ツール・ド・フランスの沿道には常に大観衆が詰めかける
© Alex Broadway
サイクリング

ツール・ド・フランスとは?:世界最大ロードレースイベントの基本を学ぶ

ロードレースファンの夏の風物詩、ツール・ド・フランスは毎年7月に開幕する。この伝統レースの参戦チームや戦術・専門用語などの基礎知識を身につけよう!
Written by Hannah Reynolds
読み終わるまで:7分Published on
自転車ロードレースに興味を持ち始めたばかりの人は、シンプル(例:最初にフィニッシュラインを越えたレーサーが勝者)なスポーツと思うかもしれない。
しかし、もう少し調べてみると、ツール・ド・フランスではレース戦術やライダー間の不文律、ライダーの個性、難解なルールなど、複雑な要素が絡み合っていることが理解できるはずだ。
01

100年を超える歴史

1903年に新聞社の宣伝企画として始まったツール・ド・フランスは今や世界最大級のスポーツイベントに成長しており、沿道から1,200万人もの観客が声援を送り、世界190カ国・35億人がTV観戦を楽しんでいる。
106回目の開催を迎えたツール・ド・フランス2019

106回目の開催を迎えたツール・ド・フランス2019

© Nationaal Archief

02

ジャージの色が示す意味

しばしば「バイクのチェス」とも形容されるツール・ド・フランスは3週間のタクティカル・ロングレースで、このレースを戦い抜くためには迅速な思考と優れた計算が求められる。天候・クラッシュ・メカニカルトラブル、単純な不運などがレースの行方を左右する。
各ステージの勝者には賞金とポイントが与えられるが、各ステージの所要時間の合計が一番少ないライダーが総合優勝となる。理論的には、ステージ優勝ゼロでも総合優勝を成し遂げることができるのだ。
有名なイエロージャージ(マイヨ・ジョーヌ)は各日終了時の合計所要時間が最も少ないライダーに与えられる。つまり、その時点での総合首位を意味している。
ツール・ド・フランス2018の総合優勝はゲラント・トーマス(右)

ツール・ド・フランス2018の総合優勝はゲラント・トーマス(右)

© Pauline Ballett

GCライダー(General Classification=総合優勝 / イエロージャージを目指してレースを戦うライダー)はオールラウンダーである必要がある。なぜなら、山岳区間でやや遅れを取ることもあるが、合計時間をロスしないためにはほぼすべての日程で先頭付近に位置しなければならないからだ。
また、若手GCライダー(開催年に25歳以下の誕生日を迎えるライダー)の中で最上位成績を収めたライダーに与えられるホワイトジャージ(マイヨ・ブラン)や、チームごとの総合順位に基づいて与えられるドーサル・ジョーヌなども存在する。
クライマーはポルカドットのジャージ(マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ / 山岳賞)を目指して戦う。
このジャージは難度でカテゴリー分けされている複数の峠の頂上付近に設置されている山岳賞地点の通過順位によって与えられる山岳ポイントで決まる。
心肺能力を酷使し、脚を燃焼させる急坂を得意とする痩せ型で小柄なライダーが活躍するが、彼らが平坦ステージで前方を走ることはない。
スタート直前は異常な緊張感が支配する

スタート直前は異常な緊張感が支配する

© Pauline Ballett

その平坦ステージは、スプリンターたちがスプリント賞を争う戦場だ。
エネルギッシュなライダーたちが肩や膝をぶつけ合う勢いで時速60km超の高速バトルをフィニッシュラインまで展開する。各ステージを完走したトップ10〜25のライダーにポイントが与えられる。
スプリントポイントはコースと順位によって異なる(アップダウンの多いコースよりも平坦なコースの方が与えられるポイントは多い)。また、レースを盛り上げるために、一部のステージは中間スプリント地点が設けられており、ここの通過順位によってもポイントが付与される。
スプリント賞首位のライダーにはグリーン・ジャージが与えられ、これはマイヨ・ヴェーヌ、あるいはスプリンターズ・ジャージと呼ばれる。
03

チームスポーツ

ロードレースはチームスポーツで、様々な人が関わっている。各チームにはライダーたちの他に、監督以下、メカニック / ソワニョール(アシスタント)/ 医療班 / シェフ / フィジオなどが帯同する。
監督は追走するチームカーに乗り込み、全体を見ながら戦略を決定する。監督の指示や決定はチームとサポートスタッフ全員に伝達される。
チームカーはライダーへ水や補給食などを供給することが許されている。また、チームカーにはメカニカルトラブル発生時に備えてスペアバイクも積まれている。
ライダーたちは戦術の受信やチームメイトとの通信のためにイヤーピースを装着する必要がある。戦術は、事前に計画されてその通りに実行されるものがあれば、ライバルチームの動きに合わせてその場で用意されるものもある。
04

