Jürgen Klopp pictured during a photo shoot in Germany to celebrate his new role as Red Bull's Head of Global Football.
© Norman Konrad
サッカー

ユルゲン・クロップ 独占ロングインタビュー:楽観主義の重要性

リヴァプールやボルシア・ドルトムントで大きな成功を収めたあと、レッドブルグローバルサッカー部門責任者としてRB大宮アルディージャをはじめとする世界のレッドブルのサッカークラブを統括しているクロップが、敗戦や成功の秘訣、笑顔の持つ力など様々な話題について語った。
Written by Tobias Moorstedt
読み終わるまで:22分Published on
セレブリティやスポーツマンについて「テレビで見るよりも小さい」という印象を持つときは少なくないが、ユルゲン・クロップに対する印象は異なる。実際のクロップは大柄だ。
身長190cmの引き締まった身体、力強い声と握手。会った場所はロッカールームではなく、ビッグマッチを控えているわけでもないが、それでもクロップは全員の注目を集めることができる。そして、そこに不遜さは一切感じられない。VIPルームや個室は必要ないのだ。クロップはフレンドリーかつ実直で、エナジーに溢れている。

− 世界中が不穏な雰囲気に包まれているような印象ですが、あなたはどう感じていますか?

ユルゲン・クロップ: 私はかなり楽観していて、未来に対して楽に構えている。もちろん、人生のすべての局面や世界で起きているすべてにこのアプローチを適用できるわけではない。

最近はすべてが急速に変化している。私たちが長きに渡り “永遠に続く” と信じていたことが様々な理由から減少しており、高額化も進んでいる。多くのことが私たちのコントロール下から外れている。実はここがポイントだ。私が楽観的なのは、私が影響を与えられることの未来に対してだ。その他のあらゆる出来事やトレンドについては上手く付き合っていくしかないと思っている。

− “言うは易く行うは難し” にも聞こえますが…。

ユルゲン・クロップ: もちろん、私は恵まれた立場にいるし、多くの人が私よりもはるかに苦しい立場にいる。私はこのことを十分に理解している。私は58歳だが、若い頃には夢にも思わなかったような人生を歩めてきた。人生の大半が本当に上手く進んできた。

しかし、実は40年前の私も同じで、同じ価値観を持っていた。“根拠のない楽観主義” とも言えるかもしれないが、私は “最後は上手くいく” と信じている。

− 楽観主義はスポーツのトップレベルで成功を収めるための必要条件だと思いますか? ドイツ南西部 “シュヴァルツヴァルト(黒い森)” で生まれたあなたは、サッカーでキャリアを築くことを夢見る数多の少年のひとりでした。その夢を叶えられるのはほんのひと握りです。

ユルゲン・クロップ: 私はサッカーを心から愛していたし、地元で最も上手い選手のひとりだった。しかし “不十分” なことを理解している現実的な私もいた。自分を過小評価していたところもあったのかもしれない。結果、私はサッカー選手として実に平均的なキャリアを送ったが、おかげで引退後にあらゆる可能性が残されていた。

ブンデスリーガ2部のクラブで325試合出場していなかったら、間違いなく今のような監督にはなれていなかっただろう。夢を叶えるためには楽観的な視点が絶対に必要だ。なぜなら、夢を追いかけている時間がより楽しくなるからだ。しかし、現実的な視点も重要だ。「自分の才能は何なのか? 自分はどんな違いをもたらせるのか?」と自分を見極める。悲観的な視点は私には意味がない。

− それはなぜでしょう?

ユルゲン・クロップ: 一般的に、悲観的な視点は “上手くいかなかった過去の経験” から生み出される。このような経験は、将来成し遂げたいことへの信念をくじいてしまうときが少なくない。私にとって、上手くいかなかった過去の経験は “上手くいかなかった” という情報に過ぎない。私は失敗に引きずられないようにしてきた。

01

マインツ時代に得た学び

ドイツサッカー界において、世界中からここまでリスペクトされている人物はフランツ・ベッケンバウアー以来だろう。
近年最も大きな成功を収めている監督であり、メディアでいくつもの賞を獲得してきた彼は、テレビがCMに入るたびに目にすることができる。あるテレビCMのクロップはパン屋、歯医者、神父に姿を変えていたが、どういうわけか、私たちは彼ならこれらの職でも成功していたと信じることができる。
クロップのファンは、トロフィーをもたらしてくれたという理由だけで彼をリスペクトしているわけではない。2018年のチャンピオンズリーグ決勝でリヴァプールがレアル・マドリードに敗れたあともDie Toten Hosenのリードシンガーと一緒に “マドリードにツキがあっただけさ。俺たちはクールに戦い続けよう。今度はリヴァプールにトロフィーを持ち帰るぞ!” と陽気に歌った男をリスペクトしているのだ。
そしてその翌年、クロップは実際にチャンピオンズリーグ優勝を果たして見せた。なぜここまで失敗に引きずられないでいられるのだろうか?

