参加者が複数日(もしくは数週間)をかけて大陸横断レベルの距離に挑む壮大なウルトラディスタンスレースの説明、ちょっと風変わりなバイク仲間との会話、そしてソーシャルメディアのフィードなどで《バイクパッキング》というタームに触れる機会が増えている。
《バイクパッキング》は比較的新しいタームだが、コンセプトは別に新しくもなんともない。人類は自転車を手にしたその日からバイクアドベンチャーに挑んできた。
そして当然ながら、年月の経過に比例して、現代のライダーたちはさらに長くて高難度なバイクアドベンチャーに興味を持つようになっており、近年はRace Across America、Tour Divide、Transcontinental Raceなどのイベントが開催されている。このようなイベントの人気の高まりが《バイクパッキング》シーンの成長に繋がっている。
しかし、すべての《バイクパッキング》が、道中の寂れたガソリンスタンドで手に入れた飲料や食料に頼りながら毎日300kmを走る2週間の過酷なアドベンチャーになる必要はない。好きなようにアレンジして愉快で気楽なバイクアドベンチャーにすることもできる。
しかし、初心者が犯しやすいミスがいくつかあり、幸運なことにそのようなミスをすでに経験している人たち(=我々)がいる。というわけで、彼らが経験した以下の “やってはいけないこと” を読んでしっかりと準備してから《バイクパッキング》に出掛けてみよう。
1:日没後にテントを張る
荷物を軽量にまとめ、小さなビビィバッグで寝るとしても、正しい “睡眠スポット” を見つけるのには多少の注意が必要になる。
まず、真夜中に起こされないような静かなスポットを選ぶ必要がある。明け方にしかめっ面の地元警察関係者につま先で突かれるのは不愉快以外の何ものでもない。
自然の中のキャンプについては多くの国が寛容な姿勢を見せているが、地元警察にはいわゆる「生死の確認」をする義務がある。視界を遮るものや、道路・歩道と自分を遮るものが間に置かれているようなスポットなら、目立たなくなるので睡眠を確保しやすくなる。
また、水たまり(蚊!)や、番犬または家畜がいる家の近くも避けたい。厄介なのは、このような場所は大丈夫そうに思えても、実際にテントの中に入った瞬間にうるさくて不愉快に感じるようになるところだ。
そして、日が沈んでしまえばテントをたたんで他のスポットを探すのは不可能になる。日が沈む前に周囲をしっかりとスカウティングして最適な “睡眠スポット” を見つけてからテントを張ろう。
2:故障の可能性を考慮しない
《バイクパッキング》最大の魅力のひとつが、"大自然の中に自分ひとり" という状況を作り出せるところだ。そのためには、マップを読めるようになり、アウトドア用コンロ(バーナー)を使えるようになることが不可欠になるが、基本的なバイクの修理方法と必要なツールについても知っておく必要がある。
バイクショップのスタッフと同レベルの知識を手に入れる必要はないにせよ、自分のバイクの各コンポーネントの働きを理解し、次の町や村に到着するまでの応急処置の方法を学んでおくことは《バイクパッキング》の大きな助けになる。
《バイクパッキング》で過剰に準備しても無駄にならないものがあるとするなら、それはリペアキットとスペアパーツだ。人里離れた山奥でピンチに陥った自分を助けてくれるこれらを無視して出発するのは絶対に避けたい。
GPSの精度が高まっているとはいえ、ルート上にバイクショップがあるかどうかが本当に分かるのは、現地を訪れたあとだ。オーストラリアや米国、北海道など、広大な自然が続く国や地域では、街から街まで長時間(時として複数日)ライディングを続けなければならない可能性があるので、不慮の故障に備えておこう。
3:方向を見失う
ロングライドではナビゲーションが非常に重要になる。色々な意味で、今はアウトドアアドベンチャーのベストタイミングだが、GPSに頼らず、行き当たりばったりでアドベンチャーを進めるのはおそらく間違いだ。その場でプランを立てていくと、ほぼ間違いなくあとで落ち込むことになる。
バイク用GPSは年々進化しており、Google Mapsは簡単に旅ができるエリアを広げ続けている。特に後者は「オフラインマップをダウンロード」機能が実装されているため、訪れるエリアのマップをあらかじめダウンロードしてスマートフォン内にセーブしておけば、電波が届かないエリアでもマップを確認できる。
伝統的な旅が好きなら、紙のマップを使えば良いだろう。《バイクパッキング》を終えたあとは記念品にもなる。ただし、紙のマップはデジタルマップのような操作はできないので、読み方を覚えておくことが重要だ。
デジタルでもアナログでも迷ってしまったら、人に尋ねよう。途方に暮れているサイクリストの姿には、ローカルの人たちが思わず助けたくなる何かがある。たとえ、彼らが指し示した方向が自分の求めていた方向ではなかったとしても有り難いことに変わりはない。
4:栄養・水分補給プランを用意しない
《バイクパッキング》で犯しやすい大きなミスのひとつが、栄養・水分補給対策だ。大きな荷物を背負ったロングライドはかなりのカロリーを消費するので、カロリー補給を忘れないようにしたい。《バイクパッキング》はペダリング付き大食い大会くらいに考えておくのが良いだろう。「好きなだけ食べられる」 - ここにこのカテゴリーが急速に人気を獲得しているもうひとつの理由がある。
本格的なロングライドに “悪質なカロリー” は存在せず、新陳代謝のスピードもトップギアに入るが、それでもなるべくヘルシーな食品と飲料を選ぶようにしたい。事前に購入しておいた消費期限が長い食品ばかりを食べ、道中に見かけたあらゆるカフェでアイスクリームやアイスコーヒーを楽しむのは、身体に良いとは言えない。
水も重要だ。長距離レーサーの多くはボトル交換の手間を省くために500mlボトルを2本以上携行している。できるタイミングで必ず足すようにし、コンビニやカフェがしばらくなさそうなルートを事前にチェックしておけば、水分補給のトラブルとは無縁になる。また、携帯用アウトドア浄水器(ウォーターフィルター)を最後の手段として用意しておくのも良いだろう。
5:パッキングのリハーサルをしない
《バイクパッキング》には複数の素晴らしい魅力が備わっているが、おそらく一番厄介なのが実際のパッキング作業だ。小型のバックパックにすべてを詰め込まなければならず、しかも毎朝サドルに座る前にすべてを詰め直さなければならない。
「詰め込みすぎ」は多くのライダーが犯すミスで、荷物が重ければそれだけ自分の動きが重くなり、バイクのスピードが落ちてしまう。
そして、どういうわけか、人里離れた冬の平原で凍えている自分の目の前に散らかっている荷物は、出発前に自宅のリビングルームの床に並べて指差し確認した時よりも多く見えてしまう…。
というわけで、パッキングのリハーサルを必ずしておこう。パッキングが上手くなる上に、ギアの使い方や使用頻度も把握できる。リハーサルを重ねておけば、バッグ1個にベッドルーム1部屋を詰め込めるようになるはずだ。
(了)
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