ライダー間の不文律

ツール・ド・フランスにはルールブックが存在するが、ルールブックに書かれていない不文律も存在する。その多くは、「スポーツマンらしい」行動、あるいは単に伝統に基づいたものだ。
このような紳士協定とも呼ぶべき不文律の例を以下にいくつか記そう。
  • ライバルのメカニカルトラブルやクラッシュに乗じてアドバンテージを得てはならない。
  • 用を足したいライダーがいたら、そのライダーに合わせて全員が用を足す。
  • ライバルが食料や水を必要としている時は分け与える。
  • あるライダーの地元を通過する、あるいは誕生日を迎えたライダーがいる場合、プロトン(集団)のムードが良好なら、そのライダーを集団の前に出し、レースの先頭を走っているかのように演出する。
通常、このような不文律に関する決定権はイエロージャージを着用しているライダーに委ねられることが多い。
ライダー間には不文律が存在する

ライダー間には不文律が存在する

© Alex Broadway

05

様々な観戦スタイル

ツール・ド・フランス観戦の魅力のひとつは、様々なスタイルでレースを楽しめるところにある。
最後の数キロだけ観戦するもよし、ステージ優勝を狙うライダーを熱く応援するもよし、最後のスプリントでライダーたちが見せるスキルとスピードに舌を巻くのもよし。
もちろん、トップライダーたちのアクションを毎日フォローしながら、複雑なチーム戦術を読み解くのに没頭するのもよいだろう。
バトルがヒートアップする前の退屈で長いセクションや、ライダーたちが会話を楽しみながら互いのミュゼット(ジャージ背中のポケット)から取り出したサンドウィッチを交換するシーンなど、シリアスなファンは全ステージを毎日くまなくチェックしている。
美しいフランスの田園風景、突如として現れる干し草アート、綺麗に飾り付けされた小村など、レースに動きがないセクションにも独自の魅力がある。
ツール・ド・フランス観戦に熱中し、フランス中を駆け巡る旅団とも言えるこの美しいレースに魅了されれば、7月はあっという間に過ぎ去ってしまうだろう。
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ツール・ド・フランス:ミニ用語集

ラ・グランド・ブークル(La Grande Boucle):直訳すると「大きな周回コース」。ツール・ド・フランスのもうひとつの愛称。
マイヨ・ジョーヌ(Maillot jaune):直訳すると「黄色いジャージ(イエロージャージ)」。レース実況で「マイヨ・ジョーヌは先頭集団から30秒遅れ」と言われるように、着用しているライダーを指す場合もある。
ランタン・ルージュ(Lanterne rouge):最後尾のライダーを指す。直訳すると「赤い顔」で、おそらく最後尾を走る屈辱からきているものと思われる(編注:列車最後尾の赤いテールランプに由来しているとの説もある)。しかし実際は、レース後やイベントなどで赤いランタンを持たされてカメラマンから撮影をリクエストされる、ある意味 “おいしい” 役回りでもある。
プロトンに声援を送る観客たち

プロトンに声援を送る観客たち

© Alex Broadway

テート・ドゥ・ラ・クルス(Tête de la Course):直訳すると「レースの先頭」。ステージで先頭を走るライダー(あるいはその集団)を指す。先頭集団にマイヨ・ジョーヌがいない場合、先頭集団のライダーはマイヨ・ジョーヌとの位置関係に注意し続けることになる。
シュート(Chute):直訳すると「クラッシュ」。ライダーが怪我をするシーンを見たい者など誰もいない。しかし、一瞬のアクシデントのあと「シュート!」という叫び声が響き、コメンテーターたちが事態の把握に努め、誰が落車し、レース展開にどのように影響するかを解説する状況には間違いなく多少の興奮が感じられる。
ドメスティーク(Domestique):直訳すると「奉仕者」。チームメイトをサポートするライダーを指す。サポート内容には、リーダーの先導や補給食・水の運搬、他のライダーの風除け、リーダーの順位を脅かすライバルの追走などが含まれる。また、メカニカルトラブルが発生したチームメイトに自分のバイクを差し出すのも彼らの役目だ。
マイヨ・ジョーヌ誕生100周年を迎えたツール・ド・フランス2019は7月6日から7月28日まで開催。