Kalle Rovanperä seen performing during the World Rally Championship Chile in Conception, Chile on September 26, 2024.
© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
WRC
【展望・変更点・日程】WRC 2025シーズン完全ガイド
最高峰モータースポーツに停滞はない。世界ラリー選手権もチャンピオンドライバー4人とともに新時代へ突入する。2025シーズンの展望と詳細を解説!
Written by Paul Keith
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WRC 2025シーズンは、新王者ティエリー・ヌービルが帰還し、WRC最年少総合優勝記録を保持するカッレ・ロバンペラ、2019シーズン王者オィット・タナック、総合優勝8回を誇るセバスチャン・オジェなどを相手にタイトル防衛に挑むことになる。
新規イベントも追加される2025シーズンは、WRC新時代の幕開けになるため、エキサイティングな展開になるはずだ。そこで今回は新シーズンの詳細を解説することにする。
アクロポリス・ラリー・ギリシャを制したティエリー・ヌービル© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
01

ドライバーズチャンピオンシップ

2024シーズンの開幕戦ラリー・モンテカルロを制したあと、最終戦ラリー・ジャパンまでリードを保ったティエリー・ヌービルが、新チャンピオンとして2025シーズンに臨む。
総合2位を5回経験しており、首位にあと一歩届かない展開が続いていたヌービルにとって、開幕戦優勝はシーズンをこれまで以上に難しくした。なぜなら、すべてのレースで “スウィープ”(ランキング1位は最初にスタートして砂利や小石などを “掃除” すること)を担わなければならなかったからだ。これはスノーやグラベルでは特に不利だった。
しかし、ヌービルは、スキル、プロ意識、経験のすべてを活かして、ラリー・アクロポリスでの見事な優勝など貴重なポイントを着実に積み上げていき、チームメイトのオィット・タナックが最終戦でクラッシュした瞬間にタイトル獲得を確定させた。本人は最終戦終了後、「自分を誇りに思いますし、とても嬉しいです。長年諦めずに戦い続けてきた結果です」とコメントを発表した。
36歳のヌービルにとって、2025シーズンはタイトル防衛の1年になる。チャンピオンの走りに注目したい。
ラリー・サファリを制したカッレ・ロバンペラ© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
02

カッレ・ロバンペラの復帰

数々の記録を打ち立てながらこれまでにWRC総合優勝を2回成し遂げているカッレ・ロバンペラが2025シーズンに再びフル参戦する。2024シーズンのロバンペラは、ドリフトマシンやF1マシンのドライビングを含む様々な別プロジェクトに取り組むためにWRCの大半を欠場した。
出場レース数が限られていたにもかかわらず、WRC史上最年少チャンピオン記録を所持するロバンペラは、サファリ、ポーランド、ラトビア、チリで優勝し、アスファルト、グラベル、ダートでの圧倒的な強さを見せつけた。トヨタから復帰する2025シーズンは、間違いなく優勝候補のひとりに含まれるだろう。ロバンペラは次のようにコメントを発表している。
「しっかり充電できました。2025シーズンのフル参戦が待ち遠しいです。2024シーズンはこれまでと少し違いました。異なるタイプのマシンをドライブしながらWRCでも数回優勝できたので、良い1年だったと思います。ですが、同時にWRCに復帰してチャンピオンを狙いたいという気持ちが強まりました」
03

ドライバーラインナップ:ヒョンデ・シェル・モービスWRC

ヒョンデはバランスの良い強力なラインナップを用意する。ターマックのスペシャリストだが、どの路面でも優勝できる力も備えているヌービルと2019シーズン王者オィット・タナックが2025シーズンもドライビングを担う。タナックはグラベルが得意だが、2024シーズンはセントラル・ヨーロピアン・ラリーでターマック初優勝を記録した。
ヒョンデで注目すべきポイントは「彼らがフル参戦サードドライバーとスポット参戦ドライバーのどちらを用意するのか?」だ。2024シーズンは、エサペッカ・ラッピアンドレアス・ミケルセンダニ・ソルドがスポット参戦し、ラッピが高難度のラリー・スウェーデンで優勝。チームプリンシパルのシリル・アビテブールは、彼らの素晴らしい仕事ぶりを称賛した。
しかし、サービスパーク周辺では、Mスポーツのアドリアン・フルモーがヒョンデへ移籍し、オリバー・ソルベルグがその穴を埋めると噂されている。尚、アリ・トゥルカンがMスポーツ・フォード・プーマ・ラリー1でのテストで好結果を出しており、来シーズンは2戦でドライブする予定だ。
04

