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ハートレートモニターのメリット
最終目標が何であれ、ライディングのエフォート(頑張り具合)や強度の計測・記録は自分のパフォーマンスと疲労度の理解を深めるのに大いに役立ちます。負荷やスピードに身体を慣らしたり、進捗を管理したり、右肩上がりで自分を成長させたりできるようになるのです。
出力を記録・計測するための方法はいくつも存在します。パワーメーターやハートレートモニター(心拍計 / ハートレートセンサー)はもちろん、最近はトレーニングを自分がどのように感じたかという【主観的運動強度】で計測することもできます。
自転車競技における出力計測で最も精度が高いとされているのはパワーメーターですが、パワーメーターは高価で、カジュアルライダーたちの予算枠を超えてしまいます。
一方、ハートレートモニターは手頃な価格で手に入れることができます。出力計測はパワーメーターほど高精度ではありませんが、エフォートに自分の身体がどう反応しているのかをより深く理解するのに効果的なツールで、自分に最適なトレーニングの設定やトレーニング中の身体の変化の追従が簡単にできます。
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心拍数ゾーンとトレーニングゾーン
本格的なトレーニングに興味を持っているなら、「ゾーン」という単語を一度は耳にしたことがあるはずですが、これは何を指しているのでしょうか? また自分に合った「ゾーン」はどのように見つけるのでしょうか? 自分のトレーニングを負荷の大きさを理解するためには、まずエフォートをベリーイージーからベリーハードまで(分類方法・各ゾーンの名称はプラットフォームや計算式によって異なります)のゾーンに分ける必要があります。
ゾーンを分け終わったら、各ゾーンに適したワークアウトを準備し、各ゾーンのベストリザルトを目指していくわけですが、これらのゾーンを心拍数で分ければ、自分がどのくらいハードにトレーニングしているのかが簡単に理解できるようになるだけではなく、特定のゾーンや強度に留まって身体を順応させることもできるようになります。
言うなれば、ゾーンとは私たちがトレーニングをセットやセッション単位で行っている理由そのものなのです。ゾーン毎に “適切な負荷” を身体に加えながら、身体を上手く鍛えていくのです。
ゾーン5のトレーニングを続けるよりゾーン2周辺でフィットネスを高める方が効果的です
私は、エフォートがトレーニングセッションの最適値をやや上回ってしまい、身体を上手く順応させられなかったライダーを数多く見てきました。このようなライダーは中途半端な効果しか得られません。
彼らのトレーニングセッションは、疲労度は高いですが、フィットネスの向上には非効率的で、最終的に何ひとつ目標を達成できません。そのため、欧米ではこのようなセッションを “無駄走り” を意味する「ジャンクマイル」と呼んでいます。
つまり、心血管能力を向上させるために必要な心拍数を理解しておくことは非常に有用なのです。ゾーン5(ベリーハード)を続けるよりもゾーン2(イージー:ある程度の時間を費やす有酸素運動)周辺でフィットネスを高める方がより効果的です。また、ゾーンは自動車の “レブリミッター” として捉えることもできます。特定のゾーンに留まることで、疲労や乳酸が蓄積するタイミングを遅らせたり、自分が目指している目標達成に最も効果的なエフォートレベルからの逸脱を防いだりできるのです。
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心拍数ゾーンとトレーニングの設定
最初にやるべきことは、自分の心拍数閾値がどこなのかを確認することですが、厄介なことに、この値は「乳酸製閾値(LT)」、または「無酸素性閾値 / 嫌気性代謝閾値(AT)」と複数の名称を持っています。
この確認作業は、言い換えれば、血中乳酸値が急激に増加して疲労度が急速に高まっていく直前に位置する “エフォートの最大値” を見つける作業です。
エフォートを安定させることができれば、それだけ正確な値を導き出せます
この値を算出するテスト方法は複数存在しますが、実用的で分かりやすいテスト方法は「十分にウォームアップしたあと、最大エフォートで30分のタイムトライアルを行う」です。最初の10分が経過したタイミングでサイクルコンピューターやスマートウォッチでラップを計測し、残り20分の平均心拍数を計測しましょう。
ここで言う最大エフォートは所謂 “ベリーハード” なので、前半で頑張り過ぎて後半に落ちてしまう人が多いです。逆に前半を流して、最終盤で全力を出す人もいますが、エフォートを最初から最後まで一定値で安定させることができれば、それだけ正確な値を導き出せます。
04
心拍数ゾーンの算出方法
