F1
雨・気温・湿度・高度・雪… F1では天候がレースの行方を左右するときが少なくない。天候がF1チームとドライバーに与える影響と彼らの対抗策を見ていこう。
F1 2024シーズンは史上最長シーズンで、コンディションが大きく異なる4大陸で全24戦が開催される。そのため、各ドライバーとチームにとっては、あらゆる天候に対応できるように準備をしておくことが非常に重要になる。F1チームとドライバーに天候が与える影響について見ていこう。
01
気候
F1レースは晴れが多いと感じている人は少なくないだろう。
F1マシンは直線およびコーナーで超高速走行をするためにデザインされており、この超高速走行は、タイヤに機械的および空力的なグリップを発生させつつ、エンジンのパワーをサーキットの路面に伝えてF1マシンを前進させることで実現されているのだが、カレンダーを見れば分かる通り、この実現に理想的なコンディションは湿度の低い夏季だ。
ゆえに、近年のシーズンは気温が上がりすぎない3月の中東で開幕し、オーストラリア、中国、日本を経てヨーロッパを回り、10月・11月に北米へ向かったあと、冬の中東で閉幕している。
F1に最適な路面は、バーレーン・インターナショナル・サーキット、サーキット・オブ・ジ・アメリカズ、レッドブル・リンクのようなスムーズなモダンサーキットだ。しかし、完全に読めない天候は大きな未知の要素で、天候が変わることで予測不能かつエキサイティングなレースになる。
02
気温
F1の歴史を振り返ってみると、レースウィークエンドの気温は5℃から45℃まで記録されている。基本的には、気温が高いほどサーキットでのグリップが低下する。この理由を説明しよう。
F1で使用されているタイヤはすでに温められた状態でマシンに装着され、走行を重ねることでさらに熱を発するようになっている。ゆえに、サーキットの路面温度も高ければ、タイヤはオーバーヒート状態となり、通常よりも早く摩耗してグリップがなくなってしまうのだ。
通常、F1マシンにはスリックタイヤ(溝をなくして接地面積を最大限まで増やしているタイヤ)が装着されており、このタイヤは最適な作動温度の約100℃まで高められる必要がある(ゴムが熱で柔らかくなり、路面に張りつくようになる)。
現在、F1のタイヤサプライヤーとして参加しているピレリが各レースウィークエンドの天候予測に合わせてソフトからハードまで複数のコンポーネントのタイヤを持ち込んでいる。
2024シーズンのコンポーネントは6種類(最も柔らかいC0から最も硬いC5まで)で、それぞれに耐久限度と使用回数が規定されている。各チームがピットストップでタイヤを交換しているのはこれが主な理由だ。
低温のコンディションでは、タイヤの耐久度は高まるが、最適な作動温度に達しないためパフォーマンスは落ちることになる。逆に高温なコンディションではタイヤの耐久度が下がるため、ピットストップの回数が増える。
最適なタイヤの種類と交換のタイミングを判断するのはチームとドライバーだが、高温下あるいはバーレーン・インターナショナル・サーキットのような摩耗が激しいサーキットではハードタイヤを採用し、モンテカルロ市街地コースのようなスムーズなサーキットではソフトタイヤを採用するというのが基本的な考え方だ。
03
雨
雨、いわゆるウェットはF1における最難関コンディションのひとつで、基本的にウェットを得意とするドライバーはドライビングスキルが高い。
マックス・フェルスタッペンは生まれながらにしてスタードライバーの資質を備えていたが、世界が彼の才能に注目するきっかけのひとつは、大雨となった2016シーズンのブラジルGPでの激走だった。
雨が降るとタイヤの接地面積が減ってしまう。タイヤと路面の間に水が入り込んでマシンが浮いてしまうハイドロプレーニング現象を見聞きしたことがあるF1ファンは少なくないだろう。そこで、雨天ではスリックタイヤではなく溝が入っているタイヤを装着して水はけとグリップを向上させる。
雨天で装着されるタイヤは2種類存在し、ひとつはグリーンにサイドが塗られているインターミディエイト、もうひとつがブルーにサイドが塗られているウェットで、豪雨あるいは水たまりが多いときに装着される。