ドライバーラインナップ:トヨタ・ガズー・レーシングWRT

ヒョンデは2024シーズンで悲願の初ドライバーズタイトルを手にしたが、ラリー・ジャパンをエルフィン・エバンスが制した結果、マニュファクチャラーズタイトルはトヨタ・ガズー・レーシングWRTが手にした。4回目の総合2位を手にしたエバンスは、2025シーズンもトヨタから王座を狙う。
また、前述の通りロバンペラが復帰する他、勝田貴元もチームに残留する。さらに、2024シーズンのWRC2チャンピオンとなったサミ・パヤリが4番手としてフル参戦し、セバスチャン・オジェが5番手としてスポット参戦することも明らかになっている。
ヤリ=マティ・ラトバラとカッレ・ロバンペラ© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
05

ユハ・カンクネンの復帰

トヨタの舞台裏では、チームボスのヤリ=マティ・ラトバラが2025年のヨーロッパ・ヒストリック・ラリー・チャンピオンシップに参戦することが決定しているため、WRC総合優勝4回を誇るユハ・カンクネンが彼の代理としてチームの指揮を執る。
カンクネンは現役時代にトヨタで9シーズンを過ごし、1993シーズンにセリカを駆ってキャリア4回目のタイトルを獲得しているため、トヨタとの関係は深い。
ドライバーの心情が理解できるこのフィンランド人レジェンドは、1979シーズンにWRCデビューを飾ったあと、通算23勝・4タイトルを獲得している他、1988年のダカール・ラリーも制しており、豊富な経験をチームに持ち込むことになる。
06

WRCの戦術

ラリーは過酷なモータースポーツだ。ドライバーたちはペースノートに従い、路面の細かい変化に対応しながら、1セッションあたり4ステージを戦い抜く必要がある。また、彼らはタイヤのパンクなどの様々な故障・トラブルを自分たちで修理・解決しなければならず、深刻な故障・トラブルが発生した場合は、サービスパークに戻らなければならない。
そして、WRCは最速が最強になれるとは限らない。なぜなら、1位のドライバーは翌朝の最初のステージを1番手としてスタートしなければならないからだ。
これは “スウィープ” と呼ばれる。夜間に路面が小石などで汚れたり、雨や霜で滑りやすくなったりするため、それらを “掃除” しなければならない最初のドライバーは不利なのだ。
スウィープは2024シーズン王者のヌービルにとって、最も大きな問題のひとつだった。
ラリー・サルディニアを走行するセバスチャン・オジェ© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
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ハイブリッドとWRC

WRCは、ラリーをファンだけではなくマニュファクチャラーにとってもエキサイティングなものにするという課題に直面している。サステナブルな燃料水素などの最先端テクノロジーを併用する燃料効率に優れたラリーカーを開発する必要があるからだ。熟慮の結果、2025シーズンは2022シーズンに導入されたハイコストで複雑なハイブリッドユニットが廃止されることが決定した。
2025シーズン、WRCのラリー1には、各チームが直面しているコスト問題を解消すべく、サステナブルな燃料だけを使用する1.6リッター・ターボエンジンが採用される。
重量87kgのハイブリッドユニットが取り除かれるため、ラリー1は軽量化し、最低重量1,260から1,180kgへ変更される。結果、2025シーズンはより少ない燃料でより大きな加速が得られることになる。
08

WRCの無料視聴方法

WRC全戦のハイライトRed Bull TVで視聴できる。ハイライトは毎週金土日に配信予定。無料で最高のラリーアクションを楽しめる。Red Bull TVまたはアプリをダウンロードして、WRCで検索してみよう。
4大陸で開催されるWRCはグローバルイベントシリーズ
4大陸で開催されるWRCはグローバルイベントシリーズ© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
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WRCラリーとは?