− チーム、クラブ、そして街を盛り上げる方法を教えてください。

ユルゲン・クロップ: 何事にもサイクルがある。悲しみ、怒り、反省というサイクルがね。私のキャリア最大の失敗はマインツ時代の昇格失敗だ。小規模クラブだったマインツは突如としてブンデスリーガ昇格のチャンスを得たが、最終節に勝ち点1差で昇格を逃した。当時の私にとって人生最悪だった。未来に対してポジティブに考えることができなかった。

しかし、痛飲した翌朝、世界がまた違って見えた。大きな決断をしようとしているあらゆる人に対して私から言えるアドバイスは、“1日置いてみなさい” だ。

− マインツ時代の続きをお願いします。

ユルゲン・クロップ: 翌朝、自分たちは強いチームで、昇格まであと一歩だったと自分なりに結論を出した。あと少し調整すれば、来シーズンは昇格できると考えた。そしてそのシーズン、私たちはまたも昇格を逃したが、このときは1ゴール差だった。

サッカーの神様に虐められたような気がした。この2つは人生を変える敗戦だった。3回目も失敗すれば、監督キャリアが終わることを私は理解していた。しかし、3回目はついに成功し、私は命拾いをした。

2013年、2018年、2022年のチャンピオンズリーグ敗退もいい気分はしなかった。しかし、私はこれらの敗戦が私の人生を変えないことを理解していた。贅沢な立場だ。トロフィーがひとつ増えるかどうかはそこまで重要ではないというわけだ。しかし、キャリア初期のあの2つの失敗は間違いなく私を形作った。

− 大抵の人なら穴を掘って隠れてしまうような失敗です。

ユルゲン・クロップ: 私の役職でそれは許されない。通常、選手たちは次のトレーニングや試合のことしか考えないので、批判は存在しない。私も同じだ。しかし、誰かが道を示し、目標を達成できるというムードを生み出す必要がある。

マインツで昇格を再び逃したとき、私はステージに立ち、サッカーの神様が私たちを試しているのだろうと伝えた。私たちが1回ではなく、2回、3回と倒れてもさらに強くなって戻ってくることができるか試しているのだと。そして、マインツほどこの試練に相応しいクラブと街は存在しないと伝えた。

そのとき、選手25名とステージ前に集まったサポーター2万人の全員が私の言ったことを信じてくれた。そして、最初の練習にサポーター1万人が集まり、そのシーズンに勢いを与えてくれた。楽観主義はそれだけで素晴らしいものだ。しかし、誰かと共有することで真に強力な効果を発揮する。

− もう少しマインツの話を続けましょう。2001年、スポーティングディレクターだったクリスティアン・ハイデルがあなたに連絡を入れて、プレイングマネージャー(選手兼監督)になってもらえるかどうか訊ねたそうですが、当時のあなたにはそのようなチャレンジに挑む自信が備わっていたのでしょうか?

ユルゲン・クロップ: “若気の至り” と表現してもよいだろう。当時、私は33歳で、スポーツ科学の学士号を取得していたが、経験はゼロだった。ハイデルが訊きたかったのは “シーズンが終わるまで担えるか?” より “次の水曜日の試合までにチームを準備できるか?” だった。そして私は “自分ならできる” と考えた。そのあとチームは7戦6勝を記録して、正しいスタートを切ることができた。

− 小さな目標に分けて考えることが重要というわけですね。

ユルゲン・クロップ: その通り。サッカーでは、「目の前の1試合をこなしていくだけ」と回答してもメディアには好かれない。しかし、これは真実だ。他の方法は存在しない。大きな目標を立てたあと、そこへ向かって一歩ずつ進んでいくための準備をする。これが成功するための唯一の方法だ。

楽観主義はそれだけで素晴らしいが、誰かと共有することで真に強力な効果を発揮する
ユルゲン・クロップ
02

家族の重要性

− 私たちの “楽観さ” に個人差がある理由を調べた研究の結果を紹介しましょう。楽観的視点の30%はDNA、つまりは神経伝達物質が分解されるスピード、20%は運で構成されていて、この2つはプラスに相互作用します。そして残りの50%は “楽観さ” を学べる支援的環境です。あなたの楽観的視点の要因はどこにあると思いますか?

