F1 2026シーズンは大規模なレギュレーション変更が行われ、エンジンパワーに重点が置かれることになるが、オラクル・レッドブル・レーシングにとって、特に大きなチャレンジになる。なぜなら、これまで彼らが得意としてきたのは最大限のダウンフォースとグリップが得られる空力性能を備えたシャシーの開発だったからだ。
オラクル・レッドブル・レーシングのF1マシンが誇ってきた高速コーナーリング性能により、マックス・フェルスタッペン、セバスチャン・ベッテル、ダニエル・リカルドは自分たちのマシンよりもエンジンパワーが大きなマシンたちを向こうに回して勝利できていた。
とはいえ、ミルトン・キーンズに拠点を置くこのチームにとって、これまでの道のりは決して楽ではなかった。2014シーズンに採用された新レギュレーションによって圧倒的な強さを誇ってきた彼らの空力性能は無力化された。そしてこの頃の彼らのF1マシンに積まれていたルノー製パワーユニットはパワー不足だった。
この結果、そこから数シーズンに渡り、レッドブル・レーシングは度々勝利を挙げたものの、タイトルに挑むことはできなかった。この流れが変わったのが2021シーズンと2022シーズンで、グラウンドエフェクトの復活によりオラクル・レッドブル・レーシングは記録更新の素晴らしい2シーズンを送ることができた。
オラクル・レッドブル・レーシングが同時期にパワーユニットの内製を決定したのは偶然ではない。上記のような経緯から、チームはサードパーティのエンジンサプライヤーに自分たちの命運を握らせるのはもう勘弁と思っていたのだ。
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パワーユニット内製化の背景
2021年まで、レッドブル・レーシングとファエンツァのシスターチームはフェラーリ、コスワース、ルノー、ホンダが提供するパワーユニットを自分たちのシャシーに載せていた。
しかし、これには問題があった。このようなサードパーティのマニュファクチャラーはライバルチームや自分たちのワークスチームにもパワーユニットを提供できたからだ。一方、エンジンも内製するフルワークスチームなら、自分たちで設計したエンジンをベースにシャシーをデザインできるメリットが得られる。
そこで2022年、レッドブルはレッドブル・パワートレインズを設立した。彼らは10年間に渡りレッドブル・レーシングとレーシング・ブルズにパワーユニットを供給してきたホンダ製のデザインをベースにして独自のパワーユニットのデザインをスタートさせたが、FIAがエンジン開発の凍結を決定したため、より強力なパワーユニットの製造方法を模索する時間が得られなかった。
しかし、2023年、レッドブル・パワートレインズはフォードと新たにパートナーシップ契約を結び、レッドブル・レーシングとレーシング・ブルズを上位へ引き上げる新世代パワーユニットの共同開発に乗り出すことを決定。この結果、2026シーズンにレッドブルはシャシーデザインからパワーユニット開発までも手がけるようになったF1史上初のチームになる。
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フォードとF1の関係
オラクル・レッドブル・レーシングと同じく、フォードもF1で素晴らしい歴史を積み上げてきた。
伝説のオッフェンハウザー・エンジン(オッフィー)と同じく、フォード・コスワース・DFVエンジンはモータースポーツ史に独自の足跡を残しており、1967シーズンから1985シーズンまで名だたるF1ドライバーたちに計155勝をもたらした。パワフルで安定しており、低価格だったDFVエンジンはその導入のしやすさから、世代をまたいでF1チームたちに愛された。
また、フォードは1990年代にF1チームのスチュワート・グランプリも創設している。このチームはジャガー・レーシングの前身であり、つまりは2005シーズンのレッドブル・レーシング誕生の起源とも言える。
このような歴史を持つフォードが2026シーズンからF1に復帰し、よりクリーンで環境に優しいF1マシンにパワーを与える役目を担う。
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新世代パワーユニットの詳細
これまでのパワーユニットと同じように、新型のターボチャージャー搭載ハイブリッドパワーユニットも伝統的な内燃機関とブレーキをはじめとするエネルギー再生システムから出力を得る。しかし、今回はかなり厳しく規定されており、より少ない燃料で1,000馬力以上を出力しなければならず、全出力の50%(この割合は現行の約3倍)が電気モーターで賄われなければならない。
