登山での偉業達成は年々難しくなってきている。
世界最高峰クラスは随分前にすべて初完登が記録されているからだ。それでも登山家たちに残された挑戦の数が減っているわけではない。
実際はその逆で、近年はハイレベルな挑戦がいくつも行われており、エベレスト複数回登頂やパタゴニアの山脈高速縦走などの世界初・世界記録更新が日々ニュースになっている。
また、登山は人によって意味合いが異なってくるスポーツで、スタイルを求める人、独自性を求める人、少数精鋭グループでの登山を好む人、美しいラインを重視する人、限界点突破を狙う人、無酸素登山に挑戦している人がいる。
そして、世界には登山の限界をプッシュする名もなきヒーローや、若くしてこのスポーツに命を奪われたレジェンドが数多く存在する。
以上を踏まえると、世界最高の登山家のリストやランキングの作成は難しいと言わざるを得ないのだが、今回は最も素晴らしい記録、または最も有名な記録を打ち立てた登山家11人をピックアップして紹介する。
1:ニルマル・プルジャ
- 国籍:ネパール
- 生年:1983年
- Instagramアカウント:nimsdai
2019年に標高8,000m級14座を約半年で完全制覇した36歳の “ニムズ” ことニルマル・プルジャは現在の登山界で最も評価されている登山家のひとりだ。
エベレスト、ローツェ、マカルーの3座をたったの2日と30分で登頂した元特殊舟艇部隊SBS(Special Boat Service)所属グルカ兵のニムズは、それまでの14座完全制覇記録を7年11ヶ月14日も上回った。彼は次のようにコメントしている。
「国外の登山家は世界中から注目を集めたり、スポンサーを数多く獲得したりしているけれど、ネパールの登山家にそういうチャンスはない。僕の活動が才能のある国内の登山家たちにスポットライトが当たるきっかけになることを願っているんだ」
2:アンジェイ・バルギエル
- 国籍:ポーランド
- 生年:1988年
- Instagramアカウント:andrzejbargiel
この世界的に有名な登山家は世界最難関クラスの山々を超絶スピードで攻略している。世界を代表する名峰からスキーで滑降してしまうバルギエルは、2018年に標高8,611mのK2に登頂したあとスキーで一気に下山したことで世界記録を樹立した。
マナスル(標高8,163m)、ブロード・ピーク(標高8,051m)、シシャパンマ(標高8,027m)でもスキー下山を成功させているバルギエルは、旧ソ連邦に属する最高峰5座すべてを登山したことでスノーレオパード賞も受賞している。
2分
Andrzej Bargiel's first descent of K2 on skis
Polish ski mountaineer Andrzej Bargiel made history on July 22, 2018 after skiing down from the summit of K2.
2019年に予定していた「エベレスト登山&スキー滑降」は途中で断念したが、間違いなく再挑戦するだろう。
本人は「今の自分なら世界最高の登山家たちと互角に渡り合えるし、あらゆる世界記録も更新できる。どんな山でも。」とコメントしている。
3:デニス・ウルブコ
- 国籍:ロシア / ポーランド
- 生年:1973年
- Facebookページ:denisurubko
このスピードクライマーは過去20年で標高8,000m級を22回登頂している。また新ルート設定・新記録樹立にも積極的で、2020年も世界で12番目に高いブロード・ピーク冬季登頂に成功した。
標高8,000m級完全制覇記録を持つ8人に含まれるウルブコは無酸素登山を好んでおり、ヒマラヤ、天山山脈、パタゴニアなど世界各地で無数の新ルートを設定してきた。
ロシア登山協会のTwitterアカウント(@russianclimb)の投稿によると、ウルブコは世界で2番目に高いK2(標高8,611m)の冬季登頂でキャリアを終わらせることを目標に据えている。
4:コンラッド・アンカー
- 国籍:米国
- 生年:1962年
- Facebookページ:Conrad Anker Official
1999年にエベレストで伝説の英国人登山家ジョージ・マロリーの遺体を発見したことで知られるアンカーは、メルー、ヴィンソン・マシフ、ウルヴェタナ、エル・キャピタンなどで初登を記録している他、アラスカや南極を含む世界中の名峰の登頂に成功している。
The North Faceの登山チームを26年率いた彼は、1999年に雪崩に飲み込まれ、2016年にはルナ・リー登山中に心臓発作に襲われるなどいくつもの危機に見舞われながらも活動を続けてきたことが評価され、2016年に『Climbing Magazine』主宰の「ゴールデン・ピトン賞 / Golden Pitons」で生涯功労賞を受賞した。
彼は次のようなコメントを残している。「人生は、最初の20年は面倒を見てもらい、次の20年で自分が何をするのかを決め、そのあとの20年でそれをやる。そしてその次の20年で自分が学んできたことを振り返り、何かの形にしていく」
5:コリン・ヘイリー
- 国籍:米国
- 生年:1984年
- Instagramアカウント:colinhaley1
テクニカルなルートのスピードクライミングを得意としているヘイリーはパタゴニアでの登山が世界的に知られている。
彼はこれまでに16回パタゴニアを訪れており、トーレス・デル・パイネ縦走に2回成功している。尚、そのうち1回は、アレックス・オノルドと24時間以内で記録したものだ。
また、ヘイリーは北米でいくつかの新ルートを設定している。特に有名なのがアラスカで、同州を代表する複数の名峰の最速登山記録を複数回更新している。彼は次のようにコメントしている。
