アレクサンダル・ロンチェビッチを指導するHYROXマスターコーチのティアゴ・ロウザン
© Filipa Ribeiro @filiparibeiro.lab

HYROX:プロコーチが教える耐久力の重要性とトレーニング方法

HYROXではスプリットやペース配分、筋持久力などが重要になるが、何よりもフォーカスしたいのが耐久力だ。プロコーチがその意味と鍛え方を教えてくれた。
Written by Ed Cooper
読み終わるまで:11分Published on
HYROXではその世界に簡単に迷い込み、次のレースに向けてトレーニングと努力を重ねていく上で重要なポイントを見落としてしまう。
たとえばそれは、Roxzoneでのトランジションをよりスムーズに行う方法ペースアップと効率的なペース配分のバランスの取り方握力を強化する効率的な方法などだ。
これらが、HYROXのトレーニングを他のスポーツのそれとはまったく異なるものにしている。このスポーツでは自分の時間と努力をどこに注ぐべきかを知っておくことが重要なのだ。そして、そのすべての下支えとなる重要なスキルが耐久力だ。耐久力とは疲労してきたときにも集中を保つ能力で、HYROXの隠れたカギだ。
耐久力が高ければ、スレッドが2倍の重さに感じてきてもフォームを維持したり、両脚が悲鳴を上げているときもペースを維持したりできるようになる。耐久力とは “タフネス” と別物で、レジリエンス・効率・賢いリカバリーのブレンドであり、アスリートたちが最後のウォールボールでもスタート直後と同じパフォーマンスを発揮する助けになる。
このことを理解している数少ないひとりが、HYROXマスターコーチティアゴ・ロウザだ。今回は、彼に耐久力がHYROXにおける最重要(そして最も見過ごされている)能力と言える理由を解説してもらった。

コーチ紹介

01

耐久力とは?

「耐久力は様々な状況で様々な人たちが使用する言葉ですが、HYROXでは特定の意味を持ちます」と語るロウザは、耐久力をHYROXのトレーニングとトレーニング外に分けて使用している。
後者における耐久力について、ロウザは「ストレスを管理し、長時間の仕事や寝不足、多忙な生活のようなチャレンジの中でも身体機能性を維持する能力」と説明する。「現実世界では、理想的な環境でなくても一貫性を維持できる能力となりますね」
HYROXマスターコーチのティアゴ・ロウザ

HYROXマスターコーチのティアゴ・ロウザ

© Filipa Ribeiro @filiparibeiro.lab

一方、HYROXトレーニングにおける耐久性については、「耐久性とは疲労していてもパフォーマンスを発揮できる能力を意味します。フレッシュな状態ではなく疲労が蓄積している状況でのスピードですね」とロウザは説明する。では、VO2Maxや閾値のような他の数値とはどう異なるのだろうか?
「多くのアスリートはVO2Maxや閾値ペース、またはベンチマークテストの数値を見ています。これらも有用ですが、どれも “理想的な環境での上限値” を示しているに過ぎません。一方で、HYROXは理想的な環境ではありません。直前のランやワークアウトステーションでの疲れを持ち越し続けます
例を挙げよう。「フレッシュな状態でバーピー100回を4分で完了できるとしましょう。しかし、比較的高強度のワークアウトを30〜40分終えたあとでバーピー100回に挑めば、5〜6分かかるはずです。この差から見えてくるのが、実際のパフォーマンスのキャパシティです」とロウザが説明する。その差が彼の定義する “耐久力” だ。
耐久力はフィジカルとメンタルの両方に関係する

耐久力はフィジカルとメンタルの両方に関係する

© Leo Francis/Red Bull Content Pool

02

耐久力が重要な理由

高難度で多様なワークアウトが特徴的なHYROXにおいて耐久力が問われる部分は、強烈なワークアウトが切り替わりながら連続するところだ。ロウザは、「つまり、HYROXはエフォートを一貫させるのではなく、すでに蓄積されている疲労の上に新しい負荷が継続的に積み重なっていくスポーツなのです」と説明している。
重いスレッドプッシュの強烈な衝撃から、バーピーブロードジャンプの筋肉への高負荷まで、このスポーツでは常に身体が異なる筋肉とエネルギーシステムを使用することを強要される。主観的運動強度と疲労がワークアウトステーションごとに大きく変わっていくのだ。
このユニークなフォーマットが、アスリートのフォーム・ペース・テクニックの維持能力を継続的に試し、身体に悲鳴を上げさせる。HYROXでの勝利は、フレッシュな状態でスピードが高いアスリートではなく、パフォーマンスと集中力を高負荷のワークアウトでも維持できる最も耐久力の高いアスリートにもたらされるのだ。
ロウザは次のように語る。「HYROXは多様なワークアウトが存在するため、耐久力がより明白かつ決定的なスキルとして扱われるところが他とは違います。このスポーツでは、蓄積された疲労下でパフォーマンスを発揮する能力が定期的に試されます。だからこそ、耐久力が非常に重要になるのです」
03

