Made In Japan vol.05   Selected by 尾澤 アキラ
© Shinpo Kimura
フィックスギア

NITTO(ニットー)ドロップハンドルの美しすぎる造形美|自転車パーツ連載Vol.5

第5回目には、スケートボーダーの尾澤 アキラ氏が登場。 ようこそ、バイシクルシーンに精通する重要人物が、今も手放せない“とっておきの日本製プロダクト”の魅力を紐解く連載【Made In Japan】の世界へ!
Written by Hisanori Kato
読み終わるまで:6分Updated on
※本稿は2018年5月にインタビュー&執筆されたものです
本連載ではバイシクルシーンに精通する重要人物の元を訪ね、彼らに今も手放せない“とっておきのMADE IN JAPAN”を紹介してもらい、そのストーリーとともにプロダクトの魅力を紐解く。
今回登場してもらうのは、東京のスケートボード集団・T19のメンバーとして90年代からシーンで活躍するスケートボーダーの、
尾澤 アキラ氏だ
Made In Japan vol.05   Selected by 尾澤 アキラ

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© Shinpo Kimura

尾澤氏と彼が所属するT19は、2000年代の初頭、スケートボードのような爽快感が味わえるピストバイクに魅了され、このカルチャーにどっぷりと引き込まれ、ストリートを猛スピードでスタイリッシュに走り続けた。
東京のほんの一部の間で盛り上がったそのムーブメントは、次から次へと様々な場所へと伝染し、一瞬の間に日本の一大ムーブメントとなった。さらに、2007年には、同じT19メンバーの江川芳文とともに東京原宿にピストバイクの専門店となるカーニバル東京をオープンし、このカルチャーの発信源のひとつとして脚光を浴びた。
いわば尾澤氏は、前回登場してもらった、元メッセンジャーのHAL氏らとともにピストブームを牽引した立役者なのだ。
そんな彼が“日本が世界に誇るべきプロダクト”、“自身が最も愛したパーツ”として選んだのは、

ハンドルメーカーのNITTO

が手がけた

《ドロップハンドル“B123”》

だった。
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© Shinpo Kimura

競輪認定パーツを作り続けて70年の【NJS】公認メーカー

まずは、NITTOというブランドについての簡単な解説から始めたい。大正12年にメッキ業者としてスタートした同メーカーは、大正14年の頃に自転車のハンドル製造を開始。以来、一つひとつ丁寧に手作業で生み出される同メーカーのプロダクトには、日本人らしい“実直で精度の高い”匠の技が宿り、自転車シーンで圧倒的な信頼を獲得してきた。
そんなNITTOの輝かしい功績といえば、昭和23年にスタートした競輪の話を避けては語れない。今やここ日本はおろか、世界各国から注目を集める競輪競技のスタート時から、NJS公認メーカーとしてハンドルバーの製造に力を入れ、これまでに数多の競輪選手が愛用してきた、まさに日本が世界に誇る、正真正銘のジャパンプロダクトなのだ。
ちなみに前述した“NJS”とは、“日本自転車振興会”の略称になる。国内唯一となるこの競輪振興法人が定める、安全面に問題がないか、選手の公平性に問題がないかなど、非常に厳しい基準をクリアしたパーツにのみ“NJSの刻印”が施され、この刻印が無いパーツは、競輪競技での使用が一切認められない決まりとなっている。
となればNITTOは、競輪認定パーツを作り続けて早70年。NITTO製品のクオリティの高さは、その歴史の長さが何よりも雄弁に物語っている
NITTOのドロップハンドルは、【全く歪みのない左右対称の造形】が美しい
尾澤 アキラ
Made In Japan vol.05   Selected by 尾澤 アキラ