「僕の人生の最優先項目は登山だ。毎年登山家として成長できていると思う。年を重ねるごとにさらなる集中と規律を持てるようになっている」
6:ポール・ラムズデン
- 国籍:英国
- 生年:1971年
世界的に有名なフランスの登山賞「ピオレドール賞」は1度受賞するだけでも素晴らしいが、英国人登山家のポール・ラムズデンは実に4度も受賞している。しかし、本人はスポットライトを当てられるのを好まず、パートナーたちにその位置を譲っている。
ミック・ファウラーと受賞した最初の3回は、四姑娘山北壁初登攀(とうはん)・シヴァ北東ピラー初登攀・ネパールの秘峰ガベ・ディン(Gave Ding)初登攀が評価された。また、ニック・ブロックと受賞した4回目は、チベットの7,000m級峰初登攀が評価された。
本人は「登山家というのは、フィジカルがフィットしている頃は経験が足りず、フィジカルが衰えてきた頃に経験豊かになる。つまり、バランス感覚が重要になる。前人未踏の7,000m級を狙うなら、多くの経験が必要になる」と語っている。
7:ウィル・ガッド
- 国籍:カナダ
- 生年:1967年
- Instagramアカウント:realwillgadd
アイスクライミングを専門にしているウィル・ガッドは国際連合環境計画(UNEP)が世界の山が直面している危機への意識を高めるためにスタートさせた啓蒙キャンペーン「Mountain Heroes」のアンバサダーとしての活動、ヘルムケン滝やナイアガラの滝でのアイスクライミング、世界各地の登山関係の偉業で知られている。
カナディアンロッキー最高峰ロブソン山24時間単独登攀に初成功したことでも有名なガッドは、世界を巡りながらロッククライミング・アイスクライミング・アルパインクライミングの新ルート設定に取り組んでいる。
6分
氷河の内部調査
登山家のウィル・ガッドと氷河水文地質学者のジェイソン・ガリーが、グリーンランドにて垂直の氷の壁を測り、氷河の下を流れる水を調査する。水の活動を把握し、海面がどれくらいのスピードで上昇する可能性があるかを確認することが目的だ。(日本語字幕)
彼は「山の中で過ごす時間を得られれば、自然に抱かれている感覚と大自然を所有している感覚を得る。このような感覚を得ると、自然を大事にしようと思えるようになる」と語っている。
8:カミ・リタ・シェルパ
- 国籍:ネパール
- 生年:1970年
この世界的に有名なシェルパはヒマラヤでいくつもの世界記録を樹立してきた。エベレスト登頂24回を記録し(2019年には1週間で2回登頂)、K2、チョ・オユー、マナスル、アンナプルナ、ローツェの登頂にも成功している。
テンジン・ノルゲイと同じ村で生まれ、1994年にエベレスト初登頂を記録した彼は登山一家で育った。プロシェルパの第一世代でエベレスト登頂17回を記録した父親を持つ “サラブレッド” のカミ・リタ・シェルパは次のようにコメントしている。
「いつも “これが初登だ” という敬意を持って登山している。クライアントが登頂に成功すればそれで満足だ。世界記録更新は副産物に過ぎない」
9:ロバート・ジャスパー
- 国籍:ドイツ
- 生年:1968年
“エクストリーム・アルピニスト” を名乗るジャスパーはヨーロッパ、パタゴニア、ヒマラヤ、グリーンランドでの登山をネクストレベルへ高めてきた。氷壁を含む複数の地形を組み合わせることを意識している彼は、しばしばソロにも挑んでいる。
30年前にヨーロッパアルプス最難関北壁3枚を最速クリアしたことで世界的な知名度を獲得したジャスパーは、これまでにアイガー北壁で17ルートを設定しており、2019年にも新ルートを追加した。
本人は「私は色々な方法でトレーニングをしているので、どちらかと言うとデカスリートのような存在だ。登山ではリスクを最小限に抑えながら自分の情熱とアドベンチャーを前進させる必要がある。これが私の登山哲学だ」と語っている。
10:シモーネ・モロ
- 国籍:イタリア
- 生年:1967年
- Facebookページ:SimoneMoroOfficial
モロは標高8,000m級4座(シシャパンマ / マカルー / ガッシャーブルムII / ナンガ・パルバット)冬季登頂に成功している世界唯一の登山家だ。また、彼は高山専門ヘリコプターパイロットとウイングスーツパイロットとしても活躍している。
2019-20シーズン、ガッシャーブルム山塊で16回目の冬季登山に挑んでいたモロは幅50cmの深いクレバスに落ちてしまったが、幸運なことにパートナーのタマラ・ランガーにロープで救出されて一命を取り留めた。
彼は自分の哲学について「不可能と限界は常にイコールの関係ではない。数年前に不可能だったことは当時の限界に過ぎず、今は実行可能だ。つまり、限界は常に上昇していくものなのさ。夢のような高さまでね」と語っている。
11:エド・ベスターズ
- 国籍:米国
- 生年:1959年
- Instagramアカウント:ed_viesturs
高山マスターとして知られるベスターズは標高8,000m級14座完全制覇に成功している唯一の米国人登山家で、彼よりも高山登頂成功数が多い登山家は4人(全員がシェルパ)しかいない。
ヒマラヤだけではなくデナリ登頂にも3回成功しているベスターズは、エクアドルとメキシコの火山登頂にも7回成功している他、南極とロシアでの登頂にも成功している。また、レーニア山には200回以上登頂している。
「“限界をプッシュしている” というのは、ごく少数の登山家と無酸素登山を指す。しかし、突き詰めて言えば、私たち登山家の大半は “偉大” や “最高” を求めていない」
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