カースティ・ミュア
© Lee Ponzio/Red Bull Content Pool
フリースキー

フリースタイルスキー・スロープスタイル:歴史・ルール・見どころ

フリースタイルスキーの “クリエイティブ” を司るスロープスタイルはどのような競技なのだろうか? 歴史やルール、有名選手などを簡単に紹介!
Written by Tom Ward
読み終わるまで:10分Published on
後ろ向きジャンプ、特大エア、強烈なライン、回転、旋回、そして高速の飛び出し…。フリースタイルスキー・スロープスタイルをまだ知らない人に、その魅力を伝えよう。「スキーを履いたダウンヒル」において、このスポーツほど視覚的に刺激的なものはない。
ビッグエアよりもトリックが豊富で、フリーライドよりも強烈なラインを取れる可能性があるスロープスタイルは、最もエネルギッシュなフリースタイルスキーだ。本記事ではその歴史やトップアスリートなどの基本情報を簡単にまとめてみた。
フリースタイルスキー・スロープスタイルでは革新的なランが次々と生み出されている

フリースタイルスキー・スロープスタイルでは革新的なランが次々と生み出されている

© Christian Pondella/Red Bull Content Pool

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フリースタイルスキー・スロープスタイルとは?

フリースタイルスキー・スロープスタイルは、フリースタイルスキーの中で最も先進的・表現的なカテゴリーで、アイリーン・グージェスパー・ジェイダーのようなトップスキーヤーたちがネクストレベルへとプッシュし続けている。スキーでできるどんなことよりも、スロープスタイルはスキーヤーの個性にスポットライトが当たる。
レールも主要フィーチャーのひとつ

レールも主要フィーチャーのひとつ

© Jan Cadosch/Red Bull Content Pool

ビッグエアもメイクされる

ビッグエアもメイクされる

© Lorenz Richard/Red Bull Content Pool

この競技はエクストリームスポーツの長い歴史の一部で、サーフィンからインスピレーションを得て誕生したスケートボードBMXの要素を組み合わせている。
レール、ジャンプ、ボックス、グラインドなどが含まれており、BMXやスケートボードのコンペと同じように、スロープスタイルのランもクリエイティビティトリックのコンビネーションと独創性全体のスタイルが採点基準となる。
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スロープスタイルスキーの起源

スキーが誕生した頃から、恐れ知らずの人たちがスキーでアクロバティックなムーブを試しており、世界初のスキーでのサマーソルトは1906年に記録されている。しかし、フリースタイルスキーが世界から注目を集めるようになったのは、ノルウェー出身のスタイン・エリクセンがスキーで空中スタントをするようになった1950年代に入ってからだった。
そこから先の10年はクリエイティブなスキーが北米を中心にブームとなり、1970年代に入ると、スロープスタイル、ビッグエア、ハーフパイプを組み合わせた世界初の大会がニューハンプシャー州ウォーターヴィル・バレーで開催された。
そして1979年国際スキー連盟(ISF)がフリースタイルスキーを公式種目として認定し、採点および大会の基準が初めて設定されると、1980年代からワールドカップの開催も始まった。
キャンディッド・トベックスはフリースタイルスキーのイノベーター

キャンディッド・トベックスはフリースタイルスキーのイノベーター

© Red Bull Content Pool

1988年、グレッグ・スタンプがリリースした映像『Blizzard of Aahhh’s』がフリースタイルスキーのパンクロック的側面を構築する助けとなり、新世代スキーヤーたちがこの競技の限界をプッシュするようになった。
そして、当然ながら、1990年代はエクストリームスポーツにとって大きな10年で、X Gamesのような大会が開催されるようになり、スポーツとユースカルチャーの様相に変化が起きていった。そしてさらに10年後の2007年、Winter X Gamesでのキャンディド・トベックスの歴史的なゴールドがテクニックとスタイルへのフォーカスを生み出し、フリースタイルスキーは新時代へ突入した。
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スロープスタイルのコース:レール・ジャンプ・フィーチャー

スロープスタイルのコースは、最高のクリエイティビティとショーをイメージしてデザインされており、高速のダウンヒルラン大量のレールやジャンプボックスなどが配置されている。スロープスタイルのスキーヤーたちは最速ライン1本をなぞる代わりに、自分たちがトライしたいレールやフィーチャーを自由に選択し、最大限の独創性高さ、そして可能性を追求していく。
レインボーレール