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© Shinpo Kimura

今回、尾澤 アキラ氏が選んだのは、そんなNITTOが競輪選手のために製造し続け、今では世界各国のトラックレースのトッププレイヤーも愛用する、
アルミ製のドロップハンドル“B123”だ。
果たして彼は、この製品のどこに魅せられたのだろうか!?
「自転車好きの奴って、人によってこだわりどころが違うんだけど、俺の場合は自分の体を預ける部分でもある“ハンドルのセッティング”に一番こだわってる。例えば、固定する部分はしっかりと硬い鉄製。ハンドル部分は、比較的軽量で強度もあって程よくしなるアルミ製が一番走りやすい」
と、自身のカスタムポイントについての前置きを挟みながら、
「今までにチネリとか、様々な国の様々なタイプのハンドルを使ってきたけど、やっぱりハンドルに限っては、NITTOのドロップハンドルが一番。まず、日本人の手の大きさに合わせてデザインされているから、他のどの製品のものよりもグリップ感が抜群。それに俺が使ってるのは350mm(ハンドル幅)なんだけど、海外製品のものは、ハンドル幅が大き過ぎるものばかりで、これくらいハマりのいいサイズ感がない」
そんな尾澤氏が最も魅力を感じるポイントは、欧米メーカーの製品と比べると華やかさこそないが、日本人らしい質実剛健な佇まいにあるそうだ。
ドロップハンドルには大きく分類すると、“浅曲がり”と“深曲がり”の2種類があって、よく仲間内では、“ペチャパイ派か巨乳派か”なんて分類したりもするんだけど(笑)。今俺が使ってるのがそれでいうと、巨乳(深曲がり)の方。NITTOのドロップハンドルは、“全く歪みのない左右対称の造形”が美しいって言われてて、特にそれを象徴するのがこのドロップハンドル“B123”なんだと思う。俺は、競輪選手やメッセンジャーみたいなプロじゃないから、細部の機能的なところには詳しくないけど、とにかく、“バーエンドまでの艶かしいドロップライン”が最高にクールなんだよ」
Made In Japan vol.05   Selected by 尾澤 アキラ

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© Shinpo Kimura

そう魅力を話しながら、こんな小話を続ける。
「俺や気の合う周りの奴らって、突き詰めて行くと最終的には自分たちで作ってみたくなるんだよね。だから昔さぁ、カーニバルって自転車屋をやってる時に『業者を見つけてこのドロップを自分たちで作ろう』って話になった。実際にいい業者も見つかって何度も試したんだけど、やっぱり、ここまで綺麗なものは一度も作れなかった。その時に改めて、NITTO製品の凄さというか、職人の手作業みたいなものの凄さを実感したね。だって、これを手作業で量産してるわけでしょ? 凄すぎるよね」
Made In Japan vol.05   Selected by 尾澤 アキラ

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© Shinpo Kimura

ちなみにこの撮影に登場した、尾澤氏愛用のドロップハンドル“B123”は、今から10年ほど前にT19(スケートクルー)がクルーの象徴でもある青色でカラー別注した特別なプロダクト
「今でこそ間口が多少は広くなったんでしょうけど、その頃は自転車メーカーの人たちって結構閉鎖的というか、特に俺たちみたいな見た目の人間にはかなり冷たかった(笑)。まぁ、それくらい敷居の高いメーカーだから、当然といえば当然なんだけど。でも、そこをなんとかしようと大さん(T19のボス・大瀧ヒロシ氏)が何度もトライしてね。本当は色を変えるだけでも結構大変なんことなんだけど、粘って粘って、最終的にはT19の刻印まで入れてもらったんだよね。そりゃ~、思い入れも深くなるよ」
職人の確かな手仕事が宿り、70年近く、NJS公認のハンドルメーカーとして君臨し、決してオールド(古い)ではなく、クラシック(古典的)であり続ける誇り高きブランド、NITTO。
そして、ピストバイクをスケートボードと並ぶストリートの新しいカルチャーとして、既存の価値観とはまた別の方向性に導いたT19。
両者の価値観がクロスオーバーしたこのプロダクトは、日本の伝統に敬意を払いながらも、新しい価値観を築き上げた“ニュークラシック”なメイドインジャパンに違いない……。
◆Information
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