心拍数ゾーンとトレーニングの設定は簡単に思えるかもしれませんが、実際はいくつもの設定方法が存在し、非常に厄介です。乳酸閾値心拍数(LTHR)を基準に算出する設定方法があれば、最大心拍数を基準に算出する設定方法もあります。さらに厄介なことに、ゾーン数も複数存在します。ゾーン1〜5の5段階があれば、ゾーン1〜7の7段階もあるのです。
ゾーンシミュレーター / 計算式を使用する場合はいくつかのポイントを考慮する必要があります。最初に考慮すべきポイントは「最大心拍数から計算するよりも乳酸閾値心拍数から計算した方がゾーンを正確に設定できる」です。
昔から存在する計算式「220 – 年齢 = 最大心拍数」は、当てはまる人がいれば、まったく当てはまらない人もいます。また、自分で最大心拍値を計測しようとするとほぼ間違いなく失敗します。ですので、この式は不愉快で非実用的です。
全力スプリントゆえに短時間で終わる最大ゾーンの心拍数は精度が低いことに注意してください
下に紹介しているゾーン表は、トレーニングプラットフォームサービス【TrainingPeaks / トレーニングピークス】のガイドを元に作成したもので、自分のゾーンを設定する目安となります。尚、この表のゾーン6とゾーン7はゾーン5のバージョンになっていることに注意してください。
また、最大レベル(ゾーン5c)の心拍数は他よりも精度が低いことに注意してください。このゾーンは全力スプリントゆえに短時間で終了してしまいます。ある程度時間をかけて距離を走ったり、ある程度の距離を友人と競い合ったりする方が、高精度のデータが取れるのです。
ゾーン
概要・トレーニング
乳酸閾値心拍数(%)
ゾーン1
リカバリー / ベリーイージーライド
<81%
ゾーン2
心血管トレーニング / 長距離持久ライド
81%-89%
ゾーン3
テンポトレーニング / 長距離インターバルライド
90%-93%
ゾーン4
LTHR下(閾値直前)/ ペースライド
94%-99%
ゾーン5a
LTHR上(閾値直後)/ 高強度インターバルライド
100%-102%
ゾーン5b
無酸素インターバルライド
103%-106%
ゾーン5c
無酸素(最大エフォート)スプリント
>106%
筋肉を動かすエンジンを担う有酸素機能を高められれば、乳酸除去能力が上昇し、ゾーン4・ゾーン5に向けた頑強な基礎を作れます
上のゾーン表を見て、ゾーン5に取り組んで閾値ペースで長距離を走れるようになろうと考える人が多いかもしれませんが、実はゾーン2に取り組めば最大限の効果を得ることができます。身体の有酸素機能(筋肉を動かすエンジン)を高められれば、乳酸除去能力が上昇し、ゾーン4・ゾーン5へ取り組むための頑強な基礎を作れます。
これまでゾーン2のトレーニングにあまり取り組んでこなかったのなら、是非取り組むことを考えてください。
05
安静時心拍数の重要性
ここまで読んだ人は、セッション中の心拍数の記録・計測が非常に有益だということが理解できているはずですが、安静時心拍数の記録・計測も非常に有益です。
有酸素機能の向上は心拍出量(心臓1拍で排出する血液量)の上昇を意味します。つまり、少ない回数で必要な血液量を体内に巡らせられるようになるため、安静時心拍数は下降します。
安静時心拍数の記録・計測は非常に興味深く、満足度も高いですが、何よりも価値が高いのは、安静時心拍数の上昇を確認できるところです。では、安静時心拍数が上昇するのはどのようなタイミングなのでしょうか? 安静時心拍数の上昇は複数の兆候を意味するのですが、基本的には「疲労の兆候」または「オーバートレーニングの兆候」を意味します。
いずれにせよ、安静時心拍数を日々記録していく中で、僅かな上昇が計測されたなら、少し身体を休めて、なぜ上昇したのかについて考えてみましょう。上昇が確認された直後に休息して原因を追求すれば、疲労を取り除き、身体を速やかに調整して、トレーニングに復帰できるでしょう。休むことなくトレーニングを続け、休息や補給が不足している生活を送っていて安静時心拍数の上昇が確認されたら、すぐにトレーニングを中止して、完全休養してください。
06
外的要因が心拍数に与える影響
ハートレートモニターの価格が下がっており、誰もが簡単に有益なデータを集めてトレーニングに活かせるようになっていますが、心拍数は様々な外的要因に左右されやすいことを憶えておいてください。
外気温、体内水分量、体内カフェイン量、睡眠時間、直前の運動、ストレス、生理周期などが心拍数に大きな影響を与えるので、同じエフォートでも心拍数は日によって異なる可能性があります。
ですので、心拍数だけではなく、主観的運動強度(セッションで自分がどれだけ負荷を感じたのかをレベル / 数値で示したもの)や出力などの各種データを組み合わせながらトレーニングセッションのエフォートや進捗を確認するのがグッドアイディアです。
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