コンテスト・クイーン四十住さくら×アンダーグラウンド・キング森田貴宏 【ねぇ、ストリートスケートって何が面白いの?】
© Ryo Kuzuma
スケートボード

『ねぇ森田さん、ストリートスケートって何が面白いの?』by 四十住さくら

コンテスト・クイーン四十住さくらとアンダーグラウンド・キング森田貴宏。全く別のアプローチでスケートボード界を盛り上げる二人による夢の対談(全4話)スタートです
Written by Written by Tatsuya Matsui / Edit & Interview by Hisanori Kato
読み終わるまで:15分最終更新日:
スケートボードが市民権を得だしている昨今、大手メディアでも徐々にスケートボードが扱われるようになってきました。日本人スケーターの華々しいコンテスト結果に多くの人が喜ぶ一方、ストリートスケーティングは社会の邪魔者としてニュースを騒がせています。
同じスケートボードにもかかわらず、水と油の様相を見せるコンテストスケートとストリートスケートは一体何が違うのでしょう。
今回はRed Bullが誇る女子パークコンテストの世界チャンピオン・四十住さくらと、日本スケート黎明期からプロスケーターとして活躍し、世界的なビデオグラファーでもある生粋のストリートスケーター森田貴宏による対談を通じてスケートボード文化の深さ、面白さを深堀りします!
コンテストとストリートの違いとはなんなのか、そして共通点とはなんなのでしょうか。
🔴同連載の【第二話】【第三話】【第四話】はこちらで✅
01

【ストリートスケートは不良のスポーツ?】

ーー今日はコンテストクイーンとアンダーグラウンドキングの対談ということで、スケートボードという共通点はあるものの“混ぜるな危険”という感じで、一体どのような展開になるのか予想がつかずワクワクしています。まずは確認しておきたいのですが、さくらちゃんは森田さんのことを、、、?
四十住さくら(以下:さくら)あんまり知らない…
森田貴宏(以下:森田)軽くショックです(笑)
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さくら「スケートの映像はよく観るんですけど、どうしてもコンテストの映像がメインになるので、日本のレジェンドスケーターの方々のことを実はあんまり深く知れていないという
森田「早くも世代の違いを感じますね。そもそも年齢が倍以上違うし娘でもおかしくないくらいだから当然といえば当然か
ーー以前、さくらちゃんはストリートスケートって不良、怖い人のイメージだって言ってたじゃないですか。その印象って変わってませんか?
さくら「いまだにそのイメージですね(笑)
森田「へぇー。これだけスケートボードを知ってるさくらちゃんでもそうなんだ
ーー今日は実際にストリートスケートの象徴のような森田さんとセッションしてもらったわけですけど一緒に滑ってみてどうでしたか? 印象は変わりました?
  • (※)今回の撮影場所は東京都中野区にあるクラブ&ライブハウスのヘビーシックZERO。この場所で森田氏らが2005年から続ける超ドープなスケートイベント《Midnight Express》の空間を特別に用意してクイーンを向かい入れた。
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  • ちなみに同イベントは、毎月第1木曜日にだけスケートランプが設置され、世界最小のスケートパークで思う存分スケートが楽しめるというもの。
さくら「いや、そこまで急に印象は変わりませんけど、とにかく想像以上に楽しかったです。今日みたいなセッションはストリートスケートではないんでしょうけど、パークと違ってすごく難しいと思いました
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森田「普段さくらちゃんが滑ってるセクションよりサイズがかなり小さいから逆に難しかったと思うよ。今日セッションしたようなミニランプには大きいコンクリートパークにはない癖とか制約みたいなものがあるからね。そういう類の難しさなのかもしれないね
さくら「パークでしか滑ったことのない人にはできない動きがあるんだなって思いましたね。それがすごく新鮮でかっこよかったです。映像で観てるストリートスケートを間近で見るとってこんな感じなのかって
森田「さくらちゃんがセッション開始してすぐに“無理!”とか言うから焦ったよ。せっかくチャンピオンに来てもらったのに今日の撮影もう終わりなの?って(笑)。滑り始めたら結構攻めっ気のある滑りだったから安心したけどさ
さくら「やったことも見たこともないタイプのスケートボードだったから(笑)。でも私は負けず嫌いだから結局メイクするまで続けちゃうんだけど
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02

