トライアルバイク
【世界初】西窪友海、長野五輪ジャンプ台を“前輪だけ・後ろ向き”で走破!
プロトライアルライダーの西窪友海が、自転車の前輪一本だけで、しかも後ろ向きにスキージャンプ台を走破! 約2年、50回に及ぶ挑戦の末、2つの世界記録を樹立した。
聞けば聞くほど「どういうこと?」な世界初の快挙。
まずは、チャレンジの模様をこちらでチェック!
見終わったら、このすごさを、一緒に紐解いていこう。
01
前輪だけで、後ろ向き。しかも舞台はジャンプ台?
スキージャンプ台を“前輪だけ・後ろ向き”で走破。
ちょっと何を言っているかわからない。だが、とんでもないことを成し遂げたことだけは分かる。そんなビッグニュースが飛び込んできた!
その名も『Tomomi’s Steep Fakie』。チャレンジの舞台となったのは、1998年長野オリンピックでも使用された白馬ジャンプ競技場だ。
画面で見る分には、「まあ、大きいジャンプ台なんですね」くらいかもしれない。しかし、実際に見るラージヒルは、タワーマンションぐらいの規模感。スタート地点から見下ろす斜面は、もはや坂よりも崖に近い。人間が立つ場所じゃない。ましてや自転車で後ろ向きに走るところでは絶対にない。
まずは、今回の数字を見てほしい。
- 最大斜度:37.5度
- 最高速度:約59km/h
- 走行距離:136.6m
- 走行時間:約35秒
普通に前向きに自転車で下るだけでも、常人なら丁重にお断りするだろう。
それを前輪一本で、進行方向に背中を向けたまま走る。もう彼は、どこかへ恐怖心を置いてきたようだ。
この技の正式名称は『Fakie Nose Manual(フェイキーノーズマニュアル)』。後輪を浮かせ、前輪だけでバランスを取りながら後ろ向きに進む。西窪が「世界で一番上手い自信がある」と語る超高難度トリックだ。
体を支えるのは前輪一本。わずかな重心のズレが転倒につながり、速度を制御し続けるブレーキの熱は約150℃まで上昇する。人間もすごいが、ブレーキも相当頑張っている。
そんな極限バランス状態を約35秒。西窪は136.6mの急斜面を、前輪だけで走り切った。
02
こんなことができる西窪友海って何者?
こんなクレイジーな挑戦を成功させた西窪友海は、世界で活躍するプロトライアルライダーだ。
西窪が主戦場とするのは、トライアルのなかでも“ストリートトライアル”と呼ばれるジャンル。障害物を正確に攻略するバイクトライアルの技術をベースに、街中の階段や段差、壁などを舞台に、ジャンプや回転といったトリックを繰り出していく。
前輪だけで静止する。後輪だけで障害物へ飛び移る。狙った場所へ数センチ単位で着地する。大胆なジャンプを決める度胸と、針の穴を通すような繊細な技術。その両方が求められるのだ。
西窪は12歳でバイクトライアルを始め、2013年には日本代表として世界選手権に出場。2016年と2017年には全日本タイトルを獲得した。
現在はストリートトライアルライダーとして自ら出演・制作する映像作品でも注目を集めている。自身のYouTubeチャンネルで公開した『NINJA RIDER 忍者ライダー』は330万回以上(2026年時点)、『CHASE HER - Tomomi Nishikubo』は1600万回以上(2026年時点)の再生回数を記録するなど、驚異的な数字で世界中のファンを魅了している。
そして、操る自転車も普通のMTBとはひと味違う。
強力な油圧式ディスクブレーキ、ハンドルを回転させても邪魔になりにくいケーブル構造、着地時の衝撃やパンクに対応するチューブレスタイヤなど、高度なトリックを支える工夫が満載。
今回のチャレンジでは、そんなトライアルバイクの性能と、西窪の超人的なコントロール技術がフル稼働したわけだ。
愛車の細かな秘密が気になる人は、【こちらの記事】もチェック!
03
前人未到の世界記録という快挙、しかも2つ?
さて、話をジャンプ台に戻そう。
西窪が『Tomomi’s Steep Fakie』で樹立した世界記録は、次の2つ。
① 最大の勾配で行った自転車フェイキーノーズマニュアル:37.5度
② 自転車フェイキーノーズマニュアルでスキージャンプ台を走行した最長距離:136.6m
ひとつでも十分ニュースなのに、最大勾配と最長距離の2冠を達成した。
そもそも、西窪にとって本当に大変だったのは、記録への挑戦以前に“正解が存在しない”ことだった。
「今回は世界初の挑戦だったので、何が正解なのか誰にも分かりませんでした。ブレーキやタイヤ、走り方まで、一つひとつ自分で試しながら答えを見つけていくしかありませんでした」
お手本なし。攻略動画なし。経験者のアドバイスも、もちろんなし。
必要なものはすべて、自分で試して見つけるしかない。誰よりも先にゴールすることではなく、まだ存在しない道を自分でつくること。真の意味での世界初とは、こういうことなのだろう。
04
成功まで50回。実は約2年越しのリベンジ!
映像だけを見れば、約35秒で成し遂げられた今回の快挙。
しかし、その35秒にたどり着くまでは、約2年かかっている。
チャレンジのきっかけとなったのは、スキージャンプの小林陵侑が世界最長ジャンプに挑む映像だった。【詳しくはこちら】
「自分の得意なトリックを、誰も想像しない場所でやりたい」
そこから西窪は、白馬ジャンプ競技場と同じ37.5度の練習用スロープを自作。もう、準備の段階からスケールがおかしい。
ブレーキやタイヤのセッティングを何度も見直し、2025年に最初の本番へ。しかし、35回挑戦しても成功には届かなかった。
普通ならここで「ジャンプ台を前輪だけで下るのは無理だった」と納得しても、誰も責めない。責められる人が存在しない。
だが、西窪は諦めなかった。
さらに改良と練習を重ね、今回の再挑戦。そして15回目、通算50回目のトライで、ついに136.6mを走破した。
「最後の一本までは、いろいろ考えすぎていたんです。でも“この場所で自転車に乗れるのは今しかない。とにかく楽しもう”と。”楽しいから、1秒でも長く乗っていたい”と。そんな、自転車を始めた頃の気持ちに戻れたことが成功につながったと思います」
技術を磨き、失敗を分析し、あらゆる準備を重ねた。そして最後に世界記録を引き寄せたのは、“楽しむ”という原点だった。
前輪一本で走った136.6m。その後ろには、約2年と50回分の挑戦、そして自転車に捧げてきた人生と仲間たちの想いが続いている。
「自転車って、どんだけ仕事になっても原点は遊びなんで。文化祭のように仲間たちとチームで作り上げることができました。1人で乗ってるように見えて、皆の想いもしっかり背負ってましたね」
西窪のように自転車を自由自在に操ってみたい? もちろん、いきなりジャンプ台へ向かうのはやめておこう。
まずは、西窪本人が教える【基礎トリック】からチャレンジ!