WRCこと世界ラリー選手権は正真正銘のグローバルイベントで、4大陸を移動しながら、ターマックからグラベルダートスノーまでの様々な路面で開催される。また、ドライバーたちは42℃からマイナス30℃までの気温に対応する必要がある。ラリーは基本的に複数日開催で、開催週のスケジュールは以下のブロックに分かれている。
レッキ:通常は2日間行われる。各チームは制限されたスピードでルートを走行し、詳細なペースノートを用意する(レッキは偵察を意味する英語 “Reconnaissance” の略)。サーキットレーシングでは、ドライバーはレースウィークエンド中にトラックを約200周走行するが、ラリーレーシングでは、ドライバーは各ステージを年1回しか走行しない。そのため、レッキはコーナーの入口・出口のスピードの決定や、水たまりや岩、ジャンプなどの注意すべきポイントの確認の大きな助けになる。
WRCのサービスパーク
WRCのサービスパーク© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
シェイクダウン:木曜日午前はフルスピードのテストが行われる。各チームはこのテストで路面に最適なセットアップを用意する。たとえば、激しく上下に揺れるグラベルステージでは太いタイヤ、高い車高、柔らかいサスペンションが用意され、ターマックでは細いタイヤ、低い車高、硬いサスペンションが用意される。
スーパースペシャルステージ:木曜日午後はセレモニアルスタートが行われたあと、観客が大いに楽しめるスーパースペシャルステージ(SSS)が都市部で開催される。SSSのレースフォーマットは様々だが、最もよく知られているのは1on1で、2台がサーキットを周回、あるいは特定の路面やフィーチャーが置かれているコースを走行する。
ラリー・モンテカルロのセレモニアルスタート© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
ラリー:金曜日と土曜日はスペシャルステージ(SS)だけの2日間になり、ラリーカーとチームは限界まで追い込まれる。SSのスタートはリエゾン区間になっており、ゼロカー(F1のセーフティカーのような先導車両)3台が走行して、危険がないかどうかを確認したあと、各チームのラリーカーが3分間隔でスタートする。
パワーステージ:最終日の日曜日は午前にラリーが行われたあと、午後にパワーステージが行われる。すべてを終えたドライバーたちは開催地のサービスパークへ戻り、表彰式に参加する。
サファリ・ラリーのエルフィン・エバンス
サファリ・ラリーのエルフィン・エバンス© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
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48時間ラリーの開催

2025シーズンのラリー・サルディニアでは、48時間にまとめられたスケジュールが試験的に用意される。シェイクダウンが金曜日午前に行われたあと、同日午後に最初の4ステージが開催される。続く土曜日に8ステージが開催されたあと、日曜日午前に最終4ステージが開催される。同日午後にはイベントが終了する。
コース全長は266kmで、通常のラリー(300km超)よりも短いが、そこまで大きな違いにはならない。大きな違いは、短期間なので観客が飽きずに楽しめ、さらにはレースオーガーナイザーたちの労力が減ることだ。このラリーが成功すれば、WRCの新フォーマットとして採用される可能性がある。
タイヤを修理するセバスチャン・オジェ / ヴァンサン・ランデ組© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
11

チャンピオンシップポイント

ドライバーとチームはラウンドごとにポイントを獲得できるが、日曜日のパワーステージのためにタイヤを温存するチームを不利にするためにポイントシステムが変更された。
土曜日のトップ10が18 / 15 / 13 / 10 / 8 / 6 / 4 / 3 / 2 / 1ポイントを獲得する一方、日曜日はトップ7が7 / 6 / 5 / 4 / 3 / 2 / 1ポイントを獲得する。そして日曜日のパワーステージではトップ5が5 / 4 / 3 / 2 / 1ポイントを獲得する。結果、レースウィークエンドで最高30ポイントが獲得できるようになった。
マニュファクチャラーチャンピオンシップに関しては、各ファクトリーはラリーごとに3台投入できるが、ポイント対象になるのは上位2台のみとなる。タイムが競われるため、全ステージでの合計タイムが最も短いマニュファクチャラーが勝者となる。
ラリー・モンテカルロでアタックするティエリー・ヌービル© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
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2025シーズン カレンダー

14戦に増えた2025シーズンは、開幕戦ラリー・モンテカルロやサファリ・ラリー、ラリー・サルディニア、ラリー・フィンランド、アクロポリス・ラリーなどのアイコニックなクラシックラウンドが例年通り含まれるが、クロアチア、ラトビア、ポーランドが外れて、エストニアが復帰する他、スペインパラグアイサウジアラビアが新たに加わる。
スペインは初開催ではないが、開催地がカナリア諸島へ変更され、パラグアイはチリとの連戦になる。サウジアラビア・ジェッダは最終戦をホストする。
ラウンド
タイトル
サービスパーク
路面
日程
開幕戦
ラリー・モンテカルロ
ギャップ, フランス
複数
1月23日〜26日
第2戦
ラリー・スウェーデン
ウーメオー, スウェーデン
スノー
2月13日〜16日
第3戦
サファリ・ラリー・ケニア
ナイロビ, ケニア
グラベル
3月20日〜23日
第4戦
ラリー・イスラス・カナリア
ラスパルマス, スペイン
ターマック
4月24日〜27日
第5戦
ラリー・ポルトガル
マトジニョシュ, ポルトガル
グラベル
5月15日〜18日
第6戦
ラリー・イタリア・サルディニア
オルビア, イタリア
グラベル
6月5日〜8日
第7戦
アクロポリス・ラリー・ギリシャ
ラミア, ギリシャ
グラベル
6月26日〜29日
第8戦
ラリー・エストニア
タルトゥ, エストニア
グラベル
7月17日〜20日
第9戦
ラリー・フィンランド
ユヴァスキュラ, フィンランド
グラベル
7月31日〜8月3日
第10戦
ラリー・パラグアイ
エルカルナシオン, パラグアイ
グラベル
8月28日〜31日
第11戦
ラリー・チリ
コンセプシオン, チリ
グラベル
9月11日〜14日
第12戦
セントラル・ヨーロピアン・ラリー
バード・グリースバッハ, ドイツ
ターマック
10月16日〜19日
第13戦
ラリー・ジャパン
愛知県豊田市, 日本
ターマック
11月6日〜9日
最終戦
ラリー・サウジアラビア
ジェッダ, サウジアラビア
グラベル
11月27日〜30日
13

