“ハートアタック” や “バックフリップ・ツナミ” など物理法則に反した超絶トリックをメイクするために、FMXライダーたちがどのようにマシンをチューンアップしているのか知りたいと思った経験はないだろうか?
フリップレバーからサスペンションのセットアップまで、トップクラスのFMXライダーたちは愛車の様々な部分に手を加えている。
今回は、必須のチューンアップやアフターマーケットパーツなど、市販モトクロッサーを本格的なコンペ仕様FMXマシンへと変貌させるための様々なポイントを解説していこう。
バイク本体のチューンアップ
《サスペンション》
通常のモトクロスをFMXマシンにコンバートする際に最も重要なポイントになるのがサスペンションだ。
FMXのジャンプは大きいので、サスペンションは高さ40フィート(約12m)からの着地に耐えられる固さを備えている必要がある。
高性能なサスペンションなら、ビッグジャンプの高さや距離がパーフェクトではない時にライダーの腕や脚を骨折から守ってくれる。また、適切にセットアップされたサスペンションなら安定していて水平なジャンプができるので、トリックがメイクしやすくなる。
固いサスペンションセットアップは、固いスプリングと粘性の高いオイルの組み合わせによって得られる。一般的なスプリングフォークならダイヤル操作で減衰力が調整できる。エアフォークでも同様の操作で空気圧を調整できる。
プロのサスペンションチューナーの元に持ち込み、FMX用セットアップを依頼するのがベストだろう。
《ギア》
スタンダードなギアセットを使用しているFMXライダーもいれば、リアスプロケットの歯数を追加しているFMXライダーもいる。
リアスプロケットの歯数を増やせば、バイクの加速がよりアグレッシブになり、ランプからの飛び出しスピードが向上する。
《ジェッティング(2ストローク)》
プロ仕様の2ストロークFMXバイクは、標準の燃焼よりややリーン(薄い)にするために “ジェッティング” と呼ばれるキャブレター調整が施されている。
ジェッティングを施されたエンジンはレスポンスが向上するため、ランプからの飛び出しに向けて最大限の加速を得られる。また、ボギング防止や、ランプへのアプローチでのパワートランスファーのタイムラグ防止にも役立つ。
《グラブホール / 樹脂パーツ》
グラブホールの追加はFMXならではのチューンアップだ。
シート下の樹脂パーツに自分で切り込みを入れれば、ハートアタックやロックソリッド、ホーリーグラブなどの “グラブ系トリック” がメイクできるようになる。また、グラブホール加工をしたモトクロッサーは一気にFMXマシンらしいルックスになる。
カットする前に切り込みを入れたい部分にマジックで印をつけておけば、思い通りの形状に仕上げられるだろう。
《シート》
グラブホールの加工に比べるとこちらは地味な作業だが、シートフォームのカットはFMXライダーが手作業で行っている。
シート高を低く抑えれば、ライダーがバイク上で脚を左右に振りやすくなる。また、低いシートはシートグラブのメイクがかなり楽になる。
シートの加工には数種類のツールが使用できる。電動サンダーを使用するライダーもいるが、パン切りナイフなどのシンプルなツールを使うライダーもいる。どちらも後片付けが面倒なので、作業前に新聞紙などを床に敷いておこう。
《ケーブル》
FMXでは、特定のトリックメイク時にハンドルバー上で手足を動かすことになるので、ブレーキ / クラッチ / スターター用ケーブルをタイラップでまとめておくのはグッドアイディアだ。
ケーブル類をまとめておけば、ジャンプ中にブーツが不用意に引っかかってしまうような事態は起きない。
アフターマーケットパーツ / オプションパーツ
《エキゾースト》
パフォーマンス仕様のエキゾーストシステムを装着すればパワーとノイズがアップするので、加速できる直線が少ないタイトなFMX用コースでビッグジャンプや加速がしやすくなる。また、バイクのルックスとサウンドがよりクールになる。
《ハンドルバー》
FMXではジャンプサイズが特大なので、ハンドルバーは可能な限り頑丈でなければならない。そのため、標準のハンドルバーでは役に立たない。
FMXライダーの多くは、バーホップやデッドボディなどのトリックをメイクしやすくするためにPro Taper EvoやTag T2のようなライズ量が大きく、クロスバーが存在しないタイプのハンドルバーをチョイスしている。
また、フリーライド系のライダーやハンドルバーに足を通さないFMXライダーは、Renthal Twinwallなどの堅牢でクラシックなタイプのモトクロッサー用ハンドルバーをチョイスしているようだ。
