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Nintendo Switchは最も楽観的な任天堂ファンの予想さえも “裏切った” と言える。悲劇に終わったWii Uのあとにリリースされるということで、任天堂のこの革新的なハイブリッドゲーム機はゲーマーや業界関係者などから過小評価されていたが、現在順調に販売台数を伸ばしており、最終的には全世界合計で1億台以上を売り上げたあのWiiを上回るのではないかと予想している批評家さえいる。
以前から、任天堂の自社開発タイトル群はゲーム機本体の販売台数を伸ばす助けになってきたが、Wii時代はまさにそうで、この家庭用ゲーム機で最大の商業的成功を収めたほぼ全てのタイトルが自社開発だった。そして、この事実はサードパーティのデベロッパーとパブリッシャーを多少遠ざけることにもなった。そして迎えたNintendo Switch時代も、『スーパーマリオ オデッセイ』や『マリオカート8 デラックス』、『スプラトゥーン2』などの自社開発タイトルがその伝統を引き継いでいるが、素晴らしいインディータイトル群がそこに新しい血を加えている。小規模なデベロッパーたちは、Nintendo Switchを自分たちのゲームをできる限り多くの人にアピールできる最高のチャンスとして捉えているのだ。
『デ・マンボ』を開発したThe Dangerous Kitchenでアーティスト / ライター / ゲームデザイナーを務めるShaun Roopraは、Nintendo Switchが成功した理由は簡単に理解できるとしており、次のように説明している。「Nintendo Switchが成功を収めているのは、単純に、これが素晴らしいタイトルを揃えている優秀なゲーム機だからさ。しかも、興味深い新しさもある。僕たちはTV画面に繋ぐだけのゲーム機は飽きるほど見てきた。だから、それらとは少し違うゲーム機は嬉しい変化だよね。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を一度ベッドの中でプレイしたことがあるんだ。ベッド脇のテーブルに本体を立てて、Joy-Conを両手に持ちながらベッドに寝転がってプレイしたんだ。快適な姿勢ではなかったけれど、Joy-Conを振って色々なアクションが楽しめた。こういうプレイが楽しめるゲーム機は他に存在しないよね」
『スチームワールド ディグ2』を開発したImage & FormのBrjann Sigurgeirssonも同意見だ。「携帯機としても据え置き機としても機能するし、コントローラーとタッチスクリーンの両方に対応している。タイトル群も強力だ。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『スーパーマリオ オデッセイ』は非の打ち所がない。もちろん、僕たちの『スチームワールド ディグ2』も最高だけどね! Nintendo Switchは非常に興味をそそられるゲーム機なんだ。セットアップは簡単だし、デザインも綺麗にまとめられている。しかも、多用途で携行性も高い。Nintendo Switchを手に入れることは、家、車、ケンが揃っているバービー人形を手に入れるのと同じさ(笑)。とても魅力的なスタイルを打ち出している。でも、最大の魅力はやはり前例がなかったという点だね。Nintendo Switchのような優秀なハイブリッド機は、2017年まで待たなければならなかったということさ。任天堂は昔から革新的だったけれどね。Nintendo Switchに匹敵する製品を世の中に送り出している企業はAppleくらいしか思い浮かばないよ。でも、Appleはタッチスクリーンに特化しているし、彼らがコントローラーに手を出していたら、自分たちの首を絞めていただろうね」
2017年最大のNintendo Switch版インディーサプライズ『Golf Story』を開発したAndrew Neweyも2人と同意見だ。Neweyは、好きな場所に持ち運べることがプレイヤーにとって最大のセールスポイントとなっており、普段はゲームを外でプレイしない層にさえもアピールしていると考えている。「ビッグタイトルを好きな場所へ持ち運べるというアイディアを世間は気に入っていると思いますね。家庭用ゲーム機用タイトルを自由に持ち運べるのは非常に効率的だと思います。私自身がNintendo Switchを携帯モードでプレイする機会は少ないですが、このゲーム機のタイトルを買うと、『持ち運べる』という価値を追加で手に入れたような気持ちになるんです」
ローカルマルチプレイの魅力