WRC概史

フランスが誇るアルピーヌが最初のチャンピオンで、彼らの名車A110がスターだった。では、優勝ドライバーは? 実は黎明期はドライバーよりもラリーカーの方が重視されていたのだ。
優勝ドライバーとコ・ドライバーが表彰されるようになったのは1977年からで、1979年ビョルン・ワルデガルドまでドライバーズタイトルも存在しなかった。ABBA (メンバーのひとりはビョルン・ウルヴァース)がヒットチャートを賑わせ、ビョルン・ボルグがテニスで活躍していたこの年は “ビョルン” の当たり年だった。
以降、これまでにドライバーズタイトルは16人のドライバーが獲得してきたが、圧倒的な強さを見せてきたのが2人のフランス人で、セバスチャン・ローブ9回、セバスチャン・オジェは8回獲得している。2023シーズンは史上最年少タイトルホルダーが生まれ、カッレ・ロバンペラが世界から注目されるようになった。
2分Animated history of rallyingDive into the history of the World Rally Championship in this animated guide.
見る
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WRCラリーカーの開発

ラリーが誕生し、マニュファクチャラーが市販車用最新技術のロードテストを続けていく中、ラリーカーは進化を続けていった。
最初の10年はフォード・エスコートRSフィアット131アバルトランチア・ストラトスなどの後輪駆動のラリーカーが活躍した。そして1980年代に入るとグループB規定によってターボが導入され、画期的な4輪駆動のラリーカー、アウディ・クアトロの誕生を促した。
フォルクスワーゲン・ポロRを駆るセバスチャン・オジェ© Kin Marcin/Red Bull Content Pool
グループBの強烈で華麗なラリーカーはWRC黄金期を生み出したが、1986シーズンの2つの深刻なアクシデントによりこの時代は終わりを告げ、グループAが誕生した。この新世代ラリーカーは市販車により近く、生産コストも安かったため、新しいチームとドライバーが登場するようになった。
ランチアデルタ・インテグラーレとともに活躍したあと、1990年代を迎える頃には、スバル・インプレッサ三菱ランサー・エボリューショントヨタ・セリカGT4が活躍するようになった。
ドリームチーム:Toyota Gazoo Racingと勝利を喜ぶ© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
マニュファクチャラーたちが公道走行可能なラリーカーの開発に苦しむ中、WRCは1997年にワールドラリーカーを発表。シトロエンクサラC4DS3で圧倒したあと、フォルクスワーゲンポロR WRCで圧倒する時代が訪れた。その後、2017シーズンから再びルールが改正され、ラリーカーにより大きなパワー空力性能が許されるようになった。
2022シーズンからは低燃費エンジンを100kwのエレクトリックエンジンで補強し、出力を500bhp以上高めたハイブリッドシステムが導入されたが、2025シーズンからはコストを下げつつ、チーム間の差をなくすためによりシンプルで頑強な1.6リッター・ターボエンジンが導入される。
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カッレ・ロバンペラのWRC

