Gaming
プロゲーマーAnnie Robertsのストーリーは「接続不良」から始まった。
「接続」と言っても、Wi-Fiの話ではなく、サーバーの話でもない。彼女の「接続」は “人と人との繋がり” だった。Robertsは次のように話を始める。
「大学時代は苦しかったですね。学内には何千人という学生がいましたが、話しかけることができませんでした。ですので、自分と同じような人たちを探すためにTwitchでストリーミングを始めたのです。LGBTQの人たちや同じゲームをプレイしている人たちを探そうと。この頃、私は『オーバーウォッチ』をプレイするようになりました」
しかし、Robertsは『オーバーウォッチ』をただ “プレイ” していたわけではなかった。圧倒的な強さを発揮し、ランクマッチ(ライバルプレイ)のランキングを駆け上がったRobertsは、プロプレイヤーになったばかりか、Twitch最多視聴者数を誇るストリーマーのひとりにもなった。
また、トランスジェンダー / バイセクシャルであるRobertsは、自分というプラットフォームをLGBTQコミュニティの認知度の向上、そして助けを必要としている仲間のために活用するようにもなった。
米国のトップチームCloud9の《Cloud9 White》のプレイヤーとして、1マップも落とさずに第1回【VALORANT Champions Tour Game Changers】を制したRobertsは、右肩上がりで成長を続けている。現在24歳の彼女が、うつとの戦いや厳しいアルバイト時代を経て頂点まで駆け登ったキャリアを語ってくれた。
− ゲーミング関連の最初の記憶を教えてください。
5歳の頃、両親がパズルゲームをプレイしているのを眺めていたのを憶えています。そのあと自分でもプレイできるようになると、映画『ジュラシック・パーク』のFPSタイトル『Trespasser』をPCでプレイしました。恐竜と戦ったり、恐竜から逃げたりするゲームでした。
子供の頃は恐竜が好きでしたので、最高にクールなゲームだと思っていましたね。次にPS2を買いました。ゲームボーイも持っていましたね。『ポケモン』シリーズは全作品持っていました。
Cloud9 Whiteがミスをしたり、負けたりすれば、普通のプレイヤーの5倍は厳しい批判に晒されます。なぜなら、私たちは “女性限定” だからです
− ビデオゲームが得意だと気付いたのはいつでしたか?
小学校6年生の頃でしたね。まだ幼かったですが、Xbox 360を持っていたので、毎日放課後に『コール オブ デューティ4 モダン・ウォーフェア』をプレイしていました。そのうちにMLGのウェブサイトに出会い、トーナメントに参加登録すれば他のプレイヤーと賞金を賭けて対戦できることを知りました。
トーナメントは最高でしたね。14歳で20歳くらいのプレイヤーたちと対戦していました。チームのトライアウトに次々と参加しては、年上のプレイヤーたちに勝利していました。チーム加入が決まり、チームメンバーとの会話の中で私の年齢が発覚すると、必ず “マジかよ!” と驚かれていましたね。
− 当時からゲーミングシーンでキャリアを築いていこうと考えていたのでしょうか?
ビデオゲームを仕事として捉えたことは一度もありませんでしたし、高校時代はうつを患っていたので、“やる気がない” または “サボっている” と批判されたこともありました。ですが、大学へ進学すると、自分が他人のためだけに生きてきたことに突然気付いたのです。
当時の私は看護学を学んでいたのですが、自分の意志で選んだわけではありませんでした。私は音楽を作ったり、ビデオゲームをプレイしたりするのが好きだったのです。気付いた翌日からモチベーションが一気に高まり、ビデオゲームのストリーミングや音楽制作を始め、他人との繋がりを求めるようになりました。
− ストリーマーとして人気を獲得しようとしていく中で最も難しかったことは何でしたか?
8時間放送で視聴者5人のような厳しい日を繰り返し経験しました。「これではどうにもならない」と思ったものです。ですが、自分の目的はTwitchで人気を獲得することではないことに気が付きました。自分の仲間を見つけることが目的だと。この気付きによって成長できました。自分らしく、真剣になりすぎることなく、楽しみながら放送できるようになったのです。
− その変化が仕事へ繋がっていったわけですね?