成功を収めている家庭用ゲーム機は、デベロッパーを惹きつける。ユーザー数の多い家庭用ゲーム機は、それだけ多くのプレイヤーに自社製品を届けることができるからだ。しかし、Nintendo Switchに関しては、このゲーム機のユニークな特長が販売台数と同じくらい魅力的に映っているようだ。先日、オールドスクールなアクションゲーム『Wulverblade』のNintendo Switch版をリリースしたFully IllustratedのMichael Healdは次のようにコメントしている。「簡単にまとめて言えば、高い携行性とローカルマルチプレイ対応、この2点がデベロッパーとしての僕がNintendo Switchに惹かれた理由だ」
「この2点を両立できているゲーム機は他に存在しないし、オールドスクールなアーケードゲームを再現しようとしているゲームにとって、Nintendo Switchほど最適なゲーム機は存在しない。他のゲーム機を大きくリードしているね」
ゲームボーイカラー時代から任天堂のゲーム機対応のゲームを開発してきたドイツのデベロッパーShin’en MultimediaのManfred Trenzも、Healdと同じ点に注目したとし、「任天堂に招かれてNintendo Switchを初めて目にした時に、ゲーマーとして興味を持ちました。自分たちもプレイしたいと思ったんですよ。家庭用ゲーム機と携帯ゲーム機の組み合わせはパーフェクトに思えましたね」と続けている。Shin’en Multimediaの『FAST RMX』《脈々と続く『ワイプアウト』スタイルのレーシングゲームの系譜上に位置する最新作》 は、Nintendo Switchリリース直後の2017年3月中頃にニンテンドーeショップでリリースされたが(海外版。日本版は2017年9月リリース)、技術的に非常に優れているタイトルとして今も高い評価を得ている。
The Dangerous Kitchenも、Nintendo Switchが自分たちのゲームに適していると思ったようだ。Shaun Roopraは「Nintendo Switchは『デ・マンボ』にパーフェクトにフィットしている。Nintendo Switch がまだ “NX” と呼ばれていた頃にイメージ画像を初めて見た時は、本当に驚いたよ。『デ・マンボ』はボタンひとつと方向キーだけで楽しめるマルチプレイヤーゲームだから、通常のコントローラーよりもボタン数が少なくて、しかも取り外しも可能なコントローラーを備えているデザインを見た時に、このままのデザインでリリースされるなら、『デ・マンボ』にパーフェクトなゲーム機になると思ったんだ」と振り返っている。
Wii U時代もインディーデベロッパーとして任天堂をサポートしてきたImage & Formは、Nintendo Switchは彼らの汚名を返上したゲーム機であり、自分たちのやり方を貫いてきた任天堂が正しいことを証明することになったと考えている。「Nintendo Switchは、世界で最も革新的な家庭用ゲーム機を生み出してきた企業が送り込んだ将来有望な新しいゲーム機だ」とSigurgeirssonは語り、次のように続ける。「穿った見方をすれば、Wii Uがセールス的に大失敗に終わった彼らにとっての最後の望みだったとも言えるけれどね。いずれにせよ、任天堂のゲーム機が売れることは、僕たちのゲームが売れることに繋がる」とコメントしている。
任天堂の変化
しかし、魅力的な本体とユーザー数の多さだけがインディーデベロッパーをNintendo Switchに引き寄せている理由ではない。これまで小規模なデベロッパーへの対応について批判されることもあった任天堂は、Nintendo Switchではインディーデベロッパーが新作の開発とリリースをなるべくスムーズに行えるように全力を尽くしているのだ。
Sigurgeirssonが続ける。「任天堂は僕たちが不満を抱えることなくこのゲーム機に参加できるように配慮してくれている。しかも、個人レベルで対応してくれている。個人的に連絡できる任天堂のスタッフが何人もいるように感じているんだ。実際に連絡したら嫌がるかもしれないけれど、近くを通りがかったら連絡してみるつもりさ! ビデオゲーム業界を象徴する存在の任天堂に認められて、感謝されているのは光栄だね」
『Wulverblade』をXbox One独占タイトルとしてリリースする予定だったHealdも、任天堂の対応に好感触を持っている。「任天堂のチームは最高だよ。少なくとも必ずひとりと直接連絡が取れる状況だ。初めてミーティングをした日からね。この対応はプライスレスだよ。他のプラットフォームではこんな対応は得られていない。誰かと直接連絡が取り合えれば、関係がとてもパーソナルなものになるし、仕事が進めやすくなる。毎回違う人と話をしていても、関係を深めることはできないよね。PAXの時も、任天堂のスタッフはとても優しくて、あたふたしていた僕たちのブースにチョコレートとドリンクを差し入れてくれたんだよ。僕たちが忙しそうにしているのを見て、応援してくれたんだ」
個人的に連絡できる任天堂のスタッフが何人もいるように感じているんだ。実際に連絡したら嫌がるかもしれないけれど、近くを通りがかったら連絡してみるつもりさ!