ユルゲン・クロップ: いずれも重要な要因だが、何よりも重要なのは、私たちはそれぞれが育つ家庭によって形作られるということだ。私は両親にとって3人目の子どもだった。姉2人から5歳離れていて、待望の男の子だったので、完全に駄目な子どもになっていた可能性もあった。

両親には相当甘やかされて育った。しかし、そのおかげで他人を完全に信じられるようになった。私は偏見を持つことなくポジティブに人と接することができるし、相手を完全に信じられる。信じた結果、落胆させられても、あとで修正できる。

− 両親の影響でそのような性格になったのでしょうか?

ユルゲン・クロップ: 私の父は戦前世代で、相手への要求がとても多かった。毎日愛しているよと言ってくれるような父親ではなかったが、私は愛を感じることができていた。父は私に対して “自分ができなかったことをできるチャンスがある” と考えていたので、色々とやらせてくれた。

私の性格が育った環境、DNA、あるいは私の決断によるものなのかは分からないが、重要なのは、私が人生を楽観的に捉えて、周囲の人たちにとって価値ある存在になりたいと思っているということだ。私だけが幸せになっても十分ではない。これは私のクリスチャンとしての信念や家庭教育から来ている。

しかし、私の人生のすべてが楽だったわけではない。道を誤っていたかもしれない瞬間もあった。

− 例を挙げてもらえますか?

ユルゲン・クロップ: 私は若くして父親になったが、当時は嬉しく思えなかった。しかし、今では父親になれたことは私の人生で最良の出来事だったと言える。私は、このチャンスを最大限活かすことが自分のミッションだと思っている。個々で言うチャンスとは、私たちの人生という意味だ。

− 元リヴァプールのスティーブン・ジェラードはかつて “ユルゲン・クロップは必ず笑顔でロッカールームに入ってきた” と言っていましたが、本当でしょうか? 意識的に笑っていたのでしょうか?

ユルゲン・クロップ: 特に意識していなかったが、ロッカールームに入ったあとはチームを試合に向けてベストの状態へ持っていく必要がある。私が話を終えたあと、その場にいる全員がさらに強くなっていなければならない。

私は自分の選手たちに多くを求める。勇気、創造性、そして団結だ。おそらく笑顔はこれを可能にする唯一の表情なのだろう。

今の仕事で世界への好奇心をようやく満たせることに興奮を覚えている
ユルゲン・クロップ

− あなたはかつて “試合前に私が感じていることを瓶に詰めて売れば、違法になるだろう” と発言していましたが、その瓶のラベルにはどんな文言が書かれるのでしょう?

ユルゲン・クロップ: “成功への渇望”、“戦闘への渇望”、“試合への渇望”、“影響力への渇望” といったところだろう。自分が不機嫌なときに出てくる態度なら何でもよい。

− そういう態度になるのを避けるためのアドバイスはありますか?

ユルゲン・クロップ: 自分が知らないことについてアドバイスを授けるのは難しいが、トライしてみよう。私はすべての試合に勝ったわけではないが、パーフェクトなキャリアを築いてきた。「あいつはチャンピオンズリーグ決勝で3回も負けた」と言う人もいる。おっしゃる通りだ。しかし、私がその人と同じように考えるほど愚かなことはないだろう?

レアル・マドリードが決めた馬鹿げたゴールについて私が毎日考えることはない。しかし、同時にトロフィーを掲げた瞬間を毎日思い出すわけでもない。人生で起きた出来事をどう捉えるかは私次第だ。

試合に負けたら「プランが間違っていた。最初からやり直す」と言ってもいいし、「アイディアは間違っていなかったが、ベストな形で実行できなかった。タイミングと精度が悪かった」と言ってもいい。要するに、私たちにはもっと上手くやれる次のチャンスがあるということだ。

全力を尽くしても、望んでいるすべてが得られるわけでない。しかし、何かを得るためには全力を尽くすしかない。

− スポーツの世界では、あるチームが突如として自信を手に入れて、他のすべてのライバルを圧倒するようなシーンが見られますが、このようなシーンを生み出すためにはどうすれば良いのでしょうか? また、そのようなチームはどのような感覚を得るのでしょう?

