イダ・マチルデ・スティーンガードはHYROXイベントにおけるランニングフィットネスの重要性を熟知している
© Christian Pondella/Red Bull Content Pool

HYROX:シングルスとダブルスを徹底比較!

HYROXのシングルスとダブルスはどこが異なり、どちらが難しいのだろうか? 両カテゴリーの相違点をトップアスリートたちが解説した。
Written by Ed Cooper
読み終わるまで:11分Published on
2026年現在、世界各地で開催されているHYROXレースの全参加者の半数以上がダブルスにエントリーしているが、このトレンドに合わせてひとつの根本的な疑問が浮上している:HYROXレースはシングルスとダブルスのどちらが高難度なのだろうか?
一見したところ、この2つのカテゴリーの違いは明確だ。シングルスではひとりの参加者がすべてのワークアウトステーションと合計8kmのランニングを負担する。一方、ダブルスは合計8kmのランニングはひとりずつ負担するが、ワークステーションは分割して負担できる。つまり、各ワークステーションでの労力が半分になるのだ。
しかし、どちらのカテゴリーにも挑戦した経験があるエリートアスリートたちは、現実はそんなに簡単ではないと語る。どちらのカテゴリーも1kmラン合計8本と8種類のワークアウトステーションという総量は変わらないが、2人で挑むダブルスはシングルスの “ショートカット” や “イージーモード” ではない。むしろ、シングルスとは完全に異なるパワーと戦略が求められる。
そこで今回は、HYROXレースのシングルスとダブルスの違いを解説する。どちらが自分に最適なのかを判断するのに役立ててもらえれば幸いだ。
01

HYROXダブルスとは?

HYROXダブルスはシングルスと同じ構成で、8種類のワークアウトステーションと8本の1kmランで構成されている。シングルスとの大きな違いはパートナー(同性または混合)と一緒に進めていくところで、各ステーションでは参加者の好みやレース戦略に合わせて労力を振り分けることができる。
しかし、実はこのシングルスよりも自由に進められそうに思えるところが重要なポイントだ。簡単そうだが、実際は違う。トップレベルで活躍するダブルスペアはそれぞれの得意分野を活かせるように担当を振り分けている。
アレクサンダー・ロンチェヴィッチとファビアン・アイゼンラウアー

アレクサンダー・ロンチェヴィッチとファビアン・アイゼンラウアー

© Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

たとえば、スキーエルゴが得意な参加者がそのすべてを担う間、もうひとりの参加者が完全に休息して次のワークステーションで交代したり、あるいはすべてのステーションを2人で均等に負担したりしている。つまり、自分が担うときはとにかく “全力” を出しているのだ。
要するに、ダブルスでは「スレッドプッシュを70%のパワーで取り組む」など、アスリートたちがペースを配分することがない。一方で、ランニングはワークアウトステーションとは異なり、2人で分担できない。どちらのアスリートも合計8km走る。この特徴が、レース全体のペース配分各ワークステーションでのエフォートレベルの管理の難度を高めている。
02

ダブルスのランニング

フェアなレースを実現するために、HYROXダブルスは男子ダブルス / 女子ダブルス / 混合ダブルスに分かれている。いずれも合計8kmのランニングはシングルスと同じだが、ランニングのルールは完全に異なるものが用意されている。
ダブルスのランにおける最も特徴的なルールは「ペアで分担できず、ペアでペースを揃えて走らなければならない」だ。2人の距離が離れてすぎてしまうとペナルティを受けたり、失格扱いになったりする可能性がある。結果、各ペアのランニングのペースは、遅い方のアスリートに合わせることになる。
Quotation
ダブルスでは孤独を感じるときがありません
ランを終えたあとは2人揃ってワークアウトステーションに入る。2人がステーションに入らなければ、ワークアウトに取り組むことはできない。そしてすべてのレップ / 距離を消化したら、また揃ってワークステーションから出る。「2人揃っていない」というペナルティを3回以上受ければ、その時点で失格になる。
ワークアウトステーションは、ランとは異なり自分たちの好きなように労力を分担できる。半分ずつ分け合っても、特定のワークアウトステーションを特定のアスリートだけが取り組んでも、どちらかの疲労に合わせて切り替えるのも自由だ。ひとりが取り組んでいる間はもうひとりが当該マシン / 器具から完全に離れていなければならないというのが唯一のルールだ。
イーボ・ニスカネンとヨンネ・コスキ