『ゼルダの伝説』シリーズを彷彿とさせるゲームアプリ『オーシャンホーン - 未知の海にひそむかい物』をNintendo Switchに移植したFDG EntertainmentのPhilipp DöschlもSigurgeirssonと同意見だが、これまでのインディーデベロッパーが任天堂の長い歴史に気が引けてしまっていたことは否めないとしている。「任天堂には長い歴史があり、しかも家庭用ゲーム機業界の中で非常に重要な存在だから、多くのデベロッパーは畏怖の念を持って彼らと接していた。ビデオゲームの神と会話しているかのように感じていたんだ。でも、最近の任天堂は気さくだし、僕たちを担当しているチームも全員優秀でゲーム好きだ。コミュニケーションも積極的に取ってくれるし、オープンだ。僕たちの助けになってくれているね。僕たちはWii時代の彼らを知っている。彼らがどういう態度を取っていたのかもね。ひと言で言えば、あの頃とは全てが違う。良い意味でね」
先日『ロケットリーグ』のNintendo Switch版をリリースしたPsyonixも、任天堂が以前よりもオープンな存在になったことを証明している。Psyonixの副社長Jeremy Dunhamは、ロケットを搭載したバトルマシンのサッカーゲームの移植を最初に持ちかけてきたのは任天堂だったとしており、また、彼がXbox One版とPC版とのクロスプラットフォーム対戦を移植の条件(Wii時代にはあり得なかった条件)としても提示した時も、任天堂は快諾してくれたと続ける。
Dunhamは「任天堂は『もちろんOKだ。何でも言ってくれ』と返してくれました。私たちの要望に即答してくれた彼らの態度に好印象を受けましたよ。彼らが『ロケットリーグ』とNintendo Switchについて本気で取り組んでいることが伝わりましたので、私たちも誠意を持って対応しようと思いました」と振り返っている。
デベロッパーにとってのもうひとつの魅力は、任天堂の過去のゲーム機とは異なり、開発がしやすくなっている点だ。『Wonder Boy the dragon’s trap』をNintendo Switchを含む複数のプラットフォームでリリースしたDotEmuのArnaud De Sousaは「Nintendo Switchの開発キットと書類一式は非常に良かったですね。Nintendo SwitchのGPUは、PC版の開発環境でも良く使われているNvidia Maxwellがベースになっているので、開発をスムーズに進めることができました。慣れないハードウェアやツールを使わなければならない時もあるWii Uと3DSからは大きく進歩したと思いますよ」とコメントしている。
Döschlは、この点についてはまだ両手放しでは褒められないが、UnityやUnrealのような一般的なゲームエンジンに対応しているので非常に魅力的なゲーム機であることに変わりはないとしている。彼は「ゲームの開発は対応しているテクノロジーに大きく左右されるからね」と切り出し、次のように続ける。
「Nintendo Switchはメジャーなゲームエンジンの全てに対応しているから、全てのデベロッパーがNintendo Switch版をリリースする可能性は十分にあると思う。仲良くしている他のデベロッパーから、Unityはオーバーヘッドが大きいから開発が難しいという話を聞いたけれど、これはUnityがPS4やXbox Oneなどを含む全プラットフォーム共通で抱えている問題だから仕方がない」
FDG Entertainmentは、Game Atelierと共同開発した『Monster Boy and the Cursed Kingdom』をNintendo Switchでもリリースすることを予定しているが、Döschlは現状に不満はないとしている。「Nintendo Switchへの移植は難しくなかった。僕の記憶が正しければ、作業は数週間で終わったよ。もちろん、まだ最適化をしなければならない部分が残っているけれど、Game Atelierが進めてくれている。60fps・1080pで問題なく動作しているよ」
課題はニンテンドーeショップ
当然ながら、ゲーム機メーカーのサポートがどれだけ厚くても、また、自分たちがどれだけそのゲーム機を個人的に気に入っていても、自分たちが開発したゲームが売れなければ、その努力や関係は無駄になってしまう。しかし、幸いなことに、今回取材したデベロッパーは、Nintendo Switch版の売上本数に関してポジティブなストーリーを語ってくれた。Sigurgeirssonは『スチームワールド ディグ2』のNintendo Switch版は、他のプラットフォーム版の何倍も売れていると回答し、De Souzaも『Wonder Boy the dragon’s trap』のNintendo Switch版のダウンロード数は、他のプラットフォーム版のダウンロード数の合算を上回っているとしている。また、FDC EntertainmentのDöschlも、『オーシャンホーン - 未知の海にひそむかい物』のNintendo Switch版はPS4版とXbox One版より売れていることを認めている。
