Ryan Sandes races during the Western States 100-mile race, Sierra Nevada Mountains, USA on June 29, 2019.
© Kelvin Trautman / Red Bull Content Pool
ウルトラ ランニング

ウルトラマラソン:ランナーの頭に浮かぶ10の疑問

超長距離を走るランナーたちの頭の中には奇妙な疑問が浮かぶ時がある。その典型例と対処法をトップウルトラランナーが解説してくれた。
Written by Damian Hall
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ウルトラマラソンの未経験者が、このスポーツがランナーのメンタルとフィジカルに与える影響を理解するのは不可能だ。ウルトラマラソンでは、美しいロケーションでフルマラソン(42.195km)を優に超える長距離を見知らぬ他人と昼夜を問わず走り続けることになる。
ダミアン・ホールウルトラマラソンの本当の怖さを知っている。英国国内の長距離トレイル2本で2つのスピードレコード(FKT:ファステスト・ノウン・タイム)を更新し、UTMB 20185位入賞した経験を持つダミアンは、ウルトラマラソンを通じて幻覚猛烈な空腹感を嫌というほど味わってきた。
ウルトラマラソンデビュー中のランナーの脳内に浮かびがちな疑問の数々をダミアンが明かし、その対処法を解説してくれた。

1:レース中に気持ちが苛立つのはなぜ?

レース中の気分の落ち込みはエナジー不足が原因

© Graeme Murray/Red Bull Content Pool

「気持ちが苛立って不機嫌になるのはウルトラマラソンの最重要ルールのひとつ — 『気分が落ち込んだ時は補給食を摂れ』— を忘れてしまっているからだ」
「ウルトラマラソンはランイベントではなく大食いイベントなのさ。チェックポイントにはナッツバターのサンドウィッチやフルーツ、ゼリーのお菓子、ケサディヤやピザなどあらゆる補給食が用意されていていることが多い」
「長距離のランニングでは膨大なカロリーを燃焼することになるから、胃の中に食べ物を詰め込み続ける必要がある。大半のランナーの目安になるのは1時間あたり200〜250kcalの補給だけど、“少量を頻繁に補給する” が基本だ」
「一番早くエナジーに転化できるのは糖分だけど、レースが進むと甘いものに飽きてきて、チキンスープが欲しくなる」
「というわけで、レース中に気持ちが落ち込んで不機嫌になったら、とりあえず補給食を食べれば解決するはずさ!」

2:レース中に涙が出てくるのはなぜ?

「寝ないで24時間以上走り続けていると、疲労が増し、感情がむき出しになっていく。これまで経験したことのない距離を走りきれば、その事実に圧倒されて目に涙が浮かんでくる」
「ウルトラマラソンのフィニッシュラインには様々なストーリーがある。抑えきれない感情や人間性が涙と共に溢れ出てくる素晴らしい場所だ」
「でも、レースの終盤はほんの些細なことが感情を大きく揺さぶる可能性があるから注意が必要だ。見知らぬライバルが自分のキャンディを拾ってくれたり、お茶を手渡してくれたりすれば異常なほど感動してしまうし、ルートを外れたり、ナッツバターを切らしたりすれば異常にフラストレーションを感じてしまう。いずれにせよ、大抵は思い切り涙を流せば気分がすっきりする」
CCCで優勝したトム・エヴァンス

CCCで優勝したトム・エヴァンス

© UTMB CCC

3:レース中に幻覚が見えるのはなぜ?

「一晩中走り続けていると、疲労や睡眠不足でマインドが正常ではなくなるから、幻覚が見えることが良くある」
「Spine Raceに出場した僕は大きな中国風提灯を頼りに走っていたつもりだったんだけど、思い切りコースを外れてしまった。元々そんな提灯なんて存在しなかったんだ」
「でも、誰だって何かしらの土産話を作ったり、ユニコーンに出会ったりしたいものだよね」

4:レース中に痛みを感じるのはなぜ?

30km強のトレイルランを繰り返して脚を慣らしておこう

30km強のトレイルランを繰り返して脚を慣らしておこう

© Graeme Murray/Red Bull Content Pool

「正しくトレーニングできていないからだ。言うまでもなく、山中を100マイル(約160km)走り続ければ身体に大きなストレスがかかる。でも、定期的・専門的なトレーニングをしておけば、ウルトラマラソンはそこまで苦しくない。快適ではないにせよね」
「でも、大半のウルトラマラソンは膨大なトレーニングをこなさなくても問題ない。ほとんどのランナーが標準的なマラソン用トレーニングプログラムだけで完走できるはずさ」
「マラソンとの大きな違いは、インターバルセッションの重要度が少し増すところだね。ウルトラマラソンデビュー前に20マイル(約32km)ランを数回こなしておくと役に立つよ」
「ウルトラマラソンの多くはカットオフ(足切り)タイムが寛容だから、ほとんどの部分で歩いても問題ない。問題視されるどころか、歩くことを推奨される」
「また、起伏のある、柔らかい路面の30マイル(約48km)ウルトラマラソンはフィジカル(特に関節)的に楽だ。平坦で硬いアスファルト(ランナーのフィジカルに最も負担が大きい路面)でフルマラソンを走るのと変わらない」
「ある意味、ウルトラマラソンは舗装路のマラソンよりフィジカルへの負担は軽いと言えるかもね」

5:レースが異常に難しく感じるのはなぜ?