また、100%持続可能な燃料(e-fuel)が採用されるため、化石燃料は一切使用されない。F1はゼロカーボンとなり、燃料使用量も2013シーズンから半減される。さらには耐久性の改善も必要で、各チームはシーズンを通してF1マシン1台あたり3基しか使用できない。規定数を超越した場合はグリッド降格ペナルティを受けてしまう。
このような変更から、各チームにはより経済的で持続可能性も高く、より強力なパワーユニットを開発しなければならないという大きなプレッシャーにさらされている。
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新世代パワーユニットの背景
F1はテクノロジーと二人三脚のスポーツだ。
最新ハイブリッドエンジンの開発は世界中の自動車メーカーの最優先事項であり、F1に持ち込まれるそのようなハイブリッドエンジンから得られる知見が未来の自動車業界に転用される。スポーツとしてのF1の人気拡大やドキュメンタリーシリーズの配信、映画の公開はその開発に必要な資金を増やすための施策だ。
「F1の技術的なレギュレーションを確認した私たちは、自分たちとの共通点が多いことに気付きました。イノベーションと技術移転における貢献と学習のチャンスが得られると思ったのです」と語るのはフォードのモータースポーツ部門責任者マーク・ラッシュブルック氏だ。「また、スポーツとしての健全性や世界的な人気、観客の多様性における貢献と学習のチャンスも得られるとも思いました」
2026シーズンからはフォードだけではなくアウディもメルセデス、フェラーリ、ホンダと並んでパワーユニットを供給する。また、2030シーズンまでにキャデラックも内製パワーユニットの使用を始める予定だ。
しかし、パワーユニット開発は非常に難しく、ルノーはF1からの撤退を決定した。彼らが抱えるアルピーヌは2026シーズンからメルセデス製パワーユニットを採用する。
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レッドブル・パワートレインズとは?
レッドブルはF1チームとして成功を収めてきたが、自社パワーユニットの設計においてはライバルチームのような技術的アドバンテージや知見を備えていなかった。そこで、彼らはベン・ホジキンソンをレッドブル・パワートレインズのテクニカルディレクター(技術責任者)に据えた。
また、スティーブ・ブレウェット(プロダクションディレクター)、オミッド・モスタギーミ(チーフエンジニア / 電子系・エネルギー回生)、ピック・クロード(エネルギー回生メカニカルデザイン責任者)、アントン・マヨ(内燃機関デザイン責任者)、スティーブ・ブロディ(内燃機関オペレーション責任者)の5名も製造ラインに追加している。
レッドブル・パワートレインズの拠点は、レッドブル・レーシング敷地内にある面積465㎡の専用施設だ。レーシング・ブルズは、近隣のビスターの施設が手狭になったことから、ファエンツァのファクトリーと同キャンパス内の施設で業務を進めている。
これらすべての施設にフォードからのエキスパートが加わる予定で、彼らや内燃機関の開発やバッテリー、電気モーターテクノロジー、パワーユニットのコントロールソフトウェアおよび分析などの分野における技術面の知見を提供する。
レッドブルとフォードが組んだ結果、現在、レーシングにおける膨大な知見がバッキンガムシャーの一部に集結しつつあり、レッドブル・レーシングとレーシング・ブルズは2026シーズンの成功に向けて日々努力を重ねている。
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モータースポーツを進化させるパートナーシップ
レッドブルとフォードのパートナーシップはF1 2026シーズンに留まるものではない。
また、レッドブル・フォード・アカデミーも新たに設立された。このアカデミーはF1アカデミーのクロエ・チェンバースをサポートしつつ、彼女にIMSAマスタング・チャレンジでスキルを試すチャンスも提供している。
「フォードは非常にエキサイティングな新章を迎えています」とフォードのジム・ファーリーCEOは語っている。「過去20年に渡り、レッドブルはF1シーンに革新をもたらしてきましたが、その背景には他とは異なるアプローチを取っていくという彼らの強い意志がありました。そしてこの意志はレッドブルとフォードのパートナーシップとレッドブル・フォード・アカデミーにも持ち込まれています」
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