“自転車便としての日常を表現する場”
パリで行われたメッセンジャーの世界選手権、CMWC。水曜日から日曜日まで5日間で行われ、最後の2日間は大会のメインレース会場にて、デリバリーレースが行われる。
土曜日に予選が行われ、勝ち抜いたメッセンジャー達が翌日のファイナルに進出するのだ。会場では、レースの他にもバックワード、トラックスタンド、フットダウン、スキッドコンテスト、スプリントなどの様々な競技が行われる。
バッグワード(固定されたギアを逆に回し、バッグしながら回転する競技)や、フットダウンなど遊びの要素を取り入れた固定ギアならではの競技も多いが、メインレースとして行われるデリバリーレースを筆頭に、日々の生活のなかで培ってきたスキルが試される場でもある。
このコンペティションを、多くのメッセンジャー達は、”日々の生活を表現する場”という認識で参加している。生活するため、生き抜くために働くなかで、その行為を”表現”と意識できること、そして同じ認識をもつ同業者が世界に多くいる事が、この職業の好きなところだ。
いち配送業としても、他の職種だとしても、このように世界の同業者が同じマインドをもって集まるお祭りは他にないのではないのだろうか。
過去の記事で旅の側面的な部分を紹介してきたが、今回、旅の途中で多くの仲間が加わり、最終的には15人以上の大所帯で生活をした。
そんな仲間たちと共に参加するメインイベントは、やはり様々な感情がこもってくる。
仲間たちのなかで1番盛り上がったのは、コペンハーゲンのECMCで2冠に輝いた、17歳ヤングケビンのトラックスタンドとフットダウンだった。彼とはコペンハーゲンからずっと一緒だった。
“会場が沸いたスタンディング対決”
トラックスタンドが始まり、次々と地に足を着いたゲームの脱落者が観客の渦に変わる中で、ケビンは涼しい顔で、集まるメッセンジャーたちの輪の中心で両手を離し、観客を煽っていた。
ケビン勝利のアナウンスが鳴り、ゲームが終わったかと思われたが、1人のメッセンジャーが抗議をしにきた。彼は輪の向こう側で勝ち残っていて、手違いで勝利を言い渡されて、既にゲームを終わらせてしまっていたのだ。結局、もう1度2人でファイナルを闘うことになった。
ケビンの相手はECMCでもラストに残った強者。トリッキーな前後逆ハンドルで座り、バランスをとる相手。17歳のケビンは特になにもせず、冷静に勝ちにこだわる。すると相手は、片足のみでスタンディングしながらながら、自分の服を脱ぐパフォーマンス。歓声が湧く。今度はそれを見たケビンが、着ているクロームのサイクルジャージのジッパーを下に降ろし始めた。ジャージを投げ捨て、更に歓声が湧くなかで相手が足をつき、ケビンは今度こそ勝利した。
これに応援していた仲間達は大喜びし、盛り上がり、自分らのスペースで大騒ぎをしていると、涼しい顔で「フットダウンも優勝したよ」と言いながら、ケビンが戻ってきた。
トラックスタンドとフットダウンの2大会制覇だった。
“レーススナップ”
■記事協力
最新のバイシクルカルチャー発信する『LOOP MAGAZINE』
■過去記事
■Profile
Kosuke Aoki
ニューヨークでミクストメディアアート、ノイズバンドの活動を経て、帰国後2007年より東京にてメッセンジャーとなる。同時に東京のメッセンジャーシーンをはじめ、様々なアンダーグラウンドカルチャーの撮影を開始し、フォトグラファーとしてのキャリアをスタート。現在は活動の幅を広げ、世界各地のメッセンジャーやそれにリンクするカルチャーの取材を精力的に続けている。
【Instagram】toydog88【Web】dopedyouth.blogspot.com