スーパーフォーミュラは、F1世界選手権シリーズを除いたモータースポーツシーンとWRCチャンピオンに2回輝いているカッレ・ロバンペラにとって “F1に最も近い場所” 、つまり、モータースポーツ最高峰でレースするための最短ルートだ。
スーパーフォーミュラ(略称:SF)とは、全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権とスーパーGTの上位に位置する日本最高峰シングルシーターレースカテゴリーで、そのマシンの性能はF2よりもF1に近い。
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スーパーフォーミュラとは?
スーパーフォーミュラは日本の最高峰モータースポーツで、ほぼ性能に差がない22台のマシンで競われるオープンホイールレーシングシリーズだ。非常に大きなダウンフォースを発生する専用マシンは強烈なスピードを誇ることから、SFは世界で最も競争が厳しく、世界で最もスピードの高いレーシングシリーズのひとつとして認識されている。
まっさらな状態からまた高みを目指していくのが楽しみです
そして、2026シーズンのスーパーフォーミュラには、WRC(世界ラリー選手権)のチャンピオンに2回輝いているカッレ・ロバンペラが参戦する。2022シーズンと2023シーズンのWRCを制しているロバンペラは、サーキットレーシング進出への足掛かりとして選択したスーパーフォーミュラで3回目のワールドタイトルを狙う。
野心溢れる若きこのフィンランド人ドライバーは、F1という大きな夢の実現に向けて、WRCからシングルシーターへの転向という大きな決断を下した。
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スーパーフォーミュラの背景
日本最高峰・最速のフォーミュラカーレーシングシリーズのスーパーフォーミュラは、日本のモータースポーツシーンの粋と世界最高レベルのドライビングスキルのショーケースだが、日本が世界に誇る自動車メーカー、トヨタとホンダの戦いの場でもあり、シーズン全12戦中10戦が両社の所有するサーキットで開催されている。
そのライバル関係は熾烈を極めており、どちらも数多くのドライバーを育成しており、国内オープンホイールレーシングシリーズ、スーパーGT、全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権などのステップを踏ませながらSF、そしてF1へと送り込んでいる。
また、スーパーフォーミュラの開催サーキットの大半は、新開発マシンの走行テスト用として建造されたという出自を持つため、全戦でグリップ、コーナーリング、全開走行能力の限界が試されることになる。
スーパーフォーミュラ用マシンは、F1マシンの約半分となる550hpを出力するパワーユニットを積んでいるが、最大限ダウンフォースを発生できる空力性能と巨大なグリップを発生できる横浜ゴム供給のタイヤも備えているため、レースでは高いスピードと短いラップタイムが実現されている。
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スーパーフォーミュラの歴史
スーパーフォーミュラは1973年に創設された全日本F2000選手権が源流で、そこから全日本フォーミュラ2、フォーミュラ3000、フォーミュラ・ニッポンへの移行を経て2013年にスタートした。全日本F2000選手権時代から、このシリーズは国内ドライバーとチームが目指す頂点であることを目指してきた。
マシン、タイヤ、パワーユニットの性能差がないため、ドライバースキルとチーム戦略によってレース結果が決まる。
スーパーフォーミュラにトップドライバーが参戦していることには理由があります。選手権のレベルが非常に高く、マシンはヨーロッパのF1以外のカテゴリーよりも断然速いので、F1への橋渡しになるからです
スーパーフォーミュラは競争が厳しいカテゴリーで、日本人初のF1フル参戦ドライバーとなった中嶋悟やF1ワールドチャンピオンに7回輝いたミハエル・シューマッハを含む数多くのワールドクラスドライバーがここでそのスキルを証明してF1へと進んでいる。彼らの他には、鈴木亜久里、佐藤琢磨、ピエール・ガスリー、リアム・ローソン、ストフェル・バンドーンといったレジェンドたちが参戦経験を持つ。