Twitchとのパートナーシップ契約は大きかったですね。当時の私はすでに大学を辞めていて、収入源はミシガン州での悪質な配達アルバイトだけでした。ストリーミングをしていないときはその仕事をしていました。深夜のアルバイトは本当に惨めでしたよ。午後6時から午前4時まで車で配送していました。正気を失うかと思いましたね。
− アルバイトの嫌な経験を憶えていますか?
自分の基準からは大した問題に思えないことで何回も怒鳴り散らされましたね。また、注文を間違えば必ず嫌な展開になりますし、ストロー1本でも間違えようなら、罵られてチップをもらえなくなります。怒鳴られるためだけに車を20分走らせたようなものでした。
− トップレベルのトランスウーマンプレイヤーという立場にプレッシャーを感じていますか? それともプレッシャーをモチベーションに変えることができていますか?
両方イエスですね。諸刃の剣というところでしょうか。ヘイトは山ほど受け取りますが、ヘイトよりも多くのサポートを受け取っています。ですので、モチベーションはかなり高く維持できています。私たちは自分を支えてくれる人たちのために生きていくべきだと思います。なぜなら、自分を嫌っている人たちに自分を証明しようとすれば、どこかのタイミングで必ず惨めな気持ちになってしまうからです。
トッププレイヤーとして評価されている自分を楽しんでいますよ。自分の仲間を代表していく必要があると思っているので。私は愚かではないですし、誰かのロールモデルになれる自信があります。
− あなたは『オーバーウォッチ』シーンの一部の人たちからの誹謗中傷でメンタルヘルスに問題を抱え、このタイトルから離れました。この問題にどのように取り組んでいたのでしょう?
インターネット上で名前が知られるようになれば、毎日ヘイトを受け取るようになります。ですので、気にならなくなるように自分を鍛えていく必要があります。悔しいですが。そして、私も自分を鍛える方法を学ばなければならなくなったのですが、かなり時間がかかりましたね。
今は悪意のある人から何か言われても「あなたに何を言われてもまったく気にならない。自分の面倒は自分で見られるし、今の自分にハッピーだから」と言い返せますが、弱い立場では、このような態度を取るのが難しくなります。ですので、今のような人気を得られていなかった頃は相当苦しみましたね。
− オンラインの誹謗中傷に対するゲーミング業界の取り組みは十分だと感じていますか?
10年前のインターネットと比べれば別世界です。当時はインターネット上の人格と現実世界の人格は完全に切り離されていて、インターネットは何を言っても構わない無法地帯でした。もちろん、今も改善の余地はまだまだあります。インターネット上には、ヘイト支持のプラットフォームやコミュニティがまだ数多く存在し、ユーザーを焚きつけています。彼らはヘイトを奨励しているのです。
− Cloud9はゲーミングのメンタルヘルスについて様々な施策を講じています。彼らの取り組みは、女性限定『VALORANT』チーム “Cloud9 White” 加入を決める理由のひとつだったのでしょうか?
もちろんです。Cloud9は世界最高のオーガニゼーションのひとつだと思います。ティア1のあらゆるオーガニゼーションから私たちと契約したいというオファーをいただきましたが、私たちはCloud9に親近感を憶えました。なぜなら、彼らは長年に渡りLGBTQをサポートしているからです。
Cloud9はとてもインクルーシブな環境ですし、多くの女性が上層部で働いています。実際、最初に連絡を取ってきたのはGaylen Malone(Cloud9シニアゼネラルマネージャー)でしたし、女性が窓口だったのはCloud9だけでした。
− 女性限定というチーム編成はプレッシャーになっているのでしょうか?
