Gaming
eスポーツチームを率いるEmily Tranが格闘ゲームのキャラクターだったとしたら、彼女の必殺技は「優しさ」になるだろう。飛び道具は必要ない。
彼女と従兄弟のTimo Kauffmanが2018年に立ち上げたeスポーツ・オーガニゼーションEquinox Gaming(以下、EQNX)のシークレットウェポンは “ポジティブさ” だ。彼女たちは、自分たちの団体に所属している全プロプレイヤーに “連帯感” を与えながら、全員の活動の中心にメンタルヘルスとインクルージョンが位置するように気を配っている。
しかし、フロリダ州を拠点に活動している彼女は、ごく普通の人生を歩んで今の立場を手に入れたわけではない。今回のインタビューでこれまでの人生を振り返ってくれた彼女は、eスポーツ業界に入ったきっかけやパンデミック下での活動、格闘ゲームコミュニティ(FGC)への思いなど、多様なトピックに触れている。
− 幼少期のゲーミングの思い出を話してもらえますか?
私の家族の多くがメノナイトなので、アーケードで格闘ゲームをプレイするのは信条に背くことになるのですが、叔父たちから『ストリートファイター』シリーズの存在を教えてもらいました。当時はまだ幼かったのでコンボはできませんでしたが、春麗が大好きでしたので、チャンスを見つけてはプレイを続けていました。
− プロプレイヤーになろうと思ったことはなかったですか?
ありました。『HALO』シリーズをプレイして生計を立てられたらと夢見たことがありましたが、あくまで夢でした。なぜなら、たいして上手くなかったからです。この夢を叶えるためにはかなりの努力が必要でしたし、当時の私が力を入れていたのは勉強でした。また、当時のeスポーツはまだ新しくて奇妙な存在で、チャンスやリーグもありませんでした。MLGくらいでしたね。
ですので、プロプレイヤーを目指す代わりに、自分の学力を活かす形で関わっていくことにしました。裏方の仕事も得意でしたので、方向転換をしたのです。eスポーツ業界に入る方法は沢山あります。クリエイティブに考えるだけで道は開けます。実況、ストリーミング、コンテンツ制作など様々な仕事があります。
プレイ以上の取り組みをしているプレイヤーを探しています。ゲームが上手いだけで上のレベルに到達してキャリアをまっとうできるのはレアケースです
− プロプレイヤーを目指している若い世代のプレイヤー、そして彼らの親や保護者に向けて何かアドバイスはありますか?
EQNXはまだ成長中のブランドで、トップレベルのオーガニゼーションと比較すると規模も小さいので、「プロを目指すなら学校を辞める必要がある」と大声で言えるような立場ではありません。そもそも、そう伝えるつもりもありません。
私は、バランスを見出し、フルタイムで働いたり、学校へ通ったりしながらコンテンツを制作していくことが重要だと思っています。この世界では、ひとつだけに集中し過ぎるのはリスキーです。私はハッピーでヘルシーなプロフェッショナルを生み出す助けになりたいと思っています。
− 次のeスポーツスタープレイヤーをスカウトする際にはどこに注目していますか?
プレイ以上の取り組みをしているプレイヤーを探しています。ゲームが上手いだけで上のレベルに到達してキャリアをまっとうできるのはレアケースです。コミュニティとコミュニケーションを取れているかどうか、ストリーミングはどんな雰囲気なのかなどをチェックしています。
パンデミックが起きる前、格闘ゲームシーンにはオフライントーナメントが深く関わっていましたが、どれも消えてしまいました。そのため、TwitchやYouTubeでの活動を考える必要が出てきたわけですが、格闘ゲームは、自分をブランドとして確立させるまでの時間が特に長くかかるジャンルです。格闘ゲームコミュニティには才能が豊富にいますし、数多くの素晴らしい瞬間が生み出されてきましたが、一般認知度においてはかなりの遅れを取っています。
− あなたは格闘ゲームシーン出身ではないですよね?
私はニュースサイトにビデオゲームの記事を提供する仕事からキャリアをスタートさせました。まともな報酬を初めて受け取ったのはlolesports.comでの記事執筆ですね。ですが、自分にとって本当に大きなブレイクスルーになったのは、ノルウェーで体験したアートサマースクールでした。
ノルウェー滞在中の私は、eスポーツチームOslo Lionsに憧れていたので、ソーシャルメディアやコンテンツ制作関連で何かできることはないかと彼らに申し出ました。それで、手伝いをする代わりに、彼らからチームのスケジュールやスクリムの組み方などのいろはを教えてもらったのです。そのあと、米国に戻った私は、ノルウェーでの経験を履歴書に書き足し、2015年にEcho Fox(現在は消滅)のソーシャルメディアコーディネーターに就いたのです。
− 格闘ゲームシーンに興味を持ったきっかけは何だったのでしょう?
