Moment Joon
© Yusuke Kashiwazaki
ミュージック

Moment Joonインタビュー『自分の人生はきっと変わらない。でも次の世代に変化の希望を見出せる』

Red Bullがキュレートするマイクリレー《RASEN》EP9 参加ラッパーたちのプロファイル ④
Written by Tetsuro Wada
読み終わるまで:7分公開日:
今回のサイファーを振り返ってみていかがでしたか?
RASENについてはYoung CocoくんとかGokou Kuytくんとかぼくが好きなラッパーも出ていたからよく知ってて、いいなと思うパフォーマンスもたくさんありますね。
今回の自分のヴァースで思い入れが深いのは、最後のラインの“日本のヒップホップのベストアルバムを出したのは、チョン”というところですね。ぼくは日本語ラップと日本のヒップホップというものを違うものと思っていて。ただ、日本語ラップにしろ日本のヒップホップにしろ、自分たちの歴史を大切にしていないという気がしてる。日本のヒップホップのなかでも、アワードとかがあってジャンルのなかでしっかり評価してあげてもいいのに、それがあまりないから。なんで日本のヒップホップシーンはベストアルバムについてもっと語らないんだろうと。
RASEN EP9

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© Yusuke Kashiwazaki

“自分のアルバムがベスト”と言ったのは、ほかのラッパーのアルバムがそれより下ということを主張したいわけじゃなくて、そういう話題をヒップホップを楽しむひと全体に共有したいと思って言っているんです。
それと日本のヒップホップのベストアルバムを日本に住んでいる韓国人が作ったということ、ぼくが知っているヒップホップはそういうところでカタルシスを得るものだから、ただアメリカの真似をするわけではなくて、日本独自のシーンを作っていくことを象徴するラインなのかなと思ってます。
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ラップをはじめたきっかけを教えてください。
趣味としてはもちろん小学校、中学校くらいから楽しんでいましたけど、日本に留学生として来て2年目くらいに、外国人として自分が経験したことをだれも聞いてくれないから、それを表現するツールとしてはじめたのがきっかけですね。気づいたら10年経ってここにいます。
よく訊かれる質問に“なんで日本でラップをしようと思ったんですか”というものがあるんですが、これは質問の順番が間違っているなと。この質問だとラップをしに日本に来たみたいじゃないですか? そうじゃなくて、日本での生活が先にあって、そこで生まれるものを表現したり、アジャストするためにラップを選んだんですよね。だから10年間ラップを続けているということは、歌わずにはいられないものがあった生活だったという反証ですね。ラップを続けるために、なにかトピックがほしいとかじゃない。
RASEN EP9

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これまで発表した楽曲で、自身の代表曲を挙げるなら?
いまなら“TENO HIRA”という曲ですね。自分にとってはめずらしく、どうやって作れたのか不思議に思う曲で。でも、ぼくという、いまの日本を生きている人間をいちばん表現している曲なんじゃないかなと思いますね。
アルバムのコンセプトもそうなんですけど、自分は二面性についてフォーカスした歌詞が多い。自分自身もいつもシニカルな自分と、根拠のない希望を信じる自分がいて。アルバム全体がそのふたつの自分の戦いなんです。
自分の生活、移民の人々の生活、日本自体がよくなるわけではないと思ったあとでも、最終的には“TENO HIRA”って曲で希望を歌おうという曲なんです。この曲自体でも意味のある曲ですし、アルバムのフィナーレとしてあの曲を聴くとよりインパクトがあるんじゃないかなと思いますね。
不思議だと思ったのは、ここまでの希望を見出せる自分がいるのかということ。自分ひとりだけでは出てこなかったと思うんですけど、何年か前から自分を紹介するときに“移民ラッパー”と言っていて、外国人や在日、朝鮮人とか、違うグループみたいに呼ばれている人々が実は共通して経験していることがめちゃくちゃ多い。そういうひとたちの経験を共通して言えるのが移民だと思って、その言葉を使いはじめてから希望を見出せる自分がいて。自分の人生や状況だけに注目したら“よくなるわけないじゃん”という結論にしかならないと思うんですが、もっと視野を広げてからは希望を歌える自分が出てきたなと思います。
“TENO HIRA”には在日の詩人・金時鐘さんの声をいただいていて。金さんは1950年に日本に渡ってきたかたで、実際に声をもらいにお宅に行ったんですよね。もちろんぼくが経験する差別とかとは比べものにならないほど経験している。金さんは“日本は変わっていない”と言うんですよ。それでわかったんです。ぼくも自分の人生や環境は変わらないと思う。でも、だからといってあきらめずになにかやっていたら、自分では気づかなくても次の世代にはなにかが変わったということだってあるんじゃないかって。そこが根拠のない希望を信じられる理由なんです。
RASEN EP9

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自身のラップスタイルの特徴はどんなところですか?
自分のラップは口語的だと思います。自分の口語はもちろん日本語母語話者の話す日本語ではないから、語り口調のラップをするひととも違うものになっていると思うので、そこが新鮮なんじゃないでしょうか。
でもよく考えてみたら、ぼくみたいにしゃべるひとってけっこう多いんですよね。日本語母語話者ではなくて、めちゃペラペラなんですけど、独特なクセがある。でも日本のマスメディアを見るかぎり、ぼくみたいなひとを見つけるのはむずかしいですよね。そういうところに出れるのは母語話者並のすごい能力を持っているひとか、真逆の片言っぽいひとか。でも、ほとんど日本に住んでいる移民の人々はぼくみたいな感じだと思うんです。だからこそ、ペラペラだけど母語としてしゃべるひととはまた違う日本語の口語的なラップは届くんじゃないかなと思ってます。
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影響を受けた人物は?
卒業論文でKendrick Lamarについて書いていて、彼には影響を受けてると思いますね。
ただ、スタイル的にも既存のアーティストに影響を受けたって時期はもう終わっていて、いま現在は、自分の彼女だったり、差別の件で出てくる人々とか、ぼくと似たような状況に置かれている人々に影響を受けていると思います。
RASEN EP9

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今後の予定と、将来の展望について教えてください。
5月末にワンマンライブがあって、現在は次のアルバム『HOPE MACHINE』を制作中です。
加えて、岩波書店のサイトでエッセイ『日本移民日記』の連載をやっていて、その単行本が今年中には出ると思います。
今後なんですが、まずは日本に残っているかというのがわからないですよね。ラップで生活はできるようになったんですけど、それだけでビザがもらえる状況ではないし、大学もいつまで通えるかわからないので。5年後にラップだけで日本に残れるようになってないと、日本にいないんじゃないかと思いますね。そうならないようにがんばるしかない。
そして、移民という言葉がもうすこし日本に根付くように、その土台になった作品を作った人間として覚えられるように希望しています。
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