女性限定チームだから契約できたのではないかという議論は常について回るでしょうし、的を射ている批判もあると思います。ですが、インクルーシビティについての対話のきっかけとしてではなく、私たちを間接的に攻撃するために批判している場合が多い印象です。
私たちが契約できたのは、女性限定チームだからという部分もありますが、私たちが、リスペクトに値するチーム、高い知名度を誇るチームになるための努力を続けているからです。私たちはただ何もしないで過ごしているわけではありません。毎日のように努力を重ねています。自分たちのゲームに秀でるべく、チームメンバーは毎日8時間以上プレイしています。
プレッシャーは大きいですよ。私たちがミスをしたり、負けたりすれば、普通のプレイヤーの5倍は厳しい批判に晒されます。なぜなら、私たちは “女性限定” だからです。
超ハイペースのヒーローシューターからワンアクションが命取りのタクティカルシューターへ移行し、完全に異なるスタイルのFPSを学ばなければならなかったのが、最大のチャレンジのひとつでした
− そしてあなたたちは “eスポーツシーンにおける女性” を代表する立場でもあります。
そこが一番重要なポイントです。男性から「君は女性だから契約できたんだ」と言われても個人的には気になりません。私は、私に憧れ、夢やインスピレーションを持っている他の女性や若い世代のために契約したのです。
男性やLGBTQではない人も私を応援できるはずですし、そこにまったく問題はありません。ですが、多くの人が、私は男性にインスピレーションを与えていないと批判しています。ですが、eスポーツシーンに深く関わっているなら、誰からでもインスピレーションを得られるはずです。
− 『VALORANT』で一番楽しめているのはどのような部分でしょう?
完全に異なるスタイルのFPSを学ばなければならなかったのが、最大のチャレンジのひとつになりました。超ハイペースのヒーローシューターからワンアクションが命取りになるタクティカルシューターへ移行したので、感度を調整したり、立ち回りを学んだりするのに数ヶ月かかりましたね。『VALORANT』プレイヤーとして成熟するまでにはまだまだ学ばなければならないことが沢山あると感じています。
− 通常のトレーニングスケジュールを大まかに説明してもらえますか?
週5〜6日をチームトレーニングに費やしています。普段の1日について話しますと、午前中に起床したあと数時間プレイします。それから午後6時頃にチームと合流し、動画の見直しに2時間を費やします。そして少しウォームアップしたあと、スクリム(トレーニングマッチ)を3時間プレイします。
余裕がある日はスクリムのあとに約1時間プレイしたり話し合ったりします。このようなトレーニングスケジュールは “軽め” の部類です。大学に通っているプレイヤーが数人いるので、学業を優先したスケジュールを組んでいるんです。
− プレイからしばらく離れると勘が鈍りますか?
もちろん鈍りますよ。1週間ぶりにプレイすれば、スキルが錆び付いているのが分かります。ですが、幸運なことに、私はFPSのプレイ経験が方法なので、取り戻せないレベルまで落ちてしまったと感じることはありませんね。1週間ほどプレイすれば、元のレベルまで戻ります。そこからまた時間をかけてスキルを積み上げていきます。
− Twitchで人気を獲得したいと思っている人に何かアドバイスはありますか?
自分らしく嘘偽りのない実況をすることが重要だと思います。ストリーミングを始めてから特定のキャラクターを演じる必要があると考え、故意のレイジクイット(キレ落ち)などで笑いを取ろうとするプレイヤーがいますが、多くの場合、そのようなプレイヤーは3ヶ月もすれば自分を見失ってしまい、「自分に戻ってやり直します」と宣言することになります。ですが、そう宣言しても、視聴者たちは「そんなあなたに興味はない」と言って離れてしまいます。
− ストレスを発散するために何かしていることはありますか?
いわゆる瞑想は不得意です。何もしないで座り続けることが苦手なんです。ですので、マッチ前にギターを弾いて自分なりの瞑想をしています。聴いている音楽に合わせて軽く弾く程度ですし、特別なことは何もしていませんが、集中が高まりますし、マインドをシャープに保てます。また、指も温まりますし、身体の中にリズムも生まれます。
− 好きなビデオゲーム・サウンドトラックを教えてください。
『DOOM』のサウンドトラックですかね。壮大なので好きです。『DOOM』という作品を支えているサウンドトラックだと思います。このゲームのアイコンですね。『DOOM』はすべてのサウンドがサウンドトラックのように思えます。
− 2021年の目標を教えてください。
目標はかなり多いです。まずは音楽制作を進めたいですね。アルバムをリリースしたいと思っています。サウンドはTame Impala(テーム・インパラ)に近いかもしれません。ベース、ドラム、キーボード、ヴォーカル、エフェクトを自分で演奏して加えていますが、そこまで複雑な音楽ではないですね。
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