【ストリートにしかないスケートボードの攻略要素とは?】

ーーではさっそく本題に入りたいんですが、さくらちゃんは今までストリートスケートとの接点があまりなかったわけじゃないですか。パークメインで滑ってきている中で、ストリートスケートの何が面白いんだろうって思ったりすることありませんか?
さくら「思いますよ。新しいトリックができるようになる喜びはストリートもパークも同じだと思うんですけど、ストリートって路面が悪かったり、怒られたりもするじゃないですか。そこまでしてストリートで滑る意味ってなんだろうって。パッドもつけないから痛いだろうし
森田「人に迷惑をかけてまで滑りにくい場所でスケートする意味とか魅力ってなんなんだろうってことだよね。まず路面に関して一言で言えば“路面に負けたくない”っていう意地です(笑)。
例えばすごくスケートしにくい路面のスポットがあって、映像を残すことができたら“森田はあのスポット攻略したんだ”っていうプロップスがある。しかも荒れた路面向きの径の大きいソフトウィールじゃなくて、普通のウィールで攻めたんだってなればなおさらステータスは高くなるでしょ。ストリートスケートならではの価値観だと思う
ーー荒い路面をものともしないスケートボード技術の証明でもあると。
森田「そうそう。怒られることがあるっていうのも同じで、警備員がいるポイントだとトライできる回数がすごく限られるじゃないですか。だから“3回しか勝負できないのに映像残した”っていう凄さがトリックに乗っかってくる感じ。トリックをメイクしたっていう尺度以外の攻略要素っていうのかな。そういうものがストリートスケートには確かにあって、それが多くのスケーターを惹きつけるんだと思う
さくら「私が普段しないスケートの見方ですね(笑)。怪我についてはどうなんですか?
森田「パークで滑ってても怪我はするでしょ
さくら「怪我のレベルが違くないですか? ストリートのビデオ観てると酷いスラムのシーンも入れてあったりするじゃないですか。私がストリートのビデオを観ないっていうのはあれが苦手っていうのも大きいんですけど
森田「言われてみれば確かにエグいのもあるよね。その気持ちはよくわかる。でもさくらちゃんも以前頭打って脳震盪になってなかった? それも怪我としては同じじゃない
さくら「しましたね。でも私はヘルメットしてるから縫ったりしないもん。ストリートの人はいつも血だらけのイメージがある
森田「確かに(笑)。この記事は初心者の人も読むかもしれないんで一応言っときますけど、基本的にパッドつけててもリスクはありますからね。さくらちゃんは転び方とかも上手だからなかなか怪我しないけど、本当に気をつけないとパークでも怪我はしますよ。
ただストリートの方がより危険なのは確か。ヘルメットもつけたりしないしね。今日のセッション程度のスラムは楽しい範囲だからいいですけど
さくら「楽しいスラムなんてないですよ。痛いのは嫌です。私はいつでもフルパッドつけてるから骨折とかもしたことないし
森田「マジで!? 俺は数えきれないほど骨折してるよ。年取ってからは“頼むから骨折しませんように”ってお祈りしながらスケートしてる
さくら「良かった、今日は骨折しなくて(笑)
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03

