ウェイトトレーニングに取り組むトム・エヴァンス
© Ian Corless/Red Bull Content Pool
ウルトラ ランニング

プロが教えるウルトラランナー用屋内トレーニング ヒント&アドバイス

プロランナーはどのように自宅でトレーニングを積んでいるのだろうか? 英国人ウルトラランナーのトム・エヴァンスが教えてくれた。
Written by Rebecca Denne
読み終わるまで:7分公開日:
トム・エヴァンスは世界の果てにあるような凹凸地形を最長251kmも走るウルトラマラソンアスリートだ。そんな過酷な戦いに必要な体づくりが屋内トレーニングでも十分可能だということは驚きに値する。
今回は、トム・エヴァンスをキャッチして、屋内トレーニングの進め方、ストレングストレーニングに注力している理由、ウエイトが自宅になくてもできるトレーニングなどを教えてもらうことにした。
マルチステージレースデビューだったサハラマラソン2017で3位に入ったエヴァンス

マルチステージレースデビューだったサハラマラソン2017で3位に入ったエヴァンス

© Marathon des Sables 2017

- 通常、サハラマラソンのようなウルトラマラソンに向けてどのようなトレーニングを積んでいるのでしょうか?
月初めにコーチと一緒に3週間分のトレーニングプランを用意するんだ。すべてをバランス良くこなせるようにね。トレーニングはとにかくバランスが大事だと思う。ある程度の期間で終わらせたい特定のトレーニングセッションがあるから、全体を小さなブロックに分けている。
僕たちの場合は、1週間ではなくて10日単位でプログラムを組んでいる。こうすることで、ハードで重要なトレーニングセッションからリカバリーできる時間的余裕を設けることができる。また、10日間の幅があれば、あらゆるトレーニングを組み込むことができる。
家の中でウエイトの代わりになる物を見つけられるはずだ。本を入れたリュックサック、お米、ペットボトルもウエイトになる
トム・エヴァンス
- 最近は自宅でのトレーニングが続いていると思いますが、10日単位のステイホーム・トレーニングプランの内容を教えてください。
1日目:イージーで低強度のトレーニングだけど、量はそれなりに多い。トレッドミルか屋外を2時間走ったあと、バイクで2時間走る。
2日目:基本的にはここで最速ペースのランニングをしておく。足を前に出すスピードにフォーカスしていて、午前中に1マイル(約1.6km)を6本、午後に400mを8本走っている。
3日目:長距離の持久系トレーニングに戻る。自宅にターボトレーナーが置いてあるから、これを使っている。屋内トレーニングには最適だね。午前中にターボトレーナーでロングライドをこなしている。時間は3~4時間だ。
午後はウエイトトレーニング。僕のウエイトトレーニングは体幹と、足首から臀部までの安定性がテーマだ。あとは瞬発力を鍛えるストレングストレーニングも用意している。ふくらはぎ、大腿四頭筋、ハムストリング、でん部など、ランニングで使う筋肉群に刺激を入れていくんだ。
具体的には、30秒のグルートブリッジを片脚3セットずつと、ウエイトありのスクワット6回を4セットこなしている。
パワーとストレングスの強化のためにウエイトトレーニングにも取り組んでいる

パワーとストレングスの強化のためにウエイトトレーニングにも取り組んでいる

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4日目:比較的イージーだ。午前中に75分走り、午後に40分走る。あとはのんびりしているよ。
5日目:ペースを上げる。フルマラソンのペースで15~20マイル(約24~32km)走ったあと、午後は3日目と同じウエイトトレーニングをこなしている。
6日目:4日目よりもさらにイージーな1日だ。午前中に80~90分走って、午後に同じ時間をバイクで走るだけだ。
7日目:最長4時間のロングランを1本走っている。
8日目:4日目に似ている。午前中に70分走って、午後に35分走るだけだ。
9日目:バイクがメインだ。バイクで3~4時間走ったあと、午後にショートランをこなしている。
10日目:10kmランのペースで8分 x 4本をこなすか、1マイル(約1.6km)スプリントを6本こなしている。
足と足首の筋力と柔軟性がトレイルランでは重要になる