ユルゲン・クロップ: リヴァプール時代に、2シーズン半合計で勝ち点5、6しかホームで落とさなかったことがある。とんでもない記録だ! しかし、残念ながらこの期間にリーグを制したのは1回だけだった。

外側から見れば、「今の彼らはパーフェクトだし、優勝なんて簡単だ」と思えるが、当事者たちにはどんどんプレッシャーがかかっていく。試合に勝つとしばらくは嬉しい。勝ち点3を獲得できたとね。

そしてそのあとチームの調子を確認する。「誰を外すべきか」「誰を鍛えるべきか」「誰に注意すべきか」などを考えていくうちに次の試合が3日後に迫る。そしてまた勝利する。素晴らしい。しかし、次はどうしたらいいのだろうか?

連勝中は “楽しい” とは無縁の世界だ。努力、安堵、努力、安堵の繰り返しで、連勝が続くほどプレッシャーが大きくなっていく。試合後のとてつもなく大きな安堵感を覚えている。あまりにも大きくて立つのが難しいくらいだった。“ああ、ピットストップはもう終わりだ。さあ、また行こう”。いつもこんな感じだった。

日本では香川真司の才能を引き出した監督としても有名

日本では香川真司の才能を引き出した監督としても有名

© Norman Konrad

03

レッドブルでの新しい挑戦

− 今の新しい役職でも同様のエクストリームな状況がありますか?

ユルゲン・クロップ: 最初に言っておきたいのは、アドレナリンが恋しいわけではないということだ。また、私はまだサッカーから離れたわけではない。もちろん、以前より密度は下がっているだろう。なぜなら、ピッチに立っていないからだ。とはいえ、チームとコーチたちに労力を割いている。

今は運転席ではなく、助手席に座っている感じだ。状況を眺めている立場で、目的地に到着できればそれでハッピーだ。今の仕事、つまり、変化を続けている異なる国の様々な立場の人たちと会話することに大きな興奮を覚えている。毎日何かしら新しい学びがある。今の仕事で世界への好奇心をようやく満たせることに興奮を覚えている。

2023-24シーズン限りでリヴァプール監督を勇退したクロップ

2023-24シーズン限りでリヴァプール監督を勇退したクロップ

© John Powell/Liverpool FC via Getty Images

クロップが座っているのは2025年末に完成したばかりのRBライプツィヒの新オフィスだ。
広々としたホール。グランドスタンドのように幅が広くて開放的な5階まで続く階段。空間を満たす木の香り。建物には2500㎥の木材が使用されている。冬の今も、すべてが開放的で明るく透き通っている。オフィススペースには壁がほとんど存在せず、すべてが柔軟に拡張できる仕様で、役員たちに与えられているのもアイランド型のデスクだけだ。
クロップが屋外に広がるピッチを恋しそうに眺めることはない。監督として彼はすべてを手に入れた。そして彼は自分の地位を守る代わりに、そのさらに上を目指すことを決めた。新しい冒険へ旅立つことにしたのだ。グローバルサッカー部門責任者となったクロップは、ニューヨークライプツィヒブラジル日本に位置する4クラブのスポーティングガイドラインを担っている。

− 新しい仕事で何が変わりましたか? また何が同じでしょうか?

ユルゲン・クロップ: ロッカールームを恋しく思うことはない。あそこには十分通ったし、においも褒められたものではなかった(笑)。レッドブルでの初年度は非常に濃かった。多くのことを立ち上げて、古き慣習を打ち壊した。

これまで率いてきたクラブと同じで、初日にいきなりそれまでとは違うやり方で行くと伝えたわけではない。私はまず自分が誰を相手にしているのか、彼らが何をなぜしているのかを理解したい。そのあとで変更・改善できる部分について話し合えるようになる。

− 今のようなグローバルなオフィスワークはロッカールームの真逆に思えます。最近のあなたはビデオコールやメッセンジャーを仕事に駆使していて、異なる地で異なる仕事をしている人たちと連絡を取っていますが、どのように一体感を生み出し、彼らにモチベーションを与えているのでしょうか?

ユルゲン・クロップ: マインドセットの問題だ。一度も会ったことがない人といきなりビデオコールをするのは難しいが、私は全員に最低2回は会っている。こうすることで上手くいくようになる。自分次第で仕事に親密感を生み出せるというわけだ。朝起きて、5つのコールをこなして重要事項について話合ったら、あとは現場に出て新しい刺激をもらうようにしている。

− サッカー監督の仕事は分かりやすいですが、グローバルサッカー部門責任者はどのような仕事をするのでしょうか?