レインボーレール

© Adam Klingeteg/Red Bull Content Pool

この競技ではバラエティが重要だ。ほとんどのコースには最低2本のユニークなラインと多様なトリックメイクが狙える多様なフィーチャーが用意されている。すべてのアスリートが同じトリックをメイクするようなコースなら、アスリートはもちろん、観客も楽しめなくなってしまう。
主要大会以外では自由度がさらに高くなるが、メダルやタイトルが懸かっている大会のコースでは、アスリートたちを風から守るスノーウォールと最低6つのセクションが設けられる。
基本的に、コース上部はレインボーレールやアップフラットダウンレール、トランスファーボックスなどの “ジブ” を中心としたセクションで構成され、コース下部はキッカーやブーターから飛び出し、フリップやグラブなどが狙えるジャンプを重視したセクションで構成される。
レールはコースの前半に設置されることが多い

レールはコースの前半に設置されることが多い

© Lorenz Richard/Red Bull Content Pool

ジャンプはコースの後半に設置されることが多い

ジャンプはコースの後半に設置されることが多い

© Lorenz Richard/Red Bull Content Pool

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スロープスタイルの採点基準

スロープスタイルは個性を重視するが、他のあらゆるプロスポーツと同じで、採点基準が存在する。基本的に、スロープスタイルのジャッジは以下を重視する:
  • エクスキューション / 完成度:アスリートのラン全体の完成度。他のエクストリームスポーツと同じで、クリーンなライン、スムーズな着地、全体的なコントロール力が好まれる。ブレや揺れ、手を使うなどは減点対象になる。
  • バラエティ / 多様性:各種フィーチャーが配置されているのには理由がある。フリップやグラブ、エア、グラインドなどをメイクしなければ減点される。
  • ディフィカリティ / 難度:トリックの難度が高ければ高いほど、評価される。テクニックが重要で、回転の方向と数、反転数などがすべて採点される。しかし、リスクもあり、ビッグトリックのメイクに失敗すれば、大きく減点される。マチルド・グレモースイッチダブルコーク1440のように正しくメイクできれば、歴史を生み出すことができる。

1分

マチルド・グレモー:女子世界初スイッチダブルコーク1440

  • アンプリチュード / 高さ:ジャンプの高さに加えて、その距離やテイクオフ・空中・着地のコントロールも採点される。
  • フロウおよびコンビネーション / 流れと組み合わせ:まるでダンスのように複数の異なるトリックがシームレスに繋がっているランは高得点となる。
  • プログレッション / 革新性:自分たちのスポーツを積極的に進化させようとしているかどうかも採点基準のひとつだ。新しいコンボやクラシックなトリックの新解釈などはプラスとなる。
また、ひとつとして同じコースがないこと、そしてアスリートたちは他のアスリートが記録した直前の最高ポイントを上回ろうとするため採点は相対的で、イベントまたは日ごとに異なることにも触れておくべきだろう。
たとえば、カナダ・ウィスラーで開催されたイベントで60ポイントを獲得できたランが、スウェーデン・オーレで開催されたイベントでは70ポイントを獲得できる可能性がある。
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スロープスタイルのトリックの種類

フリースタイルスキー・スロープスタイルのトリックを細かく見ていこう。大会で確認できる主なトリックは以下の通り:
フリップ:フリップは縦(垂直)方向の回転を意味する。バックフリップなどが代表例だ。バックフリップに横(水平)方向の回転を加えれば、バックフリップにツイストを加えたことになる。スキーヤーが側転をするリンカーンループや、スキーヤーが軸をずらして2回転するダブルコークなどより複雑なトリックも存在する。
フリップは主要な採点項目のひとつ

フリップは主要な採点項目のひとつ

© Christian Pondella/Red Bull Content Pool

レールは攻略方法が多い

レールは攻略方法が多い

© Klaus Polzer/Red Bull Content Pool

レールトリック:レールでスライド(グラインド)したり、回転したりするトリックがレールトリックだ。スキーヤーがキンクレールのキンク(折れ曲がっている部分)を飛び越えてレールの上に着地するディザスターや、レールに180°ターンを組み込み、最初とは反対方向でレールを終えるスイッチアップなどが代表的なレールトリックとなる。
スピン:水平方向の回転はスピンと呼ばれ、基本的には回転した角度で呼ばれる。たとえば、1880は360°のフルスピンを5回したことを意味する。フューチャースピンは6回転(2160°)のトリックだが、男女通じてまだ誰もメイクに成功していない。
グラブ:スキーを空中で片手または両手で掴むことをグラブと呼ぶ。スキーを掴む位置や掴む手によって異なる名称が存在する。
ハイブリッド:様々なトリックの様々な部分を組み合わせるトリック。
グラブはフリップやスピンをレベルアップさせる