【リスペクト文化の究極系!ストリートの真髄は人間力にあり!?】

ーーさくらちゃんは今までストリートで滑ったことって一度もないんですか?
さくら「ないですね。スケート始めたての頃に近所の公園でちょっと自主練習した程度かな。その時はちょっと怒られたりもしました
森田「スケートができる場所を探して、その結果怒られるのは世代に関係ないことがわかって少し安心しました(笑)。俺らの時代は特にスケートボードを応援してくれる人なんて皆無だったからなぁ
ーーさくらちゃんのご両親も最初スケートボードに反対されてたって聞きましたけど。
さくら「そうです。あんなの不良のスポーツだって感じで(笑)
森田「本当!? 応援してくれてたんじゃないの!?
さくら「中学生になるくらいのタイミングでスケートを始めたので、部活動との兼ね合いとかもあったりして反対されてましたね。“遊びの応援はできないから日本一を目指すくらいの目標を持て”って言われました。両親はなんとかスケートボードを辞めさせようとしてたらしくて、無理難題の練習メニューを日々課されてました。私に無茶な課題を突きつけて諦めさせようとしてたんです(笑)。毎日オーリー50本飛ばないといけないとか。でもスケートボードが楽しくてしょうがなかったので普通に受け入れてたんですけど、それを見たママは自分で言い出した手前何も言えなくなってましたね。やっぱり私は負けず嫌いなんですよ
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森田「それはすごいエピソードだね。まずお母さんとの戦いがあったんだ
さくら「スケートボードするにあたっていくつか約束もしてますよ。怪我はしないようにヘルメット被るようにするとか。目標を持って努力するとか。人に迷惑をかけないとか
ーーやっぱり迷惑をかけるイメージがついて回りますか。SNSで流れてくるスケートの動画には、スケーターが警備員さんとバトルしてたりするのもありますもんね。ストリートスケートの負の側面ですね。
さくら「そういう動画ほどバズりやすい傾向があるのかも。スケーターが酷いパターンも警備員が酷いパターンも見かけますよね。あんまり観ていていい気分にはならない
森田「僕もああいうのは好きじゃないね。ストリートのかっこよさを全く感じない
ーー森田さんの言うストリートのかっこよさって具体的にはどういうものなんですか?
さくら「そこまでストリートにハマる理由とかかっこよさについてもっと聞きたい
森田「うーん。究極的にはかっこいい人間でいるっていうことなんだろうな。ストリートスケートしてて警備員さんが最初からバトルモードで絡んでくることなんて俺は一度も経験したことがないんですよ。最初は声かけられた程度だったのにスケーターの態度が良くなかったから警備員さんが怒っちゃってるんだと思うんだ。
例えばさくらちゃんとストリートスケート行って、一緒に街中で滑ってるとしますよ。警備員さんが来て“ちょっとお兄ちゃんたちここでスケートしちゃだめだよ”ってなるじゃない。その時の反応がスケーターによって違う。それがストリートスケーターとしての質なんだ。
“わかりました。ごめんなさい。でもあと一回だけやらしてください!”って言うのか。“うるせえなこの野郎!”っていうのか。黙ってガン無視するのか。いろんなパターンが考えられる。でもそこで喧嘩腰になっちゃう人は見ててかっこよくないでしょ。俺は30年以上スケートしてきて、ストリートスケーターは人に対してナイスでいてほしいって心から思うよ。他人とちゃんとコミュニケーションとれる人が一番かっこいい
ーースケートに限らずストリートでかっこよく生きていくには人間力が必要ってことですか?
森田「そうだね。警備員さんは仕事してるんだからそれをリスペクトできない奴は人としてかっこ悪いよ。
でもスケーターはスケートしたい。だから相手の温度とか空気とか読みながらコミュニケーションをとってほしい。“この子すごいんですよ! 一回だけ見てみませんか?”って言ってみたりさ。意外と“一回だけやったら帰れよ”なんて反応くれたりするんだ。人をちゃんと見てコミュニケーションをとれるスケーターはかっこいいいよ。次に警備員とすれ違ったときにちょっと挨拶するくらいの関係になったりね。街でかっこいいスケーターってそういうことだよ
FESN森田貴宏

FESN森田貴宏

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さくら「ストリートで警備員さんに止められたことないからわかんない。感じがいいスケーターは確かにかっこいいですけど
森田「そもそも俺がストリートで滑り始めたのは仕方なくなんだ。昔はスケートボードしていい場所なんてなかったんだから。なんとしても人と余計な衝突をしないでスケートできる場所、環境を作り出す必要があった。昔に比べて今はパークがたくさんあるでしょ。パークでスケートして誰にも迷惑かけずに自分が満足できるんだったらそれが一番いいよ。コンテストで活躍して仕事にもなるなら最高。ただ俺らの時はそういう道はなかったんだ。特に日本では本当に無理だった
さくら「確かに海外ではスケートボードの捉えられ方とかシーンの盛り上がりが違いますよね
森田「文字通り桁違いだよ。スケーターの熱が違うじゃん。人生賭けてるっていう
さくら「黙々と練習するなら日本の方がやりやすいけど、楽しむっていう意味ではアメリカの方が確かにすごい。毎日びっくりするようなライディングを見れるというか。そういうところは全く別次元ですよね
森田「シアトルのバーンサイドみたいなローカル色の強いハードなスケートスポットに行ったりするとさ、そこにいるスケーターは無名な奴らが多かったりする。だけどみんなその辺のプロなんかよりよっぽど上手かったりするわけ。初めて行った時は心が躍ったよ。こんな場所がこの世にあるのかって
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ーーそういうとんでもないスケーターが隠れてたりするのもストリートの面白さのひとつですよね。
森田「そうだね。世に知られていない宝物を見つけた感じ
さくら「たまにそういう人いますよね! コンテストに出たりはしてないけどすごいライディングする人。見たこともないトリックを当たり前にメイクするような。海外だけじゃなくて日本にも結構いますよ
ーーそういう人こそかっこいいっていう価値観がストリートスケーターっぽいってことなんですかね。
森田「そうかもしれないね
さくら「かっこいいビデオパートを作って発表してたりする人ですね
ーーその映像のかっこよさがわかるってことは、さくらちゃんも本当はストリートを、、、
さくら「かっこいいのはわかるけどストリートは無理! やりたくない(笑)
森田「また“無理!”がでちゃった(笑)。でもそれでいいんだよな。無理してストリートスケートの価値観になびく必要なんてないしね。それぞれが自分のスケート人生を楽しめばいいわけだし
さくら「私はスケートボードが好きで、大会が楽しくて、目標もあって、上を目指してやり続けたら気がつけば世界ランキング入りしてた。出場できる大会にできるだけ出場し続けただけって感じ。観客がいる場所でみんなにいいライディングを見てもらいたいっていう
森田「アスリート的なスケートライフがさくらちゃんの自然体なんだよね。すごく努力家だなぁ
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【スタイルは違えどスケートボードは認め合える】