ロバンペラは本番の何日も前からメンタルの準備を始めている。その準備はオンボード映像を中心とした過去のラリーの復習から始まるが、新しい開催地の場合は、WRC側から現地のレッキ動画が提供される。
ロバンペラとコ・ドライバーのヨンネ・ハルットゥネンがサービスパークに到着すると、彼らはレッキペースノートの用意、最適なセットアップと戦略を用意するためのチームミーティングなど、大量のスケジュールをこなしていく。
シェイクダウンが終わり、セレモニアルスタートとスーパースペシャルステージを木曜日に終えると、金曜日に最初のスペシャルステージを迎える。ここでチームとドライバーは頭を切り替えて自分たちのパフォーマンスだけに集中する。
シャンパンファイトを楽しむオィット・タナックとカッレ・ロバンペラ© Jaanus Ree/Red Bull Content Pool
ロバンペラは「スタートラインに並んで、ドライビングを始める準備が整ったあとは、ちょっとしたルーティンを行っています。両手を叩いて意識を切り替えるのです。そのあとは20秒ほどかけて雑念を消して、完全に集中していきます」と説明している。
金曜日は長時間のドライビングになり、サービスパークに彼らが戻ってくるのは夜だ。ロバンペラが夕食を食べ、ホテルへ戻るのはそれよりさらに遅い。
「金曜日は忙しいですね。深夜まで色々やることがあります。ラリーを終えたあとは土曜日のステージを動画で確認して準備をする必要があります。終わるのはかなり遅いですよ」
土曜日も長い1日になる。そして日曜日も午後のパワーステージを終えて、ラリーが終了し、表彰台に登る(可能なら)まで息をつく暇はない。
「表彰台はハイライトですね。6日間のハードワークが終わり、良い結果を出せていれば、大きな達成感が得られます。リラックスしてその瞬間を楽しむのは最高ですよ」とロバンペラは説明している。
日曜日夜はチームでの楽しい食事や、スポンサーとのレセプションなどが待っている。そしてそのあとは自宅へ戻り次のラリーに向けて準備を始める。
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WRCのルール

切り立った岩や巨大なジャンプを越えていくラリーカーにはかなりのダメージが入ることになる。そのため、ドライバーとコ・ドライバーには、走行を続けながらタイヤ交換や傷んだシャシーの修理などを行う必要が出てくる。
そのため、ラリーカーには各種工具やダクトテープ、ジャッキなど基本的な修理用具が搭載されている。彼ら以外がラリーカーを修理することは許されていないが、観戦中のファンがラリーカーをコースまで押し戻したり、脱輪を助けたりするのは問題ない。
ドライバーとコ・ドライバーがラリーカーのセットアップを変更するなど、パフォーマンスに何かしら影響を与える行為をした場合は、タイムペナルティを受けることになる。このペナルティは想定されるリスクの中に含まれている。一方、大規模な修理はサービスパークへ戻り、メカニックたちに任せなければならない。
しかし、サービスパークでの作業も厳しく制限されており、午前中15分・昼食時30分・午後45分しかない。ラリーカーは夜から朝まではWRCによって保管されるため、触ることはできない。
ステージ走行中に修理できない場合は、サービスパークに戻って修理することができるが、この場合は10分のペナルティが加算されて翌朝に再スタートすることになる。上位フィニッシュまたはパワーステージからのリスタートになっても、ポイントを獲得することは十分に可能だ。
ラリーカーまたはドライバーかコ・ドライバーがステージ中に修理・回復できない状況に陥った場合は、リタイアとなる。
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サポートシリーズ

メインの世界ラリー選手権の他に、WRCには複数のサポートクラスが存在する。これらは最高峰カテゴリーへの登竜門として機能している。
WRC2:R5から改称したラリー2のラリーカーが使用されているこのカテゴリーでは、フォード・フィエスタ、シュコダ・ファビアR5、シトロエン・C3、トヨタ・GRヤリス、ヒョンデ・i20Nなどが走行している。ドライバーコンビはシーズン最大7戦に参戦し、上位6戦の成績で順位を競い合う。参戦イベント数を減らすことでコストを削減し、ドライバーたちが活躍できるチャンスを増やしている。2024シーズンはドライバーとコ・ドライバー合計50人がWRC2に参戦した。
ジュニアWRC:このカテゴリーはWRCの未来を担うドライバーたちがWRCラリーに参戦して、トップドライバーおよびチームと同じ環境でスキルを学ぶために設立された。このカテゴリーの出身者には、セバスチャン・オジェ、エルフィン・エバンス、ティエリー・ヌービルなどが含まれる。ここで使用されている “ジュニア” は広義で、30歳まで参戦できる。コスト削減のために全員がWRC3のフォード・フィエスタをドライブし、優勝したドライバーとコ・ドライバーはMスポーツが用意するフォード・フィエスタ・ラリー2に乗り込んでWRC2ヨーロッパラウンド4戦に参戦する権利を獲得できる。
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43 Tour Stops

カッレ・ロバンペラ

WRC史上最年少王者に輝いたフィンランドの神童

フィンランドフィンランド

ティエリー・ヌービル

2024シーズンの自身およびベルギー人初のWRCタイトル獲得を成し遂げたラリードライバー

ベルギーベルギー

セバスチャン・オジェ

WRCで6連覇を達成した現代ラリー界の圧倒的王者

フランスフランス
WRC
ラリー