また、フェリックス・ローゼンクヴィスト、アレックス・パロウ、パトリシオ・オワードは、スーパーフォーミュラからインディカーへステップアップした。
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F1 / インディカーとの違い
F1マシンはスーパーフォーミュラSF23を最高速度、加速能力、制動力のすべてで上回るが、その分だけ細部まで作り込まれており、製造コストも高い。しかし、F1は堅牢・経済的・パワフルなハイブリッドエンジンの開発と、レースでのオーバーテイクや接戦の機会の増加を推進しているため、レギュレーションによって空力性能が制限されている。
一方、SF23のパワーユニットは550hpしか発生できないが、ダウンフォースが大きく、マシンも軽量のため、加速とコーナーリングスピードはF1に近い。
F1とスーパーフォーミュラが共通で使用しているサーキットが鈴鹿だ。このサーキットのコースレコードは、F1 2025シーズンの日本GP予選でマックス・フェルスタッペンが記録した1分26秒983で、最速ラップタイムは同GPでキミ・アントネッリが記録した1分30秒965となっている。
一方、スーパーフォーミュラにおける最速ラップタイムは2020シーズンにニック・キャシディが記録した1分34秒442で、F1より約3.5秒遅れとなる。
F1 2026シーズンの最高速度・出力は本記事執筆時点では未知数だが、現行ハイブリッドエンジンの出力の半分は、新開発システムMGU-Kから発生される。
インディカーはF1よりも比較しにくいが、スーパーフォーミュラとインディカーのシャシーはともにダラーラ社製で、マシンの均一化に貢献している。オーバルコースでのレースに耐えられるように設計されているインディカーは重量がはるかに重く、加速性能がやや劣るが、オーバルコースでの速さは、スーパーフォーミュラはもちろん、F1さえも凌ぐ。
シリーズ
F1(2025シーズンまで)
F1(2026シーズンから)
スーパーフォーミュラ
インディカー
パワーユニット
1.6リッター V6ターボ ハイブリッド
1.6リッター V6ターボ ハイブリッド
2.0リッター L4ターボ
2.2リッター V6ツインターボ
出力
1,000hp超
約1,000hp
550hp
750hp
ハイブリッドシステム
フルハイブリッド
内燃50%・電気モーター50%
なし
ERS
最高速度
350km/h
355km/h
320km/h
370km/h(オーバル)/ 300km/h(ロード)
重量
798kg
768kg
677kg
767kg(オーバル)/ 771kg(ロード)
全長
5.6m
5.4m
5.2m
5.2m
全幅
2m
1.9m
1.9m
1.9m
全高
0.95m
0.95m
0.96m
1.2m
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スーパーフォーミュラのレースフォーマット
スーパーフォーミュラには5サーキット(鈴鹿・富士スピードウェイ・モビリティリゾートもてぎ・オートポリス・スポーツランドSUGO)で7回のレースウィークエンドが設定されており、そのうち5回がダブルヘッダー(2戦)とプラクティス・予選で構成されている(シーズン全12戦)。
レース距離は150km〜180km程度で、ピットストップ最低1回が義務づけられている。また、タイヤはドライ1種類・ウェット1種類のみとなっている。
スーパーフォーミュラでは予選と決勝の両方でポイントが与えられる。予選では1位から3位までの3名に上から3ポイント、2ポイント、1ポイントが与えられ、決勝では優勝20ポイント、2位15ポイント、3位11ポイント、4位〜10位までに8・6・5・4・3・2・1ポイントが与えられる。
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2026シーズン レースカレンダー
スーパーフォーミュラ 2026シーズンは全12戦が予定されている。ダブルヘッダーが5回(計10戦)で、オートポリスとスポーツランドSUGOのみがシングルレースとなる。
サーキット
日程
モビリティリゾートもてぎ
4月3日〜5日
オートポリス
4月24日〜26日
鈴鹿サーキット
5月22日〜24日
富士スピードウェイ
7月17日〜19日
スポーツランドSUGO
8月7日〜9日
富士スピードウェイ
10月9日〜11日
鈴鹿サーキット
11月20日〜22日