「最初からペースを上げすぎているからだ。ウルトラマラソンではすべての登りで走る必要はない。最速のランナーたちでさえ、急坂では筋肉を温存するためにパワーハイクをしているくらいだ」
「ウルトラマラソンは “ウサギとカメ” のスポーツなんだ。つまり、レース前半から飛ばすのはNGなのさ。これは主に男子ランナーが注意するべきポイントだ。複数の研究男性はペース判断が不得手という結果を出している」
「でも、後半のペースアップを恐れるのもNGだ。ウルトラマラソンは間違いなく身体が疲れるし、未知の身体感覚を得る時もある。自己憐憫の感情に襲われるのも常だ。でも、できる限り効率良く前に進み続ければ、苦痛はあっという間に過ぎ去ってしまう」

6:ずぶ濡れで震えながら走っているのはなぜ?

「ほとんどのウルトラマラソンでは携行を義務づけられているキットリストが用意されている。通常は、防水機能付きレイヤー携帯電話エマージェンシーブランケットホイッスルウォーターボトルを携行しなければならない」
「天気予報が高温を伝えていてほぼ出番はなさそうなのに、防水パンツを携行するように言われて不思議に思うかもしれない。でも、たとえば、英国の丘陵や山を舞台にしたレースの多くでは天候が驚くほど急変する」
「というわけで、夜を通じて走り続けるなら重さ50gのかさばらない防水ウェアを携行しておく方が賢明だ。体温が下がればDNF(リタイア)に繋がってしまうし、もっと悪い事態を招きかねない」
「とはいえ、当たり前の話だけど、体温を暖かく保つ一番簡単な方法は “速く走る” だよ!」

7:ウルトラマラソンで一生の親友ができやすいのはなぜ?

「エンドルフィンとむき出しの感情に満たされた状態で見知らぬ人と一緒に美しい自然の中を長時間走っていると、ごく自然に会話が生まれるから、新たな友情が育まれていくんだ」
「例えば『SuuntoとGarminのどっちがベストかな?』のような意見が割れる質問でもしない限り、トレイルランニングのコミュニティはおおむねオープンでインクルーシブだ。様々な年齢・国籍(トレイルランニング愛好者は世界中で増えつつある)・体型(中年の危機を迎えている男性が大半だが)がいる」
「ウルトラマラソンを走っていると、知らない間に新たな親友と互いの人生経験を共有することになる。でも、一番のルールは『携行食を大量に持っているランナーと仲良くなろう』だね(笑)」

8:女子ランナーが男子ランナーより優れているのはなぜ?

ウルトラマラソンでは統計的に男性の方がリタイア率は高い

ウルトラマラソンでは統計的に男性の方がリタイア率は高い

© Graeme Murray / Red Bull Content Pool

「多くの英国のウルトラマラソンレースの女性比率は1〜2割だけど、女性の方が男性よりも優れた成績を残している。ウルトラマラソンの競技人口増加に伴って、女性の参加率は高まっている」
「男子トップアスリートは高いストレングスとVO2max値を誇っていて、男子が優勝するのが常だけど、統計を見ると、男子ランナーのリタイア率の方が女子よりもはるかに高い」
「Spine Race 2019でコースレコードを更新して優勝を飾ったジャスミン・パリスは、エンデュランススポーツにおける女性の優位性を示す多くの実例のひとつだし、優れた体温調節機能脂肪代謝機能ペース設定能力などの科学的側面と打たれ強さや賢明さなどのイメージ的側面の両方で女性の優位性を示す例は数多くある」
「ウルトラマラソンでは筋肉の大きさよりもランナーの意志の強さの方がはるかに重要だ」

9:心の平穏を感じるのはなぜ?

「ウルトラマラソンはヒッピー的なスポーツなんだ。といっても、米国人男子ランナーに髭面やおかしな髭の人が多いという事実がその理由ではないよ。トップレベルのウルトラマラソンランナーであるほど、ウルトラマラソンの運動性や競技性より自然保護森林保護に熱心なんだ」
「多くの研究が、自然が人間にもたらすポジティブな効果や自然環境下でのエクササイズが生命への慈愛を深める効果を示している。人間の内面は自然、そして自然が有する “人間の気持ちをポジティブにする能力” と繋がる必要があるんだ」
「美しい自然の中で過ごすのは人間にとって良いことなんだ。少しランニングして普通のハイキングでは行けないような広範囲なエリアを巡ればエンドルフィンが分泌される」
「またトレイルランニングではトレッドミルや舗装路より足の運び方により注意する必要があるから、“今” に没入できるし、“そこにいるだけ” という仏教的観念も得やすくなる。ウルトラマラソンは瞑想的な体験なんだ」

10:誰もがセルフィーを撮影しているのはなぜ?

ソーシャルメディアをモチベーション向上に利用するアスリートは多い

© Photo courtesy of Florian Neuschwander

「ウルトラマラソンはまだテレビにはニッチすぎるけれど、インターネット、特にソーシャルメディアと非常に相性が良いスポーツなんだ」
「でも、そこにはいくつかルールがある。フィニッシュラインでのセルフィー撮影は必須だ。また、ハッシュタグはうんざりするほど羅列すること。ブランドアンバサダーを目指しているアマチュアなら、少なくとも17個の製品をタグ付けすべきだね」
「レース参戦記録ブログも欠かせない。レース前の朝食や参加登録所で出会った人などについて細かく記そう。もちろん、レースの歯車が狂いはじめた瞬間についても詳しく書くようにしよう」