イーボ・ニスカネンとヨンネ・コスキ

© Lauri Vuorinen / Red Bull Content Pool

また、年齢別ダブルスは、ペアの平均年齢によって振り分けられる。たとえば、パートナーAが28歳でパートナーBが36歳の場合、このペアの平均年齢は32歳となり、年齢別グループは30歳〜39歳に振り分けられる。
ちなみに、ダブルスはオープンシングルスよりも約22%早いタイムでレースをフィニッシュしている。
03

ダブルスの人気の理由

ダブルスは、HYROXの中で最も敷居の低いカテゴリーのひとつへと急成長を遂げている。この人気の高まりは「自分ですべてをやらなくてもよい」という心理的負担の軽さに起因する。パートナーとペアを組んで参加するだけでメンタルに余裕が生まれるのだ。
プレッシャーを分け合い、厳しい時間帯をカバーし合い、励まし合って自分の限界を越えられるダブルスでは、レースのダイナミクスを完全に変えることができる。「2人で頑張ろう」という気持ちになれば、ウォールボール100回とランジ100mが簡単に感じられるようになるのだ。
同様に、コース上により多くのアスリートが存在するダブルスでは、アスリートたちは他のチームの頑張る様子に刺激を受けやすい。経験を共有する方が楽しめるのだ。
04

オープンとプロの違い

ダブルスの男子オープン / プロ、女子オープン / プロではウエイトとウォールボールの規定数が異なる。以下の表にその違いをまとめてみた:

女子オープンダブルス

女子プロダブルス

男子 / 混合ダブルス

男子プロダブルス

スキーエルゴ

1000m

1000m

1000m

1000m

スレッドプッシュ

102kg

152kg

152kg

202kg

スレッドプル

78kg

103kg

103kg

153kg

バーピーブロードジャンプ

80m

80m

80m

80m

ローイング

1000m

1000m

1000m

1000m

ファーマーズキャリー

2x16kg

2x24kg

2x24kg

2x32kg

ランジ

10kg

20kg

20kg

30kg

ウォールボール

4kg / ターゲット高さ:9フィート(2.743m)

6kg / ターゲット高さ:9フィート(2.743m)

6kg / 男子 10フィート(3.048m)、女子 9フィート(2.743m)

9kg / ターゲット高さ:10フィート(3.048m)

05

HYROX世界選手権エリートダブルス

2026年、HYROXの最高峰イベントに大きな変更が加えられた。HYROX世界選手権プロダブルスエリート15が設定されたのだ。エリート15にこのカテゴリーが加わったことは、世界最強のダブルスアスリートたちが世界一を目指すレースが展開されて、HYROXコミュニティのより多くの人たちにこのカテゴリーの魅力が広まることを意味する。
そしてこれは、アレクサンダー・ロンチェヴィッチ / ティム・ヴェニッシュ組やジョアンナ・ヴィトリック / ジェス・ペトロウ組など、エリート15のシングルスで活躍しているトップアスリートたちのダブルス進出も意味している。
06

プロが語るシングルスとダブルスの違い

HYROXは標準化されたフォーマットを採用しているため、世界のどこででも、そして初心者でもベテランでも、トップレベルのアスリートたちと同じレースを楽しめる。ダブルスでもこれは変わらない。
世界トップレベルのアスリートのひとりが、デンマーク出身のイダ・マチルデ・スティーンガードだ。HYROXシングルスに取り組んできた彼女は、近年はダブルスにも取り組んでいるため、パートナーと一緒に出場することがもたらす微妙な違いを理解している。
「シングルスでは長時間ひとりで苦しむことになります。最後までひとりというのは非常に苦しいものです。とはいえ、ワークステーションではダブルスの方がキツいですね」
アレクサンダー・ロンチェヴィッチとジェイク・ディアデン