足と足首の筋力と柔軟性がトレイルランでは重要になる

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- ウエイトトレーニングにもしっかり取り組んでいるようですね。その理由を教えてください。
持久系・耐久系のスポーツならそこまでハードなウエイトトレーニングに取り組む必要はないという誤解をしている人が多いと思うんだけど、実際はウエイトトレーニングは非常に重要なんだ。
多くのランナーが「臀部にどうも刺激が入っていない」、「臀部を上手く使えていない」と言っているけれど、これらの課題はストレングストレーニングに取り組めばクリアできる。
ウエイトトレーニングの量を増やせば、それだけ筋繊維の数が増える。筋繊維の数はランニングではとても重要なんだ。
多くの人が「ウエイトトレーニングに取り組むとボディビルダーみたいに身体が大きくなってしまうのでは?」と不安に思っているけれど、そんなことはない。僕が保障するよ!
- ウエイトが自宅にない人はどのようにトレーニングすれば良いのでしょう?
家の中でウエイトの代わりになる物を見つけられるはずだ。リュックサックを入れるだけでもウエイトになるし、お米もウエイトになる。ペットボトルもね。
常識の外で考えてみる必要がある。また、スクワットランジグルートブリッジのような、僕が取り組んでいるトレーニングの大半は自重だけでも十分な刺激が入る。
ウエイトトレーニングの量を増やせば、それだけ筋繊維の数が増える。筋繊維の数はランニングではとても重要だ
トム・エヴァンス
可動性を高めるためにストレッチとヨガを定期的にこなしている

可動性を高めるためにストレッチとヨガを定期的にこなしている

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- ヨガやピラティスのような柔軟性を高めるメニューは組んでいますか?
ヨガをベースにしたリカバリーストレッチはかなり多くこなしているよ。でん部に張りを感じたら、でん部のメニューにフォーカスして、対象部分がよく伸びていると思えるまでしっかりストレッチする。
多くのランナーがストレッチ可動性トレーニングを軽視していると思う。僕はランニング前に最短10分はストレッチをしている。ふくらはぎでん部にフォーカスしているね。
- トレイルランニングに効果が高い自宅用トレーニングギアで何かおすすめがあれば教えてください。
セラバンドTheraband)が良いかな。何でもできるからね。場所も取らないから持ち運びにも便利だ。トレイルランナーにはとても効果的だと思うよ。トレイルランは地形が不安定だから、足首を鍛えておく必要がある。セラバンドはそういう足の小さな筋肉群を鍛えるのに最適なんだ。トレイルランで必要な安定性を得ることができる。
- 4時間程度走る日もあるようですが、そのようなロングランに向けてメンタルをどのように整えているのでしょう?
僕はトレーニングを楽しむようにしている。楽しめていなければレースなんて走れない。僕にとって、レースはエキサイティングなものなんだ。
レースが好きだし、自分のベストを尽くすのも好きだ。ハードなトレーニングを定期的にこなしてベストを尽くすほど、レースで好結果が出ることを知っている。
すべてのトレーニングが大きな目標に繋がっていることを強く意識するようにしている。ひとつひとつのトレーニングブロックがレースや目標に繋がっていくんだ。ジグソーパズルみたいにね。
すべてのトレーニングが大きな目標のために用意されている必要がある。あとはそれらを正しく組み合わせれば、ひとつの大きなゴールに到達できるのさ。
ロングランに取り組む時は大きな目標をイメージしている

ロングランに取り組む時は大きな目標をイメージしている

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- ズイフト(Zwift)も取り入れているようですが、他のアプリも使っていますか?
ズイフトはしばらく前から使っている。自分ひとりでトレーニングするのは大変だから、ズイフトは競技の興奮を得るのにとても良いと思う。
ズイフトのコミュニティは非常にコンペティティブだから、自分を色々なシチュエーションに放り込んで鍛えることができる。
ストレッチやヨガはYouTubeでチェックしている。自分の姿勢ややり方が正しいかどうか確信が持てない時の参考にしているよ。
自宅トレーニングではSpotifyやポッドキャストを活用している

自宅トレーニングではSpotifyやポッドキャストを活用している

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- 音楽はどうでしょう? トレーニング中に聴いていますか?
トレイルを走っている時は聴いていないね。でも、自宅でトレーニングしている時はSpotifyを聴いている。
アップビートな音楽を聴いているよ。気分が盛り上がるようなポップソングが多いね。あとは、笑えるポッドキャストも聴くかな。
- 自宅のベランダでフルマラソンを走ったフランス人が話題になりましたが、誰でもできると思いますか?
ランニングをしたことがない人が1日でフルマラソンや100kmを走れるようにはならないし、そんなことをすれば怪我をしてしまう。少しずつ成長していくしかない。
ランニングを始めたばかりの人や、長距離レースデビューに向けて準備を進めている人なら、フィジオやスポーツマッサージの力を借りないとまず無理だと思う。
だから、これらにアクセスできない人はあのフランス人ランナーのような挑戦は避けるべきだと思う。でも、彼のような挑戦ができるように準備を進めることはできる。体幹を鍛えて、脚力を鍛えて、可動性トレーニングに取り組んでいくのは誰にでもできる。
CCCで優勝したトム・エヴァンス

CCCで優勝したトム・エヴァンス

© UTMB CCC

すべてのトレーニングが大きな目標に繋がっていることを強く意識するようにしている。ひとつひとつのトレーニングブロックがレースや目標に繋がっているんだ。ジグソーパズルみたいにね
トム・エヴァンス
- 最後に、自宅トレーニング用アドバイスを3つ教えてください。
プランを立てる・達成可能な目標を立てる・結果ではなくプロセスを重視する、だね。

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