サインを理解する

耐久力を別の言葉で説明すると、“身体が疲れていて、メンタルも使い切っている状況でフォーム・ペース・テクニック・判断力を維持できる能力” となる。「私たちが鍛えているのはこの能力です」とロウザ は説明し、「ただ速くなるのではなく、追い込まれた状況でも速さを維持できるようになることが重要なのです」と続ける。では、実際にどのように鍛えればよいのだろうか?
HYROXレースに置き換えて話すと、ランの前半4回と後半4回を比較してみればよい。ロウザが説明する。「1kmあたり10秒以上タイムが落ちているなら、それは耐久力が低いことを意味します。高強度のワークアウトを継続できる身体が用意できていないのです。また、ストライドが短くなる肩が上がる呼吸がコントロールできなくなるも耐久力の低さを示すサインです」
レース終盤にそのような状態になっているアスリートを何人も見てきたロウザは、「一方で、耐久力の高いアスリートたちはランナーのように走り続けることができています」と続けている。
Red Bull HYROX Coaches Camp Silverstone 2025に参加したアスリート

Red Bull HYROX Coaches Camp Silverstone 2025に参加したアスリート

© Leo Francis/Red Bull Content Pool

04

耐久力のトレーニング方法

肺が悲鳴を上げ、脚が鉛のように重くなってきる中で、スプリットを維持しながら冷静に周囲で起きていることを理解できるかどうかが、HYROXレースの勝敗を分ける。ロウザが説明する。
「ストレングス、キャパシティ、閾値を強化すると、耐久力も高まったように感じます。なぜなら、疲労を感じるタイミングが遅れていくからです。筋力と可動性、閾値が優れているほど、パフォーマンスクオリティをより長く維持できるのです。しかし、これらは耐久力とは呼びません。これらはあくまで準備です」
ここに耐久力の秘密が隠されている。ロウザが続ける。
耐久力は疲労状態で鍛えるのです。限界以下または閾値でワークアウトをしたあと、比較的強いエフォートのワークアウトをすることで耐久力を鍛えることができます」
「耐久力を鍛えられるのは脚が疲れていて、呼吸数も増えているときです。すでに身体に負荷がかかっている状態で、クオリティの高いレップを繰り返し、高いペースを維持できる能力、これが耐久力です」
ロウザは、HYROXを代表するワークアウトとして知られるウォールボールスレッドプッシュ耐久力の確認用ベンチマークとして扱っている。
「正確なウォールボールや安定したスレッドプルのスタンス、または効果的なランニングフォームを何回も繰り返せば、疲労時でもそれらを再現できるようになります。これが耐久力を高める秘訣です。身体の容量を高めるだけではなく、ストレス下でも続けられる動きも身に付けるのです」
05

トップアスリートの耐久力

スキーエルゴに取り組むルーシー・プロクター

スキーエルゴに取り組むルーシー・プロクター

© HYROX/Red Bull Content Pool

疲労が蓄積したあと中団でレースを終えるか、上位でレースを終えるかの違いは “自制” にかかってくる。HYROXワールドチャンピオンのアレクサンダー・ロンチェヴィッチを指導しているロウザは、耐久力はフィジカルと同じくらいマインドセットと感情のコントロールの能力でもあると指摘する。
耐久力が低いアスリートはためらうことで疲労を露呈させてしまう。彼らは周囲を気にしてペースを振り回されたり、動きを止めたり、ワークアウトステーション前に躊躇したりしてしまうのだ。一方、ロウザが指導しているトップアスリートを含む耐久力が高いアスリートたちは「自分でリズムを刻み、集中を維持し、呼吸をコントロールして、自分で選択しています」(ロウザ)。
Quotation
経験を積んでペースをより深く理解したり、エフォート差を感じ取ったり、辛いときに感情をコントロールしたりできるようになることが重要
ティアゴ・ロウザ
この集中力はトレーニング歴に比例するときが少なくない。基本的に経験が多いアスリートは耐久力に優れている。しかしロウザは、トレーニング歴はただの時間の長さではないとし、「経験を積んでペースをより深く理解したり、エフォート差を感じ取ったり、辛いときに感情をコントロールしたりできるようになることが重要です」と続ける。つまり、持続可能なペースを熟知することが集中に役立つのだ。
一方で、若いアスリートや経験不足のアスリートたちは天性のスピードとパワーが備わっており、競争意識も高い。しかし、それゆえにスタートで焦りすぎて、前半からプッシュしすぎたり、疲労のサインを見逃したりして、レース後半に大きく遅れてしまう。
彼らの身体能力は高いが、HYROXの勝利の女神は、ストレスがかかる状況で自分をコントロールしてリズムを維持できるアスリートに微笑むのだ。
06