アレクサンダー・ロンチェヴィッチとジェイク・ディアデン

© Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

スティーンガードは、ダブルスのワークアウトステーションでは片方のアスリートが休める一方、ワークアウトに取り組む方のアスリートに求められる強度がさらに高まるとし、次のように説明している。「ダブルスでは、超ハイペースでワークアウトを進めることになるので、強度が高まります。全力を出すので非常に辛いですが、これはシングルスとは異なる辛さですね」
ダブルスでのムーブメントは「継続」ではなく「ストップ&ゴー」になるため、アスリートはシングルスよりも早いタイミングで力尽きた感覚を得ることになると、スティーンガードは続ける。また、彼女と同じくエリート15で活躍するジェイク・ディアデンも次のように説明している。「ダブルスに向けた準備はシングルスに向けた準備とは少し異なります。ダブルスはどちらかというと無酸素運動の連続で、 “限界まで頑張ったあとリカバリー” の繰り返しです」
スティーンガードは「一方で、ダブルスでは孤独を感じることがありません」と続け、さらに付け加える。「シングルスではひとりで多くを負担して集団のどこかでレースを終えることになりますが、ダブルスでは常に誰かが側にいます。参加アスリートが多いためコースが混み合っており、アスリート同士の距離感が近いです」
スティーンガードが指摘するもうひとつの大きな違いは、レースの進み方だ。「シングルスでは一部のアスリートがスタートから飛び出して、そのままリードを保つレースが見られますが、ダブルスはかなり異なります。後方からスタートして徐々に差を詰めてくるアスリートたちが見られます」
ダブルスではレースを通じて常に順位が入れ替わり、コースが混雑するときも少なくない。ワークアウトステーションとランに独特のダイナミズムが生まれるのだ。
Quotation
ダブルスではレース中に対応して戦略を変更できるチームが活躍します
「完全なカオス状態ですが、面白いですよ」とスティーンガードは笑って説明する。「ダブルスの方が観戦していて楽しいですね。なぜなら、順位が常に変わりますし、接戦が続きます。レースを通じて激しい順位争いが展開されるのです」
このより高い戦略性はディアデンも認めている。「ダブルスではレース前に最高の戦略を用意できたチームだけが活躍するわけではありません。レース中に対応して戦略をリアルタイムで変更できるチームも活躍します」
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初心者へのアドバイス

HYROX超初心者に向けて、スティーンガードは次のようにアドバイスを送っている。「ダブルスから始めるべきですね。まず、シングルスよりも楽しいです。パートナーとワークアウトステーションを分担できますし、ランも並んで走れます。より楽しい経験になりますよ」
「身体がフィットしていて、チャレンジに挑みたいならシングルスでも問題ありませんが、かなり高いレベルのアスリートでない限り、プロではなくオープンにエントリーしましょう」
2025年のHYROX世界選手権に出場したイダ・マチルデ・スティーンガード

2025年のHYROX世界選手権に出場したイダ・マチルデ・スティーンガード

© Christian Pondella/Red Bull Content Pool

Quotation
フィジカルとメンタルの両方において、シングルスの方が難しいです
スティーンガードはHYROXダブルスに向けたトレーニングについて、レースの勝敗はランで決まるが、各ワークアウトステーションで高強度のストップ&ゴーが繰り返される点を考慮してトレーニングを進めていく必要があると語っている。
また、彼女はジムでトレーニングを積むだけでは不十分と加え、次のように続けている。「ダブルスは基本的に下半身の筋持久力が問われます。脚を酷使することになるので、脚力を十分に鍛えておく必要がありますね」
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まとめ

では、結局のところ、シングルスとダブルスはどちらが難しいのだろうか? 「フィジカルとメンタルの両方において、シングルスの方が難しいです」とスティーンガードは回答する。「シングルスの方が間違いなく難しいですね。身体をパーフェクトに仕上げ、レース中はオーバーペースまたはアンダーペースにならないように注意する必要があります」
しかしながら、ダブルスを軽視するのもNGだ。男女でペアを組む混合ダブルスは特に注意が必要になる。「これまでで一番難しかったレースのひとつが、混合ダブルスでした。他とは完全に異なる難しさがあります」
スティーンガードは、混合ダブルスではそれぞれの得手不得手に合わせてワークアウトステーションを振り分け、お互いに無理をしないことが重要になるとアドバイスを送っている。
また、シングルスとダブルスの比較については次のようにまとめている。「私の場合、ダブルスはレースを終えても特に問題ないですが、シングルスでは完全に疲弊した状態でレースを終えています」
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