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スーパーフォーミュラのサーキット
鈴鹿サーキット
F1ファンには伝説のサーキットとして扱われている。アイルトン・セナ、ミハエル・シューマッハ、セバスチャン・ベッテル、マックス・フェルスタッペンのようなトップドライバーたちがここで栄光を掴み、歴史を生み出してきた。スーパーフォーミュラでは、1シーズンでレースウィークエンド2回(4戦)がここで戦われており、多くのシーズンのタイトルがここで決まっている。
ジョン・フーゲンホルツが設計したこの全長5.8kmの8の字型サーキットは、現代を基準にすると幅が狭く、オーバーテイクが難しい。世界的に有名な130Rを含む高速コーナーやヘアピンを組み合わせて構成されており、ドライバーの実力のすべてが試される。
富士スピードウェイ
F1ファンにはジェームズ・ハントがドライバーズタイトルを獲得した日本GPの開催地として広く知られている富士スピードウェイは、ヘルマン・ティルケの設計当初から大きく改修されており、近年はスーパーフォーミュラの他に、世界耐久選手権の富士6時間レースとドリフトのD1グランプリなどが開催されている。
全長4.5kmのこのサーキットには長いメインストレートや300Rのような高速コーナー、テクニカルな登坂セクションなどが用意されており、鈴鹿同様ドライバーたちのスキルが問われる。
モビリティリゾートもてぎ
かつて “ツインリンクもてぎ” と呼ばれていたこのサーキットはMotoGP日本GPの開催地として有名で、マルク・マルケスは2014シーズン、2016シーズン、2018シーズンにこの地で勝利してタイトルを確定させている。また、モビリティリゾートもてぎのオーバルコースはインディカー日本初開催地として有名だ。
スーパーフォーミュラでは、ホンダのテストコースとして設計された全長4.7kmのロードコースが使用されており、長いバックストレート直前のT11ヘアピンが重要なオーバーテイクセクションになる。
オートポリス
カワサキが抱えるオートポリスは大分県日田市に位置しているため、スーパーフォーミュラの他のサーキットからは少し離れている。標高800mに位置しているのも大きな特徴だ。全長4.6km・標高差52mのコースには複合コーナー、ヘアピン、高速セクターが含まれており、テクニカルなレイアウトになっている。
スポーツランドSUGO
宮城県に位置するスポーツランドSUGOはヤマハがテストコースとして建造した。全長3.7kmだが、高低差は70mもある。前半は中速コーナーを擁するテクニカルな下り主体だが、後半はより高速で、バンクがつけられた最終コーナー(110R)を経てメインストレートへと戻っていく。また、ランオフエリアが限られているため、ミスをできる余地が少ない。
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カッレ・ロバンペラの課題
カッレ・ロバンペラのスーパーフォーミュラ転向は極めて異例だ。F1には、ワールドチャンピオンのキミ・ライコネン、GP優勝経験を持つロバート・クビサ、ヘイキ・コバライネンなどラリー経験を持つドライバーが数人存在し、WRCにもタイトル9回を誇るセバスチャン・ローブとセバスチャン・オジェがF1をテストドライブした経験を持つ。
しかし、WRCからF1へ完全転向したドライバーはひとりもいない(セバスチャン・ローブは世界ツーリングカー選手権とル・マン24時間レースでサーキットレーシング参戦経験があるが本格的な転向ではない)。
ロバンペラはこの新たな挑戦に興奮を覚えているが、浮かれてはいない。本人は次のようにコメントしている。
「スーパーフォーミュラ挑戦が楽しみです。もちろん、本格的なサーキットレーシングですし、この先2年は人生最大のチャレンジになると思います。本気でハードワークをする必要があります。マシンに乗っている間は常に格下扱いを受けるでしょうし、積極的に新しい世界を学んでいく必要があります」
ロバンペラが学ばなければならないことには以下が含まれる:
レースクラフト
最大のチャレンジは、ステージではなくホィール・トゥ・ホィールでの戦い方の学習だが、ロバンペラは幼少時代にカートで多くの経験を積んでいるため、他のラリードライバーに比べると容易だろう。また、彼はすでにドリフトやポルシェ・カレラ・カップ、ドバイ24時間レースでサーキットレーシングを経験している。