このように書くと、インディーデベロッパーはNintendo Switchで “ゴールドラッシュ” を体験しているように思えるが、Healdは他のインディーデベロッパーに向けて、Nintendo Switch版をリリースすればFerrariが買えると思うのは大間違いだと警鐘を鳴らす。Healdは「Nintendo Switchには優秀なタイトルが揃っているから競争は厳しい。また、ビデオゲーム業界自体が厳しくなってきているから、レビューで高評価を得てもそれがセールスに結びつくとは限らない」とコメントしている。
これは当然の話だ。プラットフォーム上のタイトル数が増えれば、たとえ素晴らしいスペシャルなゲームを開発したとしても、その存在に気付いてもらうのが難しくなる。The Dangerous KitchenのLucy Doveも次のコメントも、Healdの気持ちに寄り添うものだ。「実際『デ・マンボ』の売れ行きはまずまずってところね。これからずっと3食ピザの生活を送れるほど儲かってはいないわ。でも、わたしたちはNintendo Switchでリリースするチャンスが持てたことだけでハッピーなの」
また、Doveは、任天堂は開発とリリースのプロセスを簡単にするために多くの努力をしてくれているが、まだ改善できる部分があると感じている。「ソーシャルメディア上で全てのゲームをもう少しフェアに扱ってくれるシステムが用意されれば嬉しいわね。マーケティング用予算が限られているデベロッパーが気付いてもらうのは簡単じゃないから。あと、ニンテンドーeショップは使いにくいから、もう少し改良されることを望んでいるわ。『デ・マンボ』も一応画面で確認できるけど、もう少し検索しやすくなれば嬉しいわね。古いゲームが探しにくい点も改善して欲しいわ」
Healdもニンテンドーeショップの使いやすさについては同意見で、より使いやすい新しいユーザーインターフェイスを用意すべきだとしている。また、Döschlは、Steamが古くさくて雑然としているように感じられる今のタイミングを任天堂が上手く活用しても良いだろうと考えている。「現時点で最も重要なのは、ニンテンドーeショップをアップデートして、素晴らしいゲームを手に入れやすくすることだと思う。カテゴリーをもっとちゃんと考えるべきだね。コメントも書き込めるようなショップにするのも良いだろうし。Steamの勢いは止まりつつあるし、大きな問題も抱えている。任天堂がその穴を埋められるチャンスは十分にあると思うよ」
Sigurgeirssonも、ニンテンドーeショップのアップデートが最優先事項だと考えている。「ゲームアプリとPCゲームの数がどんどん増えているけど、App StoreやSteamのインターフェイスは非常に洗練されているよねっていつもみんなで話しているんだ。常に何かしらの特集ページが組まれているし、自分が好きかもしれないゲームに出会うことができる。9月末に任天堂を専門にしているジャーナリストと話したんだけど、ニンテンドーeショップでは優秀な最新タイトルがすでに埋もれつつあると言っていた。小規模なデベロッパーが頑張って開発したタイトルがね。少ない露出はインディーデベロッパーにとって決定的なダメージになり得る。プレイヤーが常に簡単にゲームを探せるようにして、インディーデベロッパーが頼りにできるシステムを作り上げることは可能だと思うよ。特定のタイトルを買おうとしてニンテンドーeショップにアクセスした時に、他のタイトルにも誘導するようなシステムが用意されない限り、このシステムは現時点では存在しないと僕は思っているんだけど、 インディーデベロッパーは『スーパーマリオ オデッセイ』のようなビッグタイトルと同じ日に自分たちのゲームがリリースされることを嘆くことになるだろうね」
我々が今回取材したデベロッパーがNintendo Switchでのリリースを今後も予定していることはほぼ確実に見えるかもしれないが、ニンテンドーeショップで扱われるタイトル数が増えてきており、自分たちの存在に気付いてもらえる可能性が低くなりつつあることを踏まえると、その予定があるかどうかを改めて質問しておく価値はある。この質問に対し、Sigurgeirsson、Trenz、Döschlの3人はNintendo Switchを今後もサポートしていくと回答しているが、DotEmuのDe Sousaは状況を見守りたいと回答している。ただし、De Sousaは、ゲームアプリとしてリリース済のレトロゲーム風タイトル群をどこかのタイミングで移植する可能性はあると付け加えている。
The Dangerous Kitchenは、Nintendo Switch用の新作は、さらにエキサイティングな作品になる可能性があるとしている。次からはこのゲーム機のユニークな特長にフォーカスして開発できるからだ。Doveは次のように回答している。「わたしたちの『ダ・マンボ』は、“NX” が話題になる前に開発したゲームだから、Nintendo Switchの機能をフルに活かすことができなかったの。今後はそこにフォーカスしていくつもりよ。だから、Nintendo Switchはわたしたちの長期計画の中に入っているわけだけれど、実は短期計画の中にも組み込まれているの。なぜなら、このメールを書き終えたら『スーパーマリオ オデッセイ』をプレイするからよ!」
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