Echo Foxでは複数の業務を兼任していたので、格闘ゲームトーナメントの現場でプレイヤーたちのアシスタント業務も行っていました。私が格闘ゲームシーンを学び始めた頃にときどと一緒に転戦したことをよく覚えています。当時の私はときどが有名プレイヤーだということは知っていましたが、ファンからまるで『ストリートファイター』の神様のように崇められている様子に驚きました。
EVOのようなイベントでそのような仕事を重ねて、格闘ゲームプレイヤーたちと仲良くなっていくうちに、現場のエナジーや仲間意識に魅了されました。ファンもクレイジーに盛り上がりますし、病みつきになる雰囲気がありました。それで、私も参加したいと思うようになったのです。
eスポーツプレイヤーはチームのTシャツを着て、ゲームをプレイするためだけに契約をしているわけではありません。チームには彼らを育て、サポートし、ゲームを離れている時間も側にいる責任があります
− そのあと、映画『エージェント』のように独立して自分のチームを立ち上げましたね。他のeスポーツ・オーガニゼーションとはどこが違ったのでしょうか?
格闘ゲームシーンのトッププレイヤーの多くは米国人ではありませんが、米国出身の才能が数多く見過ごされていると感じていました。EQNXを立ち上げたときは韓国人プレイヤーのDimebackと契約していましたが、米国との関係が深い若手プレイヤーを発掘したいという気持ちを持っていました。
私はフィラデルフィア周辺で育ちましたし、家族はフィラデルフィア・セブンティシクサーズ(NBAチーム)の大ファンで、チームスローガン “Trust The Process / プロセスを信じろ” を支持しています。ですので、私のチームでもこのスローガンを掲げて、時間をかけて米国内のライジングスターを発掘しようとしたのです。その結果、DimebackのあとにJoey FuryとCuddle Coreを加えることができました。
− Cuddle Coreとの仕事はいかがですか?
Twitchだけで彼女を判断している人が多いですが、彼女は女性、そして黒人のプレイヤーなので、自分を守る壁を特にしっかり用意する必要があります。何かしらの弱さを見せてしまえば、多くの人がそれをソーシャルメディアで取り上げて悪用する可能性があります。
私がJannail(Carter:Cuddle Coreの本名)を本当に素晴らしいと思うのは、彼女の強さの見せ方です。また、彼女は堂々と共感を示していますし、自分のプラットフォームを社会のために活用しています。私は、ネガティブな意見を言ったり、荒らしたりするトロールとは関わり合いたくないですが、彼女は彼らを絶対に恐れません。
彼女はとても正直で、この性格が私たちの仕事関係において非常に重要な価値になっています。私たちは正直に話し合い、お互いをケアしています。彼女はとても強い女性ですよ。
− EQNXという名前に決めた理由を教えてください。
Equinoxという単語の意味が好きなんです。知らない人のために説明しますと、これは春分と秋分、つまり、昼と夜の長さが同じになるタイミングを意味します。ご存じの通り、年に2回しかないですが、色々な意味でバランスと平等を示す単語で、バランスと平等は私たちの活動指標そのものです。
− 2020年のThe gameHERs Awards(編注:北米で開催されているゲーミング業界唯一の女性による女性のための賞)で「最優秀インクルーシブチーム賞」を受賞したことをどう感じていますか?
受賞はとても大きな意味を持っていました。コンペティティブなゲーミングシーンを取り巻く “毒” はいとも簡単に私たちのやる気を削いでしまいます。また、女性というだけで、どんなときもひとつもミスが許されないプレッシャーが追加されます。
「最優秀インクルーシブチーム賞」の受賞は、私たちが正しい道を歩んできたことの証明だと思いますし、受賞スピーチをしたときに、私たちがやろうとしていることを社会がちゃんと見てくれていることを実感しました。受賞は私たちがやってきたことへのボーナスでしたね。
− EQNXはメンタルヘルスの意識向上にも力を入れています。この取り組みを始めた理由を教えてください。
EQNXを立ち上げたときに、プレイヤーのメンタルヘルスのケアがかなり遅れていることに気付きました。伝統的なスポーツでは、エリートアスリートにコーチ、トレーナー、メンタルヘルスのエキスパートが付くのが普通ですが、この部分において、eスポーツプレイヤーは真剣に扱われていません。
− 自分のマインドはどのようにケアしていますか?
eスポーツ・オーガニゼーションのオーナーはすべてに関わらなくてはなりませんし、多くの人から正しい方向に舵を切ることを期待されています。すべての決断が全員のためになるようにして、仲間はずれが出ないようにすると多くのプレッシャーがかかるときがあります。「自分にできるのか? 自分は正しいのか?」と自問してしまうときもあります。こうなってしまうと多くのストレスと不安を感じてしまいますね。
私はいつも自分たちが進む方向に注意していますし、全員が同じ気持ちを共有できているように気を配っています。
− eスポーツ・オーガニゼーションのボスとして得た学びを教えてください。
ドアが閉まっても世界の終わりではないということを学びました。上手くいかないときがありますし、プレイヤーと契約を結べないときやスポンサー契約が決まらないとき、イベントが中止になるときなどもありますが、それで終わりではないのです。その経験を活かして前進するだけです。別の道を歩んでも問題ありません。すべてが私たちの死活に関わっているわけではないのです。
− スポンサーとの関係はどの程度重要なのでしょう?
− 北米の格闘ゲームシーンは過去2年ほどで何か変化がありましたか?
やれることは常にありますが、シーンは大きく成長したと思います。これまではネットコードの問題でオンライン対戦が難しい格闘ゲームが多かったことから、イベントはオフラインに集中していました。オンラインではまともな対戦ができなかったのです。ですが、パンデミック中に『鉄拳7』はネットコードが新しくなり、対戦環境が大幅に向上しました。現在は州や国を越えて対戦できるようになっています。未来は明るいですよ。
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