ユルゲン・クロップ: 私はサッカー界では見られないユニークなパートナーになりたいと思っている。レッドブルのクラブを率いる監督たちだけが持っているアセットになることを目指している。最近のサッカー監督は、クラブ内に疑問や質問を投げかけられる相手がいない。クラブ内の全員が “監督が一番よく知っている” と思っているからだ。

しかし、今はレッドブルのクラブを率いる監督の誰かが問題を抱えたら、私に連絡を入れることができる。そして私ならその答えを知っているかもしれない。同じ経験をしてきたからだ。

− ボクシングのスパーリングパートナーのような仕事というわけですね。試合を控えている監督たちはどのような質問をあなたに投げかけるのでしょう?

ユルゲン・クロップ: 監督全員と定期的に連絡を取っている。会話のベースを作りながら、彼らにはなかった新しいアイディアを紹介している。繰り返し出てくる質問が「どのように物事を評価していますか?」だ。

私たちを何よりも振り回すのが世間からのプレッシャーだ。これをどのように扱えばよいのか? 私が本を書くなら、これがテーマになるが、その答えはシンプルで、“とにかく無視する” だ。200ページの本を書いても、要点はこのひと言になる。

監督は常に自分で自分にプレッシャーをかけている。だから、世間が色々と議論していても、そこに加わる必要はまったくない。私といればこれを学べるだろう。私たちは最高のサッカーをして、自分たちの目標を達成したいだけだ。他人に振り回されることはそこに含まれない。レッドブルは世界最大級のクラブではないので、私たちが新しくて斬新なソリューションを用意し、仲間が勇気を持ち続けられるようにアシストをしていく。やり甲斐のある仕事だ。

未来を信じることで、私たちはポジティブな結果を想像できるようになる
ユルゲン・クロップ
04

RBライプツィヒでの取り組み

− あなたは定期的にクラブの再建に関わっています。マインツ、ドルトムント、リヴァプールを再建させたあなたは、最近はRBライプツィヒの再建に関わっています。再建が成功するという楽観的視点はどこから得ているのでしょうか?

ユルゲン・クロップ: ピンチはチャンスだ。ネガティブな経験をしたあとはスピーディーに決断する必要がある。RBライプツィヒには成功体験がすでにあった。彼らはチャンピオンズリーグで旋風を巻き起こしていた。あれは真のサクセスストーリーで、ヨーロッパでは滅多に見られないものだった。当時のRBライプツィヒは若くて勢いがあった。

しかし、この評価がもう当てはまらなくなった。リスタートをするタイミング、最初に立ち返るときが来たのだ。機能しているシステムに新しい血を入れる、私たちはこれを進めてきた。そして今、私たちは再びリーグ最年少チームになっている。自分たちのサッカーを常に調整しなければならないが、これはいたって普通のことだ。

− あなたはブンデスリーガとプレミアリーグで長年過ごしてきましたが、今は複数のリーグを同時に受け持っています。この経験から得ていることを教えてください。

ユルゲン・クロップ: 密度の濃さにおいては、プレミアリーグが抜き出ている。最高の選手、最高のトレーニング、100%のコミットメント、2つのカップ戦、大規模なリーグが揃っている。実に素晴らしい。

フランスはタレントの宝庫で、日本も非常にエキサイティングなリーグだ。日本は大学まで通い23歳でプロになる選手もいるので、完全に構造が異なる。若手選手たちが人間としてより成熟している。とにかく他とは異なるエキサイティングなシステムだ。

それゆえに日本に対してはプレミアリーグやブンデスリーガのやり方をそのまま当てはめることはしない。文化的背景に適したやり方を見つけ出して、この国の素晴らしいサッカーに正しい光を当てたいと思っている。

− 先ほど世間からのプレッシャーについて触れていましたが、そのようなプレッシャーに晒されながらどのように持続可能な育成・開発システムを構築しているのでしょうか?

ユルゲン・クロップ: もちろん、まずは目の前の問題に対処する必要がある。しかし、私はどの役職にいるときも “私はこの仕事を長く続けるだろう” と考えていた。自分が得たチャンスを楽観し過ぎていたわけではない。単純にこれが私の考え方なのだ。

私は渡り鳥タイプではない。そこにいる人を知り、物事を理解し、インパクトを与え、願わくは成功を収めたいと思っている。育成・開発には時間がかかる。RBライプツィヒはすでにスタートを切った。あとは実際にどれだけの時間がかかるかだ。7年かもしれないし、10年、12年かもしれない。

− あなたは25年前に監督業を始めましたが、2000年代の自分の試合を見直して「プレースビードが遅い」と感じますか? 何が今後のサッカーを進化させる要因になると思いますか?