しかし、グリップは問題の一部に過ぎない。雨天では単独走行中でもドライバーの視界が悪化し、追走中のドライバーも前走するF1マシンの水しぶきで視界が悪化する。新規採用されているグラウンドエフェクトタイプのF1マシンは水しぶきを軽減するが、雨天でのオーバーテイクはビッグチャレンジであることに変わりはない。
F1ドライバーのヘルメットは、バイザーに撥水加工が施されており、さらには内部に水を染みこませない特殊コーティングも施されている。尚、バイザーは日光やライトによる目へのダメージや飛翔物による頭部へのダメージを防ぐ役目も担っている。
04
断続的な雨
豪雨は大きなチャレンジになり、強すぎれば赤旗中断となるが、断続的な雨もチャレンジになる。
ウェットタイヤとスリックタイヤのパフォーマンス差は非常に大きく、ベストタイミングで交換できるかどうかが最終順位に大きな影響を与えるため、断続的に雨が降っている、あるいはサーキットの一部だけで雨が降っている場合、チームはスリックに履き替えるか、ウェットでステイアウトするかの難しい選択に直面する。
この局面で選択肢を用意するのがストラテジストだが、最終的な判断はドライバーからの情報に基づいてピットウォールの首脳陣が下す。
トリビア:F1マシンのコックピットが高温になる理由
- コックピット後方に設置されているエンジンが高熱を発する
- ブレーキは最高1,000℃に達する
- F1マシンの空力デザインがコックピットに熱を送ってしまう
- コックピット内はほとんど空気が流れていない
05
湿度
シンガポールGPは超多湿で、F1カレンダーで最もタフなレースのひとつに数えられている。F1マシンは熱や湿度にそこまで振り回されないが、この2要素はもうひとつの重要なコンポーネント、つまりF1ドライバーに大きな影響を与える。
彼らはシンガポールGPを終えると、体重が約4kgも落ちてしまう。約4リットルも汗をかくのだ。また、コックピット内の温度はサウナと同程度の約60℃に達する。しかも、マリーナ・ベイ市街地コースは高難度サーキットのひとつで、23のコーナーがドライバーたちを待っている。ひと息つけるのはロングストレートだけだ。
簡単にまとめると、シンガポールGPはローラーコースターに乗りながらボクシングを2時間続けるようなものなのだ。
06
標高
標高2,200mに位置するエルマノス・ロドリゲス・サーキットは標高が最も高いF1サーキットだ。メキシコシティはマイアミやバルセロナのような海沿いのサーキットと比較すると気圧が20%低く、酸素含有量も25%低い。つまり、ドライバーたちはドライビングを始める前からフィジカルに大きな負荷を受けているのだ。
また、大気中の酸素が少なければ、エンジンにも大きな負荷がかかる。近年のターボチャージャーはパワーロスを上手く補完してくれるが、エンジンとブレーキを冷やす空気が少ないため、通常より高温で作動し続けることになる。
そこで、チームは代替案として冷却ダクトをできる限り広げている。一方で、マシンの前方の空気が少ないため、ドライバーたちは通常より加速を楽しんでいる。しかし、空力コンポーネント周辺の空気も少なくなるため、マシンのグリップは弱くなる。
言い換えれば、高地でのF1マシンはストレートスピードが高まるが、コーナースピードは落ちる。結果、高地でのレースではダウンフォースをなるべく多く得るためにリアウイングが最大限まで動かされることになる。
07
雪
F1史上最低気温は、ジル・ヴィルヌーブが制した1978シーズンのカナダGPで記録された5℃だ。これまでにレッドブル・リンクでは数回のひょうやみぞれが記録されているが、雪がF1の問題になることはないだろう。
しかし、2016年、マックス・フェルスタッペンがオーストリア・キッツビュールの有名なアルペンスキースロープ “シュトライフ” をRB7でドライブした。
アイススピードウェイ仕様のスパイクでは効果がないことが判明したため、RB7のタイヤには代わりにチェーンが装着され、フロアとサスペンションは限界まで高められ、エアダクト類は雪が入らないようにカバーがされた。
このような準備をしても、ガレージを出た直後にフロントウイングに雪が詰まったため、チームはすぐにRB7をガレージに戻して不凍液と冷却剤を補充し、セットアップを調整。その後、フェルスタッペンとチームは、8年経った今も魅力が失われていない見事なスノーランを披露した。
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