しかし、スーパーフォーミュラでは、ツイスティなサーキットで高速走行しながらオーバーテイクとディフェンスをスムーズに行うスキルを磨く必要がある。
オーバーテイクシステム
F1のDRSやインディカーのプッシュ・トゥ・パスと同じように、スーパーフォーミュラにもオーバーテイクを促すための技術が用意されている。
その名もオーバーテイクシステム(OTS)は、ドライバーがボタンを押すと20秒間エンジンパフォーマンスが向上するシステムで、1レースで最大10回使用できる。スーパーフォーミュラではこのシステムを攻守でタイミングよく使用する必要がある。
ダウンフォース
WRCにも空力性能が備わっているが、スーパーフォーミュラでは、グリップとコーナーリングスピードをダウンフォースに大きく頼っている。
ピットストップ
スーパーフォーミュラはピットストップが義務化されている唯一のF1フィーダーシリーズだ。ロバンペラはマシンを正しくピットインさせる方法やチームのピットストップ戦略について学ぶ必要がある。WRCで経験を積んできた彼は、風雨が厳しいコンディションでのグリップの把握で他のドライバーに差を付けられるかもしれない。
ドライビングスキル
ロバンペラはスーパーフォーミュラのマシンをどこまで上手く扱えるだろうか? F1とスーパーフォーミュラでは、1シーズンで使用できるパワーユニット数が規定されており、ドライバーがシーズン中にパワーユニット2基を潰してしまうと、ペナルティとして20グリッド降格処分を受けることになる。
天賦のスピードを備えているロバンペラは、プッシュすべきタイミングや我慢すべきタイミングの基本も理解しているため、スーパーフォーミュラでも比較的早い段階でマシンの扱い方をマスターするはずだ。
目標を達成して歴史を塗りかえるためにハードワークを始めたいという気持ちに満ちています
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レッドブルとスーパーフォーミュラ
ホンダとの関係が深いTEAM MUGENとパートナーシップを結んでいるレッドブルは、スーパーフォーミュラに数多くの才能を送り込んできた。
レッドブル・ジュニアチームは他のどのドライバーアカデミーよりも積極的にスーパーフォーミュラおよびTEAM MUGENをF1への最終調整環境として活用しており、2017年にはピエール・ガスリー、2023年にはリアム・ローソンが総合2位でフィニッシュしている。
また、2019シーズンのチャンピオンとなったニック・キャシディやパトリシオ・オワード、ダン・ティクトゥムはレッドブルカラーでスーパーフォーミュラに参戦した。しかし、これまでのスーパーフォーミュラにおけるレッドブル最大の成功は、岩佐歩夢の2025シーズンチャンピオン獲得だろう。
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ロバンペラがスーパーフォーミュラを選んだ理由
トヨタとレッドブルからサポートを受けているロバンペラは、この大胆な転向を成功させるために必要な条件が揃っていた。トヨタの協力で最高のスタッフが揃うSFトップチームへの門戸を開いてもらったロバンペラは、レッドブルから日本での挑戦に必要なフィジカル・メンタルトレーニングのサポートを受けている。
ロバンペラはトヨタからの長年のサポートに感謝している。WRCではトヨタ・ガズー・レーシング(TGR)に所属していた彼は、トヨタがマシンを供給するKCMGからスーパーフォーミュラデビューを飾るが、次のようにコメントしている。
「今回の決断が大胆かつ野心的で、世間を驚かせていることは理解しています。理解できないと感じている方もいらっしゃるかもしれません。ですが、私はしばらく前からこのための準備を重ねてきました」
「シニアデビュー後のキャリアをトヨタファミリーのメンバーとして築けていることは幸運ですし、大変感謝しています。このキャリアパスを実現してくれたTGRの継続的なサポート、自信とコミットメントには本当に感謝しています」
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スーパーフォーミュラの視聴方法
スーパーフォーミュラは、現地観戦に加えてJ Sports・ABEMA・DAZN・SFgoで視聴できる。
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