ーーストリートスケートしかしない人で、「大会で勝って有名になるなんてセルアウトしてるみたいでダサい」っていう考え方の人もいるじゃないですか。そういう意見に対して森田さんはどう思いますか?
森田「たまにいるよね。ストリート哲学みたいなものを強く持っている人。俺はそんなことは全く思わないけどね。本音を言えば俺だって有名になりたいよ。そのためにコンテストに出まくろうとは思わないけど、自分のスケートスタイルを極めた結果有名になれるなら最高でしょ。
そういう意味ではコンテストにフォーカスしたスケーターだろうが、ストリートスケーターだろうが根っこは同じなんだろうな。大会でチャンピオンになるっていう目標とストリートスケーターとして誰からも認められるような存在になりたいっていう目標は何が違うの? って思うよ。俺はスケートビデオ作り始めた時にそれで世界に名を響かせたいと思った。さくらちゃんと俺の違いはそれだけの違いでしかない
さくら「その通りだと思うな。やり方は違うけどスケートボードを楽しもうとする気持ちは同じだし、一緒にスケートすれば違うスタイルでも凄さは伝わる。認め合えるもん
ーースケートボードの光と影という真逆の二人の対談だったはずなのに意外な着地になりそうですね。
森田「誰がスケートボードの影だよ、いい話してたのに(笑)
さくら「私も自分が光だと思ったことはないけど(笑)
森田「冗談じゃなくて、本当にスケーターにとって大事なのは中身なんですよ。ビデオ観てイマイチだと思ってた人が実際に会ってみたらすごくかっこいいスケーターだったりすることあるでしょ
さくら「逆もある
森田「あるある。ゴミをポイ捨てするやつとかダサくてしょうがないもんな。俺はスケートすればするほどそういう部分が見えてきて、表面的なかっこよさとか技術ではない部分に重きを置くようになってきちゃったんだ。それがストリートスケートのかっこよさにつながると思うな。技術を超えた部分もストリートスケーターとしての評価に繋がってる。難攻不落のスポットの攻略要素、ストリートでの人間性、そういうものが全部詰まってストリートの面白さなんだよ
さくら「普段考えてることがスケートに出るっていうことなのかも。気持ちの強さ、自信とか。ストリートの面白さが少し分かったかもしれない
ーーおぉー。では不良のイメージも少しは払拭されましたか?
さくら「そうですね。森田さんの見た目はちょっとヤンキーっぽくて怖いですけど(笑)
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森田「ヤンキー世代だからそれは勘弁してほしいな(笑)
ストリートスケートを語る森田氏の話を聞くさくらちゃんの表情が少しずつ共感の色を帯びていき、最終的に「ストリートスケートの魅力は人間力にあり」という思いもよらない着地を見せた本対談。
パーク、ストリートと活動の場所は違えど、スケーター同士理解し合える部分は意外にも多かったようです。自分のスタイルに自信を持って、それぞれのスケートボードライフを楽しむことが大事だと再確認しました。ナイスなストリートマナーを心に、楽しいスケートライフを送りましょう!
第二回『なぁさくら、コンテストの面白さを俺に教えてくれ!』by 森田貴宏の記事は【こちら
第三回『上手けりゃプロか? -プロスケーターの心構えとは-』四十住さくら×森田貴宏【こちら
第四回『ぶっちゃけ日本ってプロで生活できる?』四十住さくら×森田貴宏【こちら
  
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