グラブはフリップやスピンをレベルアップさせる

© Miles Holden/Red Bull Content Pool

900を超えるスピンは高く評価される

900を超えるスピンは高く評価される

© Frederik Kalbermatten/Red Bull Content Pool

上記がすべてではない。上記のトリックのすべては、スキーヤーがスロープの下を向いている「ノーマル」、後ろ向きにジャンプや着地を行う「フェイキー」または「スイッチ」、そしてラインの逆方向(スロープの上へ向かって)回転する「アリウープ」のバージョンが存在する。
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スロープスタイル・ビッグエア・フリーライドの違い

スキー初心者なら、競技種目の違いを認識するのは難しいかもしれない。さきほど説明したように、スロープスタイルはスロープを下りながら、フィーチャーやジャンプでトリックをメイクする競技だ。
一方、ビッグエアはその名前の通り、ひとつの大きなジャンプ台でのトリックメイクを競う。アスリートは難度やスタイル、高さを組み合わせたビッグトリックを狙うことになる。
フリーライド“オフピステ” のカテゴリーで、スキーヤーたちはゲレンデやコースではない自然地形でスキルやトリックを競い合う。人工フィーチャーでのトリックを競い合うかわりに、険しい雪山を含む自然地形でのライディング能力を競い合う。
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スロープスタイルの用具・ウェア

スロープスタイルを始めるつもりなら、正しいギアが必要だ。あらゆるスポーツと同じで、どのレベルのギアを揃えるかは自分次第だ。細かな違いがある数多の用具やウェアが存在するが、必要不可欠なのはスキー板だ。ツインチップスキーはテールが跳ね上がっており、後ろ向きに滑るのに向いている。次に欠かせないのがブーツビンディングだ。
フリースタイルスキー・スロープスタイルではツインチップスキーが使用される

フリースタイルスキー・スロープスタイルではツインチップスキーが使用される

© Chris Singer/Red Bull Content Pool

ヘルメットやブーツ、ビンディングなどを用意しよう

ヘルメットやブーツ、ビンディングなどを用意しよう

© Chris Singer/Red Bull Content Pool

スロープスタイルは整備されたパークで行われるが、高速で滑走中に高所から落ちたりすれば大怪我をする可能性がある。そこでヘルメットを用意したい。安物ではなく、ある程度のクオリティが必要だ。プロテクターを装着しても良いだろう。
ゴーグルグローブは光の反射と寒さを防ぐことができる。あとは防水性に優れているジャケットとパンツ発汗性に優れているレイヤーやネックゲイターソックスなども用意しておくべきだろう。
興味深いことに、ストックはスロープスタイルの必需品ではなく、義務化もされていない。しかし、バランスを取る助けになるはずだ。そして日焼け止めは必ず携行しよう。
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注目選手

ミラノ・コルティナでは4回目のスロープスタイルの “世界の頂点” が競われるが、その前から盛り上がっておきたいなら、ヘンリク・ハーロウが2013年にメイクしたノーズバター・トリプルコーク1620など、偉大なアスリートとランをチェックしておきたい。ちなみにこのハーロウのトリックは本人にX Games初優勝をもたらすと同時に、フリースキーシーンに大きな衝撃を与えた。
もうひとり触れておくべきアスリートが、フリースタイルスキー冬季3種目すべてでメダルを獲得した世界初のスキーヤーとなったアイリーン・グーだ。また、2023年のX Gamesでトリプルコークをメイクしたミーガン・オールダムは、大会レベルでトリプルコークを初メイクした女子スキーヤーとして歴史に名を残すことになる。
強烈なトリックの話をするなら、2022年にマーカス・エダーが映像プロジェクト『The Ultimate Run』で理想のフリースキーランを披露している。また、同年にジェスパー・ジェイダーが154.49mのレールグラインドに成功し、世界最長記録を更新した。ちなみに127回目の挑戦での成功だった。
そして、マチルド・グレモーは2024シーズンにクリスタルグローブ3冠を達成した初の女子スキーヤーとなったことで知られる。この偉業はカースティ・ミュアを含む世界中の新世代スロープスタイルスキーヤーたちの進化に大きな影響を与えた。
また、17歳でスロープスタイルのワールドチャンピオンになったマック・フォアハンドは24歳になった今も最前線で活躍を続けている。
まとめると、スロープスタイルスキーヤーたちは自分たちのスポーツの限界と人間がスキー板2本でできることの限界をプッシュしながら、今も革新を続けているのだ!
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