リカバリーと耐久力

HYROXでは耐久力も鍛えたい

HYROXでは耐久力も鍛えたい

© Tyrone Bradley/Red Bull Content Pool

HYROXトレーニングのすべてのレップに共通して言えるのは、ハードに鍛えるなら、ハードにリカバリーをする必要があるということだ。耐久力にも同じことが言える。ロウザは「HYROXに向けてエンジンの容量と出力を高めたいなら、リカバリーが不可欠です。成長には質の高いセッション、正しい休息と適応時間が必要になります」と説明している。
しかし、十分なリカバリーを推奨するトレーニングメソッドと耐久力向上を狙うトレーニングメソッドには明確な違いがある。ロウザは次のように説明している。
「耐久力を高めるためには、意図的にリカバリーを排除する必要があります。あえて疲労している状態で質の高いワークアウトを重ねるのです。フレッシュな状態ではなくても機能させる方法を身体に教え込むことが耐久力トレーニングの目的です」
耐久力トレーニングでは、年間を通じてではなく特定の期間とサイクルで行う必要があるとロウザは続けており、一緒に仕事をしているアスリートを例に挙げる。ロウザは、オフシーズンのアスリートが疲労下でどこまで機能性を保てているかをテストする方法を用意している。
「まず、マラソンなどの公道レースで10kmを全力で走らせます。それから30〜40分経ったあと、今度はジムに連れて行ってスレッドやスキーエルゴをやらせます」とロウザは説明し、これが耐久力を鍛える方法としている。10kmランで疲れていても、身体を無理矢理動かすのだ。
「リカバリーは成長に不可欠ですが、意識的にリカバリーを無くすことが耐久力向上には不可欠です。HYROXのコーチングの極意は、この両方を使い分けるタイミングを見極めるところにあります」
07

耐久力トレーニングで避けるべきこと

アレクサンダー・ロンチェヴィッチ

アレクサンダー・ロンチェヴィッチ

© Red Bull Content Pool

耐久力トレーニングで起きるミスの代表格は「トレーニングとリカバリーのバランスを見極めない」だ。ペース配分を失敗すれば、すぐに大きな痛手を受けることなる。
またロウザは、もうひとつのよく見られるミスとして「1年を通じて耐久力を鍛えようとする」を挙げ、先にスピード、ストレングス、テクニックを必要レベルに高めてから、耐久力を鍛えるべきと続ける。なぜなら、疲労状態でのトレーニングを長期間継続すれば、遅いペースと間違ったテクニックが身についてしまうからだ。
一方で、その真逆に位置する、休息と回復を十分に確保した理想的な環境限定でのトレーニングもNGだ。なぜなら、能力や数値は伸びるかもしれないが、レースの現実に対応できなくなるからだ。
「HYROXは疲労している状態がレースの重要局面になります。フレッシュな状態ではないのです」と説明するロウザは、耐久力は正しいタイミングで負荷を追加しながら、戦略的に向上させていく必要があると強調する。HYROXで最も避けたいミスはペース配分だ。「序盤に気合いを入れすぎて飛ばしてしまい、耐久力を早くに失ってしまうアスリートが多い」とロウザは続ける。このようなアスリートのフィットネスレベルは低くないが、序盤で枯渇してしまうのだ。
このようなトレーニングとペース配分のミスはレース当日のパフォーマンスに大きな影響を及ぼす。ロウザはリズムが崩れてスプリットがばらけるフォームとテクニックが早めに崩れるなどをミスのサインに挙げている。また、ロウザは呼吸が荒く乱れたり休息中に集中が切れたりすることを、フィジカル以外の疲労のサインとして挙げている。
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