの開発が好結果に繋がった。
『BABA IS YOU』はリリースと同時にメディアから高評価を得ると同時に、その魅力に取り憑かれた熱心なファンを多数生み出すことになった。
Teikariもリアクションに驚いたのではないだろうか?
IGF(Independent Games Festival)IndieCubeなどでのリアクションからある程度『BABA IS YOU』の仕上がりには自信を持っていました。ですが、ここまで盛り上がるとは思ってもいませんでしたね」
「自分が想像していたよりも高難度なゲームになりましたし、アートスタイルもミニマリスティックだったので、ここまで盛り上がったのは想定外でした。また、パズルゲームは他のジャンルよりストリーミングに向いていないという点もネックになると思っていました」

インスピレーション IS インディー

『BABA IS YOU』のような特異なビデオゲームに先輩がいるというのは考えにくい話だが、Teikariは、自分の奇妙なゲームデザインには前例があるとしている。
「先ほど紹介したNoumenon Gamesの『Snakebird』が『BABA IS YOU』のゲームデザインに最も大きな影響を与えた作品だと思います」
『Stephen’s Sausage Roll』や『A Good Snowman Is Hard to Build』『ゼリーのパズル』からも影響受けていますし、『Pipe Push Paradise』(Corey Martin)と『Corrypt』(smestorp)のようなパズルゲームからもインスピレーションを得ています」
「 “ブロックを動かしてクリアするターン制パズルゲーム” という『BABA IS YOU』のアーキタイプはこれらの延長上に位置しています」
「アートに関してはPetri Purhoが開発した『Crayon Physics Deluxe』からインスピレーションを得ています。また、このゲーム以前にリリースされた作品からもインスピレーションを得ています」
『Braid』(Number None)はヴィジュアル的にはまったく似ていませんが、リリース当時はパズルゲームとしてのゲームデザインの秀逸さに驚かされました。ですので、当時の影響が『BABA IS YOU』に残っていると思います」

BABA IS Nintendo Switch

理由を説明するのは難しいが、『BABA IS YOU』のNintendo Switch版のリリースにはまったく驚かなかった
任天堂が開発したハイブリッドゲーム機は多くのインディータイトルにとって居心地の良いホームとなっているからだ。
そしてその優れた携行性によって、現在『BABA IS YOU』は『数独』の代替ゲームとして移動中に楽しまれている。
では、Nintendo Switch版のリリースはいかにして実現したのだろうか? Teikariが説明する。
「いとこがスーパーファミコンを持っていたので、小さな頃から任天堂製ゲームのファンでしたし、彼らのゲーム機で自分のゲームをリリースするのはとても素敵なことに思えました」
「また、『BABA IS YOU』の操作は非常にシンプルですし、ステージで区切られているので、移動中にプレイするのに最適です」
「任天堂の皆さんにもかなり助けてもらいました。Gamescom 2018Nindies Showcaseで紹介してもらいましたし、公式YouTubeチャンネルでも取り上げてもらいました。本当に感謝しています」
シンプルな英単語を移動させて文章を変えることでゲームのルール自体を変えていく
シンプルな英単語を移動させて文章を変えることでゲームのルール自体を変えていく© Hempuli Oy
他のプラットフォームでのリリースは予定しているのだろうか? Teikariは次のように回答している。
「まだ何も約束できませんが、モバイル版がリリースできたらクールですね。ですが、まずはリリース済みのバージョンの機能を100%まで仕上げることに集中して、仕事量を無理ない範囲に留めておきたいです」
Hepuli Oyの次の作品についてTeikariは、『BABA IS YOU』はまだ生まれたばかりのベイビーなので、まずは今後予定している機能の追加や修正パッチのリリースに取り組んでいく予定だとし、次のように補足する。
「予定している新機能の中で最大と言えるのが、ステージデザイン機能ですね。ですが、すべてのプラットフォームで問題なく機能する正式なステージエディターを用意するまではかなり時間がかかると思います」

BABA IS NOT 最後

Teikariは『BABA IS YOU』以降の予定について次のようにコメントしている。
「『BABA IS YOU』の開発に集中するために開発を中止したプロジェクトがいくつかあります。これらの開発を再開させたいですね」
「また、『BABA IS YOU』にすべてを費やすようになる数年前はゲーム開発のストリーミングを毎週していたので、新しいプロジェクトと一緒にこちらも再開させることができればベストですね」
大学の勉強を終える必要もありますね(笑)。ゲームジャムなど、自分の小さなアイディアを試すチャンスはこれからも常にあると思います」
『Baba Is You』はPCMac・Nintendo Switchで好評発売中(Nintendo Switchは2019年5月現在海外のみ)。
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