2009年、英国人フリースキーヤーのパディ・グラハムは友人3人と一緒にオーストリア・インスブルックでスキーコレクティブ “Legs of Steel” を結成した。
そして、ビッグなバックカントリーラインとスキージャンプにアーバンなクリエイティビティと革新的なシネマトグラフィ、そして何よりも重要なヘヴィメタル・ミュージックを巧みに組み合わせることで知られるこのコレクティブは、すぐに相応しい評価を得るようになっていった。
過去10年で、Legs of Steelは複数の賞を受賞した『Passenger』(2015年)やパディ・グラハムが過去最大のフリースタイル用スキージャンプに挑んだ『Same Difference』(2017年)など、スキーフィルム史に残る名作群をリリースしてきたが、当然、このような功績とビッグトリックはハードワークとトレーニングなしには手に入らない。
パディ・グラハムにトレーニング方法について詳しく話を聞いてみた。
− 冬季のトレーニングの内容を教えてもらえますか?
基本的にシーズンインしたあとはスキーをするだけです。ジムに行く時間はないですね。少なくとも、僕はそう思っています(笑)。ジムに行く時間はあるのかもしれません。ですが、僕はスキーをしたいんです。身体については、夏の間に冬に向けて作っていくので、シーズンインしたあとはメンテナンスをするくらいですね。
シーズン中は、午前3時に起きて日没の撮影に向けて長時間スキーツーリングをしたり、日没までジャンプを繰り返して午後11時に帰宅したりするときがあります。ですので、夏の間にスキーと怪我の予防のために身体を作っておく必要があります。
− では、夏季のトレーニングの内容を教えてもらえますか?
グラベルバイクに長時間乗っていますね。サイクリングは脚力と持久力を鍛えられる上に、メンタルにも効果があります。ひとりの時間が持てるので、スキーについて色々と考えることができるんです。
夏の終わりが近づくと、脚の筋肉の強化と増量にフォーカスしていきます。スクワット、シングルレッグスクワット、デッドリフト、ワンレッグバランスをノンストップで続けていくので辛いですね。バランスボードやメディシンボールも使っています。
夏が終わりを迎えると、エアバッグを使ったトリックメイクの練習を経て雪山に戻ります。10月か11月にはパークでスキーを始めて、スキーとエアに慣れていきます。
− 長期の撮影に入る前、または終わったあとはどのようにリカバリーをしているのでしょうか?
ヨガとストレッチですね。それからフォームローラーで筋膜をほぐします。あとはただ身体を休めています。
バランスが大切です。夏を通じてシーズンが終わるまでスキーを続けられる身体を手に入れようとしています。夏に手に入れたものはまず失われません。
10日連続で撮影しなければならないときもありますが、その間ずっとスキーをしているわけではありません。スポットを見つけたあと、ジャンプの造設に3日間費やしてからスキーをするときもあります。また、カメラのために1日中同じラインを繰り返すだけのときもあります。ですので、そこまできつくはないんです。
− エアバッグが話に出ましたが、どうやって新しいトリックをマスターしているのでしょう?
基本の動きを学ぶところから始まります。新しいトリックは少しずつマスターしていくんです。最初は同じトリックをメイクしていう他のスキーヤーを見て視覚的に学びます。そのあと、トリックをパーツに分けて、パーツごとにトランポリンで学んでいきます。その次にエアバッグでのメイクへ進みます。
若い頃はエアバッグがなかったので、怪我のリスクが比較的低いウォーターランプか雪が柔らかくなっているジャンプで練習していましたね。
− エアバッグでのトリックメイクと雪山でのトリックメイクはどこが違うのでしょうか?
エアバッグでは雪山よりもずっと安全にトリックメイクができます。それができるようになったら、雪山でエアバッグと同じサイズのジャンプを使って練習します。サイズを揃えることで空中時がイメージしやすくなるからです。ですが、バックカントリーでは事情が異なります。ジャンプ、フィーチャー、クリフがひとつとして同じではなからです。
ですので、バックカントリーでは空間認識能力を鍛え、どんなときもそれを活かせるようになることが大事です。目と経験でイメージするのです。スピードはどのくらい必要なのか、回転までにどこまでスピードを落とさなければならないのか、ミスをしたらどこまで滑落するのかなどをイメージできるようになっておくことが重要です。
エアバッグは素晴らしいですが、詰まるところ、現地ではそれまで積み上げてきたスキーとトレーニングから得られる知識と自信がものを言います。メンタルが大きなポイントになりますね。
− 専属コーチをつけたことはありますか? それともトリックはほぼ独学なのでしょうか?
僕は自分で考え、自分で答えを見つけながら成長してきましたが、他のスキーヤーや友人たちと一緒に学ぶときもあります。フリースタイルスキーは競技ですが、全員が仲間です。比較的若いスポーツですので、お互いに学び合うことが重要ですし、言うまでもなく、スキーとスノーボードはスタイルが大切です。
スタイルはかなり重要ですね。誰もが自分のスタイルを持っていますし、テクニカルなトリックよりもスタイルを重視している人もいます。この意味で、フリースタイルスキーは2つの大きな側面があると言えますね。
− 最後の質問です。雪崩のリスクはどのように回避しているのでしょうか?
毎年、みんなで雪崩の知識を更新しようとしています。雪崩の意識とスキルをチューンアップしているんです。バックカントリーに入るときは、雪崩対策のギアと知識を揃えている必要があります。僕は14歳のときからそうしています。年上のスキーヤーたちといつも一緒でしたので、彼らからすべてを教わりました。
雪山については日々勉強することがあります。雪山とコンディションは常に変わるからです。ですので、最高・最新の情報を集めて、何をすべきかを考え、パニックに陥らないようにする必要があります。雪山の安全管理においては、「ノー」と言える勇気と自信を持つことが重要です。自分と仲間にリスクを負わせてはいけません。全員無事に帰宅したいのですから。
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