Ralf Rangnick during a RB Leipzig press conference in Leipzig, Germany on August 1st, 2014.
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サッカー

【ラルフ・ラングニックとは?】マンチェスター・ユナイテッド暫定監督のサッカー哲学

レッドブル・ザルツブルクとRBライプツィヒで辣腕を振るったあと2021年末からマンUを率いるドイツ人監督は何者なのか? 斬新な戦術とアイディアで世界に影響を与え続ける “サッカー界のビジョナリー” をキーワードで紐解く。
Written by Brian Homewood
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ラルフ・ラングニックはイングランドサッカーに快く迎え入れられたとは言えなかった。
現役時代、サセックス・カウンティ・フットボールリーグに属するサウスウィック所属選手としてのデビュー戦、チェスターシティ戦の前半30分に強烈なタックルを受けた彼は、肋骨3本を骨折した上に肺を潰してしまい、1ヶ月入院することになったのだ。
この事故から約40年後、当時サセックス大学で学んでいたラングニックは、マンチェスター・ユナイテッド暫定監督という立派な肩書きと共にイングランドへ帰ってきた。ラングニックがプロサッカー選手を目指したことは一度もないが、その代わり世界のサッカーシーンで最も影響力のある監督のひとりに数えられている。
ラングニックは、現在数多くのトップクラブが採用しているハイプレスの考案者として評価されている。ユルゲン・クロップ(リヴァプール監督)トーマス・トゥヘル(チェルシー監督)ユリアン・ナーゲルスマン(バイエルン・ミュンヘン監督)ハンス=ディーター・フリック(ドイツ代表監督)ラルフ・ハーゼンヒュットル(サウサンプトン監督)ジェシー・マーシュ(RBライプツィヒ監督)は、程度は様々だが、全員が彼から影響を受けている。
ラングニックが彼のアイディアを初めて公にしたのは、1998年のドイツのテレビ番組『Sportstudio』に出演したときだった。しかし、当時、ドイツ2部リーグのウルムで指揮を執っていた彼は「本の読み過ぎ」と相手にされず、軽蔑の意味を込めて「教授」と呼ばれた。
しかし、今、彼はホッフェンハイム、レッドブル・ザルツブルク、RBライプツィヒでの監督およびスポーティングディレクターとしての革新的な仕事からビジョナリーとして高く評価されている。
では、マンチェスター・ユナイテッドおよびプレミアリーグファンはラングニックに何を期待できるのだろうか? 彼の特色を6項目にまとめてみた。
ゲーゲンプレスを提唱してモダンサッカーを大きく変えたラルフ・ラングニック

ゲーゲンプレスを提唱してモダンサッカーを大きく変えたラルフ・ラングニック

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01

ゲーゲンプレス

ラングニックの影響を受けているあらゆるチームの土台となっているのが、ゲーゲンプレスだ。高い位置で執拗にプレスをかけ続けるこの戦術では、相手がボールを持ったあらゆる瞬間が、ボールを奪い返してカウンターを仕掛けるチャンスになる。
ボールへ直接仕掛けない他の選手たちも高い組織力で連動して相手にプレッシャーをかけてボールを前に運ばせないようにし、相手のミスを虎視眈々と狙う。
02

攻守の素早い切り替え

ラングニックのチームでは、ポゼッションを奪ってから8秒以内で枠内シュートを放つことが目標に据えられている。この目標をクリアするために、ラングニックは練習場にカウントダウンタイマーを設置していたこともあった。
かつて彼は「選手たちにとって、タイマーの音は連続で鳴るリマインダーでした。彼らにとって、このアイディアは斬新であると同時にフラストレーションが溜まるものでした。神経を尖らせていましたよ」と語っている。
実は、ラングニックのトレーニングセッションは試合と同程度の強度で進められるときがある。彼は、選手たちをコンフォートゾーンの外側に出す必要があると考えており、時間と戦いながら限られたスペースで瞬時の判断を下すことを選手たちに求めている。
03

フェア&フォワード

ラングニックが率いる選手たちはファウルをしないように指示される。理由は、カウンターアタックを仕掛けるチャンスを自ら潰すことになるからだ。また、なるべくGKヘボールを戻さないようにしている。
ラングニックは以前、「私たちは横パスやバックパスを好みません。また、GKはできる限りボールに触れる回数を減らすべきです。足元が一番上手い選手ではないのですから」と語っている。
04

最後までスピードを重視

セリエAをはじめとするイタリアの監督たちは、試合でリードを奪っているときに「試合を締めにいく」、または「アクセルを緩める」というアイディアを採用するときがあるが、ラングニックがこのようなアイディアを採用することはない。
彼は、サッカーとは高速のスポーツであり、時間経過とともにパスの精度と意志決定のスピードが高まると信じている。
ラングニックは最近のインタビューで「かつて、一部の評論家たちは “誰かを入れて試合を落ち着かせるべきだ。ボールを止める必要がある” と言っていましたが、現代のトップチーム相手にこれをやろうとしても絶対に上手くいかないでしょう」とコメントしている。
RBザルツブルクで元リヴァプール監督ジェラール・ウリエと握手するラングニック

RBザルツブルクで元リヴァプール監督ジェラール・ウリエと握手するラングニック

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05

ポゼッションがすべてではない

ラングニックは、ポゼッションの時間が長ければ試合に勝てるわけではなく、ポゼッションできていることが優勢や支配を意味しているわけでもないと考えている。
かつて、ラングニックはドイツの『Sport Bild』誌のインタビューで、「私の中では、ボールを持っていなければ試合をコントロールできないという考えは間違いです。逆のケースがしばしばあります。私たちの研究は、ゴールが決まる確率はボールを持っている時間が長いほど急速に下がっていくことを示しています」と回答している。
06

ピッチ外でも100%チームに尽くす

これにはトレーニングも含まれる。ラングニックは、選手たちがトレーニングや試合の前に飲み歩けるカルチャーはとうの昔に終わったと考えている。ラングニックは「そのような選手たちは活躍できません。マックス・フェルスタッペンがディーゼル車でF1レースを勝とうとしているようなものです」と語っている。
実際、RBライプツィヒ時代は、選手たちはトレーニング開始時間の90分前に集合してテストを受けることが求められており、そのテストから30分以内で、ラングニックとコーチ陣は選手たちがどのくらいの強度でどのくらい動けるのかを判断していた。
また、彼らはアレルギーや乳糖不耐症もテストして、選手ひとりひとりに合った食事を用意していた他、専門家を迎え入れて、睡眠の効果を最大限にする方法を選手たちに教えるときもあった。
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