ハンドルバーには様々な形状・曲げのオプションが存在するため、実際に地元のモトクロスショップに足を運び、様々なブランドの製品を比較した上で自分に合ったものを選ぶのはグッドアイディアだ。
《ステアリングダンパー》
全FMXライダーに欠かせないステアリングダンパーこそ、FMXマシン最大の秘密だ。小型だがライダーの生命に関わってくるこのデバイスは、FMXのセットアップに大きな違いをもたらす。
ハンドルバー直下に装着されるステアリングダンパーは、トリックメイクでバイクを上下逆さまにしたり、足をハンドルバーに引っ掛けたりした時にハンドルバーを適切なポジションにキープしてくれる。
FMXライダーの大半はGPR製ステアリングダンパーをチョイスしている。
《フリップレバー》
フリップレバーも本格的なFMXマシンに欠かせないアイテムだ。
フリップレバーは、キス・オブ・デス・バックフリップやナイン・オクロックなどのトリックメイク時にバイクとの接点をキープしてくれる。
ヨーロッパではKlayverやIron PunkなどのブランドがFMX用フリップレバーをハンドメイドで製作しているので、バックフリップ系やハングオフ系のトリックをメイクするタイプのライダーはチェックしてみよう。
《フットレバー》
フットレバーはフリップレバーほどFMXシーンに浸透しているアイテムではないが、予想以上に多くのライダーが使用している。フットレバーはフレームに装着されており、ライダーが立つペグの真上に位置している。
フットレバーがあれば、リクライナー(別名:パストラーナ)や、ノーハンダー・バックフリップのメイク時に片足を残して安全にバイクを自分から離せるようになる。
Klayverなどのフリップダウン機構を備えた複雑なフットレバーを使用しているライダーがいれば、金属バーをフレームに直接溶接しているライダーもいる。
フットレバーを使わないライダーの中には、ギアシフターの裏側に鋸状の歯を溶接してフットレバーの代わりにしているライダーもいる。
《フットペグ》
標準のフットペグから軽量でワイドなペグへの換装は、初心者、プロを問わず、あらゆるFMXライダーにとって素晴らしい投資になる。
ワイドなフットペグは、着地時の足へのインパクトを分散させ、表面積を増やすので、ツナミなどのトリックメイク時にペグを見失う確率が低くなる。また、高品質なフットペグは優れたグリップをもたらす。
《グリップテープ》
ほとんどのFMXライダーは、バイクの特定の部分にスケートボード用グリップテープを貼り付けてバイクのトラクションを高めつつ、グリップとコントロール性能を向上させている。
フレーム、フォークチューブのトップ、グラブホール、サイドパネルに貼り付けているライダーが多い。
《シートカバー》
FMXでは、シートカバーのグリップが高ければ高いほどベターだ。シートカバーには様々な構造や形状、カラーなどの選択肢が存在する。
プロライダーの多くが、Thrillseekersなどのブランドがリリースしているカスタムシートカバーを採用している。
《グラフィック》
ここまで説明したチューンアップがすべて完了したら、次はクリエイティビティを発揮しよう。FMXはスタイリッシュさがすべてだ。クールなカスタムグラフィックキットは愛車の注目度を高めるだろう。
FMXチューンアップのイノベーターたち
FMXマシンの進化とカスタマイズをネクストレベルへ高めているライダーが2人いる。トム・パジェスとリーバイ・シャーウッドだ。
彼らは自分たちのマシンに大規模なチューンアップを施して、最大限の軽量化を実現している。ダブルバックフリップ、フロントフリップ、フレア、ウィップなどのトリックは軽量なマシンの方がメイクしやすい。
ネクストレベルのFMXマシンを手に入れたいのなら、彼らのスタイルを大いに参考にするべきだろう。
トム・パジェスはフランスのDragonTekの助けを借りて画期的なFMXマシンを製作した。彼らは史上最軽量クラスのFMXマシンの実現に成功している。
カスタムメイドのカーボン製タンクとサブフレーム、削り出しのコンポーネント類を採用し、さらにはチタニウム製ハードウェアを追加して樹脂パーツをカットしている彼らは、バイクの総重量を15kgも削り取っている。
一方、ニュージーランドに目を向けると、Red Bull / KTMライダーのリーバイ・シャーウッドはカスタムメイドのカーボンパーツでマシンを武装する作業に余念がない。
自らが代表を務めるShogun Carbonと共にリーバイはKTM SX 250を89kg(燃料・オイル込み)まで軽量化してみせた。この驚くべき結果により、リーバイは75フィート・ダブルバックフリップなどの超絶トリックをメイクできるようになった。
ロブ・ワーナーがニュージーランドにあるリーバイ・シャーウッドの自宅を訪ねたRed Bull TVのプログラム『Rob Meets』をチェック!