ユルゲン・クロップ: 私が現役だった1990年代は、練習前に塩タブレットを渡されるだけで、水分を摂ることは許されなかった。だから脱水症状で練習をしていた。あの時代から戦術的も練習方法も大きく変わった。私の仕事も大きく変わった。マインツで壁にネジを打ち込むことから始め、最後はリヴァプールで宇宙船を操縦していたような感じだ。

しかし、サッカーには生物としての限界がある。近年の試合中のチームの走行距離も100kmから150kmまで跳ね上がっていない。選手たちにパフォーマンス、リカバリー、トレーニングの時間を十分に与えれば、サッカーはネクストレベルへ進化するだろう。

ドイツが世界最大の選手輸出国でなくなってから長い時間が経っているが、クロップがイングランドで成功して以来、ドイツ出身の監督への需要は高まっている。人心掌握術と精度の高い戦術が評価されているのだ。グローバルサッカー部門責任者であるクロップは、世界が自分のクラブだ。空港に慣れている彼は、米国、日本、ブラジル、ヨーロッパで多くの時間を過ごしている。
ロッカールームからオフィスへ仕事場を変えたクロップ

ロッカールームからオフィスへ仕事場を変えたクロップ

© Norman Konrad

− 最近のドイツの雰囲気をどのように表現しますか?

ユルゲン・クロップ: 私はマインツのゴンゼンハイムに住んでいる。正式な調査ではないが、国内を動き回って色々と話を聞いている。ドイツの雰囲気は特によいわけではない。しかし、問題は昔から常に存在する。単純に世の中が忘れてしまうだけだ。だから、いつも私たちには直近の問題が一番大きくて厄介に見えてしまう。

そのような問題の中に新しくて想定外のものが少しばかり存在する。それはヨーロッパ圏内の戦争だ。私とは異なる政治思想がさらに人気を得るようになってきている。私は政治家たちを羨ましいと思ったことはない。

− それはなぜでしょう?

ユルゲン・クロップ: 全員を満足させるのは不可能だからだ。どんな決断をしても、必ず誰かが「正気か?!」と叫ぶ。それでも政治に関わり続け、この対立的なムードに立ち向かっている人たちを私はリスペクトしている。何であれ正しいことを成し遂げようとしているなら、私は批判しない。なぜなら、正しいことを継続するのは現実的に不可能だからだ。

私は “評価をし直し、熟考を重ねる” という常識を重視している。ここでまた楽観主義の話に戻る。未来を信じることで、私たちはポジティブな結果を想像できるようになる。そしてその想像が実現に向けて頑張ろうという気持ちに繋がる。

− 楽観的視点はトレーニングを通じて獲得できるものなのでしょうか?

ユルゲン・クロップ: 私の人生観は、私に起きたことを振り返ることで得たものだ。逆風や挫折にいずれ対処しなければならないということを誰かが教えてくれたわけではない。私が自分で決断した。

自分の出自とキャリアを振り返ると、自分でも信じられない。これまで直面したあらゆる分岐点や危機において、私は正しい答えを知っていたのだと言えればいいのだが、実際は違う。自分の決断が正しいことを祈っただけだ。そしてまた次の分岐点や危機に直面したら、私はまたすべてを賭けるつもりだった。

− 具体的にお願いできますか?

ユルゲン・クロップ: 若い世代にレシピを与えるようなことはしたくない。私が言えるのは、私には上手く機能したということだけだ。私のキャリアは、自分が想像していたより9万%素晴らしい。

しかし、そうではない瞬間もあった。たとえば、妻のウラとキッチンテーブルに座り、私がサッカーにすべてを捧げる余裕が私たち夫婦にあるのかどうかを真剣に話し合ったときがあった。

私たちは、失敗したらタクシーに乗らなければならないことを理解していた。そして2人揃ってアクセルを全開まで踏み込んだ。その結果、すべてが上手くいった。ここまでは素晴らしい旅だったし、本当に多くの人が私を助けてくれたこれが私からのアドバイスかもしれない − 勇気を持ち、正しい人たちに囲まれれば、すべてが上手くいく。

▶︎RedBull.comでは世界から発信される記事を毎週更新中! トップページからチェック!